とびっきりの糞野郎がファンタジー入り-8
悪いことをしたとちゃんと認めて謝れるなんて、ヒロシにも俺にもできないというのに、(俺とヒロシは大体負けを認めたくなくて罪を重ね続けるタイプ)なんて偉い少女なんだ。
そう思ったらなんか可愛く見えてきた。いや、元々見た目は美少女なので、俺たちに対する牙がなくなった今、ただの美少女として扱っても良いのではないだろうか? セナだけ。
「いいよいいよぉ、お兄さんは心が広いから許してあげるよぉ。ほらお菓子食べるかい?」
「さっき言葉攻めで泣かせようとしてたくっさいお兄さんの熱い手の平返し」
ヒロシのさえずりを無視して、俺はポケットに入れっぱなしになっていたパチンコの景品のお菓子をセナの手元へとポンっとおく。考え通り、異世界のお菓子は珍しいのか、セナは目を輝かせてそのお菓子をパクついた。
「ところでぇセイジくぅーん? 今どんな気持ち? ねぇねぇ今どんな気持ちなのぉ? 俺の魂のランクがAで、君の魂のランクが明らかにEって判明した時の気持ち知りたいなぁ?」
そして始まるくっさいお兄さんその2のいやがらせ。
「トイレットペーパーが無くて凄い焦ったけど、頭上にストックがあった時みたいな気持ちかな」
「凄くわかりづらい」
「いや、だってお前のそれって未来わかるだけで別に戦闘で役に立つわけじゃないじゃん。未来を知ってしまった今、むしろパチンコ台持ってる俺の方が有利な状況じゃない?」
「さすがセイジ、気付いてほしくなかった部分を的確についてくる」
「まあそれより、そのAランクの宝具が本当に未来を示してるんだったらさ、なんとかしないとこの世界ゲームオーバーなんじゃねえの?」
確認するようにレイチェルの顔を覗き込むと、レイチェルはさっきまでのアホさが嘘かのような真剣な顔つきで頷いた。
「王都に行かないとまずいね。でも、元々私たちも王都に向かってる旅の途中でこの地域に立ち寄ってただけだから丁度良いタイミングだったかも、良かったら私たちと一緒に行かない?」
「そりゃ……連れてってくれるのはありがたいけど。いいのか、俺たちは何の役にも立たないぞ? 特にセイジなんて何もできないぞ?」
「やめて傷つく」
「うん。この世界の一大事がわかったとは言っても状況が変わるかもしれないし、その時に未来を予告する宝具が傍にあれば色々と安心だから。それに君たちもこの世界に来たばかりで何も知らないでしょ? 色々教えてあげるよ」
すがるもののない俺たちにとってこれは願ってもいない展開。
「とりあえずはこの世界での勝手がわかるな……第一段階はクリアってところか? この世界で何をすればいいのかは明確にはわかんないけどよ」
「ていうかさ、そもそも俺たちってどうやったら元の世界に帰れるの? ヒロシを倒したら帰れるとかそういうイベントないの?」
「なんだよセイジ、お前帰りたいのか?」
「いや、逆に聞くけどお前帰りたくないの?」
「だって異世界だぜ? 普通じゃ体験できないようなことがたくさんあるだろ? ほら、獣耳美少女とかもいるんだぜ? お前ってあれか? ホームシックになったりするタイプか? だっせぇな、もう来ちまったんだから仕方ねえじゃん。割り切ろうぜ?」
そう言いながらヒロシはセナを指差す。確かに今回出会った二人がちょっと変ではあるが美少女だったので、モチベはここに最初に来た時より上がっているには上がっているが――、
「はぁぁぁぁじゃあ聞くけどな⁉ ネットでしか粋がれない俺に何が出来るってんだ⁉ 俺の日課はなぁ! 陽の目が当たってるイケメン共のSNSに嫌がらせのコメントを送ってやる気を削いで、掲示板にやってもいない不正を本当にやっているかのように書き込んで評価を下げまくって、罵詈雑言を複アカ使って大量に書き込み、そいつらが関連してるネットショッピングの商品に★1をつけることなんだぞ!」
「クズすぎワロタ。今すぐこの世界から消えて欲しいレベル」
俺に何ができんの? って話ですわ。
「そんなことしてもお前に得なんてなかろうに、お前の評価が下がるだけだろ!」
「残念ながら俺は痛くも痒くもありまてぇぇぇん! ネットの盾最高! どれだけ叩こうが中傷しようが俺にダメージ一切ナッシング! だって顔も住所もわからないからぁ! くひひ最高! なんでこんなことするかって? 俺より活躍してる奴を叩けばいずれ俺に陽の目があたるかもしれないだろ⁉ あと単純に光属性的な人間が嫌いだからだよぶぁぁか! ばぶばぶばぶばぶ!」
「ここって幼稚園でしたっけ」
ここで一旦暴れ狂う気持ちを押さえつけて話に戻る。レイチェルとセナがさっきから「こいつら何言ってんだ?」みたいな顔で俺たちを見ているからだ。
「一応聞くけど、来訪者が元の世界に帰った事例ってないの?」
「あるらしいよ? 私は実際に見たことないから噂でしかないけど」
ダメ元で聞いてみたら、レイチェルからまさかの返答に俺は心を躍らせる。
「なんでも女神が認める活躍を収めた人は、新たな魂の宝具を手に入れるか、元の世界に帰るかを選ばせてくれるんだって」
「活躍? それってどれくらい頑張ればいいの?」
「さあ……私はわかんない」
つまりシズカちゃんのさじ加減なわけだが、少しだけこの世界から帰るための光明が見え始めた気がする。魔王を倒さなきゃ帰れないと思って諦めていたが、貢献するだけでも帰れるなら話は別だ。
「ということはヒロシの宝具に書かれてる最悪な未来を変えるだけでも帰れるかもな。難易度も低そうだし……あれでしょ? お姫様を連れ出せばいいだけでしょ? お城の兵士にボッコボコにされるかもしれないけど速攻で元の世界に帰ればこの世界でのお咎めもないし」
「まあ……簡単に行くとは思えないけどそうだな。少なくとも活躍が期待できる王都に行き先を絞るのは間違ってない」
話が纏まり、俺とヒロシはお互い頷き合うと。改めてレイチェルとセナによろしく頼んだ。
「あ、でも。勿論色々と手伝ってもらうよ? タダでご飯が食えるほど、この世界は甘くないからね!」
「わかってるよ……へへへ、でも、モンスターとか現れたらマジでお願いしますねレイチェルさん……その代わり足でもなんでもペロペロ舐めさせていただくんで……ふひひ! 肩だって揉んじゃいますよ!」
「お前さ、プライドとかないのかなセイジ君?」
「あぁ⁉ 助かるためならいくらでもやるわ! お前なぁ⁉ 俺がなぁ⁉ ヤンキーばっかの中学校時代、なんて呼ばれてたか知ってっか⁉」
「すりごま」
「よく知ってんじゃん」