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〈王都動乱篇〉第9話 光の御使いと深まる謎


深緑色の光を放ち〈空間転移門〉が開かれる。

そして、俺は狙撃手の居る場所へ現れた筈だった。


しかし、其処に狙撃手の姿は無く、気配すら見つける事が出来なかった。


溜息を吐き、振り返ろうとした刹那、背後に強烈な〈意志〉を感じた…

その瞬間…左胸に激痛が走った。


「?!」


左胸に大きく孔が空いていた…

油断なく全身に波動を満たしていたにも関わらず、弾丸は俺の体を容易く貫通していた。


(…弾丸くらいなら弾き返せる筈なのに…)


自分に空いた孔を見ながら、


(…そうか、さっき感じた強烈な〈意志〉、あれを弾に込めていたのか。)


狙撃手の居場所を捜すべく、感覚を研ぎ澄ます…

400m程離れた巨大な岩の上に、狙撃手を見つけた。


(俺が〈転移〉して来る迄の数秒で、彼処(あそこ)まで移動して狙撃して来たのか…俺が、苦手なタイプだな。)


遠距離攻撃に対して、距離を詰める手立てが無いのだ…〈空間転移〉では敵に悟られてしまい、また同じ状況になるだろうし…

〈瞬間移動〉は、【魂の力】が回復していない為、今はまだ使えない。


残る手立ては、超速で飛んで行くか、超高速移動で走り抜けるしか無い…のだが、

しかし、飛んで行くには直線的な動きしか出来ない為、狙撃の格好の的になる。


(走って行って、ドンしか無いよなぁ…

なんか前にも似たような事やった気がするんだけど、あの時と状況似てるなぁ…)


仮想世界で真也と対戦した時の事を思い出して…


(…あの白仮面、まさか…違うよなぁ?)


肌で感じる雰囲気というか、何かが真也とは違っていて、特に気にしてはいなかったが…動きが何処と無く似ている気がする…


この余りにも似通った状況に、少し気になり始めていた。


(まぁ、捕まえて、仮面を剥がしてみれば分かるさ。)


俺は、一気に走り出した。

内に満たしていた波動を両脚に集約し、一気に爆発させる事で、超高速のスピードを得る。


姿が霞む程のスピードにスコープ越しの眼がついて来れる筈は無いのだが…


左肩に弾丸を受けた。


(ちっ、マジかよ…このスピードでも着実に当てて来んのか…だったら…)


俺は、直線移動から円移動に切り替えた。

直線的な動きは、どんなに早くても自動照準機能が付いてれば意味が無い事は知っていた…


円の動きに変えた途端、狙いが外れた。

予測出来ない動きと引き金を引いた瞬間から着弾する迄のコンマ数秒の間に直線で飛んで来る弾丸を円で動く事により交わす事が出来た。


そして、残り50m程の所まで迫った時、勢いよく跳ね上がり、前方に一回転して大地を蹴りつける。


同時に脚に集約させていた力を爆発させた。


凄まじい衝撃で、巨大な土煙が上がり、

俺の姿は見えなくなっていた。


「?!」


俺の姿を見失い、狙撃手の動揺した感情が伝わってくる…


次の瞬間、狙撃手の背後に現れた俺は、右手にフルンティングを握っていた。


振り下ろされる漆黒の刀身は…狙撃手をすり抜けた。


「なっ?!」


その瞬間、俺は直感で動いていた。

フルンティングの勢いを殺さずそのまま背中に回す、

其処へ斬撃の音と衝撃が伝わってくる。


俺は、冷や汗を流していた。


(怖ぇ〜、全くあの時と同じかよ…って、まさか…)


跳び退がりながら振り返る。

フルンティングの刀身が、半分に切断されていた。


身長は、俺より少し高い…薄紫色の髪が印象的だった。

身体つきは、女性のものとは明らかに違い、男性であろうと推察出来る。


その白仮面に白い服を着ている男の手には、ライトソードが握られていた。


(…真也、じゃない…雰囲気が違う…)


「…君は、何者なんだ。使ってる武器を見る限りは…間違いなく〈召喚者〉だよな?」


「…」


白仮面は答えず、代わりに踏み込んで来た。

ライトソードを回転させながら、自分も回転しつつ斬り込んで来る。


必要最小限の動きでで交わし続け、相手の隙を探そうとするが、ライトソードの軌跡が無数に描かれ、

隙を伺うどころか、避けるので精一杯だった…


剣筋を予測しながら紙一重で躱したが…白仮面の回し蹴りが襲って来た。

其れを受け止めると、更にライトソードが斬り上がって来る…防戦一方になり、反撃する事が出来ない。


連続して攻撃して来る戦い方は、かなり手馴れている。


(…かなり、場数も踏んでるみたいだ。)


