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二十一話

 外側から玄関戸が開かれる。鼻先と耳を真っ赤にした青慈が、家の中に入ってきた。

「完成したんですか?」

 やちよが声をかけると、青慈は「ああ」と頷いた。

 優慈をよしに預けて、やちよはキヨノと外に出た。寒風に体を触られて、ぶるりと身を震わせる。吐き出した息は姿を得て白く浮かび上がった。

「寒い……」

 と、キヨノも身を縮めて腕をさすっている。

 家の真裏に行った。青宗の足元に、積み上げられた石が横に五つ並んでいた。やちよの命を狙い、百目鬼家に襲撃してきた村民たちに殺された青午たちの墓だ。傷が大分癒えて自由に動けるようになった青慈と青宗が作った。自分のせいで青午たちは命を落としたから、やちよも一緒に墓を作ると申し出たが、「そなたはいい。気持ちだけ受け取っておく」と青慈に断られた。

 やちよとキヨノは墓の前にしゃがんで手を合わせる。

 皆さんが命を落とすはめになったのは、私のせいです。ごめんなさい。皆さんのことは一生忘れません。

 心の中で伝えてから直り、目を開く。キヨノはもう目を開けていた。

 二人が腰を上げた瞬間、

「ほれ、姉上」

 と、青慈が、キヨノに彼女の鬼の面を差し出した。キヨノは首を傾げながら面を受け取った。

「なぜこんなものを持ってきた?」

 森田家に世話になってから、一度も被っていない面だ。どうしてこれを持ってきたのか、やちよもわからなかった。

「こうするためだ」

 青慈は墓の前に鬼の面を放った。そして面を思い切り踏みつける。木製の面は、ばきばきと音を立てながら崩れていく。

 キヨノは驚いて一瞬だけ固まったが、青慈と同じように面を踏みつけだす。青宗も彼らに倣った。

 やちよは青慈たちの横顔を見る。もう必要ない鬼の面を踏みつける彼らが、清々しく見えた。

 思い切り踏みつけられた面は粉々になり、白い木くずと化した。青慈は木くずを蹴散らしてふっと笑った。自分たちは鬼ではない。だからもう、瞳を隠すための鬼の面なんて必要ないから面を踏み割ったのだ、とやちよは思った。

 こちらを向いた青慈と目が合った。澄んだ紺碧の瞳が美しくて、つい見惚れてしまう。

「寒いであろう? 戻ろう」

「はい」

 歩きながらやちよはふと空を見上げて、足を止めた。

「どうした?」

 青慈が訊いてくる。

「今日の空の色は、青午さまたちの瞳のように澄んでいるなと思って」

 青慈も空を見上げて目を細めた。

「もしかしたら、父上たちが空の上から俺たちを見ているのかもしれないな」

「そうかもしれませんね」

 父上、と青慈が空に向かって声を響かせた。キヨノと青宗が驚いたように振り返る。

「俺たちは面を捨てました。鬼ではなく、人間として生きていく俺たちの行く末を、どうか見守っていてください」

 そう言った青慈の声は溌剌としていた。

「父上ー、叔父上、叔母上、どうか安らかに」

 キヨノも空に言う。

 やちよには、碧空の中に安堵したような青午の顔が見えた気がした。

 薄い家の壁をすり抜けて、優慈の泣き声が聞こえてきた。

「さあ、戻ろう。優慈が泣き出した」

 青慈がやちよの手を引く。

 やちよは空を見上げたまま歩く。今度は、青午たちの笑顔がはっきりと見えた。

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