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ラスボスと空想好きのユア  作者: ReseraN
第4章 リアリティア編
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第97話「悪夢の源」

 ユアとディーン(ディンフル)はロミート邸を後にした。

 彼は停めていた自転車の鍵を解除し、ヘルメットをかぶった。それを見て、ユアが驚愕した。


「自転車で来たの?! 乗れたっけ?」


 ディーンには自転車の乗り方どころか本体そのものを教えていなかったので、ただただ驚くしかなかった。


「リビムに教えてもらった。初めはフラフラしたが、コツを掴めば簡単だ。近距離での移動には最適だ」

「“簡単”って、私なんかだいぶ掛かったのに……」


 自分が苦労して乗れるようになった自転車を、ディーンはたったの半日(本当はそこまで経っていないが)で乗りこなせた。

 ユアはショックを受けたが、よくよく考えると彼は天才肌だ。自転車にすぐ乗れるようになったのも、そのせいだと納得するしかなかった。


「今日は欠席で良いな? 学校へ行く気分にもならぬだろう?」

「どっちみち、明日で卒業だしね……」


 平日なので学校があったが、リマネスに殺されそうになったユアは行く気分になれなかった。



 その後、園長が車で迎えに来た。

 ロミート社長が連絡を入れてくれたのだ。


 ユアはその車に乗り、ディーンは自転車に乗って学園へ帰って行った。


(しかし、何故リマネスは長きに渡ってユアを傷つけた? 世には執念深い者はいるが、さすがに度を超している……)


