きったない大人が成り上がる、この世界で-5
しかし、最初は全然乗り気ではなかったが、意外にも俺の元いた世界には絶対にない面白いもので溢れてる。
実は人間じゃない他の種族が入り混じっていたり、元の世界には絶対ないであろう魔法関係の道具が置いてあったり、もふもふの動物が売っていたりと、歩いてるだけでも勝手に目移りしてしまっていた。
認めたくはないが、ヒロシがこの前、街を歩くことを誘ってきたとき、もうちょっと耳を傾けるべきだったかと後悔している。さっきの闇市といい、気になって仕方がない。
体力は限界に近いが、ワクワクしてる時ってなんでか知らないけど疲れを忘れて遊んでしまう。子供心を忘れていないピュアな俺。
「ところでさ、買い物なんだけど……セナと俺とで手分けして買わないか? 食料品は俺が担当するからさ、旅に必要な道具とかは任せたいんだ。ぶっちゃけ薬草とかこの世界にしかないものの知識とかないからさ。お金足りないなら渡しておくから」
なのでまず、異常に闇市を嫌ってるこいつらから離れる必要がある。
「でも……私より、セイジの方がしっかりしてるし確実。だから……サトウチもお金渡した」
「いやいや、俺は確かにしっかりしてるが、セナもしっかりものだと思うぞ? 頼れるっていうか……さすがお姉ちゃんっていうか。何か頼み事があるとしたら、まずセナに頼るくらい、セナはしっかりしてると俺は思ってるぜ?」
自分でも引くくらいよいしょしてセナを褒め称える俺。正直、小動物の皮を被った脳筋ゴリラとしか思っていないが、ここはおだててセナのご機嫌をとっておく。
レイチェルが自分に指を差しながらやたらと俺を見てくるが、気にせず財布から道具を買えるくらいの金額を取り出してセナへと渡した。多分、大きい銀貨五枚くらいあれば大丈夫だろう。
「任せて……行ってくる」
そしてすっかりとやる気になったセナ。
「ねえねえセイジ? 私には何かないの?」
無論、レイチェルとミナにもついて行ってもらわないと困るため、俺はレイチェルの肩をガッと掴んで、これでもかってくらい優しい笑みを浮かべる。
「レイチェル……俺はお前にも一目置いている。お前のサポート力は世界一だ。戦闘中だってそうだ……セナも、レイチェルがいつも弓でサポートしてくれているから安心していられる。つまり、お前がいることでセナの買い物は完璧になるわけだ。わかるな?」
「な、なるほど! そういうことだったのね⁉」
何がなるほどなのか全くわからないし、自分でも何を言っているのかよくわからなかったが、レイチェルはやる気になってくれたようで、ガッツポーズを見せつけてくれた。
「そしてミナ……お前の声援があるから二人はいつも頑張れる。わかるな?」
「……なるほどのぉ」
二人に置いてけぼりにされたくないのだろう、曖昧な返事だったが、ミナははにかんだ笑顔を浮かべた。
完璧だ……これで、俺は一人で買い物を楽しむことができる。あのヤバイ感じのブラックマーケットにも入り浸れるというわけだ。
そして、ベタ褒めされてご機嫌になったレイチェルとセナとミナの三人を見送ったあと、さっそく来た道を戻って闇市へと向かう俺。
「で、どこ行くのじゃ?」
「なんでいるの?」
「元々ワシはセイジと買い物がしたくて来ているのじゃぞ? 姉上たちと行くわけがなかろう?」
じゃあさっき見送ったのなんだったんだよ。フェイント? フェイントか? 喜ばせておいてそれを後で踏みにじるDQNがよくやる遊びかおい? ゆ、許せねえ! 俺の正義がこいつを許しちゃいけねえって叫んでやがる。
「ふふん……慌てるでないわ。どうせあれじゃろ? 闇市に行こうとしておったのじゃろ?」
「な、なんでそれを⁉」
「かっかっか! たわけが! ワシに見抜けんと思ったか? さっきあれだけ疲れた顔で帰りたがってた男が、このタイミングで急に分かれて一人で行動しようとか怪しすぎるじゃろ? 闇市をさっき興味津々に見つめておったしのぉ?」
このクソガキ……よく見てやがる。ちょっと言葉でおだてただけで喜んじゃう姉とは大違いの頭の回転速度じゃないか。くそ、見誤っていた。
「というわけでワシも行くぞ!」
しかし予想外の言葉が飛び出し、俺は目を丸くする。
「え? お前が?」
「ワシも闇市とやらを見ておきたかったのじゃ、行ったことがないからのぉ」
「でもお前ってあれじゃないの? そういうところに行く人を嫌悪するタイプじゃないの?」
「確かに奴隷はよろしくないが、見に行くくらい別によかろう? 奴隷以外にも見るべきものはたくさんあるじゃろうし……見ること自体に罪はないはずじゃ」
「お前……もしかして、ただただ失礼なだけのガキで、クソガキじゃないのでは?」
「その発言が一番失礼じゃないかの?」
意外にもミナが、めちゃくちゃ物分かりが良くて驚いている。いや、よく考えれば悪いと感じたらちゃんと反省することもできるし、第一印象が悪かっただけでそんなにクソガキじゃないのかもしれない。むしろ、俺と同じ素質がありそうだ。
「一応、変な奴がいるかもしれないから、俺から離れるなよ?」
「ワシとセイジじゃと……多分ワシの方が強いけどな。これでも一応獣人じゃし」
「じゃあ守ってください。おなしゃす!」
「お主、プライドとかないのか?」
とにかく、レイチェルとセナという枷をなくした俺たちは、意気揚々と闇市へと向かう。
闇市は最高だった。何が最高って、まず人が少ない、暗い、ジメジメしている。この時点でもう最高なのだが、露店で売っている商品がもう怪しさ満点なところだ。
売ってる人もローブに身を覆った変な人ばかりで、売ってる物も変という、俺の中二心をくすぐる凄い路地裏だった。
「のうのうセイジ、これは何かの?」
「この世界の住人じゃない俺にわかるわけないだろ」
この世界で暮らしているミナでさえわからない品々。そして、ろくに商品の説明もしない売り子。……たまらない。
恐らく、あまりにも危険でよろしくない品が多いため、わかる人だけ買えばよいというスタンスなのだろう。そういうプロ御用達なスタンスは嫌いじゃない。この商品が何か? と聞いても答えない店員もいるくらいだから俺の考えは恐らく間違っていないだろう。
俺は買い物を楽しみに来ているわけじゃなく、雰囲気を楽しみに来ているだけなのでたまらん。
「なあなあ、これはなんなのじゃ?」
「………………ふん」
「な、なんじゃその態度は!」
ちなみにミナは売り子の不愛想な態度にさっきからご機嫌斜めの様子。
売り子も売り子で、「こんなガキ連れてくるんじゃねえよ」という視線を俺にぶつけてくるので非常に辛い。
「そこのお兄さん……そこのお兄さん……うっひっひっひ! うっひょうっひょっひ!」
そんな時だ。この空間に似つかわしすぎる怪しいババアが現れたのは。




