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Case:6 よくいる普通の姉妹。山も谷もない

主要人物

・ユノー・シュウェット ・・・ サーシャの姉。真面目。

・サーシャ・シュウェット ・・・ ユノーの妹。人見知り。

まず初めに言っておくことがある。

これはとある姉妹のお話。山も谷も落ちもないです。

姉妹仲は良い。たぶん。

社交的でしっかり者の姉と内向的で人見知りな妹。

姉をユノー。妹をサーシャと言う。


さて、そろそろお話を始めましょう。




‡ ‡ ‡


ユノーとサーシャはしがない男爵家の娘達。

華やかな雰囲気の姉ユノーは外に出たがり。地味な印象の妹は家に引き篭って居たい派。真逆の性格をしていた。




━━━ユノー8歳。サーシャ6歳。


「今度、お茶会があるからアンタも出席しなさいよ」


ユノーの言葉にサーシャは絶句した。

お茶会・・・つまり社交の場。行きたくない。しかもサーシャが苦手としている姉の友人が絶対にいる。


「風邪をひく予定なので、無理です。お腹の調子も悪いからお茶なんて飲んでられない」

「はいはい、招待に出席で提出したから拒否権はありませーん」

「勝手に決めないでくれるかな? 新手のイジメか!?」


との会話がよく交わさせる。

それくらいには仲がいい。


お茶会当日、サーシャはお気に入りのぬいぐるみを抱えて参加していた。取り敢えず姉の後ろに隠れながら、目立たないように気配を消していた。


「ユノー、こっちこっち! 久しぶりね」


姉の方に親しげに声を掛けてくるのは姉の友人、クラリス様だ。クラリス様は一つ上の爵位、子爵家のご令嬢である。


「あら、サーシャも居たの? 気づかなかったわ」


悪気なくこのような物言いをする。悪気がないからタチが悪い。


「あらそのぬいぐるみに着いてるリボン、私が無くしたものだわ。返してくれるかしら?」


そう言ってクラリス様は私のぬいぐるみからリボンを剥ぎ取った。彼女は上の身分だから何も言えない。例え本当はサーシャの物だったとしても。だからクラリスの事が苦手だった。


「持ってくる方が悪いのよ。今度からは気をつけなさい」


姉の言葉が冷たく感じる。でも、実際は大切なものは家から出すなとの忠告だ。

取り戻したい。でも逆らうと大変な目にあう。だからこそ歯がゆい思いでいっぱいだ。納得がいかない。


「私のなのに・・・」


ぽつりと呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。

お気に入りのうさぎのぬいぐるみ。黄色いワンピースを着て、耳には黄色のリボンが結ばれていた。今はもうないが。


お茶会はそんな場面がありつつも、滞りなく終わった。

ただでさえ外に出るのがしんどいのに、お気に入りのパーツまで奪われて気分は最悪。姉は、外に出れて、色んな人とお喋りできて満足気だ。


「お姉ちゃんは外に出れて満足かもしれないけど、もう私はお茶会行かない。リボン奪われたのも納得できないし、疲れたしで散々だったもの」


サーシャは物に執着する。自分の物限定ではあるが。子供ながら頭が固いというのか、納得できる理由がないと物事を受け入れられないし、今回の件も理不尽に思っている。年上で身分も上なら何をしてもいいのか!と憤っている。仕方がないとは思えないのだ。

