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第43話:常連貴族たちの来襲と、信頼の完全移籍

「まあ! シャロンにクゥマ、あなたたち本当にここにいたのね!」


 お昼休みの賑やかなロビーに、扇子を華麗に広げた見覚えのある公爵家のお嬢様が、大勢の貴族や大富豪たちを連れて大挙してやってきた。

 彼らの腕や足元には、高級スパ『ラグジュアリー』の営業停止によって行き場を無くしていた、血統書付きのわがままな魔獣や高貴な猫たちがずらりと並んでいる。


「お、お嬢様!? それに、ウチの店の元お得意様たちじゃないの! なんでこんな郊外のボロ宿にみんなで押し寄せてるのよ!」


 シャロンが顔を真っ赤にしてポニーテールを揺らし、クゥマも驚きで丸い熊耳をピコピコと動かした。


「ウチの店が潰れてから、この子たちが最新魔導機器のケアを受けられなくて、ずっと不機嫌で困っていたのよ。そうしたら、あなたたちがこの『アルカディア』で毎日生き生きと働いているって噂を聞いたの。元店長であるあなたたちがいるなら、わたくしたちも安心してこの宿に大切な家族を預けられるわ!」


 お嬢様が嬉しそうに微笑むと、他の貴族たちも「そうだ、シャロンたちの腕なら信頼できる!」「これからはこの温泉付きホテルをウチの指定宿にするぞ!」と口々に賛同の声を上げた。


「……っ。あ、ありがと。べ、別にアンタたちのためにここで働いてた(居着いてた)わけじゃないんだからね!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めてツンとそっぽを向いたが、自分たちの技術を必要としてついてきてくれた元常連たちの信頼に、その瞳は嬉しそうに潤んでいた。

 フィオが天才的な手際で貴族たちの予約を帳簿にどんどん書き込んでいき、高級スパの元顧客たちは名実ともに、完全にアルカディアへと移籍することになったのだ。


 ◇


 顧客の完全移籍により、ボロ宿の格式は王都で不動のものとなった。

 だが、オーナーである俺はといえば、大繁盛の喜びよりも、元常連たちの対応で極度の緊張と疲れを溜め込んでいたシャロンとクゥマの『身体』に釘付けになっていた。プロのトリマーとしての血が激しく沸騰し始める。


「……ああっ! シャロンさんに、クゥマさん! 大変だ!」


「ひゃっ!? だ、だから急に大声出さないでってば!」


 俺はギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせ、特製クシを構え直して二人にじりじりと迫る。


「大変だ二人とも! シャロンさん、元顧客たちへのおもてなし(気疲れ)のせいで、肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている! クゥマさんも、驚きのあまり変な力が入って背中の剛毛の絡まりが限界突破しているよ! 職人として絶対に放っておけない、今すぐ俺のクシで、最高美に整えさせてくれ!」


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! 元お得意様たちが全員で見守ってるこのロビーの真ん中で、あたしをそんな真剣な公開プロポーズみたいな熱い目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に毎日お世話(嫁入り)になっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑が貴族たちの前でも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んで声を漏らしたら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマもブラシで必死に防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、新しく洗濯したばかりの巨大なふかふかベッドシーツを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! 貴族たちの前でうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! 顧客移籍に紛れた大衆の前での公開求婚は禁止です! マスター、あいつらは元お得意様が来て調子に乗っている、ただの常連不審者です! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、厨房から戻ってきたカルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけなんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺はズルズルと居間の奥へ引きずられていくのだった。

 それを見ていた公爵家のお嬢様や貴族たちは、「さすがアルカディアのマスター、あの豹族や熊族の戦士を一瞬で圧倒するなんて、やっぱりただ者ではないわね……!」と、さらに良質な勘違いを深めて大感動していた。


 高級スパの顧客が完全移籍し、さらに格式高いパラダイスとなったペットホテル『アルカディア』には、今日もモフモフの癒やしと、賑やかで可愛い修羅場の声がどこまでものどかに響き渡るのだった。


お読みいただき、ありがとうございます!

営業停止になった高級スパの元常連貴族たちが大挙して来宿し、シャロンたちの存在を信頼して、顧客がアルカディアへと完全に移籍する爽快な一話をお届けしました。


後半は、ロビーの真ん中で職人魂が暴走したレントと、貴族たちの前で必死に抗うシャロンたち、そして超スピードで阻止するメイン3人のアットホームコメディが全力で展開しました。


次回、新しくなった温水プールで遊びすぎて、毛並みがふやけて絡まってしまった『アクア・フェレット』のお悩みペットが登場!

レントの「風と泡の職人技」が再び炸裂します!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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