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Case:1 よくある?婚約破棄

主要人物

・アリスティア・セヴィニエ=クォーツ

薄金茶の髪に碧眼。侯爵令嬢。


・アーロン・フェルト=グランツ

茶髪に緑眼。伯爵令息。


・オリヴィエ・セティア=キャンディス

金髪に桃色の眼。子爵令嬢。

「アリスティア・セヴィニエ! お前との婚約を今日このときを持って破棄する!」


年始を祝うパーティーの真っ只中、茶髪に緑眼の青年は大声量で宣言した。


「そして、オリヴィエ・セティア子爵令嬢と新たに婚約を結ぶことにした!」


彼の主張はまだ続く。

会場は音楽が消え、紳士淑女達すら急な事についていけず黙り、しんと静まり返った。


「お前は婚約者としての義務を果たさず、遊び呆け、この俺を無視し続けた。もう我慢の限界だ! それに比べてオリヴィエは心優しい女性だ。ずっと無視され続け、疲弊していた俺は彼女に何度慰められた事か」

「いえ私なんて...アーロン様のご苦労に比べたら何の役にも立ててなくて申し訳ないです」


青年━━アーロン・フェルト=グランツ伯爵令息はオリヴィエ嬢と手を握り合い見つめ合いながら、「そんな事ない」「私なんて」「いやいや本当に...」などとイチャイチャを周りに見せ付ける。


今日のパーティーは王家主催。

にも関わらず、伯爵家の息子が場を私物化しているこの状況に他の参加者から冷たい視線を向けられ、ヒソヒソとされてるのにも気づかない彼らはある意味大物なのかもしれない。


と、いけない。思わず傍観者気取りをしてしまった。


私は当事者の1人だった。

名を呼ばれたアリスティアとは私の事である。一応侯爵家なので彼らより身分は上なのだけれど、そこの所理解しているのだろうか? あと、王家への侮辱でもあるから色々不味いの理解して...無さそうですね。

ひとまず名前を呼ばれてしまったので、少し前に出て対応しなくては(面倒くさい)。


「国王陛下、並びに王家の方々へご挨拶申し上げます。そして発言の許可を頂けると幸いです」

「ふむ、許そう」


国王陛下の許しが降りた。


「ありがとうございます。まずはこの場にいらっしゃる皆々様へ場を騒がせてしまった事、謝罪申し上げます。皆様の貴重なお時間を奪ってしまい申し訳ありませんでした」


まずは紳士淑女の皆様へと深く頭を下げる。

楽しい、有意義な時間を奪ってしまったことに対しての謝罪。例え自分が犯した事でないとはいえ、関わってしまった以上方方へ悪い印象を与えたくない。


「グランツ伯爵令息に置かれましては、新たなご婚約おめでとうございます」


今度は2人に向かって祝福の言葉をかける。


「しかしながら婚約破棄につきましては、当方には心当たりがありませぬゆえ、グランツ伯爵家よりご説明いただきとうございます」


二人の世界に入っていたアーロンはアリスティアの言葉に食ってかかろうとした...が、ゴッと鈍い音が聞こえると共に頭を抑えた(ついでに舌も噛んだっぽい)。すごい形相でグランツ伯爵が拳骨を食らわせたからだ。


「我が愚息が大変申し訳ありません。陛下並びに王家の皆様、各位皆様になんとお詫びすれば良いのか...」


無理矢理に頭を押さえつけられるアーロン。「なんでこんな目に遭わなきゃならないんだ!?」とかほざい⋯仰っているけど、現状を理解していないとは思っていたよりもお花畑だった様だ。


「まずは、皆様にお伝えしなければならないのは婚約についてかと存じます。当家とクォーツ侯爵家は婚約関係にありません」


申し訳なさそうに、けれどハッキリと婚約関係が無かったことを表明するグランツ伯爵。


「このような場で我が愚息の()()()でクォーツ侯爵令嬢にあらぬ疑いを被せてしまった事、また、礼を失したことについて慰謝料を支払わさせて頂きたく。本当に申し訳ありません」

「グランツ伯爵家の意向は承知した」


いつの間にかお父様━━クォーツ侯爵が隣に!?


