↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/16

犬と猫はいつも一緒


素直に恥ずかしいと伝えた日。

あの時、犬は猫に「慣れるまでやる」と一言。


最近はやっと、犬の腕の中で眠ることにも慣れた。

それでも時々、素直な言葉一つでドキドキすることはある。


向かいで眠る犬を見て、猫は不満そうに目を細める。


――犬も少しは困ればいい。


そうして猫の仕返しが始まった。



**


翌朝、早くにロイが目を覚ます。

自分の目の前で眠る猫を見て、口角が上がる。


少しだけその寝顔を見つめて、自分は支度を始めようと起きあがろうとした。


「……ん」


猫の腕がぎゅっと犬の腰に回った。

ロイの動きが止まる。


「……シオン?」

「まだ、一緒」


そう言って、ロイの胸元に擦り寄ってくる。

頭を撫でると、気持ちよさそうに耳がぴくぴくと動いた。


「……わかった」


そのまま離れるのも忍びなく、ロイもまた体から力を抜く。今日くらいギリギリまで寝ていても罰は当たらないだろう。


尻尾が揺れそうになって、慌ててそちらに意識を向けた。

それから三十分、眠ることなくただ布団に横になっていた。


そして起きる時間。


「シオン、そろそろ起きろ」

「んー」

「これ以上は遅刻する」

「……ん、起きた」


まだ目が開ききっていない猫の頭を撫でる。

だんだんと意識が覚醒していくのを確認して、ロイは先に起き上がった。


そしてテキパキと支度をしていく。

その後ろでシオンもゆったりと支度している。



「ロイ」

「なんだ」

「今日もまた、ここで寝る」

「そうか」


わざわざ伝えられたそれは、ロイの心をくすぐったくさせる。

犬の尻尾は隠すことなく揺れる。


「……嬉しい?」

「ああ、そうだな」

「ふぅん。……俺も」


猫の尻尾も揺れている。

犬は手に持った槍を思わず落としそうになった。


シオンの方を見る。

いつも通りの顔に見えるが、頬が少し赤かった。


「…………」


つられたように、犬も少し赤くなる。

それを見た猫は満足そうに笑った。



**


訓練終わりの休憩時間。

槍を手入れするロイの隣にシオンが寝転がっている。灰色の尻尾が、パタパタと一定の間隔でロイの膝を叩いている。


ロイが一度、その揺れる尻尾を抑えた。


動きが止まったかと思って離すと、また膝の上で揺れた。



それから執務室で仕事をしている時間。


いつも窓辺でゆったりしているが、その日はロイの足元で転がっていた。


「シオン」

「んー?」

「そんなところで寝転がるな。蹴っ飛ばしそうだ」

「それは気をつけて」


動く気のない猫。

犬は戸惑ったように床に転がる猫を見た。


「……そこは日も当たらないだろう」

「ん、でも近く」


ロイの目が瞬く。


今日は随分シオンが素直だ。

なぜか無性に走り回りたい衝動に駆られる。

大きく息を吐いて、心を落ち着かせ、それ以上気にしないように努めながら仕事を進めた。


いつも以上に仕事をこなすのが早く、オーバには意味深な笑みを向けられた。



**


夜になって。

緊急の任務もなく、定刻に仕事を終えた。


シオンは途中で装備点検のために、ロイの側を離れている。

夕食を食べようと食堂へ向かう途中、前をシオンとマルクが歩いているのが見えた。


「シオン、今日街行こうぜ」


犬の耳が立つ。


今日部屋に来ると言っていたが、飲みに行った後だと考えると、随分遅くになるだろう。

尻尾が力なく垂れた。


「んー、今日はやめとく」

「なんで!?」

「なんでも」

「気分じゃなかったか。じゃあまた今度な」

「うん、ありがと」


その会話を聞いて、犬の尻尾が持ち上がる。

少し離れたところにいたのに、猫がこちらを振り向いた。


ロイを見て、いたずらっぽく笑った。


「……っ」


まただ。眉間を押さえ、走り回りたい衝動を誤魔化した。


食事の時間はあまり記憶がない。

気づいたら寝る支度を済ませて、部屋にいた。



そして宣言通り、シオンが部屋に来る。


「ロイ?どうしたの?」


何かを考えるように動かないロイを見て、シオンは首を傾げた。


「何がだ」

「変な顔してる」

「失礼だな」

「じゃあ怖い顔」

「それも失礼だ」


くすくすと笑うシオン。

椅子に座っていたロイの手を引き、ベッドへと座らせる。


そしてその膝へ、灰色の頭が乗せられた。


「……今日のお前、なんなんだ」

「何が?」

「朝からずっとだ」

「甘えてる」

「…………」

「恋人なんだからいいでしょ?」


ロイの顔を覗き込むようにして言った。

すぐ近くで目が合う。


ロイの手が、ベッドの上でわずかに握られる。


「……あまり煽るな」

「え?」

「困るのはお前だぞ」

「…………」


シオンが目を瞬く。

ロイは真剣な顔をして、シオンを見ていた。


「……いいよ」

「…………」

「困ってもいい」


別にシオンも、そこまで考えていたわけじゃない。

少し仕返しがしたかっただけ。

それでもロイの表情を見たら、仕返しよりも、甘やかしたい気持ちの方が大きくなってしまった。


少し戸惑ったように、ロイの視線が一瞬彷徨う。

再び目が合うと、だんだんとその距離が近づいていく。


「…………」


それから体全体で犬の重みを感じて、気づいたら深く眠りについていた。



**


「やっぱり困った」


朝起きて開口一番。

体のだるさを感じて、シオンはロイに不満をぶつける。


「だから言っただろ」

「……ロイの馬鹿」

「煽ったのが悪い」

「じゃあ、もうしない」

「は?」


ロイがシオンを見て固まった。

耳が垂れて、眉が下がっている。


「……今度は犬が困る番」

「シオン!」

「声でか」


朝からうるさい犬と猫。

その攻防は朝の食堂でまで行われた。


会話の内容は短く暗号のようで、周りは何もわからない。

ただ、いつもと同じ。見慣れた双牙だった。



それを見て、狐は一人、やっぱり犬と猫は性質上合わないと呆れたため息を吐いた。



これにて完結です!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。