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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】気息奄編
29/65

Ep.29 天狗

 上白沢さんと共に、ぐったりしている彼女を背中にして帰宅した。


 なぜ寺子屋ではなく、小傘の自宅に連れていくのか。それは人間からの害も恐れてのことだった。いくら普段から驚かすだけの愉快な妖怪だと周知されていても、脅威になりえるという噂が広まれば一定数の妖怪に対して過激に排他的な人間が押し入って小傘に止めを刺しかねないと上白沢さんの話である。

 だから、ほとんど人里から外れていて立ち寄る人も少ない小傘宅においておこうとのことだった。


「やっとついた。」


 昼もたけなわだというのに、気分はかなり暗い。


「お互いお疲れ様だな。

 今日はもういいから、多々良の面倒を見ていてくれ。私も一通りの仕事を済ませたら覗きにくるから。」

「わかりました。ありがとうございます。」

「別に、多々良に感謝されたとしても、君に感謝されることはしてないよ。」


 そういって寺子屋に帰っていった。


 さて、小傘の面倒を見る他に俺がしなければならないことがある。

 それは何か?

 答えは明日朝一番で妖怪の山にいくべきかを思案することだ。

 単純に行けばそのまま傘を返してくれるかもしれないという期待は持っているのだが、でも現実として限りなく低い。それは紙切れに「途中で危険な目に遭うことはありませんからご心配なく。 」とだけあるのからも見てとれる。確実に来てほしいなら「危害は加えないのでご心配なく。」とするべきだ。だから、いくのであれば拷問されるぐらいの覚悟は持たなければならない。それ以前に知っていることなら正直に話してしまえば、万事解決だ。

 そして、昨日の小傘と文との言い合いのことを思い出す。「変な言いがかりをするな」「正直に話すものですよ」と言っていたな。これだけを見ると、小傘が何かを知っていたふうに見えたから文に引っ掛けられたと考えるのが自然だ。さらに俺も呼び出されたとすると、やはりフランのことか?だとしても何を知りたいと思うことがあるのだろうか?姉妹喧嘩の詳細か、フランの能力か、事の顛末か?

 どれもしっくりこない。わざわざことを荒立ててまで新聞の記事に困っているのだろうか。そもそも彼女の新聞は不定期連載だから、急ぐべきもない。それなのに哨戒天狗まで引っ張り出して、もうやっていることはメチャクチャだ。


 何が目的なのか。

 考えても出てくる答えには矛盾が生じる。しかし、フランのことがこの件に絡んでいると仮定するならば、次に標的になるのは・・・上白沢さんだ。仮定が否定されたとしても、やはり俺が関わっているらしいことは決定している。なんとか俺が解決して被害は最小限にとどめたいところである。


 考えている間も、小傘の顔色は悪いままだった。


 しばらくして、戸を叩いて入ってくる者がいた。


「遅くなった。」

「上白沢さん・・・。」


 彼女は小傘を挟んで俺の向かいに座る。


「多々良の調子は相変わらずだな・・・。」

「さらに存在感が薄れたようにも思えます。」

「お前としてはどうしたい?

 多々良を助けるか、見捨てるか。昨日の様子といい、今日の出来事といい、私としては・・・。」


 いいかけて沈黙する。

 私としては・・・―?何を言いたいのだろう。


「・・・いや、私の言葉なんて仕方ない。お前がどうしたいか、どうするのかに任せよう。」

「上白沢さん?」

「・・・私は君に慕ってもらえるような、人物ではないようだ。少なくともさん付けされるほどには。

 私のことなど呼び捨てでも構わない。・・・もしかしたら、それ以前に君に名前を呼んでもらえる筋合いすらもないかもしれないな、私は。」


 非常に自嘲的な言い方をして、うつむく。

 歯を食い縛っているようだが、彼女の銀色の前髪が邪魔をしてその表情はよく見えない。


 何をそこまで思っているのだろう?何が彼女をそこまで追い詰めているのだろう?

