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第20話:悪徳ギルドの強硬手段と、不敵な買収書類

「おい、しがない元冒険者のガキ、それに出来損ないの獣人ども。大人しくそのボロ小屋から立ち退いてもらおうか!」


 大繁盛の余韻が残る『アルカディア』に、ふたたび最悪の足音が響き渡った。

 玄関扉を乱暴に押し開けて入ってきたのは、公式決戦で大恥をかかされた悪徳商業ギルド『ゴルドア商会』の上層部、バルトスだった。その後ろには、いかつい私設の護衛冒険者たちを何人も従えている。


「あらあら……。お茶の時間を邪魔する不届き者がいると思ったら、先日の負け犬さんじゃないかしら?」


 カルラが厨房から出てくるなり、聖母のような笑顔のまま、背後にもの凄くドス黒いオーラを立ち上らせる。フィオも「契約上、この土地は私たちが一括で購入済みです! 不法侵入で訴えますよ!」と金の狐耳を鋭く逆立てて帳簿を叩いた。


「ふははは! 訴えるだと? 世間知らずのガキどもが。これを見ろ!」


 バルトスがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ、カウンターに叩きつけたのは、魔導ギルドと王都の土地管理部の捺印が押された『公式な立ち退き・強制買収書類』だった。

 流通妨害も公式決戦も通用しなかったバルトスは、裏から手を回して王都の役人を買収し、法的な手続きを無理やり捏造してボロ宿の土地を強引に奪い取るという、最悪の最終強硬手段に出てきたのだ。


「シャロン! クゥマ! お前たちもそこにいたか。このボロ小屋は今日限りで取り壊しだ。さっさとウチの高級リゾートの建設準備に取り掛かるぞ!」


「ちょっと、バルトス上司……! 何よその汚いやり方は! 公式決戦で負けたのはあたしたちの技術が足りなかったからよ! こんな裏工作、あたしのプライドが許さないわ!」


 門の影から心配でついてきていたシャロンが、顔を真っ赤にして猛反発する。クゥマも「そうだクマ! こんなの間違ってるクマ!」と熊耳を逆立てて上司を睨みつけた。だが、バルトスは「黙れ、雇われの身の分際で私に口を出すな!」と一蹴する。


 ◇


 法的な書類を前に、宿の中に緊迫した空気が流れる。

 だが、オーナーである俺はといえば、庭のベンチでいつものように特製クシを丁寧に磨き上げていた。


「みんな、心配しなくて大丈夫だよ。書類の文字がいくら立派でも、シャロンさんとクゥマさんの『身体のコリ』のひどさは隠せないからね」


「……はえ?」


 俺の突飛な言葉に、バルトスもシャロンたちも拍子抜けしたような声を上げた。


「シャロンさん、上司の暴挙(心労)のせいで、肩の筋肉が昨日よりさらにガチガチになって、美しいポニーテールが悲鳴を上げている。クゥマさんも、裏工作への怒りのせいで背中の剛毛の絡まりが過去最高にひどいよ。職人として絶対に放っておけない! 今すぐ俺のクシで最高美に整えさせてくれ!」


 俺の目は、すでにギラギラとした純粋すぎるプロの目に切り替わっていた。

 たとえ立ち退きを迫られていようとも、目の前の原石の乱れを見過ごすことなど、職人のプライドが1ミリも許さない。


「さあ、今すぐ俺にブラッシングとマッサージをさせてくれ!」


 俺は特製クシを構え、ギラギラとした純粋すぎる職人の目を輝かせて二人にじりじりと迫る。


「いやぁぁ! だから来ないでって言ってるでしょ! こんな絶体絶命のピンチの時まで、あたしをそんな真剣な求婚プロポーズみたいな目で見つめられたら、あたしの野生の理性が……っ、仕来りが発動して本当に嫁入りになっちゃうじゃないのよぉぉ!」


 シャロンは顔を耳まで真っ赤に染めて後ずさるが、レントの放つ圧倒的な職人オーラ(快感の予感)に身体がすくんで escape(逃げる)できない。


「ク、クシの誘惑が緊迫した空気でも容赦ないクマ……! だ、ダメクマ、ここでヘタレ込んだら本当に連れて行かれちゃうクマ……うぅぅ❤」


 クゥマも腕で防御の構えをとるが、本能はすでに快感の予感に震えていた。


「マスター、ストーーーーップですぅ!!」


 ズサアアアアッ!

 そこへ、驚異的な反応速度で割り込んできたメリンが、新しく洗濯したばかりの巨大なふかふかシーツを俺との間にバッと広げて物理的なウールの壁を作った。


「シャロンちゃん、クゥマちゃん! 悪徳上司の前でうちのマスターに変な仕来りを押し付けないで、命が惜しければ早くお帰りくださいぃ!」


「そうです! マスター、あいつらは書類に巻き込まれた、ただの不器用なツンデレです! ほら、大人しく私の尻尾をモフモフして目を覚ましてください!」


 フィオが俺の右腕にガシッと抱きついて強力なブレーキをかけ、カルラが笑顔のまま「めっ、よ❤」とライバル二人を笑顔の圧力で押し戻していく。


「待ってくれみんな! 俺はただプロとして、彼女たちの毛並みを国宝級に磨き上げたいだけんだ! 職人のこだわりを邪魔しないでくれー!」


「ダメなものはダメですぅー!」


 結局、俺の職人魂の暴走は三人の完璧な連携によって阻止され、俺は強制買収書類を前にズルズルと引きずられていくのだった。


「ええい、お前ら何のおままごとをやっていやがる! この書類は絶対だ! さあ、今すぐ営業を停止してここを去れ!」


 バルトスが書類を突きつけ、護衛の冒険者たちが武器に手をかける。

 さすがに法的な書類を出されては、フィオたちの防衛網も通用しない。アルカディア、ついに最大のピンチ――。

 しかしその時、街道の向こうから、きらきらと輝く白銀の甲冑の地鳴りと、上品な馬車の音が近づいてくるのだった――。


第20話をお読みいただき、ありがとうございます!

悪徳ギルドのバルトスが、王都の役人を買収して「強制買収書類」を捏造し、ついに強硬手段へと打って出ました。

ボロ宿が最大のピンチを迎える中、レントの職人魂は相変わらず暴走し、シャロンたちを巻き込んでいつもの可愛い修羅場を展開しています。


次回、絶体絶命のアルカディアに、あの「最強の国家VIP」が再び降臨!

おませな王女殿下の絶対権力による、なろう王道の爽快な「ざまぁ粉砕劇」が開幕します!


続きを楽しみにしていただける方は、ぜひブックマークや評価での応援をよろしくお願いいたします!


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