姥捨山
『つばめ監督が就任してから、苦手だったはずのビッグリーダーズ戦はこれで7勝1敗!それまでは7敗1引き分けでしたから……明日勝てば互いに8勝のタイですよ!』
2日続けて二桁得点での圧勝。上機嫌なつばめから多くの話を聞き出せるだろうと記者たちは期待していた。
『ビッグリーダーズを倒す秘策みたいなものが何かありますか?この場で言える範囲で構いませんが……』
『元々互角に戦える力はあった。しかし『球界の盟主』と呼ばれる相手の名前に圧倒され、勝手に苦手意識や劣等感を抱いていたようだ』
ペンギンズがビッグリーダーズに弱かったのは今年だけの話ではない。戦う前から気持ちで負けている状態が何年も続いていた。
『私の祖父、正一金政の時代はビッグリーダーズが人気も実力も断トツの一強だった。しかしこの時代はどの球団の試合もテレビやネットで放送されている。やつらの独占状態ではなくなった』
『そうですね。ビッグリーダーズ以外は観客が数十人、数百人しかいない試合もあったほどです。まるで地方の独立リーグのようでしたよ』
今では考えられないことだ。野球といえば後楽園ビッグリーダーズを指し、他球団の選手の知名度はゼロに等しかった。
『野球の人気が落ちていると言われているが、この熱狂ぶりを考えればその表現は正しくない。ビッグリーダーズの人気が落ちた、それが正しい』
『……どうでしょうか。今年のプロ野球人気はつばめ監督のおかげというところもありますし……』
『いや、落ちているのはかつての球界の盟主だ。私たち東京グリーンペンギンズは大きな夢を抱く若者として上昇の一途を辿るが、どこかの衰えていく金満老人は後退して転げ落ちるしかない』
龍門ルチャリブレに続き、後楽園ビッグリーダーズというチームそのものを攻撃した。昔よりは強くないとはいえ、依然としてプロ野球の中心にいる盟主につばめは喧嘩を売ったのだ。記者たちは恐ろしくなってしまい、質問や追及ができなかった。
『彼らはブランド力で若い選手を囲い込み、金の力で他球団の主力を強奪した。ルールを無視することも多々あったが、権力と脅しの力で誰も逆らえないようにした。独裁国家のようだと思わないか?』
「………」 「………」
内心ではつばめの言葉に同意していても、声や動作に出せる者はいなかった。つばめの仲間だと思われたら後が怖いからだ。
『しかしその全ての力が弱体化した現在、彼らに残っているのはちっぽけなプライドだけだ。困った老害ではあるが、悲しい存在だ。温かい目で見てやろう』
数年に一度リーグ優勝はするが、クライマックスシリーズで下剋上を許すことも何度かあった。日本シリーズではほぼ無抵抗で敗退する。それがビッグリーダーズの現状だ。
『ビッグリーダーズが全盛期に比べたら落ちている……それは確かです。しかし監督、ペンギンズはそれよりもずっと下にいるのによくそこまで偉そうに……』
『さっきも言ったが、今はまだ若者、それも無一文だ。しかしここから必ず上がっていく。プロ野球の歴史が変わる瞬間を見られるんだ』
すでにペンギンズは日本中の人気と注目を集めている。つばめが監督になってからの勢いが来年以降も続き、発掘した若手が全員順調に育ち、球団がつばめで稼いだ金を正しく使えば黄金期は来る。
『……監督。龍門ルチャリブレを罵倒した時とは違いますよ。すぐに発言を撤回しましょう』
『撤回?そうだな……温かい目で見てやる必要はないな。姥捨山にでも捨てよう』
「わっ……」 「ひっ!」
反省するどころかますます過激になっていく。これ以上は危険だと、会見はここで打ち切られた。
『優勝するのはビッグリーダーズだけど、2位はペンギンズでいいと思っていた。18歳の女の子が監督として頑張っているんだから……なんてことを考えていた自分が大間違いだった』
『やつらは絶対最下位に落とす。あのクソガキ……できることならこの手で殺してやりたいよ』
街のビッグリーダーズファンが次々と怒りの声を上げる。以前まではつばめを好意的に見ていた者たちが、殺意を抱くほど忌み嫌うようになった。
「また敵を増やしてしまいましたね、つばめさん。この4連勝でペンギンズの選手たちは称賛されていますが、つばめさんへは批判の嵐ですよ」
「私からすれば他球団のファンは元々全員敵だ。やつらが勘違いしていただけだ」
つばめは揺らがない。素麺をあっという間に食べ終え、みのりにおかわりを要求した。
「明日の試合……気をつけてください。ファンの方々よりも選手たちのほうが怒りの気持ちが強いはずです。今日よりずっと手強い相手になるでしょう」
「……球界の盟主の怒りのパワーがどんなものか、楽しみだな。しかし彼らは表向きだけではあるが『紳士』のような振る舞いを目指している。怒りに身を任せた愚かな行動はしないだろう」
明日の試合で何かをしてくることはわかっている。それでも大したことにはならないだろうとつばめはビッグリーダーズを軽んじた。
「これまではプロ野球界の盛り上がりのために見過ごしていたが……彼女は限度を超えた」
「報いを受けてもらおう。そして己の愚かさを思い知り、大人しくなってもらうとするか」
つばめがみのりと共に眠っている真夜中に、恐怖の作戦の実行が決まった。目的は当然つばめを懲らしめるためだが、つばめ自身がターゲットではない。つばめが愛するペンギンズを破壊することで、『天に唾する』という言葉の意味を教える計画だった。
『ペンギンズ、今日も勝てば5連勝!ベテラン能登、チームの勢いに乗って通算200勝に近づきたいところ!今の打線なら援護が期待できます!』
ローテーションの調整で中10日での登板となった能登だが、来週からは木曜日に固定される。若いピッチャーたちで連勝しているだけに、自分で止めるわけにはいかない。
『ビッグリーダーズは2連続の3タテを避けるためにも、そしてつばめ監督によって踏みにじられた誇りを取り戻すためにも負けられない一戦!先発はゲイブ!』
荒々しいピッチングが持ち味のゲイブは、前回のペンギンズ戦で敗戦投手になっている。自分が残したランナーをリリーフが還してしまい不完全燃焼だったので、今回はリベンジに燃えていた。
「監督……昨日の会見への報復があるとすれば、あのゲイブが………」
外国人選手だが、チームへの愛着を度々口にしている。退場覚悟のビーンボールを躊躇わないだろう。
「やつの先発は以前から決まっていた。わざわざ今日のために用意したわけでもない」
先週からゲイブは木曜日に投げていて、つばめがビッグリーダーズを罵倒する前に予告先発は発表されている。
「それに……彼らは紳士のチームであり、球界の盟主だ。私のような小娘1人の発言にムキになるはずがないではないか。ふふっ………」
皆の考えすぎだとつばめは笑う……いや、笑っていたのは言葉だけで、目も表情も全く笑っていなかった。ビッグリーダーズが何かを仕掛けてくることはわかっていた。
「出る杭は打たれる……思い知らせてやるよ、正一つばめ」
筒香の穴をビシエドで補えるのでしょうか?開幕カードはヤクルトなので誰が出ても勝てますが、その後は阪神、巨人と早くも鬼門を迎えます。