 俺は気がかりではあったが追及はしなかった。そうすることで、より彼女を苦しめるかもしれなかったからだ。



 しかし、後々考えてみればこれが圧倒的に最悪な結果をもたらすこととなる。



 彼女はそれからしばらく、小傘の隣で体育座りをして、その膝に顔を埋めていた。

 そして、俺が夕飯を支度し始めたあたりで、急に思いたったように幽霊みたいな様で立ち上がる。


「・・・すまない。

 私はこれで失礼するよ・・・。」

「そうですか?

 よければ上白沢さんも一緒に夕飯を食べられたらと思って、少し多目に作りはしたのですが。」


 彼女はふらふらとしてやつれた顔で精一杯の笑顔を作る。正にこれぞ作り笑顔だった。


「・・・ありがとう・・・ございます。

 代わりに、いや、違う・・・私を助けると思って、紅魔館の場所を教えてほし・・・いえ、教えてください。

 ・・・お願い致します。」

「いいですけど、行くなら道中危ないですよ?」

「・・・大丈夫です。私はどうなっても構いませんから・・・。」


 ここまで一貫して、ですますをつけなかった彼女が敬語を使っている。

 キャラがぶれているというより、申し訳なさを通り越して罪悪感を感じているような話し方だ。

 そもそも今回の件は文のせいである。また、昨日の時点で小傘が危ないとわかってやれなかったのは、上白沢さんだけではなく俺もそうであるのに・・・。


 それに紅魔館って・・・?

 誰かを呼びにいくのか?あの手紙には一人で来いと書かれていたから、文字通り誰も呼ぶ必要はない。逆に呼ばれると困るのだが。


 とりあえずは彼女に簡略的に道筋を教えておいた。


「もし誰かを呼ぼうっていうのであれば、大丈夫ですよ!

 それに俺が知っていることなら隠さず話してしまえばいいことですし!」


 その言葉を聞いて、上白沢さんはさらにぎこちない笑顔を作り続けた。


 正直いうと、その顔はまるでピエロみたいでかなり気持ち悪かった。



 その晩、日が落ちてからもつきっきりで看護した。包帯の巻き変えや清拭をして、昏睡状態だから何も食べさせれない変わりに唇を水で湿らせた。


 そうしている内に夜もとっぷりと深まる。

 厠に行くとき夜空を見上げたのだが、やはりこの世界の空は外の世界の空とは違うようだった。満点の星空が一面の暗闇を彩る。それは綺麗すぎて、作り物ではないかと疑ってしまうほどだった。

 小傘の方はそれに対して顔からさらに生気を失わせていく。

 俺としては妖怪が一番力をだせる深夜になれば、回復はないにしろ悪化はしないのではないかと思っていたが、それは思い違いだったようだ。

 恐らくはこの調子で行けば、本当に明日中に消えてしまうだろう。文の置き手紙ではないが、明日すぐにでも行って取り返して来ないと本当に後悔しそうだ。



 そして、またしばらく時間がたつ。

 ここまでくるとかなり眠気が押してくる。

 外の世界であれば、友達とカラオケとか自宅でゲームとかしていれば、すぐにでも過ぎていくのにと思った。そう言えば、もうかれこれ半年以上家を開けているのだった。一人暮らしをしているから、家賃をかなり滞納していることになる。

 いや、その前に行方不明の方が問題だな。7年間は経たないと失踪宣言、つまりは死亡とはみなされないから社会上では大丈夫だとして、それでも失踪したという事実は家族をどれほどまでに苦しめているのだろう?そんなことを今更ながら、こんな状況ながら思った。

 こんなことなら霊夢に会ったときにすぐにでも帰るべきだったな。フランのことを放っておいて。その方が結果的に今回の騒動もなかったかもしれないし、とりあえず彼女が人里で暴れることはなかったと言えよう・・・。



 そんなことをつらつら考えて、うつらうつらと瞼が重くなってき始めたとき、思いっきり戸を殴る音がした。

 びっくりして眠気が吹き飛んでしまった。


 まさか、小傘を襲いにきた連中か!?

