きったない大人が成り上がる、この世界で-7
「っち……失敗のようじゃな……うひょひょ!」
舌打ちをしながらもどこか嬉しそうなババア。
「てめえ! 俺のヒロシになにしやがる!」
「お主が飲ませたんじゃろうが!」
ヒロシに飲ませて良かったという安堵で微笑を浮かべながら、俺はヒロシをこんな姿に変えたババアに怒りをぶつけた。
あー……良かった。
ヒロシに飲ませといて良かったと、その選択をとった過去の俺を褒めちぎってやりたい。隣で解放されたミナがギャーギャー言ってるが、まずは俺が無事だったことを祝いたい。
「で、これ元に戻るの?」
「さっきも言ったが効果は一日まで……心配せんでもちゃんと元に戻るから安心せい……うひょひょ! 見当違いの効果が出てしまったがな……後遺症も残らんはずじゃ、そこは確実じゃから安心してよい」
「そうか、じゃあ約束通りここのメモにある道具とか用意してもらえる?」
「おっひょっひょ! こんなので良いのか? 身体を張ってもらった礼としてこれならお安い御用じゃ!」
「どうしてそんな冷静なのじゃ⁉ ヒロシが! ヒロシがとんでもないことになっておるぞ⁉」
ミナが暴れ狂うヒロシを心配そうに見つめながら俺の服を引っ張ってキャンキャン吠える。
「確かに、この状態のヒロシを連れて帰るの大変だな。一日って結構長いしな」
「そこ⁉ 薄情者かお主⁉ ヒロシはセイジのせいでこうなっておるのじゃぞ!」
しかし、一日経たなければ元に戻らないと言われている以上、ここで心配そうにしたところで結果が変わるわけじゃない。
心象的な問題など、くそくらえだ。
結果が全て。俺がここで優しく接したところでヒロシに変化があるわけでもない。
「ヒロシさん、ちょっと静かにしてもらえませんかね? 近所迷惑なんですけど。ほら、他の店の人たちも冷たい目で見てるし」
「冷たすぎかお主⁉ ていうかお主のせいじゃろ! ……って、あれ?」
その時、意外なことが起きた。さっきまでエキセントリックバード並みに暴れ狂っていたヒロシが、突然ピタっと動きを止めて静かになったのだ。
あまりにも突然の変化に俺とミナは戸惑い顔を見合わせる。
「急におとなしくなったんだけど……どうしたのこの人」
「ほほぉ……興味深い反応をしてくれる。もしかしたらもしかするのぉ……ふぇふぇ!」
「どういうことだババア」
「ババアではない……カトリーヌじゃ。試しにお主、そのヒロシとやらに命令してみるがよい……うひょ、うひょ、うひょひょひょひょひょ! 恐らくいうことを聞くじゃろう」
こんな怪しいババアの名前がカトリーヌというちょっとかわいい感じなのが解せなかったが、とりあえず俺は、ヒロシに今すぐパンツ一丁になるように命令を下す。
「なんでわざわざ服を脱がせるんじゃ!」
「うるせぇ! こっちだってな⁉ ヒロシのパンツ一丁姿なんて見たくないわ! 俺だってこんなことになって心が痛い……だから普段通りのヒロシを想定して命令を下すことが俺に出来る精一杯なんだよ! でも、普段のヒロシを想定するとこの命令しか思いつかなかったんだ!」
「普段のヒロシをどんな風に見ておるんじゃお主⁉」
ババアの目論見通り、ヒロシは俺の命令を素直に聞きいれてパンツ一丁の姿になる。この野郎……かっこつけてボクサーパンツなんてはきやがって。
目が逝ってて涎垂らしてるし、こんなのと友達のやつの気が知れない。
「……ヒロシとやら、今度は服を着てみるがよい」
折角脱がしたのにまた着替えさせるとか何考えてるんだこのババア? とか考えていたが、ヒロシは反応を示さなかった。
「やはりか……どうやら超人薬を作ったつもりが、面白い薬ができあがったようじゃ! 飲ませた相手に服従する薬……素晴らしい! よほどの精神力がなければこの薬の力には抗えぬじゃろう! 予想外の効果は出たが恐らく……肉体も予定通り超人化しておるはずじゃ!」
「す、すげぇ!」
試しに、ヒロシに俺を片手で持ち上げるように命令すると、ヒロシは奇怪な鳴き声をあげながらも軽々と俺を片手で持ち上げてしまう。すごい、なんてすごい薬なんだ。
正直、他人の手に渡ったらめちゃくちゃヤバイ薬だけど、これがあれば、いざって時にヒロシを戦闘マシーンにして難を逃れられる。
「ババア……いや、カトリーヌとか言ったっけ? そのメモ帳に書いてある道具なんだけど明日でいいから闘技場にまで持ってきてくれないかな? 多分入り口にいるから、ついでにヒロシに与えた薬の量産品も頼む」
「ほぉ? 明日か? 良いぞ良いぞ、与えた薬の経過を見るためにも、明日であればあたしの都合的にも良いからねぇ……うっひょ、うっひょっひょ!」
「よーし……そうと決まれば行くぞミナ、ヒロシ」
「い、行くってどこにじゃ⁉」
「闘技場」
満足顔のババアをその場に置いて、俺はミナとヒロシを連れてまっ直ぐに闘技場へと向かう。
ババアが約束を破って来ないという心配はしなかった。ああいう研究馬鹿は、ちゃんと結果を調べきるまでは嫌でもへばりついてくるものだと勝手に思っているからだ。
そして、再び来た道を戻り、俺たちは闘技場へと戻る。
相変わらず賑やかに闘技場の宣伝をしているサーカス団みたいな服を着た男性の横を素通りし、俺はそのまま闘技場のエントリー受付場へと移動した。
「闘技場にエントリーしたいんだけど」
そしていつも通りの悪い顔を浮かべながら自身満々に、受付のカウンターに頬杖をつきながら、俺は堂々とエントリーを宣言する。
「え……えっと?」
受付のおとなしそうな女性は、困り果てた顔を浮かべていた。
隣にいるミナに至っては無言のまま目を見開いて「マジか……こいつ」とでも言いたげな顔を浮かべている。
「あの……すみません、モンスターがいないとエントリーできませんが?」
「いやいやいや、ここにいるじゃない」
そう言いながら俺は、逝った目をして涎を垂らすヒロシを指さす。
「どっからどーみても、エキセントリックバードの希少種だろうが」
「ええー……?」
困った顔を浮かべながらも、受付嬢は確かめるためにヒロシをマジマジと見つめ始める。
ブーメランパンツに見えなくもない、喰い込んだ黒いボクサーパンツ一丁、逝ってしまった目で涎を垂らす様。度々鳴き声のように発する意味不明な言葉。そう、そこにいたのはどっからどー見てもエキセントリックバードだった。
名をヒロシという。
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この小説と全く関係ないですが、良ければ頭の片隅にでもこの情報が残っていただければ幸いです!