普段はぽややんとしている妹だが、こうなると暫く拗ね続ける。

姉は面倒に思いつつ、妹の面倒を見るのは姉の役割と説得を試みた。


「そもそもぬいぐるみなんて持って行かなきゃ奪われなかった。そこはアンタに非があるのは分かってる?」

「それは・・・分かってるけど、奪っていい理由にはならないもの」

「そうだね、でもいくら私の友人でも身分的に逆らえない。だから、こっちが対策しなきゃいけないの。分かる?」

「むぅ。分かることと納得することは違うでしょ!」


ぷいっとそっぽを向いてむくれる妹に姉は嘆息した。


その後は、姉もクラリスと仲良くすることも無く、自然と距離が離れていった。





━━━ユノー12歳。サーシャ10歳。


「サーシャ、貴女の婚約が決まったわ」


春麗な昼下がり。木陰で読書していたサーシャに母は爆弾発言を投下した。


「いやいや、普通姉の婚約が先でしょう」

「姉はしっかり者だし、この家の跡継ぎなのだからちゃんと見極めないといけないもの。時間がかかるのはどうしようも無いわ」


(私ならテキトーでいいんかい!)心の中でツッコム自分に虚しさを感じるサーシャ。


「サーシャはほら、嫁に行く身だしお相手は早いに超したことはないわ。ゆっくりしてると貰い手がいなくなっちゃうじゃない」


釈然としない。しないが、親の言うことは聞かねばならない。貴族とは哀しきものだと思うサーシャであった。


「顔合わせは明日よ! ちゃんと準備なさい!」

「母よ、急すぎんか?」

「だって、そうでもしないと逃げるでしょう?」

「明日は頭痛と腹痛で布団から出られなくなる予定です」

「大丈夫よ。そんな事にはならないから」


ニコリと微笑む母は有無を言わさぬ雰囲気を纏っていた。恐い。


次の日。

朝早くから叩き起され、一応貴族令嬢っぽく気飾られる。普段は簡素なワンピースで済むのに・・・と、ぶつぶつ言うサーシャの言葉は誰にも届かない。聞こえているだろうに誰もかも無反応だ。


「まぁ、良いでしょう。地味な印象はどうしようも無いけれど」


母は相変わらず一言余計だ。

そして昼下がりに婚約者(仮)が我が家にやって来た。とうとう初対面だ。サーシャは既に人見知りを発動し、緊張から気持ち悪くなってきていた。


「お初お目にかかります。ぼくはクリストファー・アルマ。よろしくお願いします」

「私はサーシャ・シュウェットと申します。初めまして、これからよろしくお願いします」


クリストファーは金髪に新緑の眼をした爽やかな印象の少年だった。将来モテそうな外見だ。


「サーシャ、アルマ男爵令息と庭を散策していらっしゃい。母は男爵夫人とお話がありますので」

「はい、お母様」


親の言う事は提案ではなく一種の命令だ。言われたら遂行しなければならない。


「ではアルマ様、こちらにどうぞ」

「はい、ありがとうございます」


さりげなくエスコートするクリストファー。

彼は姉と同い年で2歳上。流石だ。


「今なら桜が咲いていますのでそちらに行きましょう。近くに東屋もありますし」


精一杯、失礼のないように気をつけながら言葉を発するのはなかなか疲れる。

もう逃げたい。吐きそう。そう思っても、まだまだ時間は始まったばかり。


「あら、サーシャ。その方は?」


目的地に向かう途中で姉と遭遇した。神か。


「こちら、婚約者候補のアルマ男爵令息です。アルマ様、こちらは私の姉のユノーですわ」

「初めまして、アルマ男爵家のクリストファーと申します。サーシャ嬢の姉君にご挨拶いたします」

「ユノー・シュウェットと申します。サーシャの事、よろしくお願いしますわ」


挨拶を交わす二人。

これもう姉に丸投げしちゃいけないかな?とか一瞬過ぎるが、自分の婚約者候補だから駄目だよなぁと遠い目になる。


「では、アルマ様、サーシャと良い時間をお過ごしください」


すれ違う時、(頑張って!)とウィンク付きで応援された。姉よ今こそ世話焼きの出番やぞ。


それから一時間程、東屋でお茶をしながらお話した。早く終われとどれ程思ったかしれない。


「サーシャ嬢は人見知りと聞いていましたが、そんな風には見えませんね。とても話しやすいですし」

「まぁ、そう思っていただけたなら嬉しいですわ」


もう向こう一ヶ月分の労力は使っている。母よ、早く来い。来てください。マジで助けて。

表面上はにこやかに、内心ではもう無理と助けを求めていた。泣きそう。


「サーシャ、失礼な事はしていませんね?」


母登場!

サーシャは歓喜した。ようやく終わりが見えた!


