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9.打ち明けた悩み(SIDE セラヴィノーイ)

初のセラヴィノーイ視点です。


「…………レヴィン…………。」

 俺の腕の中で意識を失った小さな温もり。その頬に未だ流れる涙を指先でそっと拭いながら、俺は親友であるレヴィンに、今まで話していなかった俺の、というか我が家の悩みを語る決意をした。

 レヴィンには兄弟がいない。周囲にいる人間も、今のところ年齢が近いのは同じ歳の俺くらいで、他は世話係も教育係も侍女も全てが大人だ。だからおそらく俺と同じように、女の子という可愛くて不思議な生物に会ったのは、シリルが初めてだと思う。しかもシリルは俺達よりも明らかに小さくてか弱い、護るべき存在。当然、レヴィンの中にもシリルに対する興味と庇護欲が溢れかえっている。更に、兄である俺に対してさえ剥き出しにするあの執着心を見ると、初恋と呼んで良いかは解らないが、特別な感情を抱いているように思えるんだ。だからきっとシリルの支えになってくれる筈だ。

「ん?」

「驚いただろう…………?」

「ああ。まぁな。」

 俺は小さく息をついた。

「コイツは……シリルは生まれて間もない頃から、異常な程に雷を怖がるんだ。初めは突然現れる閃光や大きな音、その後に続く振動が、小さいが故に恐ろしく感じるのかと思っていた…………。だが、話せるようになると、さっきみたいに『ここを開けて』とか『中に入れて』なんて叫ぶようになった…………。勿論、シリルのこれまでの人生で、雷鳴の中、外に出されたことなど一度として無い。」

「そりゃそうだろうな。お前もお前のご両親も、こんなに可愛がっている娘を嵐の中に置き去りにするとは思えないし。」

「…………おそらく夕食の時に陛下があんな話をなさったのも、父さんからシリルのことを聞いていたからだと思う。」

 レヴィンは眉をひそめた。

「で、ファリナのあの反応…………。少なくとも雷に関して、はっきりとした記憶とまではいかなくても、嫌な感情があるってことは確実だよな。」

「ああ。」

 俺が頷くと、レヴィンは大きく息を吐いた。

「輪廻とか転生っていうのは、人間の勝手な願望というか妄想みたいなものかと思っていたが、半狂乱だったファリナの様子を思うと、あながち嘘じゃないんだな…………。」

「あの恐怖が前世からくるものならな。」

「だが、それしか考えられないんだろう?!」

「ああ。だからこそ、どうして良いか解らない。どうしたらシリルの苦しみを取り除いてやれるのか、皆目見当が付かないんだ。」

「そう、だな。ファリナの脳とか心に根付いた記憶じゃなく、魂そのものに刻まれた恐怖となれば、打ち消すのは簡単なことじゃなさそうだ。」

「それに、恐怖が蘇るかと思うと、雷に関する記憶がどこまで残っているのか、残っているならばどんな経験だったのか、聞くことも躊躇われてしまってね…………。」

 レヴィンはゆっくり俺に近付いて、腰を落とした。瞳はシリルに釘付けのままだ。

「それなのに父上は、何の躊躇いも無く、表情すら変えずに、サクッと聞いてしまったんだな?!困った方だ。」

 はあぁぁぁ~、と大きく溜息をついている。

 そんな親友の様子に、俺は苦笑せざるを得ない。それでも言葉を継いだ。

「だが、我が家では誰一人シリルに問うことはできなかった。…………それに、お陰でシリルのあの反応が見れた。前世の全てを覚えているとは言い切れないが、多分間違いなく雷に関する暗い記憶はある。」

「それで?本人に詳細を確かめるのか?」

 俺は首を横に振った。

「やっぱり無闇に傷付けたくないんだ。シリルの方から話してくれるのを待つことにするよ。」

 そこで漸く、レヴィンの視線が俺に向いた。その瞳は思いの外穏やかだった。

「うん。俺もそれが良いと思う。」

 頷いたレヴィンは、さりげなく腕を伸ばしたが、俺はシリルを抱えたまま、ヤツに背を向けた。

「セっ、セラっ!ずりーぞっ!」

 慌てる王子様に俺は言った。

「昼間は不覚をとったが……、シリルだって未婚の女性だ。気安く触るのはやめてくれ。」



セラはシリルファリナを未婚の女性だと主張していますが、彼女は現時点では三歳の幼児です!

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