とびっきりの糞野郎がファンタジー入り-9
それから俺たちは、このモンスターだらけの危険な平原を、レイチェルとセナに守られながら進み、二人の仲間が待っているという村へと向かう。
その道中で俺とヒロシは、少しでも生き残る可能性をあげるためにセナとレイチェルからこの世界のことを聞き出した。
とにかく俺とヒロシは最初に気になって仕方がなかった、セナのフワッフワの犬耳と尻尾について聞いてみたが、やっぱりそういう種族らしく、ビーストと呼ぶらしい。この世界にはどうも人間以外にも色んな知的生命種族がいるらしく、エルフ、ドワーフ、ドラゴン、マーメイドとか、なんかいそうな感じの異種族は大体いるらしい。総じて亜人と呼ぶ。
そして次にモンスターに関してだ。モンスターの中にもさっきのエキセントリックバードのように人間に近い見た目をしているのもいるらしいが、知性無く他者に襲い掛かる存在を総じてモンスターと呼ぶらしい。
「つまり、ヒロシも一歩間違えればモンスターだったというわけか」
「殺すぞ?」
魔族によって作り出されたと世間では言われているが、モンスターは魔族にも等しく襲いかかるため、実際のところどうなのかはわかっていないらしい。わかっているのは、倒すと魔力となって四散するため、誰かが魔法によって生み出したことだけらしい。
最後に、さっき俺たちがそれと疑われた魔族とこの世界の情勢に関してだ。
どうやら一年前と結構最近に魔界に通ずるゲートが開き、この世界を奪おうと進軍してきた連中らしく、既に多くの村や街が滅ぼされ、魔族の領地となってしまっているらしい。
元々魔界の存在は昔から知られていたらしく、百年前にも戦争があったらしいが、この世界にいた伝説の勇者が魔王を魔界へと押し返したらしい。しかし、魔王は更なる力を手にこの世界へと現れたらしく、人の力だけではどうしようもないと女神が対抗して俺たち来訪者を召喚しまくっているとのことだった。
来訪者は身体能力も魔法も何も使えない役立たずだが、魂はとんでもなく強いらしく宝具を作りだせるらしい。
そんなわけで、この世界の人たちにとって、来訪者とは希望そのものらしい。
だがここで冷静になって考えてみよう。来訪者とはつまり、凄いアイテムを持っているかもしれないただの一般人な訳だ。その凄いアイテムにどんな種類があるかは知らないけど、伝説の勇者でも最早手に負えないであろう化け物にパチンコ台でどうやって戦えと?
むしろ俺は魔王より女神様を倒したい。
「魔族に深い恨みがあるのか?」
その時、何やら深刻そうな顔つきでヒロシがレイチェルに問いかける。
「どうしてそう思ったの?」
「いや、さっき尋常なくらい魔族を嫌悪してたからさ、なんかあったのかなと思って」
「魔族に恨みがない人なんていないと思うけど……私とセナの場合は、故郷を……魔族率いる魔王軍に奪われちゃったから」
「そんなガンガン滅ぼされてるって……この世界の人間はそんなに弱いのか? あんたら見てると全然そうは思えないんだが? それとも魔族がとんでもなく強いとか?」
そこで、丁度俺も気になっていたところをヒロシがレイチェルに問いかける。
「ううん、魔族と私たちの力はそんなに大差ないよ。魔族の中にも魔王のようなとびっきり強いのもいれば、弱いのもいたりする……私たち人間と同じようにね。魔族よりモンスターの方が強い場合もあるし」
「じゃあ、あんたたちの故郷が滅んだのは不運だったってことか?」
「警備が薄い村でも魔王軍が大部隊で移動を開始していたらわかるはずだから、そう簡単に領地が奪われるようなことはないよ。私の故郷は……魔王軍が現れてから最初に狙って滅ぼそうとしてきた村だから……呆気なく皆、殺されちゃっただけ。突然の奇襲に対応出来なかったんだ」
おっとぉ? ヒロシ君がヘヴィーな話に手を出してしまった予感がするぞぉ? レイチェルの表情がどんどんと曇っていく。ヒロシ君? 自分から聞いといて俺に視線を送って助けを求めるのやめてくれる?
「私の故郷、百年前に魔王を倒した伝説の勇者の子孫が住む村だったんだ。魔王に対抗しうる危険性があるからって最初に狙われたの。それで……私だけが生き残っちゃったんだ。皆……私だけは生き延びろって」
「つまり、お前がその伝説の勇者の子孫ってわけね?」
「え、なんでわかったのセイジ⁉」
「いや、そこまでテンプレな話されたら誰でもわかるだろ。わざわざ生き残らせるくらいなんだからお前がそうとしか考えられないし」
唯一テンプレじゃない点があるとするなら、その伝説の勇者の子孫のおつむが中々に弱いということだろうか。しかし、その伝説の勇者の子孫に最初に出会えるとか、ライトノベルみたいな展開になってきて俺ちょっとワクワクしてきた。この世界に来た時は卑屈になっていたが、ちゃんと美少女にも会えたし、なんだかんだで今のところ何とかなってるの凄い。
まあ、今のところの話でしかないけど。
「セイジ、お前なんで相手の不幸な話を聞いてそんなあっけらかんとしてられんの? なんか思うところないの?」
「だって俺、自分の人生が糞すぎて他人の悲しい話を聞いても何も感じられないんだもの、今健康に生きてられるならそれでいいじゃない。あと、他人の不幸で飯食うの大好きだから。三度の飯より不幸が好き」
「クズ太郎君……」
俺は過去にはこだわらない。何故なら、それは他人の過去でしかないから。他人の過去をどうにかできるのは本人だけだと思ってます。なので糞みたいなイケメンが過去のトラウマを何とかしてくれるって夢を見ている少女諸君は早く夢から覚めてください。そんな現実ありません。
「悪いな二人とも、こいつは昔からこういう奴だからさ……気を悪くしないでくれ」
「ううんいいよ。むしろ変に気を使われる方が困るもん。もう一年も前のことだし」
「そういや……今は王都に向かってるみたいだが、故郷を滅ぼされたあとの一年間は何をやってたんだ?」
「伝説の勇者が魔王を倒した時のパーティーにビースト族の仲間が居たの……その一族が住む村と今でも交友関係があって、事情を知った族長の好意でずっとそこに匿ってもらってたんだ」
そこまで説明すると、レイチェルは暗い表情を見せる。
「でも……その村はもうない」
そして次にセナがそう呟くと、追うようにして暗い表情を見せた。




