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アルソートの決着(B面)

マガツさん一世一代の大芝居。

ただし一部本音が入る、の巻。






ここはやはり人の姿で近づくべきだろうと体を再度変化させた私は、ゆっくりと足を進めた。

一言も発さずに私の後を付いて歩くウロボロスと、どうしたものかという緊張した面持ちでクゥを抱き上げたまま付いてくるジル。

クゥは私に対して恐怖心は抱いてないようだけれど、ジルはまだまだ疑っているようだ。

まあ、それも仕方ないとは思うけれども。


段々と視界に映りはじめる黒山の人だかり。


先ほど私から逃げ出した三人組は何かを言っているようだ。

特に私に突っかかってきた青年ー彼らの中でもリーダー格らしい茶髪の活発そうな青年だーは必死だった。

まあ大方バケモノが来たから逃げろ、とでも言っているのだろう。

それを肯定するのは三人組の一人、弓を背負ったキザっぽそうな男で、残るもう一人はといえばここまで走ってきただけで体力を使い果たしたらしく、魔術師は地面にへたり込んでいる。


必死に逃げろと訴える二人だが、ある程度まで近づくキザっぽそうな方は慌てて振り向いた。


どうやら弓などを背負っている事から狩人系統らしく、気配察知などのスキルを持っているようである。

さらに強く説得しているようだが、亜人を迫害することに精を出す連中はそんなワケあるか、いや、むしろならさっさとこいつらを殺さないと、とか思っているのか私が段々と近づいていっても逃げる素振りがない。

真面目に聞いているのはほんの数人程度で、私に一瞥をくれると再度亜人らに向かう連中すら居た。


ぴしり、と頬に亀裂が走ったが、割れ目を撫でて術をかけ直す。


酷く冷静で、ニンゲン如きがワタシに歯向かうなんて、とあざ笑う思う私が居る。

きっとそれは私の中に住まう「神性」とかいうモノなんだろう。

怯えてうろたえて、人を殺すなんて!と悲鳴を上げる私が居る。

それは間違いなくニンゲンだった私だ。


その狭間で揺れ動きながら、私は彼らに近づいた。


顔面蒼白で腰が抜けたらしい魔術師は処刑台へと送られる罪人のような面持ちだ。

空元気で強がろうとする茶髪の青年は、背後に居るものたちを守るつもりなのか剣を抜いている。

その傍らに居る女性・・・というにはまだ幼さの残るタレ目の彼女は小動物のように怯えて震えていた。

対するキザ男はもうこの場を見切ったのか、逃げ出す隙を窺っていた。

なるほど、この男は自分だけでも助かりたいようだ。

しかし私に気付くも、人々の大半はいまだ亜人へと意識が行っているようである。

罵倒と打ち合う音が私の耳にまで届いた。

すぅ、と息を吸う。

そして覚悟を決めて口を開いた。

私はこれからとんでもないことをしでかすのだから。


「・・・やあ諸君、ご機嫌麗しく・・・はないな。反吐が出そうだ、貴様らの愚昧さに。全くもって諸君らの愚かしさに腹立ち以外なにを感じればいいのか分からないほどだよ」


自然と低くなる声。

冷静になろうとしてイヤに回りくどい口調になってしまう。

我ながらネチネチとして根性悪いなぁとは思うが、逆にソレが私の怒りを伝えてくれたようだ。

【古代神の末裔】というヒトの枠に当てはまらない存在であり、【異なる神性】のお陰でありとあらゆる生物に敵対される異質さを持つ私は、きっと物凄く歪な存在だ。


バケモノなのに、中身がなまじニンゲンだからいけない。


なんでこんなことをするのか!と怒りたいのか、彼らが哀れだと笑いたいのか、そんな酷いことはやめてよと泣きたいのか、自分で自分が分からない。

ひくりと歪な笑みで連中を見渡せば、少なくとも彼らは静まり返った。

亜人らに関しては私が近づいた時点で黙っていた。

それが怯えなのか恐怖なのかはわからないが、話を聞いてもらえる、ということでいいのだろう。

ああ、よかった。

・・・力尽くで説得しなくてもいいようだ。

出来るだけ威厳があるよう、無感情に告げる。


「虚弱貧弱無知無能にして蒙昧な人間諸君、まず初めにこれだけは表明しておこうと思う・・・死にたくなければ亜人を全て私によこせ。これは提案ではない、命令だ」


淡々と告げる私に抗議するものは居ない。

いや、居たとしても・・・ウロボロスが片付けてくれるだろう。

ごくりと唾を飲み、キザ男が私へと問いかけた。


「あ、亜人をやれば大人しく引き下がるってのかよ・・・」

「私の話を理解できないほど諸君は・・・愚かなのか?」


これはこれ以上なく分かりやすい話のはずだ。

人間の傍に居る限り亜人たちが迫害されるなら私が悪の親玉―まあ要するに魔王とか?―になって、亜人らを匿えばいいのだ、と思い至ったためこうして慣れない偉人ぶった口調での発言なんだから。

