Case:7 血統の正当性を証明するために
・アナスタシア ・・・ 公爵令嬢。17歳。祖母が元王女。
・シュヴァルツ ・・・ 第一王子。18歳。アナスタシアの又従兄妹。
・アルトルード ・・・ 王弟。25歳。アナスタシアの再従兄妹。
・エミール ・・・ 第二王子。16歳。
貴族は血統を重視する。
なので、高位貴族は大体親戚だったりするものだ。
かく言う私━━アナスタシア・クランヴェルジュ=ローゼンハルトも婚約者の第一王子━━シュヴァルツ・グラナード=エラルドは又従兄妹にあたる。同時に幼なじみでもある。
だからシュヴァルツ様が学園で会ったと言う男爵令嬢の話を聞いた時は耳を疑った。
高位貴族に対して娼婦の様に擦り寄り、接触し、殿方を複数人侍らしているとの事。いくら末席であろうとありえない行為だ。
調べて見ると、彼女は男爵が使用人に手を出して生まれた子だとか。男爵が政略に使えると思って引き取ったらしい。
と言うことは、あの場末の娼婦のような振る舞いは男爵の指示なのかしら?
狙っているのは金銭的に裕福な将来有望と言われていた殿方ばかり。やはり何らかの意図があるに違いない。
それも不味いが、そこに第一王子も混ざってるのが更に不味い。
もしかしたら、他国と繋がっているかもしれない。そうなると第一王子達が万が一ぽろっと機密事項を零してしまったなら大変な事になる。
私はシュヴァルツ様に件の令嬢について苦言を呈する事にした。
「シュヴァルツ様、今お時間よろしいでしょうか? あまり時間は取らせませんので」
「アナスタシア? どうしたの?」
「最近男爵家のご令嬢とよく一緒に居られる様ですが、あまりにも近い距離なのでシュヴァルツ様のお立場が悪くなる可能性がございます。彼女とは適切な距離を保つか、または距離を置いて頂けると良いかと存じます」
不定を疑われても仕方ないよ。と割と分かりやすく伝えたつもりだった。
「彼女とは単なる友人の一人だよ。気にしすぎじゃないかな。それに彼女は話していてとても楽しいんだ」
全然伝わってない。
「そもそも婚約者ではあるけど、交友関係まで口出されたくないよ。束縛しないでくれるかい?」
束縛。
常識的に考えろと言っているのに、それを束縛と言ったのか、この男は!
一瞬で頭が沸騰した。が、淑女教育の賜物か、表には出さなかった。扇で顔の半分を隠し、もう一度、念を押しておく。
「友人と言うならば、適切な距離感を保って下さらないと困ります。これは束縛ではなく、忠告です。第一王子が他の殿方と同様に一人の女性に侍る姿は人々になんと思われるのかよくよくお考え下さい」
「それでは失礼します」と踵を返す。引き止める言葉もなかった。
しかし束縛も何も、こっちは第一王子が婚約者じゃなくても困らないし、必要なら婚約解消を願いでる必要がある。次に婚約するとすれば、第二王子か王弟殿下。このどちらかだろう。
第二王子殿下は私の一つ下。王弟殿下は現在25歳で、私の八つ上だ。陛下(40歳)と歳が離れている。
(どちらかと言うと、王弟殿下が好みなのよねぇ)
ただの年上好きである。大人の包容力には勝てない。
王弟殿下はご年齢の割にとても落ち着いており、なんとも言えない色気もある。また騎士である為、程よくついた引き締まっていてしなやかな筋肉と言ったら・・・もう、たまらない!
