エルフの里の攻防(中編)
魔物に続いて黒幕の登場です。
承章5 エルフの里の攻防③
エルフの里で勇者やってます。異世界転生者の八神直哉です。
キラガオームが弱いと言えど冒険者たちが無傷とはいかない。聖女であるセラに依って回復されて前線に復帰する。
それでも冒険者の数は最初の8割程に減っていた。
そこで第2陣の攻撃だ。冒険者たちが恐れおののくのも不思議はない。
しかも明らかに人為的に魔物を調教している奴がいる証拠が目の前にある。
ブラックタイガーに騎乗するウォーモンキー。
ウォーモンキーの手には人の造り上げたと思しき剣、身体にはライトプレート。
兵士でなくて何だというのだろう。
予め訊いて準備していたならともかく、予備知識もなく戦うのは冒険者と言えど不利としか言えない。
キラガオームと言い、ブラックタイガー騎乗ウォーモンキーと言い、明らかにエルフの里を蹂躙してその先のエルフラインを破壊するのが目的だろう。
そう、此処に勇者と聖女が居なければ目的は叶った筈だった。
僕は隣のギルドマスターのヒョウドに一言断りを入れて言った。
「少し森を焼いてしまいますがあれを許す訳にはいかないですね。殲滅大魔法を使いますよ。」
返事は聞かない。
すかさず、天地自在で駆け上がる。今度は真上に20メートル程高く、森の向こうまで見通せるくらいまで視界を確保して、魔素を霧のように放出する。
風魔法を発動させて、ブラックタイガー騎乗ウォーモンキーを包囲する。1匹たりとも逃がさない。
「獄炎消滅!!」
名前は凶悪だが、ただの風魔法と複数の火魔法の複合魔法である。全体を覆う風魔法に中級火魔法のファイアーウォールが10カ所以上を同時に操った結果である。ナオヤの勇者スキルのお蔭だ。
キラガオームを掃討していた冒険者たちの目の舞にファイアーストームの巨大な柱が立ち上がる。
風魔法で防御されていても熱が伝わる。
風魔法が遮っていても燃え上がる赤い灼熱の轟音が聞こえる。
誰かの悲鳴が聞こえる。
誰かのおののきが聞こえる。
どれくらいの時間が過ぎたのか。
殲滅大魔法が収まって周囲から冷風が吹き込んでくる。森の向こうまでだいぶ食い込んで黒こげの大地と燃えカスの魔物しか残っていなかった。
空からゆっくり駆け降りてきた勇者である僕は
「焼き過ぎました!?」
とまるでお菓子の出来を聞くようにギルドマスターのヒョウドに言った。
口をあんぐりとしたまま、ヒョウドはゆっくりと首を横に振った。そして
「良くやってくれた、助かった。」と言った。
しかし、狂気はこれで終わりではなかった。
バキバキと言う木々が折れる音がして、焼け焦げの残る大地に姿を現した恐るべき魔物がいた。
ギャガオオオオー
雄叫びを上げて姿を表したのは5メートルを越える巨大なウォーモンキーだった。しかも、先ほどのウォーモンキーより体格の良いキングモンキーとでも言うべきウォーモンキー3匹を連れていた。
ならば5メートル超のウォーモンキーはカイザーモンキーだろうか。
炎に見とれていた冒険者たちが散り散りに逃げてくる。
キングモンキーが巨大な剣を振るって襲い掛かってきた。
ドガン、ドガンと逃げた冒険者の後の地面を抉る。
刃こぼれなどを気にしないで、まるで棍棒のように振り回す。直撃は無くてもその風に煽られて、冒険者達が吹き飛ぶ。
ウォーモンキー騎乗ブラックタイガーが人為的な魔物ならコイツらもそうなのだろう。カイザーモンキーなど自然には有り得ない大きさだ。
コイツらの片を付けて黒幕を探そう。
あらかた冒険者達が逃げていたのを見て、僕は土魔法で低めの壁を造る。
「ガイアウォール!」
案の定キングモンキー達は壁を壊し始めた。剣を振るわず、拳を振り上げて叩き壊す算段だろう。
前進を一時的に止めるのか目的だから壊されても問題ない。立ち直した冒険者達から火魔法や風魔法が飛ばされる。
