攻防その後
メジーナ博士の魔法論かくかくしかじか
承章5 エルフの里の攻防⑧
エルフの里で神システムに触れた異世界転生者にして勇者の八神直哉です。
飛空挺クレイモアで軽く朝食を取ってからメジーナ博士に合流する。
メジーナ博士は早くから宿泊施設のメメアを起動すべく、チェックと部品交換、魔法陣の更新をしていた。
はっきり言って僕の手伝えることが無い。
少し待っていれば話が出来ると言うのでメジーナ博士が動き回っているのを眺める事にした。
電子機器については詳しくは無いので良く分からなかったが“メメア“のインターフェイスのハードユニットの交換をしているらしい。
日本の現代技術ではコネクタによって接続されるべきところが魔法技術ではミスリル銀線、金線を裸で直付けするようだ。
通常配線と言ったらゴムなどで絶縁されるべきなのだろうがお構い無しに、あちらからこちら、ここからそこへと魔法を使って繋いで行く。
基盤とでも言うべきものが無く、金属の板をどんどん貼り合わせていく。
時々魔法陣を展開して入力のチェックをしているようだが出力の正常を示す魔法陣が見えたりする。
日本の現代技術と魔法技術の融合はとても不思議な物体を組み上げたみたいである。
メジーナ博士に後で訊いてみよう。
そうこうする内に作業が終わったようで、メジーナ博士がやって来た。
「ふう、お待たせナオヤ君。」
「いやいや、なかなか面白い見物だったよ。現代技術と随分勝手が違うようだね。」と僕が言うとメジーナ博士は
「ナオヤ君がどこまで気付いているか分からないけど、質問しても良いかな?」
メジーナ博士が何を言いたいのか分からなかったが、興味があったので了承する。
「ミスリル銀線、金線は普通の銅線やニクロム線などと同じように伝導物質だ。でも、この魔法技術世界では流れているものが違う。何だか分かるかね?」
地球世界では電子が流れていたが、ここ魔法技術世界のガライヤでは魔素だろう。そう伝えるとゆっくりと首をメジーナ博士は横に振った。
「正しくは電子に代わる魔素と霊素のクラスターだよ。
電子顕微鏡に代わる魔素顕微鏡を開発して研究しないとはっきりした事は言えないが、現象から推測してこの世界にいわゆる電子は無い。」
とてもショッキングな事をメジーナ博士は言い出した。
「更に言えば陽子や中性子、あらゆる素粒子が偽物だ。」
どういう事なのか皆目見当も付かなくなってしまったのでメジーナ博士を問いつめてしまった。
メジーナ博士は
「少し話が長くなりそうだから談話室まで行ってから続きを話そう」と言って休憩を兼ねて飛空挺クレイモアに戻って来た。
飲み物を手に柔らかそうなソファーに座り、リラックスしてメジーナ博士は話始めた。
「その昔ババロンの空中都市を作る前、物理学研究員の皆と話し合った事があるんだ。
そもそも魔法とはなんぞやってね。
意志が現象を起こす力を魔法とこの世界の人々は呼んでいた。霊的な力が起こす力は霊力と区別していた。
物理現象を引き起こすには意志が物質に干渉する為の中間的な素粒子が必要だろうと考えた。
それが魔素と霊素だ。
ここまでは良いね。」
勿論、異論は無い。
「だから我々生命体には魔素と霊素が備わっている、と言うかそれで出来ていなくてはならない。
地球世界をベースに考えるとパラメータとして電磁力や重力のような性質を持つのが当然だろう。
だから、次元の一つとして扱い、魔素と霊素で素粒子の振る舞いを数式で表せる筈だと我々は考えた。
そして思い至った。
地球世界では魔素と霊素はどうなっていたのだろうかと。
ナオヤ君は何か思いついているかな?」
恐らく余剰次元でコンパクト化されていたのだと思う。
そう言うと、メジーナ博士は驚いたように手を叩いた。
「素晴らしいな、ナオヤ君は。
我々の結論も同じさ。
このガライヤの世界ではコンパクト化が解かれて展開されている。だから意志が物理現象を引き起こせる。
