第43話「助け合い」
雪男を倒し、炎界に平和が戻った。
無事に達成できたことを喜ぶ四人は、サラマンデルが待つ洞窟へ向かい始めた。
「終わった終わった。さあ、帰ろうぜ!」
その時、崖のすぐ近くの傾斜を上がろうとしたフィトラグスが足を滑らせた。
積もっていた雪が早速戻った温度で溶けて、滑りやすくなっていたのだ。
フィトラグスはそのまま滑り、どこにもつかまれず、崖から落下した。
「フィット!!」
オプダットが急いで向かうも、同じ傾斜のところで滑りそうになり、ティミレッジに支えてもらった。
絶望する二人の横を黒い影が素早く通り過ぎる。
落ちていたフィトラグスの腕をディンフルが空中で引っ張り上げた。
「浮いてる?!」
「マントの飛行能力だ。また魔法が使えるようになったようだ」
「……何で助けた? あんた、ラスボスだろ? 主人公の俺を助けたら、物語が成り立たないんじゃないか? こんな時に言うことじゃないが……」
「再戦したいからだ」
「は?」
「フィーヴェで戦った時、勝てる見込みが無いにもかかわらず、歯向かって来ただろう? 変動破とやらに邪魔をされたが、戦い続けると面白そうだと感じた。ここで死なれては勿体ない」
ディンフルはフィトラグスの腕をつかんだまま、二人が待つ崖の上まで移動した。
フィトラグスの無事にティミレッジとオプダットは泣き出した。
「フィット! よかったよ~!」
「本当だよ! もう死んだかと思ったぜ~!」
「勝手に殺すなよ……」
フィトラグスの無事を喜んだ後で今度はディンフルを見た。
「ディンフルさん、ありがとうございます!」
「フィットは礼を言いそうに無いから、俺らから言っとくぜ。ありがとな!」
「勝手に決めつけるな!」
「じゃあ、自分で言う? ディンフルさんは命の恩人だよ」
「うっ……」
「礼を言わない」と決めつけられるのは腑に落ちないが、因縁へ感謝を述べるのも抵抗があった。
しかし、命を救ってもらったのは事実だ。
フィトラグスは正義の国の王子。助けてもらったのに感謝がないのは礼儀に反している。
ディンフルへ向かい合うと、相手も見つめ返した。
ティミレッジとオプダットは横で期待の眼差しを向けていた。
「おーーーい!!」
フィトラグスが言葉を発しようとしたその時、ユアが走ってやって来た。
雪男はもういないので、ティミレッジたちは喜んで歓迎した。
さらにオプダットが「これから、いいもの見れるぜ」と言ったせいで、ユアも期待を胸に膨らませ始めた。
魔法が戻ったディンフルは崖の上に浮いたままだった。
またすぐに魔法が消えたのかマントの能力が突然無くなり、今度は彼が崖から落ちそうになった。
「ディンフル!!」
「ディンフルさん!」
皆が心配する中、ディンフルは崖の淵にしっかりとつかまるが、溶け始めた雪で手が滑ってしまう。
「くっ……」
そこへフィトラグスが滑らないように近付き、彼の腕をつかんで上へ引き上げた。
「お前……?!」
「みんなの故郷は戻ってないだろ? 俺もあんたに今死なれたら困るんだよ……!」
途中からオプダットとティミレッジの手伝いもあり、ディンフルは無事に引き上げられた。
「借りは返したからな」
「……ああ」
どちらも感謝の言葉はないが、互いに助け合うことが出来た。
再び喜ぶティミレッジとオプダット。
後ろで見ていたユアは「これが俗に言う“尊いやつ”か……」と新たな萌えを見つけ、顔を赤くした。
◇
雪男を倒してから炎界に少しずつ暖かさが戻っていた。
そのお陰か、洞窟内ではサラマンデルが元気を取り戻していた。
「お前さんたちが雪男を倒してくれたからじゃ! あと、友人のお陰でもあるな」
「老師さんは?」
「わしが元気になったら帰って行ったぞ」
すっかり、ぴんぴんになったサラマンデルは全員に水を振る舞ってくれた。
「寒い中を動いてもらったが、じきに暖かくなる。生姜湯ではなく、こちらを飲め」
「ありがとうございます!」
「世話になったのう。これをやろう」
サラマンデルは赤色のインクで描かれた炎のイラストのシールをティミレッジに渡した。