「めっちゃ強いよね君…

君が〈神の使徒〉って奴なんだろ?」


ライトソードを躱しながら、声を掛けてみた。


白仮面の口許が少し上がり、

ライトソードの光の剣線が止まる。


「…あなた、勘違いしてるよ…僕は〈神の使徒〉じゃあ無いんだぁ、

僕はねぇ、神より遣わされた〈光の御使い〉…なんだ。」


白仮面が、初めて口を開いたのだが、

全く聴き覚えのない声だった。


(…やっぱり、知らない声だなぁ…少しは期待したんだけどね、でも…戦い方が…)


俺は折れたフルンティングを戻しながら質問してみた。


「…〈光の御使い〉って何?」


聞き慣れない言葉だ。


「あなたには、〈光の天使〉と言った方が理解し易いかもねぇ、【転生者】さん。」


「は?〈光の天使〉って…じゃあ何、君を〈召喚〉したのは神様って言いたいの?」


「そう、その通りだよ。

僕は〈光の天使〉としてこの世界に〈召喚〉されたのさ。その辺の〈召喚者〉と一緒にはしないでほしいなぁ。」


そう言って、白仮面は両手を広げると同時に、

背に白い翼が生える。

頭の上には、霊気の輪が浮かんでいる。


その翼を広げた瞬間、異常な程凄まじい霊気が、白仮面の男から放出される。


「フフ…此れが、〈天使の力〉だよぉ。」


放出される霊気は、辺りを覆い尽くしていく。


(…成る程ね、凄まじい霊気だ。然も、神の霊気に似ているな。)


「さぁ【転生者】…じゃなくて【漆黒の悪魔】さん。

僕に与えられてる(みことのり)は、あなたの抹殺なんだよねぇ。だから、

大人しく死んでくれないかなぁ。」


ライトソードが、より光り輝き長くなる、高まっていく〈天使の霊気〉を注ぎ込んでいるのだ。


「…【漆黒の悪魔】?…ふ〜ん、何となく解って来たよ…それに、君には他にも聞きたい事があるんだよねぇ。」


俺も漆黒の翼を広げ、全身に波動を満たしていく…


「まだやる気なんだぁ?

さっきまで苦戦してたのに、〈天使の力〉を解放した今の僕に勝てるとでも思ってるの?」


白仮面の男は、自分の力に絶対の自信を持っている様だった。


「さぁ…続きをやろうか。」


俺は、四肢に力を溜めながら、全身の感覚も研ぎ澄ましていく…


「そうだね、直ぐに抹殺してあげますよ。」


白仮面は、ゼロとは対象的に〈天使の霊気〉を爆発的に放出していく。

頭の上の輪が強く光輝く…





一方その頃、エリス達の方は…

エリスの愚痴をずっと聞かされ続けて、辟易(へきえき)していた【黒き竜王(リュードブルム)】は、項垂れ(うなだれ)ながら溜息を吐く。


「何でこんなにたくさんの下等生物達が、倒れているのですか?

確か…貴方の〈霊気〉の所為でしたわよね?

