誰だって、時の流れには抗えないっていう-3
「俺たちはやってない……! 俺たちはやってないんだぁぁぁぁぁ……………」
数分後、ヤンキー共はお城の兵士によって連行された。優しい俺は、「だ、大丈夫です……軽くやられただけなので、どうかご容赦を」と伝えておいたので、きっと一日もあったら解放されるだろう。復讐にきた時は、幼女力を補給し終えたペドウチ先輩に頑張ってもらおうと思う。
街の人たちが俺の体調を心配してくれていたが、仲間に見てもらうと告げてさっさと兵士を募集している修練場へと向かった。
しかしさすが王都、色んな種族で溢れている。そしてこの国の人間が他の種族にどういった扱いをしているのかが、歩いているだけでわかった。
身体が小さく、少し肌黒い筋肉の塊みたいな奴ら、ドワーフは一応人間と変わらない扱いを受けているようだ。街中では他の人間に混じって楽しそうに会話しているし、武器や防具を取り扱う店に結構多い。
次に耳が尖っていて色白な以外は人間と見た目は変わらないが、基本的に美形ばっかのエルフ。ドワーフに比べると人口は少なく、多くが奴隷として扱われているらしい。
もちろん奴隷として扱われていないエルフの冒険者や、店員もいるが、セナが言うに、そういったエルフは生まれた時から魔力の保有量が多いから優遇されてきた……所謂、人間にとっての貴族みたいな連中らしい。
よくわからんが、エルフの社会事情は色々と難しいようだ。体力も腕力も人間よりも遥かに低いため、魔力の保有量の少ないエルフは奴隷としての価値しかないとかで、奴隷として売られることが多いようだ。
美形が多いため、慰みものとしても利用でき、魔力が少ないと言っても人間に比べると遥かに多いため、簡単な魔法を覚えさせて家事全般をやらせたりできるので高値がつくとか……まあ、とにかくレイチェルたちにとっては気分のよろしいものではないだろう。
とにかくエルフはメイド服と執事を着ている連中が多い。そして美形が多い。ここだけ覚えておけばいい。
次に竜族だ。艶めいた角と尻尾を生やしていて、ちょっと人間離れしている。一応見た目はギリギリ人間っぽいのだが、身体中に鱗っぽい痣があったり、目が爬虫類特有の瞳になっていたりと若干怖い。身長も高く、その気になれば炎も噴き出せるとか。
さらに見た目とは裏腹に知力も高く、あの成りで学者になっている者もたくさんいるらしい。とにかく、種族としては一番強い力を持っているとのことだ。
奴隷として扱われている竜族もいるにはいるらしいが非常に少ないとのこと。余程の借金を背負ったり、訳ありじゃないとその立場に落ちたりしないらしい。
次にお馴染みの獣人だ。こちらは奴隷として扱われている者もいれば、普通に一般人として暮らしている者もたくさんいた。既に仲間に二人の獣人がいるので、説明はいらないだろう。
とまあこんな感じに他にも色々と種族はいた。中でも一番多かったのがこの5種族だ。お城の兵士になるのであれば、いずれどっかで関わりがあるだろうから、今のうちに理解を深めておかないといけない。
ちなみに、一番奴隷として多いのは人間というオチ。そして、俺がどうしてさっきからこんなに奴隷のことを一々掘り下げてくるのかというと――、
「卑しい貧民の臭いにおいがしますわぁ~」
「あら……本当ね。どうりでさっきから臭うと思いましたわ」
その奴隷制度を喜んで利用しているだろう連中がのさばる、貴族街へと足を踏み入れているからである。
兵士の修練場はお城にあるため、嫌でもこの貴族街を通らなければいけないらしく、現在俺たちは仕方なくここを通っているのだが、さっきから上流階級のババア共が嫌味を言い放ってくるのだ。
お前らのために戦う兵士になりに行こうとしているのにこの始末。