まあ我ながら酷い思いつきだなぁとは思うが、誰だって命が惜しいはずだ。


私が傲慢で、人間なんてこれっぽっちも歯牙に掛けないバケモノだと知れば、人達は命惜しさに亜人を見捨てるだろう。


普通であればそんなヤケッぱちな行動でどうにかなるはずがない。

が、ここは異世界。

しかも亜人なんて家畜だ、なんて思う連中が多い場所である。

他の街では違うかもしれないがこの街において・・・きっとそうなるに違いない。

だから私のやることはあんまり間違っていないはずだ、多分。


出来るだけ偉そうに振舞い、やれやれとばかりにため息をつく。


それだけで私の思いを汲み取ったウロボロスが、主に無礼な、と殺気をたたきつけた。

ひぃ!と声を上げて腰を抜かした連中が居るようだが・・・ま、まあ、私がボロを出しそうでもウロボロスが補ってくれそうだ、もう少し頑張ろう。

なにより亜人さん達の平穏のためにも、もう一踏ん張りだ。

そうやってなんとか自身を奮い立たせていると、生存本能が人一倍強いらしいキザ男が再起動し、引きつった笑みを浮かべていた。


「や、やるよ!亜人なんざ全部アンタにやる!!だから見逃してくれよ、なあ」


しん、と静まり返る場。

ここで言葉に詰まれば命がないとでも思っているのか、キザ男は言葉を続ける。


「な、なんだったら、世界中に散らばる亜人だってアンタのものでいい。なあ、それなら十分対価になるだろ?」


自分の命が惜しいから、亜人が生贄になるくらい仕方ない。

キザ男はそう思っているようだった。

そして街の人々は亜人を差し出せば命が助かるなら当然だ、とばかりに、キザ男に同調している。

あんなやつらでいいなら。

俺たちよりアイツらの方が食いでがあるだろう。

口々にそういい、媚び諂った視線が向けられる。

これで助かるんならアイツらにも意味があったってことだ、なんて軽口まで飛び出している。


まだ助ける、なんていってないのにね?


私は騒ぐ連中を一瞥し、にやりと笑みを浮かべた。

そして口を開く。


「ほう・・・世界中に散らばる亜人すら、私に捧げる、と」

「ああ当然だ!」


ああ助かった、と安堵のため息がつかれる。

しかし安心するのは早すぎるだろう?

くつくつと笑いながら大げさに両腕を広げる。


「ああ、いいだろう。いいだろうとも。生かそう。諸君らを、生かしてやろうじゃないか。亜人を対価として」


わあっと人々の歓喜の声が上がる。

対照的に、亜人側では沈んだ雰囲気のままだ。

けれど首輪にかけられた隷属の呪いに私が当てはまらない、つまり、抵抗できるんじゃないか、と微かな希望を持っている連中が居るようだった。

彼らの心は折れていない。

首輪が付けられても、彼らの心は家畜にまで堕ちていないのだ。

なんて強いんだろうと思いながらも、ああそうだ、と私は言葉を続ける。


「なら、諸君らを生かす証に、首輪をやろう。亜人を対価とするのだから、諸君が私の隷属となる証だ。・・・なに、喜んでくれるのだろう?生かしてやるのだから」


ぴしりという音とともに術が僅かに解け、四つの眼で睨みつければまたしても悲鳴が上がった。

なんとも奇妙な気配や、従えるウロボロス、イビルシェイドらに私が普通ではない相手だとは分かっても、本当にバケモノかどうかは半信半疑だっただろう連中まで恐々と私を見ていた。


