表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪奇異譚~KAIKI・ITANN~  作者: 荒野ヒロ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/29

呪猫

 先に言っておきたいのは、私はこの妹が嫌いだった。

 なぜなら、この妹は──動物を飼っていながら、飽きると保健所に持って行って()()()()()()する、ろくでもない妹だったからだ。


千晶ちあきねえは、そろそろ彼氏を作ったら?」

 妹の皐月さつきは会うたびにそんなことを言う嫌な女だった。

 正直言って顔も見たくない、そんなふうにすら思っていたものだ。


 その妹はあるときから──精神科の病棟びょうとうに入っている。彼女はもう二度と、その病棟から出ることはないだろう。……そんなふうに思っていた。


 * * *


 この妹は中学の頃まではまともな、普通の女の子だった。

 ところが、ある男と付き合い始め、手酷く捨てられてからは人が変わったように、周囲のあらゆるものを憎むようになってしまった。


 顔で選んだ男だった。

 妹も顔はいい方で、クラスの中でも人気があったらしい。


 高校2年に付き合い始め、3年になって別れたのだが、妹は高校3年生になったのに高校を辞めてしまったのだ。

 両親も大反対したのだが、皐月の決意は固く、彼女は高校卒業を前にして学校を自主退学した。


 それからというもの妹──皐月は、ペットを飼っては、それを保健所に「捨てに」行くという一連の行動に、どっぷりとはまってしまったのだ。


 明らかに彼女の精神状態が──極度の神経症が──もたらす()()()()だった。自分が捨てられたのと同じ様に、小さな生き物を殺処分する行為に溺れている。


 自分の持っているお金では動物を購入できなくなると、皐月は保護猫を引き取ってそれを保健所へと持って行ったが、そうした行動はすぐに動物保護団体に知れ渡り、二度と彼女には動物を引き渡さないようにと──つまり()()()()()()()に載せられたわけ。


 それから彼女は、ますますふさぎ込んでしまった。

 誰が悪いのか、なにがいけないのか。


 皐月にはそんなことを考えることすら、できなくなっていたに違いない。

 皐月は今度は自分を傷つけ始めた。彼女の中の憎しみが、自傷行為へと走らせたのだと私は思っていた。




 自傷行為が始まってしばらく、彼女は高原近くの医療施設に預けられることが決まった。そこでなら落ち着いて自分と向き合えるだろうという、両親の切なる願いがあったろう。

 でも妹は、もう戻れなかったのだ。


 彼女は療養施設に入って2ヶ月もたないうちに、荒縄で首を吊って自殺した。

 いったいなにを思ったのか、橋の欄干らんかんに荒縄を結んで首を吊ったのだと警察から聞かされた。


 ──それはおかしいのだ。

 妹は高所恐怖症だったから。


 首を吊るにしても、わざわざ高い所から首を吊ろうとはしないだろう。

 さらに施設にある妹の部屋もおかしなことになっていた。

 壁が傷だらけになっていたのだ。


 その傷はどれも小さい──まるで()()()()()()()()()()みたいな傷が、壁一面に刻み付けられていた。

 テーブルの上にあった紙も写真もすべてズタズタに引き裂かれていた。

「いったいどうして」母はつぶやきながら皐月の部屋を掃除し、遺品すべてを引き取って家に帰った。


 私は妹の遺品を前に呆然としている母を置いて、ズタズタになった写真をなんとなく集めてみた。──写真の一部が気になったのだ。


 パズル様にバラバラの写真をつなぎ合わせていく。

 そうして皐月の周辺だけを完成させた。




 そこに写っていたのは無数の猫。

 椅子に座った妹の足下や膝の上、肩にまで猫が写り込んでいる。


 まるで逆立った毛みたいに、猫の身体から青い炎がゆらゆらと燃え上がっていた。

 妹の精神異常は、彼女をうらむ猫たちによって引き起こされたものだったのだ。


 憎しみの炎を抱いた猫たちは妹を取り囲み、怨念に満ちた真っ赤な瞳を不気味に光らせていた。

 私はその写真をお寺に持って行き、猫たちの供養をしようと心に誓った……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