 俺は身構えた。とっさに護身用代わりと小傘の鍛冶場にあったトンカチを手に持つ。


 そして、バンと乱暴に戸が開けられた。


「オラァ小傘ぁ!慧音に何をした!!」


 カチコミみたいな口調でのしのしと入ってきたのは、リボンをつけた長い白髪のもんぺの少女だった。


 風体から察するに、藤原妹紅だろう。


 鬼のような形相の彼女は、寝込んでいる小傘を見て、そしてその燃えるような瞳を今度は俺に向けた。


「お前、何者だ?小傘の家で何をしている。」


 彼女は問い詰めると同時に俺に詰め寄ってきた。


「お、落ち着いて!俺はただ―!!!」


 言い終わる前に襟首を締め付けられて持ち上げられる。


 なんて馬鹿力だ!?

 身長は圧倒的に俺の方が大きいのに・・・!


「・・・もしかしてお前かぁ!?慧音があんな風になったのは!!」

「・・・あ、あんな、風っ・・・て!?」


 首がしまっていて上手く話せない。

 頭に血が回ってないのか、意識も薄れてきた。


「放し・・・てくれ!」

「・・・ちっ!くそっがぁ!!」


 思いっきり地面に叩きつけられる。

 その弾みで後頭部を強く打ってしまった。


「・・・うぐぐ。

 ・・・か、上白沢さんがどうかしたのか?」

「慧音が布団を被って部屋の隅で独り言を繰り返しながらガタガタ震えていたんだぞ!それでよく聞いてみれば、どうやら小傘が・・・とか言ってたからここに来たんだ!!」


 怒りの炎はさらに加速する。

 まずは彼女の誤解を解いておかなければならない。


「それは勘違いだ。」

「・・・勘違い?」


 名乗りはしていない少女に対して、俺のこと、今日起こったこと、そして、急に様子がおかしくなったことを説明した。


 彼女は出だしから勢いに任せていたため、途中でいきりたつのではないかと心配していたが、終始なるほどと相づちを打ちながら聞いてくれていた。


「・・・事情はよくつかめた。

 詳細まで理解できたとは言いがたいが。」

「詳細については俺も知らないよ。

 しかし、さしあたっては上白沢さんがそんな風になった理由を知りたいところだ。」


 少女は片方の目を閉じて、ふむと言う。


「多分今は無理だ。

 友人である私が声をかけても聞こえないほど、怯えていたからな。」


 これはいよいよ上白沢さんの方も心配になってきたな。


「まあ、慧音は強いよ。

 その程度でどうこうと自らを終わりにするようなヤワじゃない・・・。」

「そうか・・・。

 それなら安心だ。」

「それよりも、天狗の件だな。夜明け一番に妖怪の山へ行くのだっけか?」

「そうだな。」


 彼女は少し考えた。


「・・・よし、私も同行しよう。」

「それはまずいだろう。さっきも説明した通りに一人で来いと書かれていたのだから。」

「だったら見つからないように追跡するのなら問題なかろう?」


 確かに見つからなければ問題ない。しかし、万が一見つかったときは俺も小傘も、(死ぬことがないだろうけど妹紅も)ただではすまない。


「いや、大丈夫だ。

 今回小傘は黙秘していたからこうなったのだと思うから、何かを聞かれたら正直に話せば済むことだし。」

「そう、なのか?」

「ああ。それに無関係の人間を巻き込むのはいけない。

 だから、君は俺が出掛けている間小傘の見守りをしていてほしい。」

「そうだな。

 小傘の友人として、見守っていてやろう。」


 これについてはどうやら納得してもらえたようだ。

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