集めると願いが叶うと言われている虹印だった。
「ありがとうございます!」
「炎の便りでお前さん達が集めているのを知っておった。本当は炎界の王・炎王から渡されるものじゃが、王も人生初の風邪で寝込んでおるのでな」
「人生初?!」
炎王がどれぐらいの歳かはわからないが、これまで風邪を引いて来なかったことにユアたちは驚きの声を上げた。
「そうそう、これももう用はない。持って行け」
サラマンデルは自身の枕の下からあるものを出し、くわえて差し出した。
それは吹雪の中で行方不明になっていたボヤージュ・リーヴルとクレイスだった。
「これ、私たちの?!」
「じいさんが持ってたのか?!」
「だから、“じいさん”と言うな!!」
サラマンデルは手前まで来たユアに二つを渡すと「じいさん」と呼んだオプダットへ向かって怒鳴りつけた。
「“もう用はない”とは、どういう意味だ?」
「お前さんたちが来た時に強い魔力を感じたのじゃ。その魔力を使えば炎界を助けられると思い、魔法でわしの元へ移動させたんじゃ。でも、お前さんたちのうろたえる様子から、使いづらくなっての。勝手に借りてすまんかった」
「貴様の仕業だったのか……」
ディンフルが聞くとサラマンデルは謝った。
今回はユアの不注意ではなく、彼の魔法でリーヴルとクレイスが移動していたのだ。
水界のカエルと言い、勝手に持って行かれたことにディンフルは怒りが爆発しそうになった。
「ま、まあまあ。無事戻って来たし、この世界も救えたんだからいいじゃん。新しい虹印も手に入ったしさ!」
ユアがなだめるが、ディンフルは「そうだな」とまるで氷のような目つきで言い放った。
彼女は一瞬怯むが「三回も無くなると怒るよね。ほとんどは私の不注意だし……」と反省した。
「さて、わしには炎界に火を灯すという仕事がある。フンッ!」
サラマンデルが力むと彼の体は炎に包まれた。
トカゲ型のシルエットは見えなくなり、炎の塊と化した。
「心配される前に言っておくが、熱くはない。わしは火の精霊じゃ。じきに外の雪も溶ける。さあ行け、若者たちよ!」
温度が急に上がったため、五人は出された水を一気に飲み干した。
「コップはそのままで良い。……そうそう、少女は残れ!」
「私!?」
「相手が若いからと言って、いやらしい真似はするなよ」
「失礼な!」
突然、指名されるユア。
ディンフルが注意をすると、サラマンデルは声を荒げた。
◇
男性陣が出て行くと、彼は熱くないように体の火を消し、トカゲの姿に戻った。
洞窟内の温度が下がって行く。
「お気遣いありがとうございます。で、私を残したのは?」
「どうしても聞きたいことがあっての」
「……リアリティアのことですか?」
「それもあるが、また別の機会じゃ。それより、もっと知りたいことがある。最初はわしの気のせいと思っておったが、友人も気付いていてな。気のせいでは無かったようじゃ」
「な、何がですか?」
サラマンデルは真剣な表情になった。
ユアにも緊張が走る。
「何故、彼らの魔法を封じている?」
ユアは目を見張り、サラマンデルから地面へと視線を移した。
全身が震えていた。
「友人が追い出したのは魔法を使いやすくするためじゃった。わしも長く生きて来た精霊じゃ。人間らしからぬ力はすぐにわかる。持っているのじゃろう? どんな魔法も封印してしまう魔封玉を?」
ユアはおそるおそるボトムスのポケットから、小さなスーパーボールサイズの緑色のまん丸な石を取り出した。
石の中では今にも消えそうな弱々しい光が揺れていた。
ディンフルたちが魔法を使えなくなった原因はユアだった。
彼女の目的は?
そして、リアリティアからやって来た経緯は?
五人は無事にフィーヴェへ帰れるのか?
彼らの運命や、いかに?
(第3章へ続く)
第2章はこれで完結です。
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ここまで読んで頂き、ありがとうございました。