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GMG-031「散らす命と、産まれる命・前」


 それは、全くの偶然だった。


 エリナさんとの特訓の後、台風の片づけをしようということになり海に向かった私。

 大体は町のみんなが、既に片付けた後なのだけどそれでもまだゴミが残っている。


(流木とかは薪に……でも案外、塩を抜いたらインテリアとしていいのかな?)


 こう、ねじれた具合とかがわび・さびを、なんてお婆ちゃんの部分が訴えてくる。

 おっと、マリウスさんは一緒に片付けてくれているのに、サボっちゃまずい。


「これ、山から流れてきたのかなあ……何かおかしいような」


 目の前にあるのは、大人が何人も必要そうな流木。

 山から流れ出た物だと思うんだけど、山が崩れた話は今のところ、聞いていない。

 それにこの流木、枝葉が……気のせいかな?


「どうしようもないのは、ここで燃やしちゃいましょうか」


「確かにそのほうが……どうされました?」


 言いながら、沖を見た私の目にそれが飛び込んできた。

 マリウスさんに返事をせず、じっと沖の……白波を見る。


 そう、見つけられたのは偶然だったのだ。


(何……何か、いる?)


 思わず流木から手を放し、胸元の卵石を袋ごと握りしめた。

 私の不安が伝わるかのように、袋の中の卵石が跳ねたような気がした。


 そのことが、私を冷静にさせる。


 うん、やれる……はずだ。


「マリウスさん、何か沖に……ちょっと見てみますね。支えててください」


「見る、とは?……!?」


 倒れてしまわないようにと、マリウスさんに背中を預け集中する。

 これからやることで、きっとエリナ所長は魔素の動きを感じ取ってくれるだろうと思いながら。


 魔素を練り、目の前に空気の層を重ねていく。

 細かい仕組みがいらないことは、これまでの魔法でわかっている。

 大事なのは具体的な想像、イメージだ。


 だから、蜃気楼やレンズのように、目に見える光を変えていく。

 視界がぼやけ、大きくなり、そして鮮明になる。

 これを繰り返し、沖を見た私の足が震えた。


 初めて見たけど、何かいる!


「人が、魚人が何かに乗って泳いでる!?」


「なんですと! 魚人、マーマンが北にまで!」


 どうやら、マリウスさんには見えたものに心当たりがあるらしい。

 私の中のお婆ちゃんの記憶に近いのは、水上オートバイ、ジェットスキーだ。

 もっとも、機械じゃなく……生き物なんだけどね。その上に、魚人が乗ってる。

 まだまだ遠くだけど、日暮れにはこっちに来そうな感じがした。


 頷きあい、町へと駆け戻る。途中、こちらに気が付いたエリナ所長と合流する。

 ざっくりと、見えたものを告げると、エリナ所長も顔を真剣な物にして頷いてくれた。


「覚えてる? 塩の町の事件。あれがそうなんじゃないかって言われてるの。嫌なことだけど、当たりかしら」


 話しながら町に戻った私たちは、町長の元に飛び込んだ。

 普段はぽややんとして、私が巻き起こすことにも笑顔でいるお爺ちゃんの顔も変わった。


 すぐに、領主様と王様へと、伝令が動くことになった。

 私たちシーベイラの住民がどうするかと言えば、迎撃と避難だ。


 まずは女子供を内地の町に……それがまあ、普通よね。


「ターニャ……」


「姉さんが動けないんだもの。やるわ」


 そう、サラ姉は今、動けない状態だった。

 大きくなったお腹は、いつ産まれてもおかしくない。

 それに、そんな彼女に付き添うことで逃げ遅れてしまうことが十分考えられる。


 だから、なんとか教会に他の人と一緒に運び込んだのだ。

 幸い、動けないような病気の人は1人もおらず、教会には老人ぐらいなものだ。

 ハンナたちは、町から避難する人たちに預けた。

 随分ぐずったけれど、言うことを聞いてくれた。


 心配そうに私の手を握る姉さんに言い切り、外に出る。

 神父様は、悔いのないようにと告げてその手に銛のような槍を持って既に迎撃に出ている。


「マリウスさんも、増援の方に回っていいんですよ?」


「お役目ですから」


 正直、ありがたかった。王様からの援軍は未知数、ワンダ様からの物は……どこまで間に合うか。

 私が見えた魚人の群れは、視界いっぱい。両手で収まるってことはないと思う。


 動きやすい服装に着替え、私は準備万端だ。

 さあ海岸へ、というところで覚えのある杖が前に突き出された。


「ターニャちゃんには役目があるわ。河原にいって、魔石になりそうなものをかき集めてちょうだい」


「エリナさん……魔石、ですか。それだけ持ちますかね?」


 悲観的になるつもりはないけれど、楽勝ってことはないと思う。

 魔石を、魔法の補助に使う方法は聞いている。

 でも、そうなるってことは長い間魔法を使い続けるってことだ。

 その不安を抱える私と違い、なぜかエリナさんの顔にあきらめは無かった。


「それはわからないけれど、明日の生活を楽するためには、今日頑張らないといけないのよね」


 そう言われては何も言えない。護衛にマリウスさんを引き連れて、河原へと走る。

 卵石を見つけた場所よりもっと町に近いけど、探せばすぐに見つかった。


 一通り拾い終え、町に戻った私には海岸側に大きな気配たちを感じることができた。

 これが魔素を感じているということなのかな?


「マリウスさん、行きましょう」


「ええ、せっかくの実験場所を壊されるわけにもいきませんな」


 そのまま走って向かう先は海岸、ではなく港だ。

 みんなそっちのほうに集まってるってことは、魚人も向きを変えている?


 武装した大人たちの中に、少し背の低い人、兄さんたちを見つける。

 そのまま駆け寄ると、アンリ兄さんもカンツ兄さんも気が付いたのか振り返った。


「逃げても、良かったんだぜ?」


「そうだよ、ターニャ。君は女の子だ」


「あら、そんなこと言ったらエリナさんにどやされるわよ? 私だって、シーベイラの人間よ、やるわ」


 何度目かの決意の言葉を口にして、私も集団に混じる。

 やはり、港側に来ているようで既に白波が見えた。

 船乗りたちは、船の上から弓を射る人たちもいるみたいだ。


「少し見ます……魚人の顔はよくわからないけれど、なんだか追われてるようなそうでもないような」


「本来は南にいる種族ですからね。何か問題があったのかも……まあ、迎撃に関係はないですが」


 確かにマリウスさんの言う通りで、町がやることは変わりがない。

 それからしばらく後、魚人たちとの戦いが始まってしまった。

  


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