「とても楽しい時間を過ごさせていただきました。サーシャ嬢には沢山お話を聞いていただいて感謝しています」

「それは良うございました」


母は満足気に頷く。


「サーシャとの相性も悪くないようですし、夫人、婚約の話は進めることに致しましょう」

「そうですわね。クリスもとても良い笑顔ですし、安心致しました。旦那様にも伝えておきますね」

「ええ、こちらもその様にさせて頂きますわ」


男爵夫人もニッコニコで婚約に前向きだ。

サーシャはあわよくば話が流れる事を期待していたが、ソレは諦める事になってしまった。無念。


「姉よ、助けて! 婚約とかマジで無理!」

「婚約おめでとう、努力なさい。何事も初めてはあるのだから」


努力したよ! 初めましての人とお茶会しましたよ! 精神的に病みそう。


「じゃ、私は明日のお茶会の準備があるから」

「今月何回目のお茶会よ。よくそんなに参加出来るなぁ。尊敬するわ」

「今月に入ってからは週3のペースで行ってると思うけど、普通じゃない? 招待状が届くのだもの理由なく断れないでしょ?」


「それに結構楽しいわよ。色んな噂話とか聞けるし」と満面の笑みを浮かべる姉。妹とは大違いだ。

ちなみに妹への招待状も来てるが月1ペースでしか参加しないし、参加しても気分が悪くなってしまって早めに帰るので病弱な妹と印象が着いてしまった。

中には病弱を装っていると言われる事もあるが、自称した事もないし、ただの人酔いであると聞かれれば答えている。





━━━━ユノー17歳。サーシャ15歳。


「サーシャ嬢、申し訳ないが、婚約を解消したい」


木々が色付く過ごしやすくなってきた秋の頃、クリストファーはシュウェット家を訪ねてきたかと思えば上記の言葉を発した。


「・・・・・・一応、理由をお聞きしても?」


クリストファーは一瞬言葉を詰まらせたが、真剣な顔で答える。


「君は悪くない。強いて言えば地味なのが引っ掛かるけど」


あれ? 貶されてる? 地味なのは間違いないけど、マイナスじゃないよね? プラマイゼロだよね? 普通舐めんな!と心の中でツッコミを入れつつ話を促す。


「実は好きな人が出来てしまったんだ。君の姉君のユノー嬢なんだけど」


衝撃的。

姉は確かに婚約者はまだ居ない。


「彼女は華やかな顔立ちで気さくな所も良いよね。面倒見もいいし、頼りになる」

「・・・・・・」

「本当はダメだって分かってる。でも、どうしても君に恋愛感情が抱けない。それに我が家に嫁入りしてきても上手く熟せ無さそうで」

「・・・・・・・・・」

「だから、このまま婚約関係を結んでいてもお互いに不幸になるだけだろう? なら今解消した方がいいと思うんだ」


なんだろう。このやるせない気持ちは。


「クリストファー様のお考えは分かりました。しかし、婚約は家と家の契約です。父には話を通しておきますので、そちらのご両親の説得はお任せします」

「ありがとう! 君なら分かってくれると思ったよ! うちの両親の事は任せて。もうちゃんと話し合っているから」


つまりは決定事項てあったと? 随分と舐め腐りやがりまして!イラッから怒りにシフトチェンジなサーシャ。内心でだけど。


「君って表情がないから何考えてるのか分からないけど、物分りは本当に良いよね」


ムカッとしたついでに手が出そうになるが我慢我慢。


「じゃあ、それだけだから、そろそろ帰るね! あ、見送りはいらないよ」


言いたい事だけ言って帰って行った。

なんて自己中。やっぱり殴っておけば良かったかしら。


「サーシャ。今、アルマ男爵令息がスキップしながら出て行ったけど、何があったの?」


暫く気持ちを落ち着かせていると、姉が部屋に入ってきた。


「お姉様の事が好きになったから、婚約解消して欲しいって。地味で何考えてるか分からない女は不必要だそうよ」

「はあ? あの男何考えてるの? いや、何も考えてないのかな」

「婚約解消は嬉しいんだけどね。私、男性全般無理だし」

「そんなこと言ってると同棲愛者と思われるよ」

「同棲愛者でも無いんだよなぁ。恋愛感情ご理解できないだけで。アロマンティックとか言うやつなのかもねぇ」

「決めつけるのは早いと思うけど。別にいいんじゃない。アンタはそれで」


後日、ちゃんと婚約は解消されました。

しかし、クリストファーをユノーは拒絶。好みじゃないらしい。その上、妹を貶した奴を婿にする訳がないし、クリストファーも跡継ぎなのだから元より無理な話だった。




━━━━ユノー20歳。サーシャ18歳。


ユノーは結婚した。お相手は伯爵家の三男。

結婚式は急いで準備された。何と婚前交渉で子供が出来てしまったらしい。おめでたいけど、貴族としてどうなん?と思わなくもないサーシャだった。両親も向こうの家も何も言わないので言えないけど。


