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CHAPTER22『雷鳴の支配者』

挿絵(By みてみん)



第二階層・旧配給所跡――


静まり返っていた廃墟に、突如として衝撃が走った。

背後から凄まじい雷撃を浴びたジルは、片膝をつきながらも、辛うじて地に倒れるのを堪えている。

全身を駆け巡る痺れと激痛。

視界は揺れ、呼吸すらまともに整わない。

その目の前には――

沈黙の牙幹部、ヴィクターが静かに立っていた。




ヴィクターは、片膝をつくジルを見下ろした。


黒く巨大な体躯のまま、口元をわずかに歪める。

「ほう……」


青白い電流が、腕の表面をバチバチと這う。

「今の一撃で死なんか……」



ヴィクターは首を傾け、ゴキゴキと骨を鳴らした。

「影虎の犬が嗅ぎつけてくるのは、わかっていたが……」


その目が、ジルの全身を値踏みするようにゆっくりとなぞる。

「……貴様、霧の幻影の兵ではないな」



次の瞬間――


ヴィクターの右手が、無造作にジルの喉元を掴んだ。


「ッ――!?」


そのまま、まるで獲物を持ち上げるかのように、軽々と宙へ引き上げる。



ジルの足が地を離れた。



両手で必死にその腕を掴み、引き剥がそうとする――だが、雷撃の痺れが残る身体には、まだまともに力が入らない。

「……ぐ、うぐぅぅ……!!」



ヴィクターの目が、冷たく細まる。

「……何者だ?」



喉を締め上げられたまま、ジルは言葉にならない声を漏らす。

「……あ、が……ッ……」



ヴィクターはしばし無言で見下ろしていたが――


やがて、喉を掴む力をわずかに緩めた。

「……答えろ」



ジルは荒く息を吐く。

「……はぁ……はぁ……」


焼けつく喉を無理やり震わせる。

「……俺は……蒼海の解放軍……」


苦しげに顔を上げる。

「……ジル・レイヴンだ……」



ヴィクターの眉が、わずかに動く。

「蒼海の解放軍……だと?」


その口元が、じわりと吊り上がった。

「なるほど……ローレンスが仕留め損ねた連中か」



ジルの目が、わずかに揺れる。



ヴィクターは、喉を掴んだまま静かに問う。

「……で?」


その目が、ジルを射抜く。

「なぜ俺を狙う?」



次の瞬間――


喉を掴む手の圧力が、再び強まった。


「ぐ、お、ごあぁぁ……!!」


そしてヴィクターは、またしても少しだけ力を緩めた。


「……答えろ」



ジルは荒い息の合間を縫うように、絞り出す。

「……影虎からの……依頼……だ……」



ヴィクターの目が、すっと細まる。

「……やはり影虎か」



ジルは苦しげに息を吐きながらも、なお睨み返す。

「……だが……」


喉を押し潰されそうになりながら、それでも言葉を絞り出す。

「……お前が……ゼオンを狙っていると……言うのなら……」


その瞳に、熱が宿る。

「……影虎がどうとかは……関係ない……」



ヴィクターの眉が、ぴくりと動く。



ジルの目が、激しくヴィクターを睨み据えた。

「……あいつを……また、失うわけには……いかない……」


焼けつく喉の奥から、掠れた声を叩きつける。

「……だから……お前を……ここで止める……!!」



ヴィクターの口元が、大きく歪んだ。

「フハハハ……!」


喉を掴んだまま、ジルを見下ろす。

「俺を止める、だと……?」


その目に、剥き出しの嗜虐が宿る。

「笑わせるな。貴様は今から――無様に死ぬだけだ」



そう吐き捨てると、ヴィクターは喉を掴んだまま、ジルの身体をわずかに持ち上げた。


苦しげに足をばたつかせる様を眺め、鼻で嗤う。

「フン……冥土の土産に、一つだけ教えてやろう」


右腕に、青白い電流がバチバチと迸る。

「そのゼオンという男はな――政府の上の連中が、何としてでも消したがっている獲物だ」



ジルの目が、わずかに揺れる。



ヴィクターは、その反応を楽しむように口元を吊り上げた。

「つまり、あいつは最初から生かしておいちゃいけねぇ存在だったということだ」


喉を掴む手に、さらに力がこもる。

「そんなものを守ろうとしている時点で――貴様も同罪だ」




その宣告と同時に――



ヴィクターの全身に、青白い稲妻が迸った。


ピシピシッ……!!


バチバチバチィィッ……!!


電流が、筋肉の隆起した腕や肩を這い回り、空気そのものを焼くような音を立てる。



ジルの顔が苦痛に歪む。

「グッ……クソッ……!!」



喉を締め上げられたまま、逃れようともがくが――

痺れの残る身体は、思うように動かない。



ヴィクターは、ジルを掴んでいる右腕を――さらに高く掲げた。



その瞬間――


全身を走っていた稲妻が、一気に右腕へと収束していく。


バチ……バチバチッ……!!


