誰だって、時の流れには抗えないっていう-8
「シズカちゃんどれだけこの世界に召喚したんだよ。この分だと俺たち以外にもいそうだよな」
「そうだとしても、今みたいな偶然がない限りは出会えないだろうけどな」
なんだかんだいって、顔見知りとの再会は俺もヒロシも嬉しかった。特に井上は、高校時代いつも一緒にいたと言っても過言ではないくらいに行動を共にしたからだ。
「ていうか……待ってくださいよ! この世界が滅ぶとかってマジな話なんですか!?」
「馬鹿、声でけえよ」
慌てて俺は井上の口を塞ぐ。
「マジだよ。俺の魂の宝具がこの世界の未来を予知したんだ」
「いや、セイジのじゃないけどね? 俺のだけどね?」
「うるせえ、お前のものは俺のものなんだよ」
そう言いながらヒロシは薄汚れた本を皮袋から取り出し、井上に手渡した。井上は信じられないのかマジマジと本の内容を読んだあと、「ほ、焔祭りってもうすぐじゃないッスか……やばくないッスか?」と焦りだす。
「ちなみに井上の魂の宝具はなんだったんだ?」
「僕のはこのペンですね」
「なんそれ?」
「このペンを握って紙の上に置くと、頭でイメージした絵を勝手に描いてくれるんですよ。白黒なのと、インクが一日かけて少しずつしか回復しないので、だいそれた絵は数日かけないと描けないですけど」
「なんかお前が持っていても微妙なアイテムだな」
俺とヒロシと違って、井上は漫画研究会の部員として真面目に活動していたため、絵がうまく、そんな宝具に頼らなくても充分に絵が描ける。どちらにしろ戦いにおいて役にたちそうもないので、恐らくDランクくらいの宝具だろう。
「そんなことないッスよ、僕、これのおかげで絵描きとしてなんとかここで暮らせてたんで」
「ああ、なるほどね。だから二カ月も一人で生き延びれたのか」
「ところでセイジ先輩はどんな魂の宝具をもらったんですか?」
「えっ?」
「いやだから、いったいどんな魂の宝具をもらったのかって……」
「えっ?」
「さっき見せてくれたのってヒロシ先輩のなんですよね? じゃあセイジ先輩のは……」
「何言ってるか全然わかんない。日本語ムズイ」
いつもならこの段階でヒロシが井上にバラしている頃だが、俺の魂の宝具がパチンコ台なことをかなり憐れんでくれているのか、何も言わないでくれていた。
それが逆にムカつく。いっそ罵ってほしい。
「とにかく、二人はこの世界のために、この……美人さんと、可愛らしいお嬢さん方と、この強そうで頼りになりそうなお方と一緒に王都にやってきたわけッスね?」
「いやぁ~……美人だなんて、照れるなぁ」
井上に褒められて、嬉しそうに頭に手を当てながら、うねうねと気持ち悪い動きをし始めるレイチェルさん。
「…………始めて可愛いって言われた」
「ふむ……貴族のおっさん共によく見られるだらしない身体をしておるが、見る眼はあるようじゃのう。さすがセイジの……後……輩? とやらじゃ!」
レイチェルだけでなく、あまり感情を表に出さないセナも少し頬を緩め、ミナも当然と主張するように踏ん反り返って鼻息を荒くする。
「ふ……弱い奴を守るのは当然だ。いつでも頼ってくれていいぞ」
そしてサトウチまでもが上機嫌になってしまう。お前らチョロすぎでは?
「それで、なんか具体的に解決するための案とか既にあるんですか?」
「それがないからここでグダグダしてんだよ。井上の魂の宝具がもっと役にたつアイテムだったらなぁ……」
「そういう先輩のはどんな宝具なんですか」
「全然何言ってるかわからない。うんこという単語しか言葉わかんない」
「それはさすがに草」
とにかく話が進まないため、姫様を救い出すのは城の警備が手薄になっている焔祭りがチャンスということと、どうやって城内にいる兵士たちの目を盗んで姫様の下に辿り着くかで悩んでいることを井上に説明する。
「やはりパンツレスリングをするしかないのか……」
「どうしてそんな結論にいきついたのか、むしろそっちの経緯の方が気になるんスけど」
別にパンツレスリングじゃなくても注目を集め、且つ暫くの間、足止めさせられるのならなんでもよかった。
だが、俺にはパンツレスリング以上のイベントを考えられない。
いざという時は兵士も巻き込むことで足止めだってできるし、突然パンツ一枚で男たちが激しくぶつかり合う様は意味不明すぎて注目を集めること間違いなしだからだ。
「他に案がなければ、このままサトウチとヒロシと井上のパンツレスリングで決定なわけだが」
「なんで僕もやることになってるんスか!?」
「そうだぜ、井上はともかくなんで俺がやらなきゃならねえんだ? 発案者のセイジがやれ」
「は? この前モンスターとしてモンスターと激しくぶつかりあってきたばかりだろ? お前がやらなくて誰がやるんだよ」