まったく…麓まで〈転移〉させるのも楽では無いと言うのに…」


エリスは愚痴りながらも〈空間転移〉を続けていた。

一度に5〜7人を〈転移〉させていたので、傭兵達は、

既に半分程に減っていた…


「仕方ないでは無いか…此奴ら下位生命体(人間)は、我等の様な上位の存在を前にすれば、皆こうなるのは知っておろう?」


黒き竜王(リュードブルム)】が、弁解めいた事を言っていたが、


「はぁ?上位の存在が、己が〈霊気〉も抑えられないなんて事は、ありませんよね?」


黒き竜王(リュードブルム)】を横目で睨みつつ、その瞳には、侮蔑が込められている。


「う、うぐぅ…」


再度、肩を落とし項垂れる巨大なドラゴン。

その姿は、悲壮感が漂っていた。


「別に気にしてませんわ、御主人様に仰せつかったのは私ですからね。

それよりも、貴方は貴方のお仕事をまっとうして下さいな。」


突き刺さる言葉に小さくなっている【黒き竜王(リュードブルム)】だったが、


「ん…どうやら来た様だな。

その者達の搬送が終わるまで、我と眷属共で奴等の足留めをしておく。それが、我が友ゼロとの約束だからな。」


何か、ちょっと胸張ってる感のある【黒き竜王(リュードブルム)】だった。


「そうでしたわねぇ、では頼みましたわ。

私は少し疲れたので、暫く休憩しておきますね。」


「えっ?…我が足留めしてる間に、急いで…」


「何ですか?まさか…私に指図をするつもりですの?」


エリスから冷たい霊気が沸き起こる。

黒き竜王(リュードブルム)】は、慌てて、


「あ、い…いや、そんなつもりは無い!…ただ、

…早く終わらせれば、ゼロが喜ぶかも知れんと思っただけだ…気にするな。」


エリスの整った眉が、ピクリと動いた。


「…それもそうねぇ、休んでる暇はありませんわね。

さて、残りをさっさと片付けてしまいましょうか。」


エリスは、再び〈空間転移門〉を開いた。

黒き竜王(リュードブルム)】は内心、してやったとほくそ笑んでいた。


「それじゃあ、我も始めるとするか…」


黒き竜王(リュードブルム)】は振り返り、帝国軍を足留めすべく、〈思念波〉を送り、眷属達を呼び寄せた。




中央大陸北部にあるローザンガルド帝国、列強諸国の中でも最大の規模を誇り、軍事力もズバ抜けている。


その帝国軍特殊機動部隊の一団が、霊峰に向け進軍していた。


砲台が2門取付けられている装甲車が、先頭を走っている。


キャタピラーに人の上半身を付けた様な機動兵器、5台

蜘蛛の様な形の機動兵器、3台

低空飛行用機動機に乗る強化装甲服の兵士20人

大型の装甲輸送車が3台が最後方に連なっていた。


一個小隊クラスの部隊の様であった。


装甲車が止まり、中から軍服の男が2人出て来た。

1人は鍔付き帽を被り、帯刀している。

この隊の上官の様だ。


「ゲルマン中尉殿、もうすぐ目標地点だと言うのに、いつもの出迎えが在りませんね?何かあったのでしょうか?」


「知るものか!

大体何故、俺がこんな僻地に派遣されなければならんのだ?上層部からの極秘任務だと聞かされ、いざ着任してみれば、武器商人の様な事をやらされておるではないか!」


ゲルマンと呼ばれた中尉は、かなり御立腹の様だった。


「ですが、この任務を遂行すれば、出世が早いと前任の大尉は話しておられましたし…政治的な何かがあるのだと思いますよ?」


下級士官の男が宥め(なだめ)ている。


「分かっておる。

それが無ければ、直ぐにでも帝都に戻っておるわ!

…それにしても遅い!

我等帝国軍を待たせるとは、何様のつもりだ?」


ゲルマン中尉の怒りが別の方向へ向いた様だ。


「おかしいですよね?彼等は、いつもなら前日から野営しているので、遅れる事など無い筈なのに…

偵察兵に様子を見に行かせては、如何でしょうか?」


「良いだろう、お前に任せる。」


「では…」


偵察兵が、低空飛行用機動機を駆り飛び立って間も無く、偵察兵が飛んで行った先で、爆音と煙が上がる。


「なんだ?!」


「どうした?何があった?!」


装甲車からゲルマン中尉が、飛び出してくる。


兵士達も煙の上がっている方を見ていた…

何かが近付いて来る音が、段々大きく鳴り、微かに体感出来る地響きも徐々に大きく成って行く。


「ド、ドラゴンだぁ?!」


兵士達から絶叫が上がった。


林や岩陰から何体も地竜(アースドラゴン)が現れたのだ。

待たずして、空にも黒い影が現れた。

飛竜(ワイバーン)の群れが迫って来ていた。


「ドラゴンの襲撃だぁ!」


兵士達に動揺が走る。


「ど、ど、どうしますか、中尉殿ぉ!!

これは、想定外ですよ!」


「慌てるな、此方には武器は山程あるのだ。

各員戦闘態勢に入れ!ドラゴン共を迎え撃てぇ!!」


キャタピラー付きは背の砲台と両手のランチャーで、対空砲火を始め、蜘蛛型は、地竜(アースドラゴン)を迎え撃った。

ドラゴン達の急襲により、両陣営入り乱れての攻防戦になっていたが、不意を突かれたとは言え、ドラゴン達と互角以上に渡り合っている、帝国軍の武力は流石である。


魔竜(リンドブルム)の姿は無い、このまま押し切れ!害獣でしか無いドラゴンなど皆殺しだ!」


ゲルマン中尉は、勝利を確信していた。


個別に戦うドラゴンに対し統率がとれた上に、機動兵器の高火力により、戦況は帝国軍の方に傾いていた。


「軍隊を舐めるなよ、害獣風情が!

