都市長ディビアス・ジャロン
学術都市ディービアの都市長ディビアス・ジャロンとの邂逅
承章4 学術都市ディービアの陰謀③下
ウプシロ医術施設はディービアの北東にある。
イプシロン魔法大学校が同心円状の構造をしているのに対して方形を基本としている。そのため道は交差点が多いが位置を理解し易い。尤も、訪問した施設は入院患者が居る宿泊施設や治療を目的とした施設でなく、医術の研究棟である。
何でも医術の第一人者が会ってくれると言う。名前は会ってからのお楽しみだと事務員から言われている。何となく癖が強そうな予感がする。
こちらの知識はないからそういわれても困るんだけどな。失礼の無いように気をつけよう。
予定時間の5分前に到着する。入り口で事務員に名乗るとこちらですと案内された。
風変わりな引き戸を開けて入った先で待っていたのはにこやかな笑みを浮かべた長身の紳士だった。
スタイリッシュでスラリとした黒をベースにしたシックな服装を身につけていた男は言った。
「ようこそ、我が都市ディービアに、ラサメアの懐刀ナオヤ殿。」
誰?
僕には面識の無い人物だった。向こうはこちらを知っているようだ。ふたつ名まで知ってるし。
我が都市と言っているからそれなりに偉いのかもしれないが
「私は学術都市ディービアの都市長ディビアス・ジャロン。」
わあ~貴族だよ。しかも上級貴族だよ。都市長だよ。こっちに用は無いんだけどなあ~。
「はじめまして、ジャロンさま。ナオヤです。ラサメア辺境伯爵にはお世話になっていますが懐刀なんて買いかぶり過ぎですよ。」
手を出してきたので仕方なしに握手する。
ちょっと汗っぽい。緊張してるの?都市長が?
「いやいや、君の活躍ぶりは聞いているよ。凄まじいものではないか。
秘密にしているようだが飛空挺クレイモアを手に入れるなんて。」
笑顔が凍りつく。
なんで知ってるんだ?
「さて、何のことでしょうか?」
思わず殺気が零れる。
「秘密なのは理解しているよ。彼女からも言われているからね。」
そう言ったジャロンの後ろのドアから彼女が出てきた。
セラだった。
え?何故セラがここにいる?
そう言えば、このところ連絡が付かなかった。
そう言えば、どこかに慰問に行くような事を言っていたっけ。
「ご、ごめんなさい。ナオヤさん。」
顔を青くしてセラが謝る。
徐々に僕の頭が沸騰して来る。冷静に見えて僕は短気だ。
酷薄な眼をしてジャロンを睨む。姿勢は既に戦闘体制だった。
ずるっ、ず、ず、ずっと
殺気の圧に押されてジャロンが後ずさる。
「ま、待ってくれ。
彼女には何もしていない。本当だ。女神ガライヤ様に誓おう。」
ジャロンの動きを伺う。レーダーで身辺の敵索を済まし、魔素ボールを固定する。
セラに問う。
「セラ、何をされた?」
俯かせたセラが掠れた小声で答える。
「バフォメの自室にジャロンさまが訪ねて来たの。最初は慰問の話だったの。
それからシャルラ様が亡くなった不幸の話になって、ラサメア辺境伯爵様のところでナオヤさんに会ったことを指摘されたの。
おかしいと思ったのよ。ナオヤさんの事はラサメア辺境伯爵様と数人しか知らない筈だったのに。
知らない内にナオヤさんの事を話さなくてはいけないように追い詰められていたの。・・・ごめんなさい。」
ぎりっ ぎりっ ぎりっ
どこからかおかしな音がした。
「セラの陰で何かしようとしている男!動くな!
