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CHAPTER8『監獄に降る三つの災厄』

監獄の王が立ち、嵐喰らいが目を覚ました。

支配と破壊。

秩序と災厄。


その激突が――

今、始まろうとしている。






深海監獄アビスロック 第二階層——




轟音とともに、ギルバートとカイゼルの拳が正面衝突した。




バチバチと弾ける電撃がギルバートの剛腕を這い、振動する衝撃波がカイゼルの体を叩きつける。




衝撃は円となって広がり、第二階層の地面が軋み、壁面の岩が悲鳴を上げる。

空気は圧縮され、吊り灯籠の灯火が消え、火花と破片が闇の中へ散った。




ジルは、肺の空気を一瞬で叩き出され、思わず歯を食いしばる。

(ギルバートとカイゼル……クソッ!次元が違う……!)




「ハッハッハ!」

カイゼルは笑いながら地を蹴り、即座に体勢を立て直す。


「いい拳だ……さすがは監獄の王だ」





「……これほどとはな」

ギルバートは一歩も退かず、淡々と言い放つ。


「災害とはよく言ったものだ」






そして、轟音とともに、二人の拳が再びぶつかった。




バチィッ!!



電撃が爆ぜ、同時に空気が震える。




ギルバートの剛拳が、カイゼルの体を正面から叩き潰した。




ドンッ!!



巨体が後退し、床が陥没する。




「……効いたか」

ギルバートは低く呟き、足を踏み込む。




その瞬間――第二階層全体が、共鳴するように唸った。





「来い、嵐喰らい……」

ギルバートが腕を振り下ろす。



「ここは――俺の支配領域だ」





ゴオォォンッ!!





壁、地面、岩盤天井。

監獄そのものが震え、圧縮された衝撃が一斉にカイゼルへ叩きつけられた。



ドォォンッ!!


カイゼルの巨体が弾かれ、廃屋の瓦礫へと一直線に叩き込まれる。

砕けた石片と鉄骨が宙に舞い、鈍い衝突音が通路に響いた。





ジルは思わず歯を食いしばった。

(……監獄そのものが、ギルバートに共鳴して反応している……!?)





だが――



「ハッ……」


瓦礫の中から、低い笑い声が響いた。




「……それでこそ、潰しがいがある」




バチバチバチバチッ!!




雷光が一気に膨れ上がる。

カイゼルの全身が稲妻に包まれ、鎖の残骸が宙で弾け飛ぶ。




「監獄ごと潰してやろう……!」




ドォン!!!




カイゼルの拳が地面を叩いた瞬間、

雷が地を走り、衝撃が逆流する。




雷撃を浴びたギルバートの体が、わずかに宙に浮いた。



「……っ」

初めて、ギルバートの表情が僅かに歪む。



着地の瞬間、踏みしめた床が鈍い音を立て陥没した。





二人は、数メートルの距離を隔てて睨み合った。




互いに息は乱れていない。

だが――空間そのものが限界を訴えていた。



(……このまま続けば)

ジルは悟る。


(勝敗の前に、第二階層がもたないんじゃないか……!?)




カイゼルが、再び拳を握る。

雷光が収束し、空気が軋む。




ギルバートもまた、静かに構えを取った。

「……次で終わらせるぞ」



その言葉に呼応し、背後の重装備看守兵たちが一斉に武器を構えた。







その瞬間だった。





――ドゥオオオオオォン!!!!





突如――


二人の激突を押し退けるように、巨大な黒き渦が空間そのものをねじ曲げた。




暴風のような圧が通路を薙ぎ払い、砕けた石片が宙を舞う。

雷光すら呑み込み、衝撃が通路を走る。



「なっ……!?」

ジルたちは思わず身構えるが、何が起きたのか理解が追いつかない。



背後から、低く笑う声が響いた。

「おいおい……俺を無視して盛り上がるのは勘弁してくれよ」



重圧をまとった声とともに、場の空気そのものを押し退けるように――

一人の男が、悠然と歩み出てくる。


挿絵(By みてみん)


「……出やがったか……」

低く吐き捨てるように、バレルが呟いた。



ジルが眉をひそめる。

「……? 誰だ?」



バレルは視線を逸らさず、短く答える。

「……沈黙の牙の頭領――ドゥームだ」



「……!?(こいつが……沈黙の牙の頭……!)」

ジルは無意識に半歩、重心を落とした。


ヴォルグが低く呟いた。

「ホオジロザメ魚人、ドゥーム……厄介なのが来たな」



ガレオンが低く歯噛みした。

「……何のつもりだ、ドゥームめ……!」


背後では、霧の幻影の兵たちが一斉に間合いを取り直す。




ギルバートの視線が、ゆっくりと割って入った男へ向けられる。

「……ドゥーム。貴様の仕業か……?」



ドゥームは肩をわずかに揺らし、口元だけで笑う。

「……さあな。何のことだ?」



次の瞬間――



カイゼルの足元で、水が爆ぜた。

渦巻く水流が一気に収束し、強烈な奔流となって彼の周囲を取り囲む。


「チッ……!」

反射的に跳躍しようとしたカイゼルの動きが、わずかに遅れる。



「ククク……遅ぇよ」

低い笑い声と同時に――



ガシィッ!!