(第二王子殿下は王にならんとする野望も無ければ、人を率いるタイプの性格ではない。どちらかと言うと、サポート役に徹した方が能力を活かせるでしょう)
陛下に謁見を申し立てるか思案する。
「取り敢えず、王家も我が家も本件は知っているはずだし、帰ったら父に相談するとしましょうか」
「何を相談するんだい?」
「ッ!?」
突然近距離から声をかけられ、心臓が止まるかと思った。
低く、でも良く通る声。王弟殿下だ。
「驚かせてしまってすまない。またまた聞こえてしまったんだ」
「いえ、こちらこそお見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません」
「で、何か問題でも起きたのかな? もしかして例の娘の件かい?」
「あら、やはり把握なされておられましたか。その通りでございます」
つい溜め息を吐いてしまった。
「例の令嬢とは友人だと言い切っておいででしたが、距離感が友人にしては近くあるように感じましたので、一応婚約者として一言申し上げたのです。しかし、束縛するなと仰られてしまいまして・・・」
「ふむ、普通の忠告だと思うのだが。アレはそこまで堕ちたのか」
本当にコロっと堕ちた。
少しの甘えと少しのスキンシップ(ボディタッチ)、また、甘い言葉を囁かれただけだ。ハニートラップ対策は叩き込まれている筈なのに何故こうなった!?と言わざるおえない。
更に面倒なのはシュヴァルツ様の側近候補達も必然的というか、件の令嬢の取り巻きと化している。由々しき事態かもしれない。
「あの男爵令嬢の目的と背後関係を洗った方が良さそうですね。何かあってからでは遅いので」
「大丈夫だ。其方は王家主導で既に動いている。直に何かしら情報が入ってくるだろう」
「まぁ、既に動かれていたとは。では余計な事をする所でした申し訳ございません」
「いや、君は動こうとした事は間違ってはいない。ただ、此方が先に動いただけの事だよ」
「ありがとう存じます」
王家はやはり事態を把握し動いている。
問題はシュヴァルツ様が気づいていない事。私との婚約の意味を分かっていないのも問題だ。
「折角だし馬車まで送ろう。アナスタシア嬢、君をエスコートする栄誉を頂けますか?」
色気漂う精悍な顔の美丈夫から、お茶目にウィンク付きで言われれば「はい! よろしくお願いします!」以外の返答など存在しない。
「あの、アルトルード殿下は何故学園に? 用事があったのでは?」
「ああ、それも大丈夫だ。用は済んだからね」
「なら宜しゅう御座いました。アルトルード殿下の邪魔はしたくありませんので」
ふふっと笑みが零れる。
アルトルード王弟殿下との時間はとても穏やかで落ち着く。
シュヴァルツ第一王子はどうしても中身のない会話になってしまう。
エミール第二王子は可愛い弟と言った感じで、異性という感覚が薄い。話す内容もお菓子や流行の物の話が多い印象だ。
「おや、もう着いてしまったね。残念だが、姫君とはお別れだ。気をつけて帰りなさい」
アルトルード殿下の手を借り馬車に乗り込む。
「エスコートありがとうございました。それではこれで失礼させて頂きます」
「ああ、気をつけてな」
馬車が走り出す。
屋敷へ着くと迎えてくれた家令に父へ取次を願い出た。
すぐに案内され、第一王子の件を相談した。
「ご本人は友人としての交流と仰ってぃしたが、人気のない場所での密会や過剰なスキンシップなどが見受けられます。そして、私への贈答用に当てられた予算から、件の令嬢に何度か贈り物もなさっておいでです」
「ふむ、此方でも把握している。陛下も件の令嬢とその背後を洗っている。それで、お前はどうしたいんだ?」
一度目を閉じる。
そして開くと、真っ直ぐと父を見つめハッキリと告げる。
「婚約解消を願いでたいと思います。彼は王の器ではございません。ただ、ご自分に酔ってるだけで周りの視線にも気づかない。何見ようとしない。しかし地頭は悪くないので傀儡しようにも出来ないでしょう。恐らく国政の言う事を聞かないでしょうから」
「そうだな。アレは王と言う歯車にはなれんだろう。今は可哀想な令嬢を自分達が庇護していると思い込んで正当化しているが、周りの目にはあの程度の女に転がされている愚か者としか映ってないというに・・・」