動けばその喉を撃つ。
僕の真後ろの女、動くな!動けば両足の腱を破砕するぞ。
そして、ジャロン。貴様セラを怖がらせたな?無理やし詰問して言うことを聞かせたな?万死に値する。苦しみの果てに死ね。」
僕が構えを解いて自然体に立ち、セラの方に迎えに行く。
さっきまでの殺気はもう僕には無い。
ジャロンの言い訳も聞く気にもならない。
ジャロンは強張った顔に当惑の表情を浮かべ、突然胸を押さえて苦しみ出した。
セラの後ろから屈強なボディガードらしき男が走り込んで来て、僕を避けて秘書らしい長身の女性くが走り寄った。
「ジャロン様、ジャロン様」2人が慌てて声を掛け、セラの方を向く。
「「お願いします、セラさま。ジャロン様をお助けください。」」
僕の怒気が消えてほっとしていたセラが僕の顔を見る。じーっと見る。
僕が苦笑するとセラは走ってジャロンの元へ行った。
セラの祈りでジャロンの体が淡い光に包まれる。
光が収まった時ジャロンが身を起こした。
こちらを向いた眼には怯えがあった。
ジャロンの両脇には屈強なボディガードらしき男と秘書らしい長身の女性が身を寄せ合っている。
相対して僕の左側に手を繋いでセラが座る。
僕はもう怒っていないのに3人は借りてきた猫のようにおとなしい。
「2度とあのようなことはしないで欲しい。でないとセラは助けない。」
僕の強い言葉にジャロンは小さく頷く。
「返事が無いけど!」
3人が揃ってはい!! と返事をする。
「もう、許してあげたら。ほら、あたしは何ともないから。」セラの言葉は女神のようだ。
「それで要件は何だったんです?」と僕がジャロンに切り出すと静かに語り出した。
「事の起こりは大貴族ヤンソンがディービアの経営に口を挟むようになってきた2年ほど前からだった。
出資者として参加はしていたがこちらに完全に任せていた事を次第に自分にも口を出す権利があると言い始めたのだ。
調べてみるとその頃“彼“と呼ばれる男が頻繁にヤンソンと会っていることが判った。その彼の口車に乗って数名が共に反旗を翻したのだった。そのため都市議会で大きな発言権を得た。
だが、今回フウトで奴は失敗をした。法に触れるような違法行為をしたのだ。実際には配下のバッカと言う男だがな。
この事件はフウトの2人の冒険者が暴いた事になっていたが実はある男の尽力無しでは摘発できないものだった。
フウトは幸いなことに、このディービアの治権下にある。よってディービアの法で奴を葬る事が出来るだろう。
だが、“彼“以上に陰の立役者が気になった。
そこで調べたのだよ、“ナオヤ“と言う男を。
調べれば調べるほどおそろしさが増した。
まず、ラサメア辺境伯爵の後ろ盾がある。
はじめの村アデルで“冷蔵箱“なる物を発明する。
イーナの村ではイーベンと言う男に無償で“ミルク缶“なるミルクを低温保管出来る容器を作ってみせる。
魔獣アジュラと召還術師を倒してラサメア辺境伯爵の息子ブールを助ける。
剣豪ドワド・ユゲトですら遊ばれてしまう戦闘能力。
極めつけは誰もが混乱している中、聖女セラ様と共にその元凶を破壊してみせたことだ。
バパルカでは“彼“の残した食材を二番煎じと良いながらも改良してみせる。
クレイモア湖では消息は途絶え気味ではあったが、アントン砂漠で魔獣アントンを独りで討伐したと言う証言もある。
そして、先のフウトでの功績と謎の魔神ダブルのこと。
聖女セラ様の不思議な行動からナオヤと言う男との繋がり。
クレイモア湖に現れた魔獣クレイモア。
湖水から飛び出したと言う謎の光。
先ほどかまを掛けたら見事に答えてくれたね、ナオヤ君。
ただ、ちょっと私はやり過ぎたらしい。自分の不利になる事ではなく聖女セラ様が傷ついた事に怒ったその純粋さ。
いや、改めて謝ろう。
聖女セラ様にご負担を掛けたこと申し訳なかった。」
ジャロンの眼には怯えはあったが真摯な謝意があった。
だから僕は受け入れよう。
「いえ、僕も怒りすぎました。それでジャロンさんが急に倒れるなんて思いもしませんでした。」
言外に僕は何もしていないと強調する。
誰の目にも魔法は見えていない。発動した魔法は小さ過ぎて魔力痕跡は残っていない。
だから僕は無実なのだ。ちょっと無理はあるけど。
苦笑するジャロンはナオヤを試すのが目的ではなく、ナオヤと協力して“彼“の影響下にあると思われる者達をこのディービアから追放したいと言うのだった。
危なかったです。
危うく殺人犯に成るところでした。




