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ラスボスと空想好きのユア  作者: レセラン
第4章 リアリティア編

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第96話「悪夢の終わり」

 ロミート邸。

 ユアは天蓋(てんがい)付きのダブルベッドの上で目を覚ました。


「お目覚めね」


 昨夜リムジンに乗せられる時、暴れないように睡眠薬を飲まされたのだ。

 ユアの頭は、不可解なリマネスに対して疑問でいっぱいだった。


「何でさらったの……? 動画で世界中に知られたし、園長と警察が入ったんだから契約も切れるはずでしょ?」


「警察は“証拠が足りない”と言って今回は見逃してくれたわ。でも、園長があなたの言いなりになったから、時間の問題ね。このまま自由にさせるのはムカつくの」


 そう言うと、リマネスは果物ナイフを取り出した。

 怪しく光る鋭い刃を見て、ユアは血の気が引いた。


「あなたを殺して、私も死ぬわ」


「な、何、言ってるの?」


「このまま契約が切れたら、あなたは喜ぶでしょう? それが気に入らないのよ!!」


 リマネスは金切り声で怒鳴ると、ナイフの先をユアへ向けた。


「やめて……」


 ユアは逃げ場所を探すが、出入口はリマネスに塞がれていた。

 残っているのは窓のみだが、ここは二階。

 飛び降りる勇気はないし、鍵を開けている間に刺されるかもしれない。



 その時、部屋に警告音がけたたましく鳴り響いた。

 リマネスは舌打ちをすると、壁に取りつけてあったモニターで確認をした。

 玄関の様子が映し出され、ドアの前にディーン(ディンフル)の姿があった。


「ディン様!」


 叫ぶユアをよそに、リマネスはマイクを出すと玄関にいるディーンへ呼びかけた。


◇


「やっぱり来たのね」


 玄関にリマネスの声が響いた。

 ディーンは毅然(きぜん)としながら応答した。


「ユアを返してもらう」


「ダメよ。ユアを殺して、私も死ぬんだから」


「何をふざけたことを。ここを開けろ!」


「開けないわ」


「言うと思った。なら……」


 ディーンはドアに向かってファイティングポーズをした。打ち破るつもりだ。

 そこへリマネスが食い気味で言った。


「扉を壊したら器物損壊、屋敷の中に入ったら不法侵入で訴える! あなたが犯罪者になったら、ユアと暮らせないわよ!」


 ディーンはリアリティアの法律は少し学んでいたため、言っている意味は理解出来た。

 しかし、自分よりリマネスの方が罪が重いので動じなかった。


「先日、醜態(しゅうたい)を晒(さら)された者に言われても響かぬ」


「そんなこと言っていいのかしら? あなただって同じでしょう?」


「何?」


 彼が聞き返すと、リマネスは一拍置いて自信たっぷりに言った。



「あなた、ユアの本当のお兄さんじゃないんでしょ?」



 ディーンは息をのんだ。


「何故、それを……?」


 リマネスは鼻で笑った。


「調べさせてもらったの。“ディーン・ピート”という名前の人間は、海外では同姓同名がいたけど、あなたのデータは出て来なかったわ。偽名なんでしょう?」


 図星で言い返せなかった。


「血がつながっていないのに、偽名を使って十代の子を引き取ろうとするなんて、まずいんじゃない? 誘拐だわ!」


 さらに彼女は「変な真似をしたら、あなたの情報を世界中にばらす」と吐き捨てると、マイクを切った。


◇


 モニターの映像も消したリマネスは、再びユアへ向いた。


「殺す前に聞いてあげる。あの人、誰なの?」


 ユアは当然答えなかった。

 ディーンの正体は、異世界から来たゲームのキャラ。

 だが、本当のことを言っても、空想を嫌うリマネスが信じるはずもない。


「答えなさい!!」


 リマネスはナイフの先を向けながら近づいた。

 恐怖心でいっぱいだが、ユアは無言をつらぬき、相手を睨み続けた。


「あぁ、そう。死期が近づくけどいいのね? 言っておくけど、本気だから!」


 ナイフの先がどんどん近づく。


 ユアは覚悟を決めていた。

 痛い思いをして死ぬのは怖くてしょうがないが、大好きな人を捨ててまで助かる方が不服だった。

 どちらにせよ、リマネスが自分たちを助けるつもりがないこともわかっていた。


 目をつぶり、ユアは身構えた。


「覚悟を決めてくれるなら、こちらとしてもありがたいわ。なら、遠慮なく」


 リマネスの足音が近づいて来る。


「良い人生だったわねぇ。何の取り柄もないくせに愛されて、勉強も出来ないくせにヘラヘラ笑えて、このリマネスに引き取られたのよ。最後は、兄を偽(いつわ)るコスプレ趣味の男が来たけども」