渦の中心から、水で編まれた鎖が一斉に射出された。

蛇のように絡みつき、四肢へ食い込む。



「グッ……!?」


一瞬で――嵐喰らいの巨体が、完全に拘束された。



水鎖は軋み、雷光が弾けるたびに白く揺らぐ。

だが、ほどける気配はない。



「悪いな、嵐喰らいさんよ」

ドゥームがゆっくりと歩み寄る。

その足取りは、まるで戦場を散歩でもしているかのように軽い。


「もう少し、大人しくしてもらおうか」

にやりと笑い、カイゼルの正面に立った。



カイゼルが低く唸った。

「……貴様……俺を狙っていたのか」



ドゥームは肩を揺らし、気怠そうに笑う。

「さあな? 偶然通りかかっただけだぜ?」



カイゼルはしばらく無言でドゥームを睨み据える。

だが次の瞬間、その目つきが変わった。

「……いや、違うな」


口元に、獰猛な笑みが浮かぶ。

「俺を解放したのは――貴様だな」



場の空気がわずかに張り詰める。


ドゥームは一瞬だけ沈黙した。

だがすぐに肩をすくめ、軽く息を吐く。

「知らねえなあ?」



「フン……まあいい」

水流の鎖に拘束されたまま、カイゼルはゆっくりと目を細めた。


雷光が、その瞳の奥で揺れる。

「貴様の思惑に……乗ってやろう」



その言葉を聞いた瞬間、ドゥームの口角がわずかに吊り上がった。

「いい返事だ」


指先を軽く動かすと、水の鎖がわずかに軋み、拘束が少しだけ緩む。



ジルは一歩も踏み出せない。強者同士の圧に呑まれ、そのやり取りを無言で見つめながら、喉を鳴らした。



ギルバートは二人のやり取りを無表情で見つめていたが、やがて静かに言い放つ。

「……貴様に任せるぞ、ドゥーム」



「フッ、光栄だねぇ」

その言葉が落ちた瞬間、場の空気が変わった。



ジルは思わず一歩踏み出す。


だが次の瞬間――バレルのハサミが、わずかにその前に差し出された。


「……今じゃねぇ」

低く、短い声だった。



ジルは歯を食いしばりながらも、足を止める。


その横で、ヴォルグが小さく息を吐いた。

「……今動けば、“外へ出る道”は完全に潰される」


冷静な声。だが視線は一瞬も逸らしていない。



ギルバートは踵を返し、去り際に囚人たちへ冷たく言い放つ。

「貴様らが暴れて囚人どもの数が減るなら、それも良い」


鎧を軋ませながら、重装備の看守たちがゆっくりと背を向ける。

その背中は、まるで監獄そのものの意志が去っていくようだった。



ドゥームは低く喉を鳴らし、ゆっくりと背を向けた。

「フハハハハ……いい面構えだ、嵐喰らい。――ついて来い」


水流の鎖がわずかに揺れ、道を開く。


カイゼルは舌打ちした。

「チッ……俺に指図するな」


だが、雷光をまとった巨体は、ドゥームの背を追うように歩き出す。


重い足音が、第二階層に低く響いた。




重圧が消えたあと、補給庫前の通路には奇妙な静けさだけが残った。

崩れた壁の奥で、砂塵がゆっくりと落ちていく音だけが響いていた。


ジルは拳を下ろせずにいた。

呼吸は荒く、胸の奥で鼓動だけが暴れている。

(……終わった……のか?)



ガレオンはゆっくりと周囲を見渡す。

「……興が削がれたな、今日はここまでだ」


その言葉と同時に、背後の黒装束たちが影のように散っていく。



「待て……!」

ジルが一歩踏み出しかけた瞬間——


「……やめとけ」

ヴォルグの低い声が背中を止めた。


「追っても無駄だ。あいつらは霧みたいなもんだ。気づいた時にはもう消えてる」

ヴォルグは崩れた通路へ視線を流し、静かに手のひらを返した。



短い沈黙。



その横で、バレルが瓦礫を蹴り飛ばす。

「……ったくよ。監獄長に嵐喰らいに牙の頭領か。今日は厄日にもほどがあるぜ」


通路の奥では、最後に残っていた霧がゆっくりと消えていく。

残されたのは、まだ消えない戦いの気配だけだった。






沈黙の牙の頭領ドゥームによって、嵐喰らいカイゼルはその陣へと加わった。

それは、単なる一人の囚人の移動ではない。

深海監獄アビスロック――

長く均衡を保ってきた力の天秤が、今、静かに傾き始めたのだ。

この日、この瞬間、監獄の歴史は、確実に新たな局面へと踏み出した。


ジルはゆっくりと拳を握った。

飲み込まれたままでは終わらない――

この潮流の中で、生き残る側に立つために。


《蒼海の解放軍》より、深海監獄から感謝を込めて。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし物語を面白いと感じていただけたら、

あなたの一票(=★評価・ブックマーク)が、

監獄で抗い続ける仲間たちの力になります。


▼作者Xはこちら

https://x.com/00aomiray00?s=21


これからも『半魚囚人ジル』をよろしくお願いします。

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