空気が震える。


床の破片が、微かに跳ねる。


ヴィクターの目が、冷酷に細まる。

「死ね……!」




右腕に収束した雷光が、今まさに解き放たれようとした――




その時――




「ヴィクター!!」



突如――


通路の奥から、鋭い叫び声が響いた。



同時に、何かが凄まじい勢いで風を裂く。



ブンッ――!!



ヴィクターはジルの喉を掴んだまま、わずかに身を捻った。



次の瞬間――


回転する鉄棒が、ヴィクターの側頭部すれすれを唸りを上げて通過する。



ガァンッ!!



背後の朽ちた壁に激突し、火花とともに弾け飛んだ。




ヴィクターの眉が、ぴくりと動く。

「あぁ……?」



反射的に、鉄棒が飛んできた方へ顔を向ける。




その瞬間――



ビカーッ!!



凄まじい閃光が炸裂した。


旧配給所跡一帯が、一瞬で真白に染め上げられる。



「――ッ!?」


ヴィクターは思わず顔をしかめ、視線を逸らす。

「クッ……!何だ……!?」



視界を焼くような白光。



輪郭が消え、建物も地面も、すべてが光の中に呑まれていく。



ヴィクターの指先が、わずかに緩んだ。



その瞬間――


「どぉりゃあああああッ!!」


雄叫びとともに、白光の中から巨大な影が飛び出した。




――バレルだ。


その逞しい背には、レクスがしがみついている。



レクスの額から伸びた提灯が、なおも眩い白光を撒き散らしていた。



ヴィクターが目を細めたまま、わずかに顔を上げる。

「……ッ!?」



次の瞬間――


バレルの巨大な鋏が、唸りを上げてヴィクターへ叩き込まれる。



ゴシャッ!!



鈍く重い衝撃音が、旧配給所跡に轟いた。



ヴィクターの巨体が、ジルを掴んだまま吹き飛ぶ。


その衝撃で、喉を掴んでいた手が外れた。


「ッ……!!」

ジルがその場に崩れ落ちる。



次の瞬間、ヴィクターは背後の壁へ叩きつけられた。



ズガァァンッ!!



壁が大きくひび割れ、砕けた瓦礫が激しく降り注ぐ。

土煙が、一気に舞い上がった。




バレルが鼻を鳴らす。

「間一髪ってやつだな」



その煙を眺めながら、レクスが軽く肩をすくめる。

「処刑寸前だったな……趣味の悪いナマズ野郎だ」



ヴォルグはすぐさまジルの元へ駆け寄る。

「……ジル、大丈夫か……!?」



ジルは荒い息を吐きながら、なんとか顔を上げた。

「……ああ……危なかった……助かった……」



その時――


ガラリ、と瓦礫が大きく跳ねた。


土煙の奥から、黒い影がゆっくりと起き上がる。



バレルが舌打ちする。

「チッ……しぶてえ野郎だ」



ヴィクターは、口元から垂れた血を手の甲で乱暴に拭った。

その目には、怒りよりも先に――冷たい殺意が宿っていた。

「……邪魔者どもが」



低く吐き捨てると、ゆっくりと右腕を掲げる。



次の瞬間――


その腕に、青白い雷光が迸った。



ピシピシッ……!!



空気が軋む。


地面に転がる瓦礫が、細かく震え始める。


ヴィクターの口元が、凶悪に吊り上がった。

「雑魚が何人集まろうが――」


その目が、バレルたちを見下ろす。

「どうにもならねぇってことを、叩き込んでやる……まとめて黒焦げだ」



バレルが眉をひそめる。

「あぁ?」



ヴィクターの右腕に、青白い雷光が集束した瞬間――ヴォルグが叫ぶ。

「来るぞ、直に受けるな! 石の陰へ飛び込め!」


そう叫ぶと同時に、ヴォルグはまだ痺れの残るジルの腕を乱暴に掴んだ。



「ッ――!」

次の瞬間、半ば抱えるようにして、そのまま近くの廃屋へと飛び込む。



一方――


バレルが眉をひそめる。

「お、おう……?」



背中のレクスが、即座に怒鳴った。

「おい! バカロブスター! ぼさっとするな!あの石陰に飛び込め!」



「おっ……そういうことか!」

ようやく状況を呑み込んだバレルが、踵を返す。


「……って、お前いつまで乗ってんだ!!」

叫ぶと同時に、バレルは地を蹴る。


その巨体が、レクスを背負ったまま近くの崩れかけた石積みの壁陰へと勢いよく飛び出した。




その瞬間――



バリバリバリバリィィッ!!



ヴィクターの右腕から放たれた、青白い稲妻が地を這い、壁を走り、四方八方へと一気に炸裂した。



バチィィッ!!