この分なら、あの忌まわしい魔竜(リンドブルム)だろうが、赤子の手を捻るように勝てるぞ!」


ゲルマン中尉は、勝てそうな戦況に高揚し、人が触れてはいけないモノを…彼は侮辱してしまった。


そして、それは来た…


彼等は見た、人が手を出してはいけない…存在を、

天空に浮かぶ、巨大な黒き竜…

存在するだけで放たれる荘厳な霊気の波動は、世界を覆い尽くしていく…


其れまで戦っていた兵士達の動きが止まる。


静かに降り立つ黒き霊獣の姿は、凝視出来ぬ程の威厳と威圧を備えていた。


⦅我を愚弄するとは身の程を知らぬ者共だ…⦆


普通の人間には、彼の〈聲〉は聞こえない様だ。


「ま、ま、魔竜が…魔竜が、現れた…」


下級士官は、腰を抜かしてしまった。

それは、無理からぬ事だった。

目の前の【黒き竜】は、帝国の民にとっては畏怖の象徴なのだ。


「お、臆する事はない、今の我等ならあの忌まわしい竜にも勝てるぞ!

ぜ、全軍総攻撃だ!目の前の害獣を討ち滅ぼしてしまえ!」


ドラゴンに優勢だった為、ゲルマン中尉は【魔竜】にも勝てると言う、間違いを犯した。


国を半壊させるほどの敵に一個小隊で勝てるなど、全く根拠の無い話である…

ゲルマン中尉は、多分余りの恐怖で錯乱してしまったのだろう…若しくは、ただのバカか…


⦅愚かな…また、我が逆鱗に触れると…言うのか。⦆


上官からの命令を受けた兵士達は、立ち向かう為の気力を奮い立たせ、【魔竜】に向かって進撃を開始した。


無数の砲撃が唸りを上げ、【黒き竜王(リュードブルム)】に襲い掛かる。

が、霊気の障壁に阻まれ、一切のダメージが及ばなかった。

黒煙で【魔竜】の姿が見えなくなっても、砲撃は()まなかった。


黒煙の中で平然と立っている【黒き竜王(リュードブルム)】は、


⦅…しかし、今回はゼロとの約定があるからなぁ、傷付ける訳にもいかんか…

まぁ、要はエリスがアヤツ等を退避させる迄の時間稼ぎをすれば良いのだ…が、⦆


ブレスを軽く吐き、黒煙を消しとばしながら、

後方の様子を窺ってみる。


エリスの方は、どうやら2〜3回〈転移〉すれば終わりそうだった。


⦅おぉ、この程度なら少し時間を稼げば…ん?

…どうやらゼロの方も終わったようだな。

それじゃあ、我は我の役割を果たすとするか。⦆


そう言って、群がる機動兵器達を尾の一撃で戦闘不能に陥れた。


「ば、馬鹿な?!我が軍が誇る機動兵器が、こんな…アッサリと?!」


ゲルマン中尉が、大量の汗を掻きながら…でっかい独り言を叫んでいる。


低空飛行用機動機(エア・ボード)を駆る強化装甲服の兵士達は、訓練で統率のとれた編隊飛行で【魔竜】に迫る。


援護の砲撃は無くなったが、

注意を引く陽動班と攻撃班に分かれ、連携しながら【魔竜】へ攻撃を仕掛けていく。


⦅…良い動きをしておる、惜しむらくは火力が全く足りていないな。⦆


黒き竜王(リュードブルム)】は、適当に尾を振り回し、背の翼を軽く羽ばたかせ気流を起こす。


低空飛行用機動機(エア・ボード)の兵士達は何とか耐え抜き、編隊を立て直し、なお攻撃を仕掛けて来る。


だが、【黒き竜王(リュードブルム)】には、全くダメージを与えられ無い…


下級士官が、ゲルマン中尉に進言する。


「ゲルマン中尉、機動兵器が全滅してしまった以上、このままではジリ貧です…撤退のご指示を…」


「わ、分かっておるわ!

