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焔祭りと井上祭りとついでに姫

 夕暮れ時。既に前日の朝の段階から、当日の準備で活気溢れていた城下街は、現在、最高潮に賑わっていた。そう、今日は焔祭り当日。誰もが浮かれ、聖なる泉に住まう精霊がこの国を守り、繁栄をもたらしてくれることを祈る日だ。


 空はまだ明るいというのに、城下街は空に負けないくらいに明るく輝いていた。


 どうやら精霊の泉の光を模して、街の中も光で満たすのが催しらしい。


 とはいえ眩しくはなく、街の中は目に優しいオレンジ色の光で満たされている。


 俺たちの世界でいうところの、ハロウィンっぽい感じだ。


 そんな誰もがオシャレに着飾り、泉の精霊を模した装飾品で街が彩られる中、俺はパンツ一枚の糞デブと、筋肉質なペドと、全知全能の変態に囲まれていた。


 一言で死にたい。


 なんで折角のお祭りに、こんな気持ち悪い化け物共と過ごさなければならないのか?


 もしかしてこれハロウィン? これってハロウィンなの? それならこの状況に納得するけど、お菓子渡す前にいたずらされてる、誰か助けて。


「おい、セイジ。いつになったら動くんだ?」


「はぁ!? キレそう! この中で一番動いてこの状況から脱出したいと考えているのは俺だっていうのに、人の気持ちも知らないで! ヒロシは本当にクソ!」


「自分が発案したアイデアの結果なのになんで怒ってんのこいつ?」


 現在俺たちは、城への入口である貴族街の城門前にある、綺麗に整えられた庭園の茂みの中に隠れていた。お城は巨大な塀で囲われており、超えた先は堀で水が溜められているため、何らかの道具を使わない限りはこの城門を通らないと城の中には入れない。


 セナとレイチェルは脱出口の準備のため、この入口とは反対側にある塀の警備をしているのでこの場にはいない。ミナは俺たちとは居たくないという理由で、現在警備にあたっているセナにくっついて一緒にいる。


 本当は駄目なのだが、上官に「小さな子供が折角の焔祭りに一人で過ごすのはかわいそうだ」と特別に認められたのだという。上官いいやつじゃん、ヒロシにはぜひとも爪の垢を煎じて飲んでいただきたい。


「焔祭りの開催の合図である花火が夕暮れ時に打ちあがる。その時に貴族連中や、城のお偉い方も城内のパーティーで集まるらしいからな。警備もそこに集中する、そのタイミングを待つんだ」


 ペドウチの情報通りであるなら、確かにそのタイミングが絶好のタイミングだ。敵も、まさか成功を目前にして俺たちみたいな意味わからないのが出てくるとは思わないだろうからだ。


「でもよぉ……さすがになぁ」


 とはいえ、ヒロシが我慢できなくなる気持ちもわからなくもない。


 何故か今日に限ってペドウチが非番を勝ち取るというスーパーラッキーを果たしてしまったからだ。新人兵士の中で二人しか勝ち取れない特権を勝ち取るペドウチ。


 城内の案内はペドウチも知らないので任せられないが、一応兵士には兵士なので、城の中で万が一見つかった場合はなんとか誤魔化せるのではないかと連れてきたが、あれだ。むさくるしい。


 何が悲しくてこんな変態トリニティフォースたちと数時間も一緒にいなければならないのか。


「くっそ……なんでこんな変態トリニティフォースと数時間も一緒にいなきゃなんねえんだよ」


「は? モンスターとしてモンスター闘技大会に出た一番の変態に言われたくないんだけど?」


「ちょ! 僕は先輩に言われてここにいるんですよ! 酷くないッスか!」


「おい、トリニティフォースってなんだ? どういう意味だ?」


 不満が爆発して、少し騒がしくなった直後のことだった。


 うるさくなって城門前に立っている兵士が俺たちに気付きそうになった瞬間、まるで俺たちの都合に合わせてくれたかのように焔祭りの開催を知らせる花火が打ち上がる。


 その瞬間、俺たちは言い争いをピタリと止め、先行して用意してあった、ショウジンの滴がたっぷり入ったタルを俺とヒロシが担ぎ上げて城門前まで垂らしながら一気に駆ける。


「な……!? 誰だ!? 止まれ!」


 当然、突然現れた俺たちを警戒して、城門前に立っていた兵士たちは俺とヒロシに槍を向けるが、俺とヒロシは城門前でショウジンの滴を垂らし終えると、そのままターンしてその場を離れ、再び茂みの中へと隠れた。


 直後――


「井上祭り! はっじまっるよぉおおおおおおお~~!」


 そんな叫び声と共に、パンツ一枚の井上が、その太った身体を活かして勢いをつけてヌルヌルまみれになった床を腹で滑りながら、城門前の兵士の下へと突っ込んだ。


 ペンギンのように滑っているように見せかけて、井上の脂肪が滑るたびにぶるぶると震えているためスマートではなく、遠目から見たらとんでもないモンスターが接近しているようにも見えなくもない。


「な、何者だあぁぁぁ!?」


 当然、さっきいきなり現れた俺とヒロシの動揺も相まって、兵士たちは強張った表情で槍を滑ってくる井上へと向ける。


 すげえ光景だった。ファンタジーなお城の前で、ヌルヌルのローションまみれになったパンツ一枚の太った金髪の男が、本来のお祭りと全然関係ない祭りを宣言しながら、とんでもない勢いで滑ってくるのだから……もう、世界観ぶち怖しだよね。写真撮ってSNSに投稿したいレベル。


 なお、この井上祭りは、俺の母校である男子校でマジに行ったお祭りである。


 なんで行ったかというと、とあるゲームの罰ゲームとして、俺たちの所属する漫画部で行われたのだが、とにかく酷かった。俺たちがやらせといてなんだけど。


 井上祭りは、学校の屋上からグラウンドにかけて特設されたスライダーから、ローションまみれになった井上が滑りながら登場することで始まる。


「な、何者だ貴様! 何をしにきた!」


 ちなみに、学校の先生に無断で行ったため、死ぬほど怒られたのはいい思い出だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうこれマジで大好き [気になる点] とある作品では見れなくなった井上まつり。 子猫さんはやはりぶっとんでいらっしゃる(いい意味で) [一言] ローションとデブって組み合わせは至高ですよね…
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