表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/27

CHAPTER4『深海は静寂を拒む』

沈黙が、重くのしかかった。

そこに立っている――ただそれだけで、通路の空気が変わる。

沈黙の牙ナンバー2。クロヒトデ魚人のローレンス。

挿絵(By みてみん)



その名が落ちた瞬間、ジルの拳を握る手のひらに汗が滲んだ。

(……こいつが沈黙の牙のナンバー2!?

クソッ……目を逸らしたら……殺られる……!)




ローレンスは、ゆっくりと前へ出た。

「……うちの兵たちが、ずいぶん世話になったようだな」


低く、感情の起伏を感じさせない声。

その視線が、通路に転がる沈黙の牙の兵たちへと落ちる。


倒れ伏す者。


壁にもたれ、苦しげに息を整える者。





次の瞬間――


背後の闇が、ざわりと動く。


鉄靴の音。



ローレンスの背後から、沈黙の牙の兵たち十数人が姿を現した。




バレルは背後の気配に目を走らせ、低く唸った。

「チッ……囲まれてやがる。ローレンスだけでも厄介だってのによ!」




ジルは一瞬だけ振り返り、バレルと、鎖に繋がれたバンドウイルカ魚人を見た。

「……やるぞ」


二人の視線を受け止めると、すぐに前へ向き直る。



ジルは足元に転がる兵たちを指さした。

「こいつらは、俺たちに向かって来た。だから倒した。それだけだ」




ローレンスは倒れた部下たちに、ちらりと視線を落とす。

感情の色は、どこにもない。

「フン……そんなものはどうでもいい……」


低く、冷え切った声。

「この監獄の秩序を乱す貴様らを――排除しに来ただけだ」




そして、背後へと顎を引く。

「やれ」




合図と同時に、ローレンスの背後に控えていた沈黙の牙の兵たちが、一斉に動いた。


十数人の殺気が、通路を埋め尽くす。





ジルは一歩前へ出る。

「……来るぞ!」


「おうよ!」

バレルが巨大なハサミを構え、低く唸る。


一方、鎖に繋がれたバンドウイルカ魚人は、静かに距離を取って後退した。

手足を拘束されたまま、鋭い目で戦況を見据える。



合図と同時に、沈黙の牙の兵たちが一斉に襲いかかった。



ジルは先頭の兵の懐へ飛び込み、鳩尾を打ち抜く。




同時に、バレルが前へ出た。

巨大なハサミを豪快に振り回す。

「どりゃああぁっ!!」



突っ込んできた兵たちが、まとめて弾き飛ばされた。




ジルはそのまま動きを止めない。

槍を構えて突進してきた兵の一撃をかわし、踏み込みざまに蹴りを叩き込む。




背後――

斧を振りかぶった兵が、バレルに襲いかかる。



ガキィィーン!!



ハサミで斧を受け止め、弾き返す。

「クッ……やっぱ数が多すぎるぜっ!」



ジルは転がるようにバレルの背へ戻り、互いに背中を預けて構える。

「……一人ずつ潰していくしかねえが……」



ジルの視線が、自然とローレンスへ向いた。

(――奴は、まだ動いてない……)




その時、ローレンスが、静かに口を開いた。

「……さて。そろそろ終わらせようか」


一歩。


また一歩。


前へ出るたび、通路の空気が重く沈んでいく。ただ歩いているだけだというのに、圧が違う。




ジルが歯を食いしばる。

「……!? 奴が来るぞ!」




ローレンスは足を止め、じっとジルを見据えた。

その視線は、獲物を定めた捕食者のそれだった。

「お前たちのような新たな派閥の芽は――早いうちに摘む。それだけのことだ」




次の瞬間だった。

ローレンスの左腕が、音もなく分裂した。

肉が裂ける感触すらなく、形を失った腕の一部が増殖する。


無数のヒトデ状の触手が宙に浮かび、空中で静止し高速回転する。



「――ッ!」

ジルたちへ、一直線。



「くそっ、コイツはやべぇぞ!」

バレルは、巨大なハサミで、迫る触手を弾き飛ばす。




「クッ――!」

ジルは身を捻ってかわす。

だが、ひとつが肩をかすめ、血が滲んだ。



触手の先端は、手裏剣のように鋭く成形されていた。


間髪入れず、第二。

さらに第三の軌道が、死角から叩き込まれる。


ジルは歯を食いしばり、身を捻り、跳び、沈み、体を流すようにしてかわす――だが、足を止める暇はない。




(……くそっ)

踏み込もうとした刹那、また軌道が塞がれる。


攻めに転じる隙がない。

かわすだけで、精一杯だった。



宙に浮かび、軌道を描きながら――

三人を、完全に囲い込んだ。




(……クッ。このままじゃ、確実に削られる……!)

