ラフプレー
初回表、ペンギンズの攻撃。ゲイブの危険な球を警戒していたが、何も起こらなかった。
『スリーアウト!三者凡退の立ち上がり!』
「いつも通りだな。監督の言う通り、考えすぎたかもしれないな」
皆の緊張が緩んだ。ラフプレーという形での報復はない……そう安心していた直後、事件が起こった。
『先頭の岡がヒットで出塁!2番の真壁、バントの構えはありません』
「………」 「………」
特に指示はなく、自由に打てというサインが出ているように見えた。しかし実際はランナーも含め、細かい作戦が事前に与えられていた。
『打った、セカンド真正面!ゲッツーコースだ!』
「よし!狙い通りだ!」
バッテリーは喜んだが、狙い通りなのは実はビッグリーダーズのほうだった。併殺になるようなゴロを打てという前代未聞の指示を出していた。
『海田から新谷へ、二塁アウト!一塁も……』
新谷の守備力なら一塁は余裕のアウトだ。いきなり先頭打者を出したが、これでランナーはいなくなると安心した次の瞬間だった。
「がっ……!」
『あ―――っと、交錯だ!新谷転倒!』
岡が二塁ベースに滑り込んだように見せかけて、スパイクで新谷の膝を蹴った。ボールは手からこぼれ落ち、送球できなかった。
『守備妨害でダブルプレーが宣告されました!しかし新谷は立ち上がれない!足を痛めたようです!』
担架を使うほどではなかったが、コーチの肩を借りながら片足飛びでベンチに戻ってきた。
「……少し治療すればいけます!」
「無理するな。しっかり診てもらったほうがいい」
『新谷は交代です!武雄がショートに入ります!』
新谷は軽傷で、我慢すれば応急措置をしてプレーが続行できる程度の怪我だった。しかしつばめは大事を取って新谷を下げた。
「監督、まさか……」
「……………」
予期されていた報復が始まる。皆は恐れたが、しばらくは何もなかった。次にニュージャパンドームがどよめいたのは、あのスライディングは偶然だったのではと思い始める者も増えてきた三回表だった。
『ショートフライ、捕った!ツーアウト!バッターは9番のピッチャー能登、左打席に入ります!』
ペンギンズはここまで1人も出塁できていない。二死走者なしでは得点の可能性は薄く、能登もあまり打つ気はなかった。間違って塁に出たら面倒なことになる。
「………」
この時能登は嫌な予感がしていたと後に語っている。しかし『自分はピッチャーだからそんなことにはならないはず』なので、思い過ごしだと考えた。
『ピッチャーゲイブ、投げた!』
「うおっ!?」
能登の勘は当たっていた。155キロのストレートが一直線に襲ってきた。
「くっ……!」
『直撃……いや、バットに当たったか!?球審の判定はフェアだ!ピッチャー前にボールが転がる!』
倒れながら避けた。バットに当たったのはたまたまで、あわや大惨事だった。ピッチャーゴロでスリーアウトとなったが、能登と一塁コーチは黙っていない。
「おい!今の球……わざとだろ!」
「ピッチャー相手にビーンボールだと!?それだけは絶対にやっちゃいけないだろうが!」
2人はゲイブ……には詰め寄らず、キャッチャーのもとに向かった。顔を真っ赤にしたゲイブの迫力を前に、自分の身が可愛くなったからだ。しかし今日はキャッチャーもくせ者だ。
「ハハハ……何事もなかったんだ。そう怒ることもないだろう、お二方!偶然だよ、偶然!」
「……あ?」 「東郷………」
ベテラン捕手の東郷がにやけ顔で2人の前に立つ。その間にゲイブや他のビッグリーダーズナインはベンチへ戻っていった。
「ピッチャーも9人目の野手だと言うじゃないか。もし怒りが収まらないならあんたらもやるといい」
「………いや、今のは偶然だったよ」
ゲイブを相手にそんな真似をしたら、能登は今年で現役生活を終えることになるかもしれない。ここは引き下がるしかなかった。
『三回裏、ビッグリーダーズの攻撃は8番の東郷から!出番こそ少ないが頼れる第三捕手です!』
(また何か仕掛けてくるんじゃ……)
再び不気味な気配を感じつつも、東郷を恐れていては上位打線を抑えられるはずがない。いつも通り投げることにした。
『あっとバントの構え!セーフティバントだ!』
「やっぱりやってきやがった!」
一塁側に転がしたが、打球の勢いが強い。三丸が捕り、そのまま走り込んでくる東郷にタッチしようと待ち構えた。
「あっはっは!策に溺れたな、オッサン!」
「………」
ところが三丸はすぐに笑えない事態になった。
「えっ、ちょっと待て……うげっ!!」
『激突した!三丸がふっ飛ばされた!』
東郷はスピードを緩めることも避けることもせず、三丸に突進した。走路で待っていた三丸が悪いのだが、普通なら諦めてアウトになる。
『一塁へ走る東郷の勢いが体格差を跳ね返して当たり勝った!ボールはこぼれている、一塁セーフ!』
守備妨害は認められず、内野安打となった。もちろん東郷は出塁したかったのではなく、一塁線の打球を処理しようとした誰かにタックルするのが狙いだった。転がり方によっては能登や大矢木が被害に遭っていたかもしれない。
「腕や胸は痛くないか?しかも倒れた時に頭を打ったようだが?」
「あんなジジイのタックルで痛めるわけないだろ。それに頭じゃなくて背中から倒れた。やれるよ」
ベンチからコーチやトレーナーが来たが、三丸は追い返そうとした。しかし遅れてつばめがやって来て、
「念のためだ、何もないか確認してもらおう」
そう促すと、三丸は素直に応じて下がった。
「つばめちゃんが心配してくれるなら、その気持ちをありがたく受け取っておくぜ。だがあいつら……」
「おい、間違っても仕返しなんて考えるな。冷静に、普段通りのプレーを心がけるように」
治療の必要がないのは明らかだったが、三丸を含めたナインの気持ちを落ち着かせるために試合を中断させた。
(……でも意外だな。つばめちゃんなら真っ先にやり返せって言いそうなものなのに)
このまま終わるとは思えないが、この事態を引き起こしたことを含め、つばめには何か考えがあるのだろう。皆は平常心を心がけた。
「わっ!!」
『バットがすっぽ抜けた!あと少し低ければ能登の上半身、もしくは顔を襲っていました!』
ラフプレーは止まらない。それでも審判が何も言わないのは、彼らもビッグリーダーズの力に屈し、見て見ぬ振りを強要されているからだ。
「喧嘩を売った相手が悪すぎたな……天罰だよ」
「後楽園ビッグリーダーズこそ正義、絶対的な大正義だ!悔しかったら土下座して許しを請え!」
ビッグリーダーズがやることなら何でも許される、つばめに現実をわからせるために必要な正しいことだとファンは信じて疑わない。強い者の応援をしているうちに、自分たちも強く何をやってもいいと錯覚していた。
「くそ……あいつら!もう我慢ならん!」
「待て!一番憤っているのはつばめのはずだ!そのつばめが我慢しているんだ……まだ辛抱だ!」
国松が一部の選手やコーチを宥める。得点はまだ両チーム無得点、チームも耐える時間が続いていた。
DeNAベイスターズ、オープン戦は首位と微差の3位でフィニッシュ!チームの好調がそのまま結果になりましたが、『オープン戦3位の呪い』も気になるところです。