「私共かもからも、娘の不祥事(やらかし)に対してクォーツ侯爵令嬢に慰謝料を支払いさせて頂きます。この度は本当に申し訳ありませんでした」


キャンディス子爵も娘さん━━オリヴィエの頭を押さえつけながら頭を下げた。


「なんで、ウチが慰謝料なんか払わなきゃいけないのよ! 婚約者を放置していたあの女が悪いんじゃない!」


だから婚約者じゃないのだと言っている。


「正式な手続きは別室にてさせて貰おう。王家の皆様並びにご出席の皆様にはお騒がせしました事、改めてお詫び申し上げる。我等はこれにて失礼させていただきます」


「うむ、許そう。クォーツ侯爵家、グランツ伯爵家、キャンディス子爵家は別室に移動せよ。すぐに立会人を向かわせよう。他のものは宴を楽しんでくれ」


陛下がそう仰ると楽団が音楽を流し始め、宴の空気が戻って行った。



‡ ‡ ‡



それから暫くの後、別室にて。


「では、グランツ伯爵令息の()()()についてと新たな婚約の手続きをさせて頂きます」


机には婚約申請書とクォーツ侯爵家に対するグランツ伯爵家とキャンディス子爵家の念書。

立会人は宰相に補佐の書記官。


「なんで俺達が有責なんだ?!」とか「私達は真実の愛なんだから、慰謝料なんて支払わなくていいのよ!」とかほざい・・・仰っていたアーロンとオリヴィエは今は不貞腐れながらも大人しくしている。


「まず初めに、わたくしとグランツ伯爵令息は婚約関係にありません。これは前提の話です」


「そんなことは無い!幼い頃に婚約しただろうが!」


アーロンはガンッと机を叩きながら叫ぶ。


「確かに幼い頃には婚約していましたが、しかしそれは3年前に白紙撤回されております。既に王家も承認済みの事なので婚約は無かったことになっております」


書記官が冷静に返す。


「な、なんで白紙撤回なんか・・・」


アーロンはこんわくした。そんな話は聞いた事がなかった。

正確には話はされたが、本人が聞いてなかった(記憶してなかった)だけの話。


「り、理由はなんだ! 俺は白紙撤回なんて認めてないぞ!」

「簡単な話です。()()()()()クォーツ侯爵家の次期当主になると決まったからです。これも3年前にお話したのですが・・・?」

「聞いてない!」

「お忘れになっていたのですね・・・それとも記憶に留めておく価値すらなかった、と」


アリスティアは至極当然かのように話すが、アーロンは納得いっていなかった。


「なんで末っ子のお前が時期侯爵になるんだよ! 女のくせに!」

「我が国では女性にも継承権はありますが?」

「でも、お前の兄姉たちはどうなるんだ!」

「我が家の保有する他の爵位を継ぐか、婿入りまたは嫁入りする事になっております」

「そんな! 可哀想だわ! 妹に搾取されるなんて!」


オリヴィエが加勢しだした。


「理由は当家の選抜試練の結果、アリスティアが最も優秀だったからな。ほかの追随を許さなかった」


お父様が褒めてくださる。ちょっと嬉しい。

実は他家には知らせれないが、当家は王家の影の総帥である。

だから完全実力主義で定期的に試練を課され、どれだけ正確に素早く確実に熟せるか試られる。元々アリスティアは成績優秀者ではあったが、4年前から圧倒的大差をつけて試練をこなしていた。