一瞬だけ哀れみを浮かべる父に同意する。
彼は友人もいない孤立した少女を自分達が庇護していると思い込んでる。もしくは思い込もうとしている。
しかし、傍から見ればただ甘えてくるだけで礼儀も知らない娼婦の様な女に侍り貢いでいるだけ。
正直な所、彼女を消すのは容易い。が、目的がハッキリしないと動こうにも動けない。
ただの高位貴族に擦り寄っているだけのバカならまだ良い。いや、国の中枢に身を置く人物を侍らすのはどうかと思うが、将来高級娼婦を目指しているならやむを得まい。
逆に他国の間諜や工作員だとしたらかなりの大問題だ。あのバカ事、シュヴァルツはペラペラと国の情報を吐くだろう。まぁ、第一王子でありながら、あまり重要な情報は回さないようにされてるので、流されてもたかが知れてるが・・・そもそも喋ること自体がアウトである。
「王家も動かれている様ですが、我が家も独自に動きましょう。私はシュヴァルツ第一王子殿下達がどこまでお話されているかを探ってみます。お父様は男爵家の動向をお願いしたく存じます」
頭を下げる。
父━━公爵家当主に頼み事をするのは緊張する。本来あってはならないと思う。しかし、他家の事を探るには今の自分では難しい。なので勇気を出して協力を願い出た。
「良いだろう。男爵家の動向と男爵令嬢の件も此方でも引き受けよう」
「ありがとうございます、お父様」
「何、普段甘えた事も頼み事もしない娘からのお願いだ。叶えてやるのが親の務めだろうよ」
どこか嬉しそうに苦笑する父。
「王家とも連携しつつ、手を回そう。アナスタシアも相手に気取られぬよう気をつけなさい」
「はい、お父様」
「では、そろそろ夕食の時間だね。共に食堂まで行こうか」
「光栄ですわ」
食堂には兄と母が既に到着していた。
「遅かったな。第一王子の件で相談でもしてたか?」
冗談交じりに言う兄のフロスト。
「私の可愛い娘の手を煩わすなんて・・・いっその事一思いに殺ってしまう?」
過激発言な母、クローシュ。
「流石に処するのはどうかと思いますが、行かさず殺さずになりそうですね。このまま行くと、ですが」
「あらまぁ、アナスタシアは優しいのね」
「噂は本当なんだな。残念というか、良かったと言うべきか困るところだ」
「勉強ができるだけの愚か者と言う事だろう」
なかなかに不敬ではある。
「厄介者ですわね。傀儡にもならないけれど、本人の判断に任せれば国が荒れる。やっぱりサクッと殺っ━━━」
「お母様、それはダメです。適切な処置をした上で、幽閉するか臣籍降下するのが宜しいかと」
「妥当だね。父上、陛下に進言してみては?」
「考えておこう」
などの会話を楽しみつつ、夕食は今日も美味しかった。
━━━━翌日。
私は朝早くに学園へ向かい、姿隠し(認識阻害)と録画機能能が付与それた魔道具をシュヴァルツ達がよく使う東屋に設置した。勿論、学園側の許可をもぎ取ったので、勝手にやっている訳ではない。
学園内であまり宜しくない動きがある。王家も動いている件で・・・と言ったら即OKを貰えた。良いのかそれで!?と思わなくもなかったが、こちらからすると有難い。
姿隠しの魔道具は魔力も認識阻害できる高級品なので、録画の魔道具を上手く隠してくれる事だろう。ちなみに取り付け中の私も同じレベルの認識阻害が付与された姿隠しを使っている(見つかったらヤバイからね)。
その後は人気のない死角になる場所にそれぞれ設置しておいた。
それが終わったら一旦図書室へ行き、姿隠しの魔道具をオフにする。周りに人がいないのを確認したから問題ないはずだ。
「では、始業時間も近いし、教室に行きますか!」
図書室ではお静かに!なので小声ではあるが気合を入れる。
それから一週間。
何事もなく、第一王子は相も変わらず男爵令嬢とイチャついている。と言うか貢いで侍っている。
魔道具からの映像は対になる魔晶石に記録されているので、家でちゃんと保管してある。
少し見ただけでも不貞の証拠のオンパレード。
更にシュヴァルツが王家の抜け道とか話しちゃってるのを確認。シュヴァルツの側近の騎士見習いは騎士団の情報を重要度はかなり低いとは言え、件の男爵令嬢に漏らしてしまっていた。
もっと言うなら、婚約破棄を卒業パーティーでみんなの前で宣言するとの事。何故そうなる?!
