呪猫
先に言っておきたいのは、私はこの妹が嫌いだった。
なぜなら、この妹は──動物を飼っていながら、飽きると保健所に持って行ってペットを処分する、ろくでもない妹だったからだ。
「千晶姉は、そろそろ彼氏を作ったら?」
妹の皐月は会うたびにそんなことを言う嫌な女だった。
正直言って顔も見たくない、そんなふうにすら思っていたものだ。
その妹はあるときから──精神科の病棟に入っている。彼女はもう二度と、その病棟から出ることはないだろう。……そんなふうに思っていた。
* * *
この妹は中学の頃まではまともな、普通の女の子だった。
ところが、ある男と付き合い始め、手酷く捨てられてからは人が変わったように、周囲のあらゆるものを憎むようになってしまった。
顔で選んだ男だった。
妹も顔はいい方で、クラスの中でも人気があったらしい。
高校2年に付き合い始め、3年になって別れたのだが、妹は高校3年生になったのに高校を辞めてしまったのだ。
両親も大反対したのだが、皐月の決意は固く、彼女は高校卒業を前にして学校を自主退学した。
それからというもの妹──皐月は、ペットを飼っては、それを保健所に「捨てに」行くという一連の行動に、どっぷりとはまってしまったのだ。
明らかに彼女の精神状態が──極度の神経症が──もたらす代償行動だった。自分が捨てられたのと同じ様に、小さな生き物を殺処分する行為に溺れている。
自分の持っているお金では動物を購入できなくなると、皐月は保護猫を引き取ってそれを保健所へと持って行ったが、そうした行動はすぐに動物保護団体に知れ渡り、二度と彼女には動物を引き渡さないようにと──つまりブラックリストに載せられたわけ。
それから彼女は、ますます塞ぎ込んでしまった。
誰が悪いのか、なにがいけないのか。
皐月にはそんなことを考えることすら、できなくなっていたに違いない。
皐月は今度は自分を傷つけ始めた。彼女の中の憎しみが、自傷行為へと走らせたのだと私は思っていた。
自傷行為が始まってしばらく、彼女は高原近くの医療施設に預けられることが決まった。そこでなら落ち着いて自分と向き合えるだろうという、両親の切なる願いがあったろう。
でも妹は、もう戻れなかったのだ。
彼女は療養施設に入って2ヶ月も経たないうちに、荒縄で首を吊って自殺した。
いったいなにを思ったのか、橋の欄干に荒縄を結んで首を吊ったのだと警察から聞かされた。
──それはおかしいのだ。
妹は高所恐怖症だったから。
首を吊るにしても、わざわざ高い所から首を吊ろうとはしないだろう。
さらに施設にある妹の部屋もおかしなことになっていた。
壁が傷だらけになっていたのだ。
その傷はどれも小さい──まるで猫の爪で引っかかれたみたいな傷が、壁一面に刻み付けられていた。
テーブルの上にあった紙も写真もすべてズタズタに引き裂かれていた。
「いったいどうして」母はつぶやきながら皐月の部屋を掃除し、遺品すべてを引き取って家に帰った。
私は妹の遺品を前に呆然としている母を置いて、ズタズタになった写真をなんとなく集めてみた。──写真の一部が気になったのだ。
パズル様にバラバラの写真をつなぎ合わせていく。
そうして皐月の周辺だけを完成させた。
そこに写っていたのは無数の猫。
椅子に座った妹の足下や膝の上、肩にまで猫が写り込んでいる。
まるで逆立った毛みたいに、猫の身体から青い炎がゆらゆらと燃え上がっていた。
妹の精神異常は、彼女を恨む猫たちによって引き起こされたものだったのだ。
憎しみの炎を抱いた猫たちは妹を取り囲み、怨念に満ちた真っ赤な瞳を不気味に光らせていた。
私はその写真をお寺に持って行き、猫たちの供養をしようと心に誓った……




