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第44話:プールで泳ぎすぎた魔獣と、ふやけた毛並みの救世主

「……キュ、キュルルン、シクシク」


 お昼休みのきらきらとした太陽が差し込むプールサイドに、小さな悲しげな鳴き声が響いていた。

 そこには、宿の手作りプールが大お気に入りになり、朝からずーっと水遊びを満喫していたメッセンジャーペットの『アクア・フェレット』がうなだれていた。


 本来は水に強い撥水性の美しい毛並みを持つ魔獣なのだが、楽しさのあまり何時間も連続で泳ぎ続けてしまったらしい。夏の熱気も手伝って、自慢の毛並みが完全にふやけ、濡れた雑巾のように頑固に絡まり合ってしまっていた。皮膚が引っ張られて痛いのか、小さな身体を震わせている。


「あわわ……! フェレットちゃんの綺麗な毛並みが、ゴワゴワの毛玉になっちゃいましたぁ……!」


 メリンがふかふかのウールを弾ませて大慌てし、フィオも「これはクシを普通に通しただけじゃ、絶対に毛が千切れちゃいます!」と、金の狐耳をへにゃりと寝かせて心配そうに覗き込む。


「みんな大丈夫だよ。水と熱が同時に加わって、皮膚の根元の油分が抜けて引きつっているだけだからね。職人として、この状態は見過ごせないな」


 俺の目は、すでにそのふやけてしまった魔獣の『身体』を完全に捉えていた。


 ◇


「よしよし、怖くないよ。ずっと身体が重たくて、痛かったね。一気にフワフワにしてあげるからね」


 俺はそっと手を伸ばし、極上のフェザータッチで、フェレットのふやけた皮膚の『潤いのツボ』に触れた。

 力を一切使わない、骨格と毛流れに合わせた絶妙な指先の手技だ。


「キュルルン……っ!? ふにゃぁぁ……❤」


 次の瞬間、苦しんでいたフェレットの瞳から完全に痛みが消え去った。

 脳を揺さぶる極上の快感に、彼女は野生を完全に忘れて俺の手のひらの上で仰向けになり、だらしなく目をハートにして蕩け落ちた。


「カルラ、ハーブ水を冷力で整えた『特製お肌に優しい泡立ちソープ』を! メリン、送風団扇の準備を!」


「はいですぅ、マスター! いつでもいけますよぉ!」

「ええ、余分な摩擦を抑える極上の泡を用意したわ」


 俺は乾いたクシをいきなり入れるのではなく、カルラ特性のソープを俺の手のひらで超微細な泡に仕立て、それをふやけた毛並みに優しく滑らせていった。泡のクッションで摩擦を完全にゼロにしながら、絡まりの芯を指先で一瞬で解きほぐしていく。

 仕上げに、メリンが風の精霊石を組み込んだぬくぬくの送風団扇で静かに温風を送り、余分な水分をサッと吹き飛ばしていった。


 濡れ髪の状態から一瞬でフワフワに戻す、プロの職人技の連携だ。


「にゃ、にゃ〜〜〜ん❤」


 フェレットが気持ちよさそうに身悶えし、乾き上がったその毛並みは、行く前よりも何倍もフワフワで、まるで最高級の高級綿あめのように白く輝きを取り戻していた。


「すごいクマ……! あんなに雑巾みたいに絡まってた毛が、一瞬で抱きしめたくなるような極上のぬいぐるみになっちゃったクマ!」


「お水と泡の特性を完璧に理解した極上のブラッシング……! あ、あの男の手技はやっぱり反則だわ……っ!」


 プールサイドの隅でツンデレ監視(出勤)をしていたシャロンとクゥマが、あり得ない職人技のビフォーアフターにまたしても大衝撃を受けていた。


 ◇


「ふぅ、プールでふやけた子には泡と風のスピードお世話が一番だな。最高の仕上がりだ!」


 お悩みペットを完璧にケアし終え、俺のトリマーとしての快感は完全に限界を突破していた。ブラッシングの熱が冷めやらない俺のギラギラとしたプロの目が、プールサイドのベンチでフェレットの愛らしさに放心状態になっていたシャロンとクゥマを正確にロックオンする。


「……ああっ! シャロンさんに、クゥマさん! 大変だ!」


「ひゃっ!? だ、だから急に大声出さないでってば!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、特製クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ二人とも! シャロンさん、プールサイドの湿気と太陽(寒暖差)のせいで、肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている! クゥマさんも、驚きのあまり変な力が入って背中の剛毛の絡まりが限界突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない、今すぐ俺のクシで、最高美に整えさせてくれ!」


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! そんな水飛沫がキラキラ輝いてる真夏のプールサイドで、あたしをそんな真剣な公開プロポーズみたいな熱い目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話(新婚生活)になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑がプールサイドでも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ, ここでヘタレ込んで声を漏らしたら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御 of の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター, ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、新しく洗濯したばかりの巨大な夏用のひんやりバスタオルを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! プールサイドでうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! 水飛沫をダシにした公開求婚は絶対に禁止です! マスター、あいつらは髪が少し濡れていつもより無防備なのをいいことに完全に居座っている、ただの常習ツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、厨房から冷たい特製ジュースを持って出てきたカルラが笑顔のまま「水遊びはめっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの濡れ髪を国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。

 手作りの『ぬくぬく温水プール』が加わって、最高の夏休みを迎えたペットホテル『アルカディア』。

 そこには、今日もモフモフの奇跡と、賑やかで可愛い修羅場の声がどこまでものどかに響き渡るのだった。


あとがき


お読みいただき、ありがとうございます!

特製プールで遊びすぎて毛並みがふやけてしまった『アクア・フェレット』を、レントの泡と風の職人技で見事にフワフワな極上ぬいぐるみへと大陥落させました!

後半は、プールサイドの隅にいたシャロンたちを巻き込み、お約束の高速阻止&抗うツンデレ劇をたっぷりお届けしました。


次回、裏庭に居座る神獣ルナが、レントのブラッシングの腕前に感心し、「我も手伝おう」と人間の姿のままホテルの手伝いを始めることに……!?

だが、その神々しい美しさにレントのプロの目がロックオンされてしまい――。


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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