第38話「さらなる異世界へ」
水界を経たユアたちは異世界へ飛べる本・ボヤージュ・リーヴルで次の世界へ飛んだ。
着いた先は草木に覆われた森の中だった。
「今度こそフィーヴェか?!」
オプダットが辺りを見回すと彼の足に植物のツタが巻き付き、そのまま持ち上げられた。
「何だぁ?!」
目の前には巨大な人食い花が、長い数本のツタをうねうねと動かしながら威嚇して来た。
「植物系のモンスターじゃん! ファンタジー物のRPGでくさい臭いを放ったり、ドロドロに溶かす液を持っているやつ!」
ユアが興奮しながら言っていると、ティミレッジと一緒に捕らえてしまった。
「ひゃあっ!」
そこへディンフルがツタの攻撃を手刀で弾いたりしてかわし、相手の前で飛び上がると人食い花の頭にチョップを繰り出した。
戦闘力に長けたディファートなのでモンスターのダメージは大きく、ツタの力は緩まり、ユアたちは無事に救出された。
相手が目を回している間にフィトラグスが剣を抜いてモンスターを斬り倒した。
同時にフィーヴェでないことがわかったので、再びリーヴルで次の世界へ飛んだ。
◇
「いきなり本体に掛かって行く奴があるか!!」
次の世界はただっ広い草原のど真ん中。
モンスターはおらず危険などが起こる心配がなかったので、フィトラグスが先ほどの戦法についてディンフルを責め立てた。
「ツタの動きも速くはなかったし本体も大したことはない。そもそも私が動きを止めたから助かったのだぞ」
「何だ、その言い方は?!」
「まあまあ! 全員無事だったんだから!」
またディンフルとフィトラグスの口論が始まりそうだったので、急いでオプダットが止めに入った。
ここでユアがあることに気付いた。
「ディンフル、その手……」
人食い花の本体には鋭いトゲがあったので、直接触れた彼の左手の手袋は破れ、出血までしていた。
「心配無用。この程度、名医の傷薬があれば治る」
ディンフルは水界からもらって来たアティントスの傷薬を患部に塗り出した。
「ほら見ろ! 無茶な動きをするからだ! そうでなくてもティミーは魔法が使えないんだから、ケガすんなよ!」
フィトラグスが再びディンフルへ文句を垂れる。
しかし、内容を聞いたティミレッジはピンと来た。
「もしかして、ディンフルさんを心配してる?」
「は?」
「”さっきの戦い方が危ない”って言いたいんでしょ? ケガしたことまで怒ってるし」
「お前を心配してるんだ! 優しいティミーなら“早く魔法が使いたい”ってうずうずするだろうし、薬も使えば減るんだぞ! だからこいつに”無駄なケガをするな”って警告してるんだよ!」
フィトラグスはディンフルを指して言った。
魔法が使えずにもどかしくなるのは事実なので、ティミレッジは認めざるを得なかった。
一方でユアは内心喜んでいた。
前のフィトラグスならディンフルがケガしても何とも思わなかっただろう。それが旅を経て、少しずつ変わって来たのだと思った。
結局、次に着いた先もフィーヴェでは無かった。
リーヴルを再び開き、次の世界へ飛んだ。
◇
到着すると、景色が見えないほどの猛吹雪に襲われた。
「さっっっっっむ!!」
短時間の間に暑い砂漠から来たばかりなので寒さが身に沁みた。
「砂漠の次は雪国かよ!」
袖なしの服を着ていたオプダットが一番寒がっていた。
「ユア、頼む! ここはフィーヴェじゃない!」
「了解っ!」
フィトラグスの指示で、ユアはリーヴルと鍵であるボヤージュ・クレイスを手にした。
しかしいきなり突風が吹き、両方とも飛ばされてしまった。
「えぇーーーーーー?!」
「マジかよ……」
「吹雪いてるのに……」
フィトラグスとティミレッジが絶望する。
一気に二つも失くしたユア本人が一番血の気が引いた。寒気による体温低下もあるが……。
「お前と言うお前は……。何故いつもやらかすのだ、このバカ者がぁっ!!」
「ごめんなさ~い!!」
ユアが鍵と本を無くしたのはこれで三度目。
ミラーレから見守って来たディンフルもさすがに声を荒げた。悪天候もあり怒りも頂点に達していた。
ユアも謝りつつ、二つが同時に消えたことが信じられなかった。
(カエルのこともあったから、ちゃんと握ってたのに……。こんな吹雪の中だし)
「天候は悪いが探すぞ! 吹雪が止むのを待つより次へ飛ぶ方がいい!」
フィトラグスの指示でディンフルとティミレッジは周辺の雪をかき分けて探し始めた。
ユアも血眼で探した。
そこへオプダットが四人に声を掛けた。
「あそこで休もう! 居させてくれるみたいだ!」
彼が指した先にはドーム状のレンガ造りの家があり、窓から高齢の女性がこちらへ手招きをしていた。
ユアたちは探すのを中断し、その家の中へ入って行った。
住民の老婆は快く迎え入れてくれた。
◇
ユア、ディンフル、ティミレッジ、オプダットにココア、チョコが苦手なフィトラグスのみ生姜湯が振る舞われた。全員、体が暖まった。
「よそから来て大変だったわね。吹雪は当分止みそうにないから、しばらくここにいなさい」
「ありがとうございます。でも、ご迷惑ではないですか? 五人もいますし……」
「子供たちは巣立って、主人も勤め先に行っているから私一人よ。この吹雪の中、当分は帰って来れないだろうし大丈夫よ。」
老婆は優しく笑った。
猛吹雪の中を歩くのはもちろん、クレイスとリーヴルを探すのも困難なのでお言葉に甘えさせてもらうことにした。
「今回もごめんなさい……」
暖まって来たところで、ユアが重い口を開いた。
「あの突風なら仕方ないよ。僕でも持ててなかったかもしれない」
「これだけ雪が積もってるなら、近くに埋まったと思うぜ。遠くへ飛んでないだろうから大丈夫だ!」
いつものようにティミレッジとオプダットが励ます。
「“二度あることは三度ある”と言うが、その通りだな。これでまた時間をロスするのか……」
ディンフルもいつも通り文句を口にした。
「そんなに言うなら吹雪の中、探して来いよ」
フィトラグスが冷たく言った。
ユアを庇うと言うよりは、不満げなディンフルが気に入らないようだ。
また五人の間に緊張が走る。
「探し物なら落ち着いてからの方がいいわ。今行くと自殺行為よ」
様子を見ていた老婆が止めに入った。
吹雪が止むのを待つ間、話をしようとしたがそんな気分になれなかった。
クレイスとリーヴルの力は運任せで行き先は定まっておらず、倒すべき敵がいるわけでもないので作戦会議をしても意味が無かった。
ユアたちはすっかり暇を持て余してしまい、いつしか全員ブランケットにくるまり眠ってしまった。