犬と猫はいつも一緒
素直に恥ずかしいと伝えた日。
あの時、犬は猫に「慣れるまでやる」と一言。
最近はやっと、犬の腕の中で眠ることにも慣れた。
それでも時々、素直な言葉一つでドキドキすることはある。
向かいで眠る犬を見て、猫は不満そうに目を細める。
――犬も少しは困ればいい。
そうして猫の仕返しが始まった。
**
翌朝、早くにロイが目を覚ます。
自分の目の前で眠る猫を見て、口角が上がる。
少しだけその寝顔を見つめて、自分は支度を始めようと起きあがろうとした。
「……ん」
猫の腕がぎゅっと犬の腰に回った。
ロイの動きが止まる。
「……シオン?」
「まだ、一緒」
そう言って、ロイの胸元に擦り寄ってくる。
頭を撫でると、気持ちよさそうに耳がぴくぴくと動いた。
「……わかった」
そのまま離れるのも忍びなく、ロイもまた体から力を抜く。今日くらいギリギリまで寝ていても罰は当たらないだろう。
尻尾が揺れそうになって、慌ててそちらに意識を向けた。
それから三十分、眠ることなくただ布団に横になっていた。
そして起きる時間。
「シオン、そろそろ起きろ」
「んー」
「これ以上は遅刻する」
「……ん、起きた」
まだ目が開ききっていない猫の頭を撫でる。
だんだんと意識が覚醒していくのを確認して、ロイは先に起き上がった。
そしてテキパキと支度をしていく。
その後ろでシオンもゆったりと支度している。
「ロイ」
「なんだ」
「今日もまた、ここで寝る」
「そうか」
わざわざ伝えられたそれは、ロイの心をくすぐったくさせる。
犬の尻尾は隠すことなく揺れる。
「……嬉しい?」
「ああ、そうだな」
「ふぅん。……俺も」
猫の尻尾も揺れている。
犬は手に持った槍を思わず落としそうになった。
シオンの方を見る。
いつも通りの顔に見えるが、頬が少し赤かった。
「…………」
つられたように、犬も少し赤くなる。
それを見た猫は満足そうに笑った。
**
訓練終わりの休憩時間。
槍を手入れするロイの隣にシオンが寝転がっている。灰色の尻尾が、パタパタと一定の間隔でロイの膝を叩いている。
ロイが一度、その揺れる尻尾を抑えた。
動きが止まったかと思って離すと、また膝の上で揺れた。
それから執務室で仕事をしている時間。
いつも窓辺でゆったりしているが、その日はロイの足元で転がっていた。
「シオン」
「んー?」
「そんなところで寝転がるな。蹴っ飛ばしそうだ」
「それは気をつけて」
動く気のない猫。
犬は戸惑ったように床に転がる猫を見た。
「……そこは日も当たらないだろう」
「ん、でも近く」
ロイの目が瞬く。
今日は随分シオンが素直だ。
なぜか無性に走り回りたい衝動に駆られる。
大きく息を吐いて、心を落ち着かせ、それ以上気にしないように努めながら仕事を進めた。
いつも以上に仕事をこなすのが早く、オーバには意味深な笑みを向けられた。
**
夜になって。
緊急の任務もなく、定刻に仕事を終えた。
シオンは途中で装備点検のために、ロイの側を離れている。
夕食を食べようと食堂へ向かう途中、前をシオンとマルクが歩いているのが見えた。
「シオン、今日街行こうぜ」
犬の耳が立つ。
今日部屋に来ると言っていたが、飲みに行った後だと考えると、随分遅くになるだろう。
尻尾が力なく垂れた。
「んー、今日はやめとく」
「なんで!?」
「なんでも」
「気分じゃなかったか。じゃあまた今度な」
「うん、ありがと」
その会話を聞いて、犬の尻尾が持ち上がる。
少し離れたところにいたのに、猫がこちらを振り向いた。
ロイを見て、いたずらっぽく笑った。
「……っ」
まただ。眉間を押さえ、走り回りたい衝動を誤魔化した。
食事の時間はあまり記憶がない。
気づいたら寝る支度を済ませて、部屋にいた。
そして宣言通り、シオンが部屋に来る。
「ロイ?どうしたの?」
何かを考えるように動かないロイを見て、シオンは首を傾げた。
「何がだ」
「変な顔してる」
「失礼だな」
「じゃあ怖い顔」
「それも失礼だ」
くすくすと笑うシオン。
椅子に座っていたロイの手を引き、ベッドへと座らせる。
そしてその膝へ、灰色の頭が乗せられた。
「……今日のお前、なんなんだ」
「何が?」
「朝からずっとだ」
「甘えてる」
「…………」
「恋人なんだからいいでしょ?」
ロイの顔を覗き込むようにして言った。
すぐ近くで目が合う。
ロイの手が、ベッドの上でわずかに握られる。
「……あまり煽るな」
「え?」
「困るのはお前だぞ」
「…………」
シオンが目を瞬く。
ロイは真剣な顔をして、シオンを見ていた。
「……いいよ」
「…………」
「困ってもいい」
別にシオンも、そこまで考えていたわけじゃない。
少し仕返しがしたかっただけ。
それでもロイの表情を見たら、仕返しよりも、甘やかしたい気持ちの方が大きくなってしまった。
少し戸惑ったように、ロイの視線が一瞬彷徨う。
再び目が合うと、だんだんとその距離が近づいていく。
「…………」
それから体全体で犬の重みを感じて、気づいたら深く眠りについていた。
**
「やっぱり困った」
朝起きて開口一番。
体のだるさを感じて、シオンはロイに不満をぶつける。
「だから言っただろ」
「……ロイの馬鹿」
「煽ったのが悪い」
「じゃあ、もうしない」
「は?」
ロイがシオンを見て固まった。
耳が垂れて、眉が下がっている。
「……今度は犬が困る番」
「シオン!」
「声でか」
朝からうるさい犬と猫。
その攻防は朝の食堂でまで行われた。
会話の内容は短く暗号のようで、周りは何もわからない。
ただ、いつもと同じ。見慣れた双牙だった。
それを見て、狐は一人、やっぱり犬と猫は性質上合わないと呆れたため息を吐いた。
これにて完結です!
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