 リマネスは歩きながら皮肉を言い続けた。

 コスプレ趣味の男とは、ディーンのことだ。



 ユアが目を閉じたままでいると、玄関でドアが開く音がした。

 歩み寄る足音もピタリと止んだ。


「は……? “海外から来た”って言ってたけど、“不法侵入”の意味がわからないのかしら?」


 リマネスはイラつきながら言うと踵(きびす)を返し、部屋のドアを開けた。

 そして、吹き抜けになった階段から階下へ向かって叫んだ。


「鍵の開け方を知っているとは大したものね。泥棒の経験でもあるのかしら? どっちみち、不法侵入には違いないわよ!」


 すると、視線の先には立派な髭を生やした一人の男性が姿を見せた。

 その人物を目にしたリマネスは息をのんだ。


「お父様……?」


「三年会ってないだけで不審者扱いとは残念だ。父の顔も忘れたか」


 リマネスの父親だった。

 彼は二階にいる娘を睨みつけ、厳しい口調で言った。数年ぶりの再会を喜ぶ素振りは見られない。

 その後ろには父親の大勢の取り巻き、さらに後方にはディーンの姿があった。


「ディン様!」


 ユアは、ガタガタと震え出すリマネスの横を通り過ぎ、階段を降りて来た。

 ディーンも彼女へ駆け寄った。


「ケガはないか?」


「うん。でも、怖かった……」


 ナイフを向けられ、恐怖でいっぱいだったユアは涙声で訴えた。

 ディーンは、震える彼女を強く抱きしめた。


 二人の様子を見届けたロミート社長は、再びリマネスへ向いた。


「お前の動画を見た。我々がいない間に、好き勝手やっていたそうだな?」


「好き勝手など……。動画は単なる趣味で、お父様やお母様が望むように勉学に励んでおりましたし、ビジネスについても学んでおりました。大学も、もう決まっております」


 リマネスはこれまでに見せたこともないぐらいに怯えながら、父へ言い返した。


「単なる趣味?! 先日上がった生配信とやらで暴露(ばくろ)されていたではないか!」


 ロミート社長は声を荒げた。

「あ、あれは……」とまで言いかけるリマネスだが、すぐに話題を切り替えた。


「そもそも何故、お父様が動画を? あのようなサービスには、興味を示さなかったではありませんか!」


「取引先の娘さんが動画のサービスを好んでおり、私が見ても面白そうなものをいくつか紹介してもらった。動画鑑賞も悪くないと思ったよ。そして最近、お前のアカウントを娘さんから教えてもらった。被写体に使われる子があまりにも不憫(ふびん)に感じ、急いで帰国したのだ!」


 リマネスの動画は主にユアを出し、自分は仮面で顔を隠し、「マリー」と名乗っていた。

 それなのに、すでに父にはバレていた。

 娘の納得がいかない様子を察した父が説明し始めた。


「娘さんの話では、被写体の……ユアさんと言ったかな? 彼女の後ろに鏡が置かれている時があってな、仮面をしていないお前が映っていたのだ!」


 リマネスはユアさえ苦しめればいいと思っていたので、細かいところまでは気がつかなかった。


「帰りの飛行機で目にしたのが、先日の生配信だ。人気の歌手まで巻き込みおって!」


「あ、あれは、向こうが勝手に……」


 父本人は動画のサイトには興味はなかったが、取引先の家族に紹介されていたのは盲点(もうてん)だった。

 リマネスが弁解しようとすると、ディーンが割って入った。


「事情を話せば協力してくれた。この者や歌手から見ても、お前の行動は滑稽(こっけい)なのだ!」


「あなたは黙りなさい!!」


 怒号を上げる娘へロミート社長が「誰に口を聞いている?!」と彼女を上回るほどの声量で怒鳴りつけた。


「彼の言うとおり、お前は滑稽だ! いつまでそのような刃物を持っている?! 恥を知れ!!」


 昔から父を怖れていたリマネスはしゅんとなり、手の力も抜け、果物ナイフを床に落としてしまった。


「暴露の内容もそうだが、里子の話も聞いていない! よその子を引き取る余裕が、今のお前にあるのか?!」


「そ、それでは……?」


 社長の言い方に対して、ディーンが疑問を投げかけた。


「ユアさんが望むなら契約は解除だ。これまで、娘が申し訳なかった……」


 ロミート社長はユアへ向かって深々と頭を下げた。


「ほ、本当に……? もう、この家で暮らさなくていいの?」


「屋敷の主(あるじ)が言うのだ。間違いない」


 信じられないでいるユアへ、ディーンが優しく言った。


 こうしてユアは、正式にロミート家から解放された。

 嬉しさのあまり、彼女は再びディーンに抱き着いた。

 その目からは、喜びの涙が溢れていた。

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