きったない大人が成り上がる、この世界で-6
今にも何か事件を起こしそうなくらい醜悪な顔で涎を垂らしながら、怪しい薬をちらつかせている。すごい、こんなあからさまなの初めてみた。さすがファンタジーなんでもありかよ。
「何かなー?」
そしてそんなヤバイ相手に満面の笑みを浮かべる俺。
隣で少し怯えているミナが「マジかお主」と、普通にコンタクトをとったことに引いていたが、俺は何も気にしない。元の世界でヤンキーみたいな奴が怪しい薬をちらつかせてたら全力で逃げるが、相手はババア……軽くあしらってやるぜ。
「とっても……とぉーっても美味しい、パワーアップの薬はいらんかえ?」
「パワーアップの薬?」
「あたしゃぁねぇ……こんな見た目だけど、秘薬を追い求めて研究を続ける薬師さ。新しい薬が出来あがってね……? たったの一日だけだけど、超人的な力が手に入る。これを試してくれる健康で若い……お兄さんみたいな人を探してたんだよ…………うひょ、うひょひょー⁉」
す、すげぇ! 何言ってるか全然わからねえ! 誰が好き好んでそんな怪しい薬の実験体になるのか、心当たりを想像で探しても全く見つからない。
「大丈夫……大丈夫! 死ぬようなヤバイものは入ってないから大丈夫……! 命の安全は保障済み! 一口飲むだけで超人気分を……味わえる最高の薬さぁ!」
「誰がそんな危険な薬好き好んで飲むかよ。実験体になるやつの気がしれないね」
「そう言わずに……! 他に欲しい薬があれば……あげるからさぁ……うっひうひうっひ!」
言われて俺は思考する。仮にこの薬が本物だった場合、このモンスターだらけの異世界で俺もなんとか戦えるようになるのではないだろうか? 効果は一日だけということだから、いざという時はこの薬を飲めばなんとかなる可能性もある。
何が起きるかわからないファンタジー世界だ。謎の力には謎の力に対抗するという意味では、このババアの薬に賭けてみるのも悪くはないかもしれない。
「ババア……飲めば他の薬をくれるってことは、この薬のおかわりもあるってことか?」
その問いに、ババアは頷いて答える。
「お、おいセイジ! まさか本気で飲むわけじゃなかろうな⁉」
ミナが薬を受け取って飲もうとする俺を、引いた顔をしながら止めてくる。
渡されたガラスの瓶に入っていた薬は薄いオレンジ色で、思っていたより怪しい雰囲気はなかった。こんな薬を飲んだだけで……本当に超人になれるのだろうか?
……めちゃくちゃ怪しい。いざ手元にして正直びびりまくっている。
「……命の保証は……されてるんだよな?」
「勿論じゃ……毒は入っておらんよ。後遺症も残らんように魔術の術式を施して配合してある……何が起きても、効果は必ず一日だけ……嬉しいのぉ! お兄さんみたいな若い男が実験体になってくれるなんて……ふひょ、ふひょひょ!」
魔術の術式ってなんだ……⁉ もしかしてこの世界、薬にも魔法を施せるのか?
それって魔力の一切ない俺が飲んでも本当に大丈夫なのか? いや、怖いならやめろって話だが……いざという時、この薬が俺の命を守ってくれるかもしれないし……いやしかし。
「さあさあグイッと! 飲みやすいように……フルーツを絞ってあるから……な?」
「や、やめるのじゃセイジ! そんなものに頼らずともレイチェルと姉上が守ってくれる!」
残念ながら、いつまでもあの二人が傍に居て守ってくれるとは思っていない。いざ、というタイミングは必ず来ると俺は思っている。その、いざ、に対応できないようではこの世界で絶対に生き残れない。
しかし、怖い。臭い嗅いでみたが、マジでフルーツの甘い香りしかしなくて尚怖い。もし、このババアが嘘をついていたらと考えると……くそ、なんてアドベンチャーだ。
「お、二人とも……こんなところで何やってるんだ?」
「おっとぉ? イケてる人間であることをアピールするかのようなこの自信たっぷりな声は」
飲もうとしたその刹那、突如、呼びかけられて俺は薬を飲む手を止めて振り返る。
すると、そこにはウキウキと浮足立った様子のヒロシの姿があった。
「なんでお前ここにいんの? 宿とって休んでたんじゃねえのかよ?」
「いや……宿とったあとさ、この街のことをサトウチから色々聞いて……見て回りたくなってな。闇市……ブラックマーケットだぜ? それもファンタジー世界のだ! 見ないと損だろ」
「俺に買い物を押し付けた意味0な件」
こいつはいつもそうだ。俺に何かを押し付けたと思ったら、コロコロと考えを変えて台無しにする。気分屋なのはいいが、フォローする立場の人間のことも考えてあげて欲しいんです。
「ま、でも……こんなファンタジー世界の大都市だ。気分を変えて見て回りたくなる気持ちはわからなくはない。俺がこうしてここにいるのも、お前と同じく見て回りたいって気持ちからだからな」
だが俺は、寛大な心でそれを許す。
「これ飲んでみろよ。すっげぇ美味いぜ? 俺が見つけたこの世界の名産品だ」
「ん? 何だこれ?」
「ジュース」
「え? なんかすげー飲み物らしくない瓶に入ってるけど?」
「ジュース。フルーツ系」
ヒロシは疑惑の目を俺に向けながら、ババアの怪しい薬を片手に持ってクンクンと臭いを嗅ぐ。
「確かに……甘い香りするな」
「だろ? 俺もミナもさっき飲んだんだけど、超美味かった。ババーアっていう飲み物らしいぜ」
「バ……バア? 変な名称だな、ファンタジーだしそんなもんか? ところでさっきから気になってたんだけど、そこにいるおばさん誰?」
「この人はあれだよ。闇市に詳しいおばさん。ここのことをこの人に詳しく教えてもらってたんだ。すっげぇーいい人でさ、何から何まで全部親切に教えてくれんの」
俺が相槌を促すと、ババアは「その通りじゃよ、うひょひょ!」と口裏を合わせてくれた。正直実験体になってくれるなら誰でもいいのだろう。
「ミナは? さっきからなんか言いたそうだけど?」
「こいつさっき汚物みたいな食い物たべてな? もう息がくっさいからこうやって俺が手で口を塞いでんの。ほら、周囲に迷惑じゃん? 悪臭まき散らされたらさ? でもこいつ聞き分けないから俺が手で抑えてやってんの」
ミナがさっきから本当のことをヒロシに教えようとしているがそうはいかない。なんとかミナの口を手で抑えて喋らせないようにしているが……そろそろ限界だ。こいつ、振り解こうとする力強すぎ。もう耐えれない。
「ていうか、飲むならさっさと飲めよ。瓶を持ち歩きながら移動するのも邪魔だろ?」
「あ、ああ……そうだな」
ヒロシは怪しさ満点の俺に、当然すぎる疑惑の視線を向けるが、渡された飲み物は大丈夫だと思ったのか、一気にグイッと口元へと運び、薬を飲みほした。
「うぼろおろろろろうぎょぎょぎょぎょぎょ! 覇者⁉ はしゃはしゃはしゃ⁉」
結果、ヒロシは理性を無くして獣のように発狂し始めた。