魔素はともかく霊素の方は地球世界でも多少なりともコンパクト化が緩かったのかも知れない。霊能力がある程度認知されていたからね。
まあ、それはともかく素粒子には魔素と霊素の影響がある。
で、電子の事だがこちらの世界では電子として振る舞っている魔素と霊素のクラスターの一つと考えられるのさ。
」
光、つまり電磁波も同じなのか?と問いかけると
「こればっかりは違うらしい。光はきちんと光の性質を保っていて電界、磁界の次元が無いとあり得ないのに存在する。魔素と霊素による影響があることにはあるんだけどね。」
メジーナ博士は光魔法についてそう説明した。
魔法に依って光が創生されている、その実態は魔素と霊素の混合クラスターであり、光子を発生させていると言う。
「見掛け倒しの光、イミテーションみたいなものかな、ははは」
その説が正しいなら余剰次元として軽くコンパクト化されているのかも知れない。でなければ、このガライヤの世界は4次元では無くて6次元なのかも知れないなとナオヤは思った。
「6次元ねぇ~、その説も有ったけど数式が成り立たないんだよね~。」
それで、ミスリル銀線、金線に絶縁体が不要な理由は何ですか?と聞き直した。
「ああ、そっか。話が逸れてたね。
電子擬きが流れているから製作者の意志が反映されて他に漏電(?)しないのさ。物理法則に従わない電子擬き、意識または意志に従う電子擬きさ。
ほら、雷の魔法なんて最たるものさ。狙ったように当たるだろ。」
メジーナ博士のニヤニヤ笑いはまだまだ隠し玉があるらしい事を予想させた。
ついでとばかりに女神ガライヤのお告げの話をしてメジーナ博士とも情報共有をしておく。
謎の魔素消失現象の原因がババロンにあった事を告げても記憶に無いらしい。ただ、その事でなにやらババロンの強化案を思い付いたらしい。嬉しそうな顔になる。
彼=天空寺が戻ってきたら多分想像以上に厳しい戦いになるだろうから、ババロンの強化は必須と言う事で一致した。
一休みした後、再び宿泊施設に戻り、メメアを起動する。メジーナ博士に依ると何の問題も無いそうだ。
ハイ、マスター登録します。
そう言ってメメアは僕をスキャンしてマスター登録した。
自己診断させると前の状態より倍以上のスペックとなりコントロールは完璧だという。ただし、横倒しだが。
「で、メジーナ博士。僕が居ない間にどんな手順で遺跡と化した宿泊施設を世界樹から取り外すんだ?」
と訊く。
世界樹の精霊カエデさまの協力の元、世界樹の抑えを緩め、宿泊施設を飛空挺クレイモアが引きずり出し、宿泊施設のメメアがコントロールする重力魔法で空中に戻してババロンに合体させると言う手順である。
うん、言葉では簡単だけど実際はとんでもないな。
宿泊施設が落ちて転がった溝を使うので周辺のエルフの里の人々は世界樹の精霊カエデさまに寄り一時、世界樹の中の虚に避難して、エルフの里を守る魔法障壁を展開して行われた。
この様子はエルフの里の
人々にも公開され、一生記憶に残る事になった。
そして、宿泊施設は世界樹から取り出され、空に浮かび、ゆっくりと世界樹から離れて行った。
宿泊施設の上部に溜まった氷や植物の腐敗物は魔法で処理され、できるだけエルフの里に影響が及ばないように除去されたのである。
跡地には世界樹からの水が溜まり、ちょっとした湖となった。その湖は遺跡湖とか呼ばれる事になった。
エルフの里を覆っていた遺跡が無くなった事で世界樹からの恩恵も増えたそうで、ちょくちょく精霊カエデさまも遊びに降りてくるようになったという。
箝口令が敷かれた訳でもなく、飛空挺クレイモアや宿泊施設や勇者やババロンの名前は瞬く間に世界に広まった。
お陰で僕はラサメイア辺境伯爵から緊急の連絡を貰うことになった。
アンガス・メフィス・メリカ王からの招聘である。
面倒事の予感です。
ナオヤの対応は?