「お姉様、おめでとう! 私は邪魔だろうし、田舎に家を買ってもらったからそこで暮らすね! 夫婦仲良く過ごして!」


社交に出なくてよくなると歓喜な妹にユノーは「それ今言うこと?」とサーシャの頬を引っ張りながら笑っていた。


「どこに居てもアンタは私の妹なんだから、何かあれば連絡するのよ」

「ありがとう。じゃあ、遠慮なく何も無くても手紙送るわ。たぶん」

「それ絶対送らないやつ」


結婚式当日は笑顔に溢れた一日だった。


結婚式後にすぐにサーシャは田舎に向かった。

婿の実家の領地内にある小さな村。そこの家を買ってもらった。これからは一人暮らしが始まる!と、思いきや身の回りの世話をする侍女ら使用人と護衛が二人ついた。

自分でも忘れかけていたが、仮にも男爵家の娘である。しかも適齢期。自分は独り身で過ごしたいけど、そう簡単な事じゃないのね。ちょっとガッカリ。


「政略結婚の可能性もあるのか。姉は恋愛結婚だけど・・・ズルい」


その後は穏やかな日々が続いた。

実家で父の浮気が原因で両親が離婚して母と暮らすようになったり、いつの間にか侍女と護衛が結婚していたり、同棲愛者と間違われて異端扱いされかけたり、何やらありながらも楽しい日々を過ごしている。

幼い頃からの頑固さ(自分の物への執着)は健在で、たまにそれが原因で揉める事もあるが母に諭され納得いく答えが出るまで相手と話し合い何とか折り合いをつけている。


田舎とはいえ、姉が居る場所とそう遠く離れていないため、しょっちゅう子供の面倒を見させに母を借り出すし、何故か怒るのはサーシャの役割だったけど(恐怖政治を敷いたので逆らわない)悪くはないのでは?とサーシャは思う。


「自分が結婚するとかないわぁ。絶対に嫌だわぁ」


いつもそう言うので、母ももう何も言わない。

自分一人では大した事も出来ないけれど、周りに恵まれて世話を焼かれながら過ごしている日々のなんと素晴らしき事か。


「サーシャはサーシャらしくあればいいのよ」とは(ユノー)の言。

「貴女に結婚は向いてないわ。しても精神病みそう」とは母の言。


反論しようも無いサーシャだった。




‡ ‡ ‡


[ 蛇足 ]


クリストファーは婚約解消後、すぐにユノーに告白。即拒絶。

だが諦めないクリストファーは何度もアピールするが、当時ユノーは伯爵家の三男(現婿)と付き合っていた。婚約は結んでなかっただけで、恋人同士だったのだ。


現在の婿である三男さんは家を通して、クリストファーの実家に抗議した。自分の恋人にしつこく付き纏って迷惑していると。もう直ぐ婚約発表するのに変な噂が立ったらどうしてくれると。

クリストファーはこっ酷く父親に怒られ泣く泣く諦めた。

が、なら義理の弟になろうと今度はサーシャにすり寄ろうとしたが、ユノーがそれを察知し、アルマ男爵家当主宛に解消を申し出た側のくせにどう言うつもりかと質問状を送ったためシュウェット男爵家へ接見禁止を命じられた。

破れば即除籍の上一文無しで放逐すると。なのでクリストファーはまたもや泣く泣く諦めた。流石に一文無しで放逐されてはたまったものではないと。


今は、子爵令嬢を嫁に貰い、姉さん女房の尻に敷かれてるとか。




クラリスは下の者にしか強く出れないタイプの人間。

子爵家へ嫁入りして初めは夫を見下していたけど、夫となった人はやんわりと怒って理詰めするタイプなのでいつの間にかたじたじになってしまい、夫自ら再教育を行い調教もとい矯正された。

幼い頃奪ったリボンはあの後暫くはぬいぐるみに付けて遊んでいたが飽きたら捨ててしまった。奪ったとの認識はない。あくまでサーシャに盗まれて、ソレを返して貰ったと思っている。

それに対しても怒られて、謝罪文を書かされた。


それを受け取ったサーシャは複雑に思いながらも、謝罪は受け取った(許すとは言ってない)。





なんやかんやで、みんなハッピーエンド!



・・・・・・だよね?



━ 終 ━

読んでくださりありがとうございます。


本当になんの山も谷も落ちも無いお話でした。すみません。もっと面倒な妹としっかり者の姉の話を書くつもりだったのに・・・なぜこうなった。と思うばかりです。

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