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第8話 前部長登場!

「お前ら、元気にしてたかー!」


「「「おー!」」」


掛け声に合わせて腕を突き出す三人を横目に、困惑する蒼空。

無理もない、蒼空は初対面なのだから。


「まさか夏の間、練習を見てくれるだなんて……」


数日前、飛翔の携帯にとある人物からメールがあった。

内容は「夏休みに入ったから、練習を見てやろう」というものだ。

そのとある人物の正体、それは


「君が蒼空ちゃんかな?飛翔から聞いてるよ、なんてったってクイックターンができるだとか!」


「か、完全にできる訳じゃないですけど……」


いきなり距離を詰められて慌てる蒼空。

やはり彼の距離感はバグってる。


「おっと、自己紹介がまだだったな!俺の名前は三浦 勝田、青藍高校ID部の前部長だ!」


がっちりとした体格に短髪、見た目だけならラグビー選手が一番想像に近い。

眼鏡をかけているせいで少し理知的にも見える。

何事も前向き元気いっぱいな性格で、男女問わず真剣に向き合ってくれるその姿は、誰しも一度は憧れる先輩像そのものだった。


「勝田先輩は俺らの二個上で、今は確か本州の大学に通ってるんですよね?」


「あぁそうだ!体育教師をめざして大学に進学し島を離れてたんだが、夏の長期休暇に入ったから帰省しようと思ってな!」


「貴重な休みを、俺達のために……」


「むしろ俺は待ち望んでたぐらいだぜ?この夏を!お前らがどれだけ成長したか、俺に見せてくれ!」


先輩の熱い姿勢に、全員が鼓舞される。

やはりこの人は人を動かす力があるなと、改めて思う。


「そうは言っても、俺もずっとこの島にはいれん!だから今年もアレを開催することにした!」


先ほどまでの空気が一転、一瞬でその場にいた全員が顔をひきつらせた。

話についていけない蒼空は、飛翔に助けを求める。


「あの……アレってなんですか?」


「よく聞いてくれた少年!」


「えっ、あの……」


飛翔に聞いたはずの質問を、勝田先輩が遮る。

相変わらずの距離感と声のボリュームに蒼空は怖気付いていた。

あと少年じゃないし。


「説明しよう!アレとは、勝田のわくわく夏合宿のことだ!」


「わくわく夏合宿……なんだか楽しそうですね!」


「蒼空、名前に騙されちゃダメよ。そんな可愛いもんじゃないわ」


結衣が蒼空に忠告する。

その本気(まじ)な声のトーンに、蒼空はやっと状況を理解したようだ。


「さて、楽しい一週間の始まりだ!一同、荷物を纏めて17時に校門前集合!以上、解散!」


「「「「は、はい…………」」」」


始まる前から魂の抜けた声で返事をする四人。


三時間後の17時、校門前に集まったID部の四人は勝田先輩の車に乗せられ、地獄の合宿場に向かうのだった。



「よし、着いたぞ」


車に揺られること45分。

遂に合宿の拠点となる別荘へと到着する。

すでに日は暮れかけ、夕日が黒い海に反射していた。


「綺麗……」


海沿いに建てられたこの別荘は、部屋から一歩出ればそこは砂浜である。

そして、明日からの練習フィールドでもある。


「さぁ、わざわざ夜に連れてきたのには理由がある!」


勝田先輩が車のトランクを開けると、中にはぎっしりとクーラーボックスが詰め込まれていた。

中身は聞くまでもない。

夏の夜、浜辺の別荘ですることといえば


「「「「「BBQだ〜!」」」」」


箸も進めば話も進む。

勝田先輩の本州での暮らしの話、飛翔達の思い出話、そして蒼空の転校してくる前の話。

話題は尽きなかった。


「てことはゆいちゃんあいちゃんと飛翔さんって、もう10年以上の付き合いになるんですか?!」


「まあお互いこの島から出てないしね。そういえば昔愛果が……」


「昔の話はいいでしょー!もー!」


「はははっ、相変わらず仲がいいな!お前ら!」


宴会は二時間ほど続き、皆が片付け始める頃には既に月が天高く登っていた。


お風呂は大浴場がひとつしか設備されていないため、男女に分かれて順番に入ることとなった。


「勝田先輩、大学の方はどうですか……?」


男二人、水入らずの会話。

こうして二人で話すのは、いつぶりだろうか。


「順調だよ。今はIDを本州の人に知って貰うために、大学にIDのサークルを作ったんだ」


「IDを、本州の人に……?」


「あぁ。近い将来、世界共通のスポーツにしたくてな」


夏とはいえ、夜の風は冷たい。

ベランダで話す二人の手は、少しかじかんでいた。


「俺はIDが大好きだ。だから、より多くの人に知ってもらいたいんだ」


勝田先輩らしい、熱い夢だ。

語ってから気恥ずかしくなったのか、勝田先輩は鼻を擦る。


「飛翔……お前、卒業したらどうするんだ?」


なんの前触れもなく、勝田先輩は問いかける。

正直、何も考えていなかった。

自分がどうしたいのか、考えれば考えるほど分からなくなるのだ。


「……まだ、何も決めてないです」


そう、返すことしか出来なかった。


(そうか、来年はもう卒業なのか……)


長かったような、短かったような。

そんな感覚に陥るのは、生まれてからずっとこの島で育ってきたからだろう。

高校を卒業すれば、大多数の人間は島を出る。

ある人は進学のために、ある人は夢を叶えるために。

そして卒業するということは、今まで一緒に育ってきた幼なじみ達との別れも意味する。


(結衣や愛果は、卒業後のこと考えてるのだろうか……)


あと一年しかないのだと、そう思うとふと怖くなる。

今まで当たり前だったことが、あと一年で全て変わってしまうのだ。


「こうして一緒に全力でなにかに取り組めるのも、あと一年だ。悔いは残すなよ」


「…………はい」


残り一年を全力で駆け抜けよう。

そう、決意するのだった。



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