家族と王家、宰相に騎士団長や魔術師団長などとも情報共有をし、婚約の再考についての話し合い、シュヴァルツが漏らした抜け道を塞ぎ、騎士団の情報統制を見直し、今回取れた音声映像を保護してもらい証拠とした。
準備は着々と整えられていく。
学園とも相談の上、監視記録は学園に提出し、今後も人の目の届かない所で羽目を外す者がでないように音声録画機能付きの魔道具を購入、取り付けを決定した様だった。
さて、その後数ヶ月。
ついに卒業パーティーの日がやってきた。
問題は私は卒業生ではないので、卒業生の同行が無いと会場に入れない。
卒業パーティーは卒業生の為のものであって、在学生でも同行でなければ入場出来ない。在学生とのお別れは各々入会していたサロンで皆済ませてしまうからね。
卒業パーティーは卒業生の最後の無礼講。これから先、身分的に逢えなくなる人だったり、気軽に声をかけれなくなる人、結婚して遠くに行く人等、理由は様々ではあるがそんな人達が今生の別れか!?と言うほどの感傷に浸る為の催しなのである。
(婚約破棄とか宣言してるんだろか? 私居ないんだけど・・・)
私は家でのんびりしていた。
最近ハマっているミステリー小説とか読んだりしてた。
していたのだが━━━
「アナスタシア! 私はお前との婚約を破棄する!(二度目)」
家にシュヴァルツの侍従が申し訳なさそうに来て、会場に連れ出された。
「お前は影でコソコソとディアナを虐めていたそうだな! その上、私を愛しているからと束縛した。もうお前とはやって行けないと判断した」
キリッと決めているが、これ二回目の宣言らしい。コソッと侍従のアンソニーさんが道すがら教えてくれた。
なんでも、宣言したは良いが、私が居ないと大慌て。侍従に欠席の理由を説明され、急いで連れて来い!と命じられたそうだ。可哀想に。
「婚約の破棄ですね。承知いたしました」
あっさりと了承する私に呆気にとられる彼等に当家からの伝言を伝える。
「私との婚約の破棄により、シュヴァルツ第一王子殿下の王位継承権は放棄されました。王家、宰相を始めとした各大臣との話し合いの結果、私の新たな婚約者はアルトルード王弟殿下となりました。故に、近々アルトルード王弟殿下の立太式が行われます」
騒めき。
「なお、シュヴァルツ第一王子殿下は陛下より、適切な処置の後臣籍降下。一代限りの公爵位を与えるとの事です」
さらに私は続ける。
「なお、側近の騎士見習いは除隊。侯爵子息は跡継ぎ候補から除外。魔術師見習いは魔術師団への内定取り消しを各所から言付かっております」
沈黙。
「な、何故そうなる。私とお前の婚約を破棄しただけで」
「殿下、私との婚約が大切なんですよ。それに貴方達はそちらの男爵令嬢に国の情報を漏らしていた。これは国家反逆罪に該当する恐れのある行為です」
「は?」
「まず初めに、私との婚約は王家の正当性を保つためです。私にも王家の血が流れていますので」
「だからなんだって言うんだい? 私は第一王子だ。王位継承権第一位の筈だろう?」
「私との婚約があったからこその継承権第一位だったのです。そちらの男爵令嬢を妻にと望まれても我が国の法では無理なのです。なぜなら、王家の血筋が産んだ子にしか王位継承権は認められません。つまり王家の血筋の女性の腹から産まれた子のみが王位継承権を持っているんです。現在では王家の血筋の女性は私以外ですと、ルビリアナ侯爵令嬢(12歳)、スーリア侯爵令嬢(3歳)になります」
ルビリアナ侯爵令嬢は陛下の五番目の妹の娘。スーリア侯爵令嬢は前王姉殿下のお曾孫様。
「エミール第二王子殿下もご存知の事なのに、シュヴァルツ第一王子殿下はそんな基本的な事もお忘れになられたのですか?」
そこまで話して、扉の開く音と共に宰相閣下のご登場だ。
騎士団も一緒に来たようだ。
「ディアナ・クラウン男爵令嬢は他国と通じており、第一王子殿下及びその側近達から情報を聞き出すように父親である男爵から命を受けた工作員と判明しました。そもそも18歳でもなく、実年齢は26歳だそうですよ」
「なんで実年齢知ってるのよ!?」
本当に26歳なんだ・・・。よく制服着れたな。と言うか、よく馴染めたものだなぁと感心してしまった。確かに見た目は、可愛い系というより綺麗系ではあったけれど。言動は可愛い系を目指してたんかな? ちょっと痛い人なんじゃ・・・。
「そこ! 痛い人とか思ってないでしょうね! 私はまだまだ若いんだから!」
心を読まれた?!
