死者が呼ぶ湖
これは、あるバスガイドが話していた──とある湖で起きたという怪談話だ。
もしかすると、聞いたことのある人もいるかもしれない。うろ覚えなので、内容は多少変わっているかもしれないが、ご了承いただきたい。
さてそれは、大きな湖のそばを通ったとき、バスガイドさんがマイクを持って話してくれたこと。
「この湖では、事故で死亡する人が異様に多いと噂されている場所なんです」
彼女は雰囲気を出すために、あえて声を落としていた(まだまだ若いのに、堂々としたしゃべり方は大したものだと感心したのを覚えている──ああ、そんなことはどうでもいいか)。
湖で釣りをしていた若者たち数名が、手漕ぎボートに乗って夜の湖に繰り出すと、ふざけた彼らは、溺れたふりをしたところを写真に撮ろうと言い出したらしい(なんともバカな連中だ)。
2人だか3人だかが(ここでは2人)、ボートから湖に飛び込み、溺れたふりをして、ボートの上にいた奴が数枚の写真を撮って、2人は陸まで泳いで戻ったそうだ。
──ところが、陸に上がって来たのは1人だけ、水泳の得意な○○の姿が見えない。
そこで若者たちは大慌てするのかと思いきや、なんとバスガイドさんの話では「あ──あいつ、また隠れて脅かす気だな、ほっといて帰ろうぜ」などと言って、その日は帰ってしまったんだと。
薄情すぎて涙が出る。
そう、オチがもう見えただろう。
次の日、陸に上がって来なかった友人は、水死体で発見されたのだ。
そして、カメラで撮った写真を現像してみると(昔の話なので、カメラはフィルム式の物なのだ。昔のカメラについては自分で調べてくれ)、現像された写真には、水死した友人に群がる無数の手が写っていたのである。
……と、ここまでがバスガイドさんが話してくれた怪談。
だが私は、この先について考えてみた。
おかしいとは思わないか? なぜ友人の姿が見えなくなったのに、彼らは探そうとせず家に帰ったのか。
そう、実はこの話は怪談などではなく、殺人事件の話が歪曲されて広まったのだ。
友人2人は、1人の友人に恨みがあった、──または借金などの負債を負っていた。そう考えるのが妥当だろう。
「溺れるところの写真撮ろう」などと言うのもおかしな話だ。
つまりこの話の真実の話は──実はこうなのである。
* * *
死亡した男性と付き合っていた女性がいた。
彼女はしだいにその男と別れて、別の男(死亡した男性の友人)と付き合いたいと思うようになっていった。──そこで、夜の湖に呼び出し、男を溺死させようと謀ったのだ。
ボートの上で写真を撮っていたのは、実は、男の友だちなどではなく、バスガイドその人だったのだ!
彼女は浮気相手をそそのかすと、3人で夜の湖にボートで出たのだ。そこで浮気相手に、付き合っている男の頭を湖に突っ込まさせ溺死させると、彼女らは夜の湖を去って行ったのである。
本当に恐ろしいのは、人間の中に棲む──邪悪な本性といったものであるのかもしれない……
だが、まあ。この話も嘘だろう(私が考えたものだからな)。
考えてもみてくれ。
わざわざ殺人事件を手引きしたバスガイドが、自分の身の回りで起きた事件のことをネタにして、不特定多数の人間に話すだろうか?(そもそも写真を撮っているはずはないしな)
もしこの怪談のことが警察の耳に入れば「やっぱりあの女が怪しい!」と言い出すかもしれない。
そんなリスクを冒してまで、この話題を披露したいという──変質的な考えをする人物なら、やるかもしれないが……
いずれにしても、急にいなくなった友人を心配もしないで帰る、というのは──作り話としても手抜きがすぎる。そんな風に思うのは私だけだろうか……(バスガイドの○○さん、ごめんなさい)




