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第47話:真夏の夜の怪談と、ちび竜のおねしょ火パニック

「……それでね、夜中に誰もいないはずの裏庭のプールから、パシャ……パシャと、冷たい足音が近づいてきて――」


 しんと静まり返った真夏の夜、月明かりだけが差し込む居間で、フィオが怪談話を披露していた。

 夏の暑さを吹き飛ばそうと、みんなで集まって百物語のようなことをしていたのだ。金の狐耳をわざとピコピコと不気味に揺らし、ジト目で雰囲気を盛り上げるフィオ。


「ひゃぅぅ!? も、もう止めてくださいぃ、フィオちゃん! 私、夜にお洗濯物干しに行けなくなっちゃいますぅ!」


 メリンがふかふかのウールを限界まで縮こまらせ、俺の背中にがっしりと抱きついて震えている。

 シャロンも顔を真っ赤にしながら「べ、別に怖くなんてないわよ! ただ、クゥマが寒がってるからくっついてるだけなんだから!」と、ポニーテールを震わせてクゥマの腕をぎゅっと握りしめていた。クゥマも熊耳をぺったり寝かせて「オレも、お化けは力づくで殴れないから苦手だクマ……」とガタガタ震えている。カルラだけは「あらあら、涼しくなって素敵ね」と、笑顔でひんやりハーブジュースを配っていた。


 だが、フィオの怪談に最も恐怖してしまったのは、俺の膝の上で丸くなっていた緋色のちび竜だった。


「ぷ、ぷきゅ〜〜〜っ! シクシク……ぷすぷす、ボボッ!」


 お化けの恐怖に怯えたちび竜は、大泣きしながら口から可愛いもらい火(おねしょ火弾)をポンポンと連発し始めたのだ。

 カルラが新調したばかりの夏用シーツや、メリンが畳んでいたバスタオルに可愛い火が燃え移り、のどかだった居間は一瞬にして小さな大火災パニックへと早変わりした。


 ◇


「みんな落ち着いて! ちび竜、怖くないよ。ただのお話だからね」


 パニックに陥るヒロインたちを余目に、俺は特製の木彫りクシを片手に、ちび竜を優しく包み込むように抱き上げた。

 プロのトリマーとしての俺の眼は、恐怖のせいでちび竜の緋色の鱗がガチガチに引きつり、体内の火属性魔力が大暴走しているのを正確に捉えていた。職人として、恐怖で身体を痛ませている生き物を放っておくわけにはいかない。


 俺は極上のフェザータッチで、ちび竜の胸元からお腹にかけての『安心のツボ』を、骨格に合わせて優しく指圧した。


「ぷ、ぷきゅ……っ!? ふにゃぁぁ……❤」


 次の瞬間、ちび竜の瞳から完全に恐怖が消え去った。

 脳を揺さぶる極上の快感に、ちび竜はおねしょ火をピタリと止めると、だらしなく目をハートにして俺の手のひらの上で完全に脱力し、すやすやと幸せそうな寝息を立てて眠りについた。

 燃え移った小さな火も、裏山から「騒がしいな」と人間の姿で現れた神獣ルナが、白銀の尻尾をひと振りして聖魔力の風で一瞬で消し止めてくれた。


「ふぅ……。やっぱり、怖がっている子にはツボ押しマッサージが一番だな。最高の仕上がりだ!」


 ちび竜を一瞬で寝かしつけ、俺の職人としてのアドレナリンは完全に限界を突破していた。ブラッシングの熱が冷めやらない俺のギラギラとしたプロの目が、怪談の恐怖とおねしょ火のドタバタで放心状態になっていたシャロンとクゥマを正確にロックオンする。


「……ああっ! シャロンさんに、クゥマさん! 大変だ!」


「ひゃっ!? だ、だから急に大声出さないでってば!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ二人とも! シャロンさん、怪談の恐怖とおねしょ火への驚き(心労)のせいで、肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている! クゥマさんも、怖さのあまり変な力が入って背中の剛毛の絡まりが限界突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない、今すぐ俺のクシで、最高美に整えさせてくれ!」


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! こんな月明かりしかなくて薄暗い夏の夜の部屋の中で、あたしをそんな真剣な夜這いプロポーズみたいな熱い目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話(新婚生活)になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑が夏の夜でも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ, ここでヘタレ込んで声を漏らしたら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター, ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、ちび竜のおねしょ火を免れた巨大なふかふか夏用毛布を俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! 夏の夜のお部屋でうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! 暗闇に乗じた公開求婚は絶対に禁止です! マスター、あいつらは怪談で怖がっているのをいいことに居座る気満々の、ただの常習ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「夜更かしはめっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。

 怪談話から始まった、夏の夜の小さなおねしょ火パニック。

 最高の癒やしと、毎日繰り返される可愛い修羅場を包み込みながら、ペットホテル『アルカディア』の夜は、今日も賑やかでどこまでものどかに更けていくのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

真夏の夜の怪談話から始まった、ちび竜のおねしょ火弾パニック!

レントのゴッドハンドが一瞬でちび竜を極上の甘えん坊へと大陥落させて寝かしつけ、ルナ様が結界の力で火を消し止めるアットホームな日常回をお届けしました。


後半は、恐怖で敏感になっていたシャロンたちを巻き込み、暗闇の中でお約束の高速阻止&抗うツンデレ劇をたっぷりお届けしました。


次回、毎日ボロ宿に通い詰めていたシャロンとクゥマでしたが、高級スパの寮が完全に差し押さえられたため、正式にアルカディアの部屋に引っ越してくることに……!?

私生活でも24時間お約束の修羅場がスタートします!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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