また、与えられた実践任務にも淡々と熟し、他の兄姉のフォローまでする逸材の為、3年前に正式に次期当主の座を手にし、白紙撤回に至ったのだった。


「なので、グランツ伯爵令息がどなたとどのようなご関係になられようとわたくしには関係ございませんし、婚約者でもないので関わりもなくて当然かと」


アーロンは愕然とした。

実はアーロンはアリスティアが好きだった。

自分の婚約者(モノ)だと思っていた。婚約破棄を訴えれば縋ってくるのだと思っていた。

他の女性に手を出せば嫉妬するだろうと。

でも違った。とうにただの他人だった。

今にして思えば交流のためにお茶会をすることが無くなった。

誕生日の贈り物も届かなくなった。

気にしなかった。面倒だと思っていたから、良かったとすら思っていた。でも婚約者だからと、例え浮気したとしても結婚できるものだと思っていた。

婚約破棄は茶番のつもりだった。縋ってこれば仕方が無いと婚約破棄の撤回を行うつもりだった。

前提が覆された。いや、そもそも間違っていたのだ。


「お互いにお家のために頑張りましょうね。まぁ、貴方は廃嫡されるかもしれませんが・・・」


伏し目がちにアリスティアは呟く。

アーロンは知らない。

アリスティアの家が王家の影だという事。

既にアリスティアに別の婚約者がいる事。

競争相手でありながら、意外と兄姉が末っ子を可愛がっていて、蔑ろにしていたアーロンに殺意を向けていた事。

それをアリスティアが制していた事。

何も知らず、生きてきた。見たいものしか見ない。知ろうともしない。だから婿入りすら出来なかった事。


「なんで・・・どうして・・・」


項垂れるアーロンに、さらに追い討ちがかかった。


「え? アーロン様跡継ぎから外されるの? じゃあ、一緒になる意味なんてないじゃない」


さっきまでか弱い振りをしていたオリヴィエはあっさりバッサリとアーロンを切り捨てた。

パッと離れて「クォーツ侯爵令嬢には申し訳ありませんでした。謝るし、別れるから慰謝料の額を減らして下さい!」と宣った。

結局は地位と財産目的であった。


「貴女の目的は初めから分かっていたけれど、なんと言うか・・・グランツ伯爵令息が可哀想だわ」


つい零れてしまった。

アーロンはオリヴィエの行動に驚き、アリスティアの言葉に更に驚いた。だってオリヴィエの目的に気づいていなかったから。


「それでは、グランツ伯爵令息及びキャンディス子爵令嬢はクォーツ侯爵令嬢に接見禁止の念書。そして大勢の前での侮辱による慰謝料請求書にサインをお願いします。また、当慰謝料はご本人による支払いをご了承ください」


立会人からの言葉。

家からではなく、個人財産からの支払い要請。

言われてすぐは「なんでだよ!?」とか「なんで私が!? お父様何とかしてよ!」とか言っていたが、それぞれの当主(お父君)からの圧によって、念書と請求書にサインした。

それと同時に大々的にアーロンとオリヴィエの二人の関係が知られてしまった以上、他の縁談なんて来るはずもなく、新たな婚約申請書に二人ともサインしていた。




‡ ‡ ‡


婚約破棄騒動から1年後にアリスティアは新たな婚約者である辺境伯家の三男のクライブを婿に迎え入れ、その後に2男3女に恵まれた。

夫であるクライブは影の仕事にも理解を示し、妻を支え、自分も自ら任務に励んだ。元々辺境伯家で諜報活動もしていたため

馴染むのに時間はかからなかった。


「優秀な夫を持ってわたくしは幸せ者ね」

「君はよくそう言うけれど、僕の方が幸せ者だと思うよ。こんなに聡明で可愛らしい妻に選んで貰えたのだから」


お茶を楽しみながら、そう笑いあう時間が何よりも幸せなんだと二人とも感じていた。

読んでいただきありがとうございます。

拙い文章で申し訳ない気持ちですが、少しでも暇つぶしに慣れれば幸いです。

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