と、思ったら顔に出てたらしい。淑女として失格だわ。
「クラウン男爵は既に騎士団で身柄を拘束している。ディアナ・クラウンも無駄な抵抗をせず従うように!」
男爵令嬢もといディアナは抵抗せずに魔封じの枷をつけられ連行されて行った。影で待機していた魔術師団長の出番は無さそうだ。
「第一王子殿下、大した事ない情報でもペラペラと外で話してはいけません。以前にも忠告申し上げました」
「ああ、覚えている。だが、彼女が工作員だなんて思わないじゃないか!?」
「ハニトラ対策の授業をちゃんと受けていたらこんな事になってなかったのでは?」
「ぐっ!」
「そもそも、我が国の法を知らぬのは不味いです。致命的です」
「・・・・・・」
「そもそも公爵家と侯爵家はほぼ親戚です。たまに伯爵家に降りられる方もいらっしゃいますが、基本的に公爵家か侯爵家には王家の血が流れています。そしてその血を絶やさないように婚姻が結ばれるのです」
一旦言葉を切る。
これから話すことは昔話。
昔、殿下方と同じようにハニートラップに引っかかった王族が居りました。そしてその王族が婚約破棄してまで選んだ女性は他の殿方との子供を出産されました。
当時、本当の父親が見つかったのはだいぶ経ってからだったとかで、自分に似てもいない色を纏ったその子を自分の子として育てていたそうです。勿論血が繋がっていないと分かっても長年息子として接してきた情があった。しかし、周囲はその王子を許さなかった。王家の威信を傷つけた元凶とその証を赦すはずがありません。
そこで、王家の血筋の女性の腹から産まれた子ならば絶対に王家の血を引いている。と、当時の方々は思い付き、
・王族の血筋をひいた者から産まれた子のみ王位継承権を認める。
・但し、三親等以内は婚姻を結ぶことは出来ない(血が濃くなりすぎない為に)。
上記の二項の条文を加えた。
「ですから私、再従兄弟にあたるアルトルード殿下となら結婚できますの」
ちょっと親等って難しいよね?
私もよく分かっていないところが大きいけど知っ方ぶっておく。
「そもそも殿方を侍らせる女性の産む子が誰の子かなんて不確定事項じゃないですか。確かに今では血縁関係を調べる方法がありますけど、当時は大変だったそうですよ。何人かの王子や王女が全員王家の血を引いていなかったのですから」
ちなみにこの話は、授業で習います。テストにも出ました。
「それでは、第一王子殿下及びその側近だった者達。ご同行お願いします」
宰相閣下と騎士団に連れてかれるシュヴァルツ第一王子とその側近達。
「皆様、お騒がせいたしまして、誠に申し訳ございません。せっかくのパーティーをこの様な私事で穢してしまいました事、大変申し訳なく思っております。ですので、王家と公爵家からささやかながらワインを提供させて頂きます。どうぞご賞味くださいませ」
最高級アイスワインを配るように給仕に合図を送る。
卒業生の皆様はそちらに意識が向いたらしい。最初は戸惑っていた雰囲気も段々と落ち着きを取り戻し、ワイン片手にお喋りし始める。
‡ ‡ ‡
━━━━後日談。
私はシュヴァルツを訪ねていた。勿論一人でではなく、新たな婚約者のアルトルード殿下とだ。
「お久しぶりです。少しは落ち着きましたか?」
そう尋ねると、憑き物が落ちた様に爽やかな笑顔を返してくれた。
「ああ、久しぶりだね。ここは良い所だから、すっかり馴染めた気がするよ」
シュヴァルツは断種の処置を受けた後、王領の田舎に移り住んだ。一代限りとは言え、公爵位を貰った彼は今、鍬を持って畑を耕している。
ここでは失敗しても叱られること無く、出来るまで教えて貰える。出来ないことを失望されることも無い。精神的に良いのだろう。
