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赤執事 ~Scarlet's Butler~  作者: 鬼姫
【赤執事】紅霧異編
19/65

Ep.19 楽園の素敵な巫女


「フランのところに戻りなさい。」

「・・・え?」


 過去の話をしてからしばらく、突然レミリアが言い出した。


「だから、咲夜も帰ってきたみたいだし、そろそろフランの方も落ち着いたみたいだから、戻れって言ったの。」


 ああ、なるほど。

 しかし、霊夢と魔理沙がフランと戦っていたことを知っていたんだな。


「もちろんよ。何せ私はスカーレットの当主だもの。」


 説得力はないけれど、この状況の上では十分説得させられた。


「それでは、失礼致します。」


 

 がちゃりとドアを閉めて、廊下を下っていく。


 するとそこには、咲夜さんがいた。


「・・・あ、咲夜さん。お疲れ様です。」


 彼女は片目をつむって、ふむとうなる。


「そちらこそお疲れさま。」


 静かで、澄みわたった声でささやく。それは何でもお見通しだといっているようであった。


 咲夜さんとすれ違った後、しばらく歩いていくと何やら争った跡が見えた。具体的にはピチュった妖精が気絶して床に転がっていたり、窓やら装飾やらが壊れていたり、だ。

 ゲームだと描かれない部分だが、やれやれ、後片付けとして廊下を掃除するのは俺たちなんだが・・・。

 まあ、後片付けというのが今回俺がフランに対してできる役割ってことだと思うと、さして嫌にならないが。



「あら、まだ残党がいたのね。」


 どきりとした。


「さっきの吸血鬼もそうだけれど、この前は見なかった顔ね。服装的には・・・、あの変なメイドと同じかしら?」


 オオヌサ片手に少しボロボロではあるけど赤い巫女服もどきを着ている中学生ほどの女の子が立っていた。

 博麗霊夢、だ。


 彼女はすぐさま札を構えた。


「さて、帰り際に運動するのは嫌だけど、やっぱり目の前の敵は退治しないとね。」


 危ない性格の女の子だな。


「落ち着いてください。俺は戦うつもりはありませんよ。そもそも俺は弾幕を張ることはできません。」


 その言葉を聞いても、彼女は変わらず闘気をだし続けている。


「へぇ、そうかしら。しかし、ならここに何をしに来たのかしら?」


 何をしに、って・・・。

 俺は一応ここの人間だというのはそっちも言葉にしただろう。俺としては逆にそっちがなにをしに来たんだと言いたいな。

 いや、確かレミリアが博麗神社に入り浸っているからクレームを言いに来たんだったかな。もちろん物理的に。

 しかし、レミリアも負けて悔しがっていた相手のところに、入り浸っているのは、何と言うか・・・、ツンデレ?


「俺はフランお嬢様付きの執事でございます。故に、これからお嬢様のもとへ行くところです。」

「あんた、あのレプリカの妹の従者なのね。」


 レミリアだ。

 あいつを偽物みたいに言うな。かわいそうになってくる。


「まあ、敵でないなら構わないわ。それじゃ。」


 こつこつとローファーをならしながら俺の横を通りすぎていく。


 あ・・・、いやいや!そうじゃあない!


「霊夢・・・さん、待ってください!」


 怪訝そうなかおで彼女は振り返った。


「何よ?これから私は帰って寝るつもりなんだけれど。」


 博麗霊夢、彼女こそ俺の希望になる可能性があることを忘れていた。


「外の人間を帰すことってできますか?」


 怪訝な顔から困惑した顔に変わった。


「できなくはないけれど?それが?」


 やった!帰れる!

 そう思ったけれど、ふと心に引っ掛かりを感じた。


 そうだ。

 俺は記憶喪失として扱われているのだ。ここで迂闊に帰してほしいといってしまうと、紅魔館を裏切っていると見なされるかもしれない。


 慎重に、慎重にいこう。


「俺の部屋までいいでしょうか?」

「あら、いたいけな女の子を部屋に連れ込むつもり?」


 いたいけな・・・。

 さっきまで俺を退治しようとしていたやつの言葉とは思えない。


「聞かれたくない話なのです。お願いします!」


 彼女は少し目を丸くしていた。俺の言葉に驚いていたようだった。



 「・・・それで、聞かれたくない話って何よ?」


 事情を勘でつかんだらしい彼女は何も言わずについてきてくれた。

 部屋に入った俺は廊下に人がいないことを確認して鍵を閉めた。


「早速ですが、あなたを呼び止めた理由をお話しします。

 それは―



 ―というわけです。」


 俺は話した。

 事故のこと、紅魔館に飛ばされたこと、俺の立場。

 もちろん俺がこの世界をあらかじめ知っていたことや幻想郷にこの先起こることについてに関わる知識は話していないが。


「・・・なるほど。しかし、よく今まで隠し通せたわね。」

「まあ・・・。」

「ふむ。それで結論から言わせてもらうけれど、」


 一呼吸すらも置かずに言った。


「今からでもできるわよ。まあ、博麗神社に来てもらう必要があるけれどね。」


 俺の目の前が明るくなったような気がした。でも、同時に後ろ髪を引っ張られるような気分にもなった。


「私、あまり待つ気はないの。行くなら行きましょう?まあ、ここのやつらが追って来たなら、そこは守ってやるわよ。」


 帰れる。嘘ではなく、夢でもない。本当に帰れるのだ。大学に、あの町に、そして、家族のもとに。

 しかし、俺は迷う。

 レミリアの「見捨てないで」という言葉が、俺の心にのしかかる。ここ半年のフランの従者としての日々がのしかかる。


「・・・。」


 霊夢は俺のうかなそうな顔を覗きこむ。


「待つ気はないけれど、ひとつだけ忠告。」


「もしあなたが今戻らないとして、後からまた戻ろうと決心したとして、その期限は後半年よ。」

「半年?」

「そう、半年。人間のあなたがこちら側に染まりすぎたら、帰すわけにはいかない。この世界を守るためにもね。で、これはその期限。本当はあなたは既にかなり染まっているから私としてはアウトなところだけれど。・・・あいつの指示だからね。まあ、いいでしょう。」

「あいつ?」

「あなたは知らなくていいのよ。とりあえず、半年。よく考えなさい。」


 そう言って赤い巫女は鍵を開けて去っていった。


 半年・・・。

 それまでに俺は決心できるのだろうか。



 最後に霊夢が言っていた「あいつ」について後述しておく。

 

 おそらく、と言うまでもなく、八雲紫のことだ。

 そもそも俺が紅魔館にいるとあらかじめ知っていた人物はそいつしかいない。

 さらに言えば、八雲紫は俺が外の人間であるということも、記憶喪失が嘘だということも知っていたはずだ。

 でなければ、霊夢に半年という期限を伝えておく意味がない。


 ただ分からないこととして挙げるとすれば、俺の記憶についてどこまで知っているのは定かではないが。

 そして、半年と期限を設けた理由。


 ラスボスとは言わないまでも、八雲紫といつか、何かの形で対峙しそうな予感がした。

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