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現在私は12歳、名前はライラ・リヴェラーニ。
おとなしく読書好きな女の子になりました、というかそう見せています。
お嬢様の生活に飽きた私は図書館に行くと家族に伝え、コッソリと街に遊びに行くことを3年前からしている。
小さい頃からひたすら大人しいお嬢様を演じ続けた結果、家族は私がこんなことをしているとは微塵も思っていない。
最初は商家の女の子のような恰好をしていたけど、出かけた先でカツラと男の子の服を買い、男装して街に行くようになった。
最近は膨らみはじめた胸をさらしで潰し変装する。あまり外出すると怪しまれそうなので週に2度、図書館に行くと言っては出かけるのだ。
そのうち一回は本当に図書館に行くようにしているけどね。
そしてこんな私を助けてくれるのが使用人のマイヤ。
私が5歳の頃、道で倒れていたのを保護して使用人となった。3つ年上の15歳の彼女は私に恩を感じているらしい。真面目で勤勉、とても優秀な使用人だ。
唯一彼女には私の素を出している。
マイヤは雇い主の父よりも私の言うことが絶対の忠誠心の持ち主で、男装して外出していることも黙ってくれている。
因みに精神年齢はもうすぐ30歳なので子供が一人で、街に出かけるのが危ないという認識はある。
そのため幼いころから護身術と剣術を習っており、今ではそこら辺の大人よりは強い。
マイヤはそれを知っているので街に行くことに関して口を出すことはない。
もちろん淑女としては武道なんてアウトだ。
本ばかり読んで運動しない子供を演じ続けた結果、少し動くと疲れてしまうため運動目的で習いたいと親を言いくるめた。
この世界では武道の他に運動ってあまりないから…。
家族が見ている所では本ばかり読み、不在の時を見計らって猛練習をしていた。
先生が来ているときしか練習をしていないと思っているので、私がここまで強くなったなんて知る由もない。
そんなこんなで気軽に街に遊びに出ている私。
街に出始めてすぐの頃に友達ができた。
カイという同い年の茶色い髪をした男の子。
カイが不良っぽい年上の子たちに絡まれているのを助けたのがキッカケだった。
「お前小さいのに強いんだな」
「小さいは余計だ」
(助けてもらっといてなんて言い方だ)
正直口が悪いやつだと思ったけど、かしこまった貴族の生活に辟易してたので気が楽だった。
本当なら毎日でも遊びたいけど私がそういう訳にもいかない。
カイにもなにか事情があるのか、お互いはっきりとした約束をして会う訳じゃない。偶然会ったら遊ぶ…そんな仲だった。
でもそんな関係が楽しかった。
今日は会えるかな?そんなことを考えながら街へ出ていた。ここ一カ月は会えていない。
この3年間でここまで会えなかったのは初めてだった。
(まぁこんな広い街中で偶然会えるなんてなかなかないよね)
「ラウリ」
誰かに呼ばれた。私が街に出るときに使っている名前。
振り返るとカイがいた。
「おー!久しぶり」
久しぶりに会ったカイは
「…なんかデカくなった!?」
身長が伸びていた。
「へへっ…成長期なのかな…お前は相変わらずチビだなぁ」
「うるさい」
ライラは小柄だ。母親も小柄で父親も男性の中では小さいほうなので、ライラがこの先身長が伸びる可能性は低い。
前世では168cmと女性の中では大きいほうだったから小柄に憧れた。でもこの世界ではドレスの見栄え的に身長が高いほうがかっこよく見える。
結局はないものねだりだ。
カイと街をブラブラして買い食いしたり、木登りしたり、剣術のまね事したりして一日中遊んだ。
あっという間に楽しい時間は過ぎる。
「もう帰らないと…」
夕日が出てきた。
「…そうだな」
どこかカイの声が暗い。
「どうした?」
「なぁ…俺…もうお前と会えないかもしれない」
「…えっ?」
正直驚いた。
男装でカイと会い続けるのは無理なのは知っていた。
この時間はいつかは終わると。
でも終わりを告げるのは自分からだと思っていた。
「そっか…」
特に事情は聞かなかった。
私にも聞かれた困ることがあるように、彼にも何か事情があるだろう。言えることならきっと話をしてくれているはず。
「フフ」
横から笑い声が聞こえた。
「!?なんだよ?何笑ってんの?」
カイと向かい合い背が伸びた彼を見上げる。
「いや…」
首をかしげる私に彼は手を伸ばす。
「やっぱいいな…お前…」
「ラウリ、お前が……」
私の頭に手を置き何かを囁いた気がしたけど何を言ったのか、聞き取ることができなかった。
「じゃぁな」
カイは行ってしまった。