「スローライフって言うのかな? とても畑仕事も結構楽しいよ。一応、領主ではあるからそっちの仕事もするけどね」
「領主の仕事を一応って。そういう所ですよ」
つい苦言を呈してしまった。
「なんだか懐かしいね。そうやって言われるの。以前は束縛だと思っていたんだ。型に嵌められるって言うのかな? とにかく自分を否定されているように感じてたんだ」
シュヴァルツは語る。
「でも違ったんだね。君はただ僕が間違った方に進まないようにしてくれていたんだ。小言は期待の現れだった。それを踏み躙ったのは僕の方だった」
シュヴァルツは空を見上げる。眩しそうな目で。
「ありがとう。僕の婚約者でいてくれて、そして申し訳ない。君を侮辱したことを謝罪したい。赦されたいのではなく、ただ自分の自己満足だ。流してくれていいよ」
ふとコチラを真剣な目が射抜く。もっと早く、その目が見たかった。そう思った。
「謝罪を受け入れます。赦すとか赦さないとかそういう意味ではなく。貴方が自分らしく在れる場所を見つけれた事が私は嬉しく思うのです。そして私からも謝罪を」
お互いが悪かった。どちらかと言うと相性が。ただそれだけの事。
「貴方を窮屈な箱に押し込めてしまった事、ちゃんと貴方を見る事が出来なかった事、ごめんなさい。あんな言い方しか出来なくて、あなたの心に寄り添えなかった」
暫く頭を下げたまま、ふと声が落ちた。
「お互い様って事かな? 僕もちゃんと君を見ていなかったから」
そうして笑いあった。
「そろそろ叔父上の所に帰った方が良さそうだよ。拗ねてる」
数十歩程度離れたところにアルトルードはいる。姿は見えるが声は聞こえない距離だ。
「ふふっ、その様ですね。最後に一言宜しいですか?」
「なにかな?」
「貴方は今、幸せですか?」
一瞬時が止まった様な錯覚がした。
「・・・・・・そうだね。城にいた頃よりも僕は幸せだと思うよ」
「それは安心致しました。もし何かあれば、なくても良いのですが、ご連絡くださいね」
「叔父上が嫉妬してしまいそうな事を言うね。でもそうだね。手紙、送るよ。何かあったらね」
「ええ、そうして下さい。必ず助けになりますので」
そう言い合って、現在の婚約者の元へと足を向ける。
「ちゃんと話ができたみたいだね。晴れやかな顔をしている。君も彼も」
「ええ、付き合って頂き、ありがとうございました」
「君の頼みならなんでも叶えよう。法に触れない限り、だけどね」
「最後のは減点ですわね。思ってても言わないものですわ」
クスッと笑う。
これからは同じ間違いを繰り返さないようにアルトルードとよく話し合い、共に歩んでいこうと思う。共により良い国にする為に身を粉にしながら、それでいて暖かな家庭を築いていけたらと思っている。
「私も今が幸せだわ」
そう零れた言葉。
「私も今、幸せに感じているよ」
ふと零れた言葉も拾って貰える。それが嬉しいと感じる。
年の差は埋まらない。けれど言葉で心は近づける。
お互い支え合ってこその夫婦だとこの人は言ってくれた。
想い合い、支え合い、いつまでも何気ない日常を護ろうと強く思った。
━ 終 ━
読んでいただき、ありがとうございます。
名前考えるの大変ですね。あと血縁関係難しい。なんでこんな設定の話にしてしまったんだと後悔してます。
逆ハーって血統を重んじる王侯貴族には通用しないと思うんですよね。その結果血が濃くなりすぎるって言う問題がありますけど。
蛇足ですが、取り巻き(元側近達)はそれぞれの家で監視されてたり、教育し直されていたりしています。
シュヴァルツだけスローライフ(護衛という名の監視付きですが)を送っております。元々のんびりした性格なので田舎生活があっていたようです。