 漕ぎながらディーンは、一つだけ晴れない疑問にモヤモヤするのであった。


                 ◇


 夜のロミート邸。

 父からの罰として、リマネスは寒い廊下で寝かされることになった。


 今回帰国したのは父だけで、母は仕事に専念していた。

 彼の話では、母も動画には怒りを露わにしたらしい。

 近いうちに母からの叱責もあることを、リマネスは覚悟した。



 その日、過去の夢を見た。

 リマネスは将来、父が築き上げたロミート家を背負って行くために、物心がついた頃から英才教育を施されて来た。

 勉強や稽古事には力を入れ、娯楽などは一切許されなかった。


 勉強においては週七で家庭教師をつけられ、満点の時以外は褒められることがなかった。

 一度、家庭教師から出されたテストで九十九点を取ったことがあった。普通の子ならこれでも褒められるが、リマネスの家は違った。


「あと一点じゃないの! どこでつまずいたの?! 先生の話、ちゃんと聞いてた?」


 まず、家庭教師の先生から怒られた。雇われた講師は両親の指示で「目標を達成した時のみ褒めるように」と釘を刺されていた。

 その次は両親から同時に怒られた。


 リマネスは満点を取るために頑張り続けた。その甲斐あって、学校に上がってからも常に優秀な成績を取れるようになった。

 だが、必ずクラスで一番にならなければならなかった。二番以下では両親から怒られ、家庭教師も「指導不足」という理由で替えられてしまうからだ。



 小学一年の途中までは貴族の学校に通っており、気の合う友達も出来た。

 しかし、二学期が始まってからロミート社長の考えで、いわゆる庶民が通う普通の小学校に転校させられた。

 理由は、身分違いの者とも仲良く出来るようになるためだった。


 友達も出来たばかりだったので、リマネスは激しく泣いて嫌がった。

 だが、彼女の意見はいつも聞いてもらえず、泣く泣く従うしかなかった。


 この転校が、リマネスの運命を変えることになるのだった。



 リマネスは、ユアのいるクラスに転校して来た。


 初めはお互いに何とも思わなかった。

 ユアは空いている時間を使って絵本を読むのが好きなので、彼女のことは「ずっと、絵本ばかり見てて子供みたい」と心の中で嘲っていた。

 ユア側も、リマネスのことは転校初日に「お姫様みたいな子が来た」と思っただけで、あとは絵本に夢中で特に気にしなかった。



 ある時、学校でバザーがあった。

「娘が世話になっている」という理由で両親が見に来た。

 三人で食事をしていると、母親が遠くを見て言った。


「こんな日までお勉強なんて、えらいわね」


 これまでリマネスに見せたことがない笑顔でユアを見ていた。続いて父親も「感心だな」と頷いた。

 当のユアはバザーで買った新しい絵本を読んでいただけで、勉強はしていなかった。


「あの子、勉強なんかしていないわ。ずっと絵本を読んでいるのよ!」


 リマネスが腹立たし気に言った。

 今まで自分は褒められたことがないのに、両親を取られた気がしてならなかったのだ。


「人を悪く言うんじゃない! 本当なら、こういうところでもお前は勉強をしなければいけないのだぞ!」


 父親が怒鳴った。

 同時に母親からも「あの子を見習いなさい!」とたしなめられてしまった。


 事実を言っただけなのに何故怒られなければいけないのか? リマネスは子供ながらに理不尽だと思った。


 これをきっかけに、両親に褒められたユアへ怒りが募るのであった。



 後日、リマネスは「幼稚園の子が持つものだから」と理由をつけて、ユアが持っていたキャラクター物の文具を奪い取った。

「返してよ!」とユアが組み掛かるが、体術を習っていたリマネスはかわし、相手を突き飛ばしてしまった。

 ユアはケガをし、先生を呼ばれる事態となった。


 担任に叱られた上に両親まで呼ばれ、リマネスはユアに謝った。

 屋敷に戻った後も両親から叱責を受けたが、彼女は忘れもしなかった。ユアへ嫌がらせをし、相手の泣いた顔を見て喜びを感じたことを……。


 それからリマネスは積極的にユアをいじめ始めた。

 担任に何か言われても理由をつけたり、自分が泣けば逆に相手を悪者に出来た。

 リマネスは生まれて初めて、楽しみを見つけたのだった。



 彼女が十歳になる頃、両親のみ海外へ移住することが決まった。

 褒められることは少ないが、リマネスは二人には家に居てもらいたかった。


 しかし、父は毅然として言った。


「“まだ十歳”ではない。“もう十歳”だ。いずれ、親と離れる時が来る。お前を甘やかさないためにも、我々は離れるのだ。将来、ロミート家を背負って行く人間ならば、これぐらいは耐えられるだろう」


 これまで一度たりとも甘やかせてもらえなかったリマネスは、彼の言葉に違和感を覚えていた。

 いつものように反対の声は上げらないまま、両親は海外へ行ってしまった。

 一人娘の世話を、執事やメイドたちに任せたままで……。


 両親は定期的に帰国することはあったが徐々に回数を減らしていき、リマネスが高校に上がってからは一度も戻らない上に、手紙や電話で連絡をしても反応が無かった。



 二人が出て行ってから、リマネスのユアいじめは加速した。

 両親がいないのをいいことに屋敷の財力も使い放題で、それで自分の悪事を帳消ししたこともあった。


 自分でも悪いことをしている自覚はあったが、やめられなかった。

 途中でやめれば、ユアへ負けを認めてしまう。それだけは耐えがたかった。


 ユアをいじめるために彼女と毎年同じクラスにしたり、キャラクター物のグッズを勝手に捨てたり、地味な嫌がらせもちょくちょく行った。

 彼女から仕返しが来ることは、夢にも思わなかったからだ。



 そんな中でも、ユアは人気ゲーム「イマジネーション・ストーリー」と、人気歌手・ミカネの新しい情報が出るたびに顔をほころばせた。

 それを見る度、リマネスは(はらわた)が煮えくり返りそうになった。ユアの幸せそうな顔が気に入らなかったのだ。



 そして中学卒業後、ユアと別々の高校になることも許せなかった。

 何故なら、彼女の苦しむ顔がリマネスの唯一のストレス発散になっていたのだ。


 里親が決まりそうな時もそうだった。

 高校を強引に一緒にしても、自分の手の届かないところにユアが行くのは腑に落ちなかった。

 自分から離れると、彼女が幸せになるのは間違いないと確信していたからだ。


 なのでリマネスは急遽、ユアを里子として引き取った。もちろん、お金の力を利用して。


 彼女が家に来た時、「どうして今まで思いつかなかったのだろう? 家で引き取れば、二十四時間ユアを苦しめられるのに」と初めて気が付いた。


 相手の気持ちなど、常にお構いなしだった。

 リマネスは自分から両親の笑顔を奪った彼女が今も憎くてしょうがなかった。



 しかしユアの契約は父親が解除し、ストレス発散していた日々も終わりを告げた。

 リマネスは過激すぎる親を持っていることに気付かぬまま、光のない目からいよいよ生気を失うのであった。

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