反撃に出る一瞬すら、与えられない。




バレルが歯を食いしばる。

「チッ……! 雑魚どもの相手しながら、こんなの防いでられるかよ!」


ハサミで迫る兵を弾きながらも、視線は宙を舞う刃群から離れない。




次の瞬間――鎖に繋がれたバンドウイルカ魚人は、その刃の軌道を正確に見切る。


首を傾け、肩を引く。

最小限の動きでかわし、腕に巻き付けられた鎖を使って、防いでいった。


そして、左右に視線を巡らせ、触手の配置、軌道、距離、速度を無言で追う。

(……正面からは、捌けない。数が多すぎる)


その視線は、ローレンスへと一瞬だけ向けられ、すぐに戻る。


そして、バンドウイルカ魚人は、すぐにジルとバレルへ向いた。

「……聞け、おまえら!いいか。あれは防いでも、斬っても、意味はない……操ってる本体を倒さなければ、終わらない」


言い切ると、視線をローレンスへ走らせる。

「狙うのは――あいつだ」


視線の先。腕を組み一歩も動かず、すべてを制御するローレンスを指す。




(……そうか。あいつを倒せば――)

一瞬で繋がった答えに、ジルの瞳が鋭くなる。


「よしっ……俺が飛ぶ。残りは任せたぞ、バレル!」

一瞬の迷いもなく言い切った。




バレルは即座に応じる。

「おう! まとめて引き受けてやる!

 ――ぶっ倒して来い!」




次の瞬間、ジルの身体が弾けた。


床を蹴り裂き、宙を切り裂く一直線の跳躍。

迫る触手の間を、紙一重で抜けていく。



ギューンッ!



刃の包囲を突破し、狙いはただ一つ――沈黙の牙ナンバー2、ローレンスの懐へ、一直線に。




跳躍の勢いを殺さぬまま、拳を振り抜く。




――だが。


ローレンスは、ほんの僅かに踏み込み、身体を捻るだけで、その拳を外した。





次の瞬間――


背中から、禍々しい大鎌を引き抜く。


「……惜しかったな」

低く、冷えた声。


「貴様は――ここで終わりだ」

物凄い速度で、ジルの首目掛けて、大鎌が振り抜かれようとした。





その時――




「ヒャハハハハハッ!!」

狂気じみた笑い声が、響き渡った。




反射的にローレンスの動きが止まり、眉がわずかに動く。

(……!? この声は……)




闇の奥――


闇が灯りを侵食するように、ぬらりと人影が滲み出てくる。


先頭に立つのは、異様に膨れた体躯のトラフグ魚人。


挿絵(By みてみん)


その背後には、同じ狂気を纏った兵たちが続いている。




バレルが歯噛みした。

「……チッ。こいつらは……深海の狂気の野郎どもだ」


そして、視線が先頭に定まる。

「しかも……真ん中はナンバー2。ドロマときたか……!」




(……こ、こいつらも――敵か……!?)

ジルの胸の奥で、嫌な予感が弾ける。




トラフグ魚人――ドロマは、腹を揺らしながら嗤った。

「ヒャハハハハッ!楽しい殺し合いに――俺も混ぜてくれよぉ!!」





ローレンスは、わずかに舌打ちする。

「……チッ。厄介な奴が現れやがったか……」





沈黙の牙は排除を選び、深海の狂気は混沌を選ぶ。

そしてジルたちは――生き残るために、戦うしかなかった。

三つ巴の殺し合いが、今、幕を開ける。


《蒼海の解放軍》より、深海監獄から感謝を込めて。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし物語を面白いと感じていただけたら、

あなたの一票(=★評価・ブックマーク)が、

監獄で抗い続ける仲間たちの力になります。


▼作者Xはこちら

https://x.com/00aomiray00?s=21


これからも『半魚囚人ジル』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