ファイアーボールもウィンドボールも当たっても平気なようだ。
魔法攻撃の嵐が止んだ隙に僕が接近戦を試みる。
地上から空中へ走り抜け、あっという間に近づく。
キングモンキーを無視してカイザーモンキーに肉迫する。
カイザーモンキーは僕の接近に気づき持っていた青白いメイスを振り回す。
目に見えない真空刃が無数に飛ばされる。天地自在で魔素の濃淡を見て真空刃を避ける。
数が多くて避けるのもギリギリだ。
避けられるのに業を煮やしたのか、メイスを回転させながら体当たりを掛けてきた。
真空刃が避けられるレベルじゃない程になる。
天地自在で高く駆け上がり、50メートル程距離を取ると、真空刃も届かなくなった。
向こうが風魔法ならこちらも同じ系統で対抗しようと思い、インベトリーから雷熊杖を取り出す。
雷熊仗を回転させて風魔法を使う。竜巻のように風が渦巻き、渦の間から紫電が飛び散る。
「神雷風撃!!」
紫電混じる竜巻がカイザーモンキーを包み込み、巻き込む。
紫電に身体をあちこち焼かれ、回転させていたメイスを取り落とすとメイスは風に巻かれ、どこかに飛んで行った。
轟音を上げた竜巻がカイザーモンキーを持ち上げ回転させてゆく。
叫び声を上げているが轟音にかき消され、くるくると枯れ葉のように竜巻にカイザーモンキーは振り回されてしまう。
カイザーモンキーがぐったりした様子を見て、僕は魔法を解除するとカイザーモンキーは10メートル程の高さから落下した。
だいぶ弱ってはいるがまだ生きている筈だ。
トドメとばかりに僕は暗器飛来針を数発投げつけて、雷熊仗から雷撃を撃った。
カイザーモンキー撃破!
隣に着地する。
すると聞き覚えのある声が上空から聞こえた。
「全く忌々しい!!
また、お前か!」
僕は声が聞こえた森海の上空を睨んだ。
白い作務衣のような服を着た百薬斎セイが降りて来た。
「デモンオーガ2体でも殺し切れなかったか。
なら、直々に眠らせてやろう。」
ニヤリと笑うとセイは懐から呪符らしき紙を両手で取り出す。
呪符から何やら薫りが漂う。やけに危なそうだ。
思わず後ろに跳び下がり、距離を置く。
プロテクトを掛け、呪符を燃やすべくファイアーボールを発動する。
セイ自体には魔法効果は無いが呪符は燃え落ちた。
「ちっ」とセイは舌打ちをして呪符を両手いっぱい投げるとそれは見る間に魔獣になって僕に向かって来た。
魔獣アジュラ、蜘蛛の頭が集まったような形と多数の脚。初めて魔素が弾かれた相手だった。
それが6匹。
魔素を弾かれた理由を理解していれば最初でも対応出来ただろう。魔素ボールを無数に生成し、さらに凝縮するとその大きさはマイクロのサイズになる。
マイクロ魔素ボールとなってアジュラに接近し、魔素を弾く魔毛の間から体内に吸収されてゆく。
侵入に成功した感触と共に「破邪!!」と叫んでファイアーボールの魔法を発現させると、全てのアジュラの身体のあちこちが弾け飛んだ。
アジュラが光の粒となって消えていったところからひらひらと呪符が落ちてゆく。
魔獣の魔毛は魔素を弾く性質を持っている。魔法が発動している状態でも同じな為に魔獣には魔法が効かないのだ。
但し、魔毛に触れない極小サイズの魔法は別である。魔素であっても同じ事が言える。
魔素は意志によってサイズを圧縮する事が出来るが普通の魔法使いでは魔法効果が小さくなり過ぎてしまう。
しかし僕は勇者の力でそれを何倍にも出来るからマイクロ魔素ボールでも普通の魔法以上の威力があると言う事である。
ぐぐぐぐ
百薬斎セイは魔獣が相手にならなかった事に腹を立てていた。
「こうなったら俺が相手をしてやろう!」
ひときわ大きな呪符を懐から取り出すと小さく呪を詠唱し、自分の額に貼り付けた。
百薬斎セイの変貌が始まった。
百薬斎セイの奥の手とは?