「ぐわぁぁッ!!」


レクスを背負ったバレルの背を、雷撃の一部が掠めた。



「ぐがッ……!!」


直撃は免れたものの、鋭い電流が二人の身体をまとめて貫いた。



バレルの巨体が大きくぶれ、そのまま壁陰へと転がり込む。

「ぐ、うッ……!」



背中にしがみついていたレクスの身体もびくりと跳ねた。


額の提灯が、バチバチと火花を散らし――やがて、ふっと光を失う。



薄闇が、一気に戻ってきた。



バレルは歯を食いしばりながら、片膝をつく。

「クソッ……こんなモン、直撃したら命がいくつあっても足りねえ……!」



その背で、レクスが痺れた声を絞り出す。

「痛ってぇな……脳筋ってのは、これだから困るぜ……」




ヴィクターが、高らかに笑う。

「フハハハ……!」



青白い雷光をまとったまま、廃屋の陰を見下ろす。

「それで隠れたつもりか?」


口元を吊り上げる。

「……炙り出してやるぜ」



再び、ヴィクターが右腕を掲げる。

その腕に、青白い雷光が再び収束し始めた。



ピシ……ピシピシッ……!!



次の瞬間――


収束しきれなかった雷が、右腕の周囲から縦横無尽に弾け走る。



バチィッ!!



ピシャァッ!!



青白い電流が、地面を這い、壁を伝い、逃げ場を潰すように廃屋の外壁を焼いていく。



石片が弾け、焦げた臭いが一帯に広がった。



ヴォルグの目が鋭く細まる。

(クッ……これでは顔を出した途端、雷撃で撃ち抜かれる……!)


その視線が、雷撃の走る地面と壁を素早くなぞる。


雷撃の射線は、すでにこの一帯を支配していた。



廃屋の陰で、ジルはゆっくりと拳を握り――そして、開く。

指先に残っていた痺れが、わずかに薄れていく。


ジルが低く呟く。

「……だいぶ、痺れは治まってきた……」



ヴォルグは視線を外さず、短く返す。

「……そうか」


だが、その声に安堵はない。

「問題は――奴をどう崩すかだ」



その時――


ヴィクターの嘲るような声が、再び闇の向こうから響いた。

「どうした?」


雷光を迸らせた右腕を掲げたまま、低く笑う。

「かかって来い、腰抜け共が!」



その目に、あからさまな侮蔑が浮かぶ。

「こんな寄せ集め共に俺を始末させようとは――影虎も、舐めた真似しやがるぜ……!」



その時、壁陰に隠れていたバレルは、レクスを石陰の奥へそっと降ろした。

「ここでじっとしてろ」



レクスは顔をしかめたまま、低く吐き捨てる。

「……言われなくても、痺れて動けねえよ」



バレルは短く頷いた。

「……よし」


その目が、雷光を纏うヴィクターを真っ直ぐ捉える。

「俺が――こじ開けるしかねぇな」



レクスの眉が、わずかに動く。

「……は? 何言ってんだ?」



だが、バレルはもう聞いていない。

「ごちゃごちゃ考えるのは――性に合わねぇ!!」


叫ぶや否や、バレルは石壁の陰から一気に飛び出した。



「――!?」


ジルの目が見開かれる。

「バレル!」



ヴォルグも思わず顔を上げる。

「あいつ……! 何をしてるんだ!?」



バレルは振り返り、廃屋の陰にいるジルたちへニヤリと笑った。

「あとは頼んだぜ、お前ら!」



そう言い残すと、再びヴィクターへと向き直る。

巨大な鋏を構え、地を踏みしめる。


「おい、ナマズ野郎!」



その声が、旧配給所跡に響いた。



「俺とサシで勝負しやがれ!!」



バレルは鋏を鳴らし、獰猛に笑う。

「調子に乗ったナマズはよ――叩き潰して成敗だ!!」



ヴィクターは、右腕に雷光を纏ったまま鼻で笑う。

「……成敗、だと?」


口元が、ゆっくりと歪む。

「……フン、どの道、全員死ぬ」


その目に、冷たい殺意が宿る。

「望み通り、一人ずつ――あの世へ送ってやろう……」



――次の瞬間。


ヴィクターの右腕に、青白い雷光が静かに収束していく。



ピシ……ピシピシッ……!!



空気が、張り詰める。



その光は、先ほどまでとは明らかに違っていた。




――その収束は、死の予兆。

旧配給所跡の闇の中で、命を賭けた死闘は、すでに後戻りのできない領域へと踏み込んでいた。



《蒼海の解放軍》より、深海監獄から感謝を込めて。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


もし物語を面白いと感じていただけたら、

あなたの一票(=★評価・ブックマーク)が、

監獄で抗い続ける仲間たちの力になります。


▼作者Xはこちら

https://x.com/00aomiray00?s=21


これからも『半魚囚人ジル』をよろしくお願いします。

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