第36話「ピラミッド 後編」
ピラミッド内部。
ユアは目の前の祭壇を指して聞いた。
「祭壇って、これだよね?」
「いや、違う。これは階段を隠すための仮のもので、本物はこの上だ」
カエルは本物の場所を教えてくれた。
手を上げて魔法を使うと祭壇は横へ動き、さらに上へ続く階段が現れた。
「まだ上があるの?!」
五人は早速、階段を上がった。
しかし祭壇は途中で止まり、階段との隙間が狭く、通る際に体を横向けにしなければいけなかった。
◇
階段を上がるとピラミッドの最上階にたどり着き、もう一つの祭壇を見つけた。下のものより新しく、豪華な感じがした。
下部を見るとカエルの言う通り、祭壇と床の間に広い隙間があった。
さらに隙間の下には空洞があり、人が手を伸ばしても落としたものを拾えないぐらい深かった。
「待ってろ! すぐに動かしてやる!」
「動かすって、けっこう重いぞ!」
「カエルからしたら重いよな。俺は武闘家だから大丈夫だ!」
オプダットは自信たっぷりに言うと、前から祭壇を押し始めた。
カエルの言う通りかなり重く、一筋縄ではいかなかった。
「こりゃすげぇな……。ディンフル、頼む!」
「何故、私が……?」
「剣を持った石像を拳と蹴りで倒せたんだから、行けるはずだ!」
「やめとけ、オープン! ラスボスが主役の仲間に手を貸すわけないだろ!」
フィトラグスが否定すると、ディンフルはオプダットの横に立ち、祭壇を押し始めた。
「おぉ?! 手伝ってくれるか?!」
「ああまで言われると、やらざるを得ないだろう」
他の者は意固地になるディンフルへ「子供か……」と呆れた。
祭壇はディンフルが押しても動かなかったので「私も!」「僕も!」と、ユアとティミレッジも加わった。
そして自分一人が見てるだけに気付いたフィトラグスも加わり、全員で祭壇を押し始めた。
五人掛かりで押しているが、動く気配がない。
「ね、ねえ! これ……移動させる向き、合ってるの?」
「……たぶん、大丈夫だ!」
「たぶんって何?!」
「で、でも、五人で押してるんだから、動くはずだ……!」
ティミレッジ、オプダット、ユア、フィトラグスが口々に言う。
動かない祭壇相手に頑張る彼らを、カエルは不思議そうに見ていた。
「何でそこまでするんだよ? オイラはお前たちの物を盗んだし、石像で傷つけようとしたんだぞ!」
押しながらティミレッジ、フィトラグス、オプダットが反応した。
「だって、水晶が無かったら水界に水が戻らないよね?」
「困ってる人を放っておけないタチなのでな……!」
「それに、お前とアンディーンに仲直りしてもらいたいしな!」
「アンディーンとのことは関係ねぇだろ!」
カエルが拒否すると、今度はユアが答えた。
「関係ないけど、“申し訳ない”って思ってるんだよね? じゃあ、溝が深くなる前に伝えようよ。アンディーンさんも怒ってなかったし、今謝れば許してもらえるよ!」
「え……? アンディーン、怒ってなかったのか?」
カエルの心が揺れ動くと、同じように祭壇も少しだけ動き始めた。
「この調子だ! 最後まで気を抜くな!」
ディンフルの指示で、他の四人も一気に力を出した。
祭壇はやっと動き、人一人が入れるほどの間ができた。
「やったーーー!」
深さは二メートルほどあり、底の方に青色の球体を見つけた。
「けっこう深いね……」
「仕方あるまい。どけ」
覗き込むユアをどかせるとディンフルは率先して入り、底にある球体を拾った。
上へ戻ると、すぐにカエルに手渡した。
「アンディーンの水晶だ!」
ユアたちは歓声を上げ拍手をした。これでピラミッドも攻略した。
「あ、ありがとう。これで、あいつに返せる……!」
安堵するカエルだが、ディンフルはまだ容赦しなかった。
「だが、そちらのしたことは許せぬ。しっかりと罰を受けてもらうぞ」
「……わかった。どんな罰も受けるよ」
その時、突然ピラミッド内が揺れ始めた。
「な、何……?」
「まずい! 罠が作動したんだ!」
「罠?!」
カエルの話では、最上階の祭壇にはイタズラ防止の罠が仕掛けられていた。祭壇に何かすると作動するようになっているのだ。
カエルは知っていたが、色々あって今まで忘れていたらしい。
祭壇の後ろには石造りの壁がある。
そこにはめ込まれている石が一つ外れると、大量の水が溢れ出て来た。
「うわーーー!」
大量の水にユアたちは押し流されてしまった。
「これでどうだ?!」
カエルは指をパチンと鳴らし、魔法を使った。
出て来たのはイカダ。しかも、少ない木で組み立てられた不安定なものだった。
「何でイカダなんだよ?! 船出せよ、船!」
船が出ると予想していたフィトラグスは文句を言った。
「す、好きで出したんじゃねぇよ! 今日はずっと魔法の調子が悪いんだ! ピラミッドに来た時も思った位置に出なかったし、仮の祭壇も途中で止まるし、お前たちを襲わせたのも本当はミイラにしたかったけど、何故か石像になっちまったし!」
五人とも「石像の方が迫力があった」と、心から思った。
イカダが出たのは魔法が不調らしいが、溺れないだけでもマシだった。
五人は隙間だらけのイカダにしっかりとつかまった。
どんどん流されて行き、ピラミッドの入口まで来た。
最後に入ったティミレッジいわく、出入口は開けっ放しなのでそのまま外へ流されるだろうと計算していた。
しかし、見えて来た扉は何故か閉まっていた。
「何で?! 閉めた覚えはないのに!」
「罠が作動すると、自動で閉まる仕組みになってるんだよ!」
カエルが説明した。
このままでは扉にぶつかり、イカダから投げ出されて溺れてしまう。
「イチかバチかだ……」
ここでオプダットが辛うじて立ち上がり、拳を力強く振った。
「リアン・エスペランサ!!」
彼が必殺技を繰り出すと、拳から出た衝撃波と打撃の威力で扉が粉砕された。
◇
ピラミッドから大量の水が溢れ出し、イカダから五人と一匹が投げ出された。
「た、助かった~……」
一行は砂の上で仰向けに倒れた。
気分が落ち着いてから起き上がると、ユアがピラミッド内にいた時と同じ悲鳴を上げた。
「オープン、大丈夫?!」
中にいた時は、彼が巨大サソリに怯えていた。
男性陣三人は「今度は何に怯えてるんだ?」と思いオプダットを見ると、彼の右手から大量の血が溢れていた。
「どうした?!」
さすがに一大事だった。
フィトラグスが慌てて聞くと、オプダットは笑って答えた。
「必殺技のせいだ。普段はこんなことないんだが久しぶりに使ったし、あの扉も硬かったからな~」
「笑い事じゃないよ! 早く手当てしないと!」
ティミレッジも手当てを促した。
白魔導士として一番、魔法を使いたい時だった。
しかし今は使えず、もどかしい気持ちになった。
「使え」
ディンフルが、町民から渡された荷物の袋から傷薬を出した。
オプダットは「悪いな」と受け取り、平らな容器の薬の蓋を開けた。
すると、ハーブのような爽やかな香りが漂った。
「いい匂い……」
ユア、ティミレッジ、フィトラグスも流れて来る匂いを堪能した。
オプダットも香りを楽しみながら血を拭くと、ケガをした箇所に薬を塗って行った。
ティミレッジから包帯を巻いてもらうと、カエルは魔法で一行を町へ瞬間移動させた。