私が取り出したのは赤い首輪だ。


とはいえ首輪というほど立派なものではない。

赤い紐切れ(リボン)というのが、ぴったしだろう。

魔具制作の初歩の初歩で作った試作品の「隷属の首輪」だ。

スキルレベルを上げるために無駄に作り続けたそれの在庫は文字通り腐るほどある、そして、魔力と僅かな布切れで作れるため、足りなければ幾らでも量産が出来る一品だ。


人々を相手にしながら、イビルシェイドに先ほど言ったことを実行してもらう。


つまり、亜人らの輸送だ。

輸送とは言うが私が渡しておいた帰宅魔法のロール(使い捨てタイプ)で、亜人らを私の家にまで送ってもらっているのだ。

首輪は渡しておいた解呪の魔法で、と思ったが、どうやらイビルシェイドが触るだけで解除されているようだ。

たいした効力のない首輪なのか。

はたまたイビルシェイドの抗魔力が凄いのか。

・・・私的には後者だと思いたい。

じゃないと亜人らが可哀相なので。


先ほどまで騒がしかった連中は一気に静まり返っていた。


命は助かりたいが、亜人と同じ隷属扱いというのが嫌らしい。

まあなんとも身勝手な話である。

されて嫌な事はしちゃいけませんよ、って習わなかったのだろうか、この世界の連中は。


「生きたいのならば、つけろ。なに、お前たちがしていたことだろう?していたことをされるとは、思わなかったのか?思いもしなかったのか?」


あえて突き放すように言えば、これを断ればどうなるかを思い出したかのように首輪を手に取った。

しかしそこから動こうとするものは居ない。

はぁとため息をついた私は、鬼じゃないし、一言だけ付け加えてあげようと逃げ道を作った。


「だが・・・そうだな、一つ付け加えよう。私は逃げるものを追わない。今この場で逃げようと、私は追わないだろう・・・先ほどから逃げているものたちも、私は追いはしない。ただし、私の隷属にないのならば路傍の石のように扱う。首輪をしていなければ、私は踏み潰そうと、溶かそうと、切り刻もうと、燃やそうと、凍らせようと、埋めようと、気にしないだろう。なにせ私のモノではないのだから」


これは事実である。

私は本来、とても適当な人間だ。

だからこそウロボロスが騎士さんになったわけで。

自宅が魔窟になっちゃったわけで。

なんだかんだで好印象を持っていない連中であろうとも、私の庇護下にある、となれば否応なしにある程度は相手にするだろう。

ブチブチ文句を言いながらも、助けちゃったもんはしょうがないよなぁなんて手助けするだろう。


でも私の庇護下にないのならばどうなろうと知ったことではない。


冷たいが、私だって出会う人全員を助けるわけには行かない。

この街にいた亜人たちは私のせいで酷い扱いになったのだから、助けるのは当然だ。

でも、この先そんな事を続けていたら、いつかはどうにもならなくなる時が来るだろう。


だからあの亜人たち以外には選ばせる。


さっきからちょろちょろと逃げ出しているヤツも居るが、それを追いかけたりしないのがその証拠だ。

私的にはとても寛大な処置だと思うんだけれど・・・人々は絶望したかのような表情で目の前に出された首輪を手にした。


私の魔力で出来ているそれは、一度つければ解呪の魔法を使わない限り取れない代物だ。


なにせ首に装着するだけで呪いとして成立して、実体がなくなってしまうのだから。

残るのは赤い痣だけ。

壊して逃げる、なんてことは出来ない。

この呪いから逃げるには、解呪するか、私を殺すしかない。

ま、解呪しようにも有り余った魔力を込めまくって作り上げたものなので、滅多なことがない限り解呪出来ないだろう。

同等の魔力でもって相殺しないと解けないだろうし。


ぱちぱちぱち。


芝居がかった動きで拍手をすれば、イビルシェイドも真似をするよう手を叩いた。

彼らは影で実体が無いので、ぱちぱち、という音は聞こえないが仕草がどことなく可愛い。

ささくれ立った心がほんの少し癒えた気がする。

私はさて、と人々に向かって祝福の言葉をかけた。


「おめでとう。諸君らはこれで私のモノとなった。安心したまえ、私は自分のモノは大切にするほうだ。機嫌を損ねなければ、諸君らはいままでどおりの生活を送れるだろう。この街で。何かに怯えることも無く」


だから安心して欲しい。

そう言えば、何故か彼らは怯えたような顔で平伏したのだった。






というわけで、マガツは亜人を回収し、とりあえず街を支配下においてみました。


・・・みました。

次からは亜人らの話になるかと思います。

が、更新はまたしても未定です。

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