よく皆はこんな奴らのために兵士になろうと思えるなって考えていたが、レイチェルが言うに、兵士になれば貴族ほどではないが、王国を支える一人の兵士として最低限の権限が与えられるうえ、武勲に応じては貴族以上の権限も手に入れられるため、皆なりふり構わず兵士になりたいらしい。
そして貴族たちも、下民が貴族以上、もしくは貴族に近しい権限を与えられるのが気に入らないからかこうして嫌がらせをしてくるらしい。
こういうやつらを見ていると世の中って難しいなーって本当に思う。
貴族の連中のほとんどがばっちりと奴隷を従えてるし。……ていうか、魔王軍と戦う戦力は欲しいけど、戦力として志願してきた奴らはしっかり自分の下に置いて虐げたいって精神がよくわからん。
こういう連中の奴隷になった奴らはかわいそうだなって心底思う。
奴隷でも、城下町で店を開いている人たちの奴隷となって働いていた連中は活き活きとしていたのに、ここで奴隷になっている奴らはもれなく目が死んでいるのでどんなひどい目にあってるのかすぐわかる。
「まったく……早く出て行ってくれないかしら。そんな汚らしい身なりで栄誉ある我が国の兵士になろうなんて……おこがましい」
「本当よね……獣人なんか連れて。あの弓を持った女もそう。あんなのに守ってもらって、でかい顔されたらなんて想像しただけで…………腹立たしい」
「まあでも大丈夫でしょう。見たところ全員戦えるとは思えない身体をしていますし、そこにいる二人の殿方も、わたくしの奴隷が少し触れただけで骨が折れてしまいそう……兵士になんてなれっこありませんわ」
残念だが、ここにいる女どもは全員美少女の殻を被ったゴリラだ。気をつけろ。
俺たち二人はマジでその通りすぎて何も言えないけど。
「ねえセイジ! わたし臭い⁉ ねぇねぇ私臭い⁉ ちょっと嗅いでみて、ほら! ねえ! どうしてこっち向いてくれないの⁉ やっぱり臭いの⁉」
そしてレイチェルは言葉を真に受けてめちゃくちゃショックを受けていた。とてもじゃないが、俺には公衆の面前で、美少女の身体の匂いを嗅ぐような変態プレイはしたくない。
「大丈夫、レイチェルは…………臭くない。臭いのは貴族連中」
「うぬ! 香水の臭いがきつすぎじゃ! ワシたちは人間と違って鼻が利くからのぉ、鼻が曲がってしまいそうじゃ!」
しかし、セナとミナの姉妹は平然としていた。元々貴族を良く思っていないのか、毅然とした態度で逆に貴族連中を睨み返してギリギリ聞こえるような声量で言い返している。やるじゃない……中々の煽りっぷりだ。
「ふふ……香水がどうして香水と呼ばれているかもわからない下民のようね。この香りが理解できないなんて……その時点で育ちがわかるわ」
「少なくとも、汗の染み込んだドブ臭い悪臭を放つ香りより、遥かにマシだと思いますけど?」
しかし、向こうもそんな言葉は言われ慣れているのか、変わらず毅然とした態度でいやらしい視線をこちらに向けながらクスクスと笑っている。
なるほど、中々のメンタルをお持ちのようだ。どうしても上の立場として人を見下し、優越感に浸りたいからか、それなりに人の煽り方も熟知している。だがしかし――、
「やれやれその程度で煽ってるつもりなんだから困る。貴族様ってのは、上品すぎて人の煽り方も知らないんだなぁ? まぁ貴族だから仕方がないかぁ? 所詮貴族だからなぁ? その程度じゃぁ普段からヒロシにくっさいくっさい言われてる俺には効かないんだよなぁ?」
「な、なんですって?」
「俺をキレさせようと思うのなら、『あぁぁぁぁぁあくちゃいくちゃい! なんだこの臭いはぁ? なんだか臭うなぁ? どこから発信されてる臭いのなのかなぁ⁉ くんくんくんくん? ここだぁぁぁぁああ!』くらい言ってもらわないと」