あんな害獣に手も足も出ぬとは、何と無能な部下共だ…」


「しかし、彼等も懸命に戦っております…」


「ほう、そうか。ならば貴様に、名誉挽回のチャンスをやる。低空飛行用機動機(エア・ボード)隊を率い、殿を務めよ。

俺は、こんな所で死ぬわけにはいかんのだ…」


そう言って、一目散に装甲車に乗り込むゲルマン中尉だった。


「なっ?…ま、待って下さいよぉ…」


車を急発進で走らせる。


「覚えていろよ、害獣の分際で俺を怒らせやがって。

直ぐに貴様の討伐部隊を…」


装甲車を走らせながら悪態を吐くゲルマン中尉だったが…

走り出した装甲車を、天空から降って来た何かが押し潰し、装甲車が大破爆発した。


下級士官は見た…

爆煙の中からゆっくり歩いて来る、黒く美しい女性を。


「あら、いつまで遊んでいるつもりなの?【黒き竜王(リュードブルム)】。私の方はもう終わりましたわよ?」


現れたのは、エリスだった。

どうやら全員の退避が終わったのだろう。


⦅…別に遊んでいるわけでは、無いのだが…其れに、その乗り物にも人間が…⦆


エリスが、【黒き竜王(リュードブルム)】の横まで歩いて行き、右拳で殴りつける。


まさに、眼を見張る光景…を兵士達は見た…


華奢な女性の拳が当たった瞬間、巨大な黒い竜は回転しながら吹き飛び山肌に激突して身体の半分が埋まってしまったのだ。


「エェーーーッ?!」


兵士達には、何が起こっているのか理解出来ない…


「黙りなさい、【黒き竜王(リュードブルム)】…

私に口答えするなんて良い度胸ですわね。」


埋まった身体を起こしながら、


⦅…す、すまん、そんなつもりで、言ったわけでは無いのだ。⦆


「まぁ、宜しいですわ。

御主人様の方も終わられた様ですし、後はあなたを連れて帰るだけ…」


エリスは、呆気に取られ、戦意喪失してしまった兵士達に向き直り。


「貴方達、早くお家に御戻りなさいな。

まだ、此処に居ると言うのなら、その存在を魂ごと消滅して差し上げますわ。」


美しい顔の口許に笑みが浮かぶ。


目の前の女性の神々しい美しさの中にあって、冷たく凄惨な悪魔の如き笑みは、魂を鷲掴みにし、兵士達は全身に油汗が噴き出し、金縛りにあったかの様に動けなかった。


エリスは言い終えると兵士達に一瞥(いちべつ)を与え踵を返した。


兵士達は、呪縛が解けたかの如く、一斉に逃げ出していった。





ゼロと〈光の天使〉が、戦っている場所でも決着が着いていた。


大地に片膝をつき、肩で息をしている白仮面の男。白い翼は片翼になり、天使の輪が消えていた。

天空に漆黒の翼を広げたゼロは、地に堕ちた天使をながめている…


その光景は、あたかも漆黒の王と其れに傅く(かしず)臣下に見えた。


「そ、そんな…筈は無い。

僕が負けるなんて…あり得ないよ、こんなの現実じゃ無い!」


白仮面の男は、敗北をどうしても認められなかった。

彼は、〈天使〉は()()()を行使する最高にして最強の存在だと自負していた…


地に堕ち、膝をつくなど…ましてや相手は、【漆黒の悪魔】と呼ばれる、忌避すべき存在。


「…いや、これが現実だよ。

君が〈天使〉だろうと、俺には勝てない…」


(…実際、かなり危なかったけども…〈森羅の智慧〉に頼らなければ、勝ち目は無かったなぁ。)


制限していたとは言え、力はほぼ互角…いや、彼の方が上だったのだ。


「…僕の方が力は上だったのに、何でこんな事になるんだ…」


白仮面は、まだ独り言を呟いている。


「…君には、色々聞きたい事があるんだ。

悪いけど一緒に来て貰うよ?」


ゼロがゆっくり地に舞い降り、白仮面の方へ歩みより、白仮面に手を掛けようとした時、仮面が凄まじい光を発した。


「?!」


眩い光は、白仮面の男を包み込み光が消えると共に男も消えていた…後に残ったのは、地に転がっている割れた白い仮面だけだった。


「何だったんだ?今の光は…」


『あれは、〈浄化の光〉の様じゃな…あの者の存在は、浄化され、〈輪廻の輪〉に戻る事無く、消滅したのじゃろう。』


(…魂が消滅したって事ですか?)


『そういう事じゃな…』


(そんな…彼は、〈召喚〉された〈天使〉だと言ってたんです…〈召喚者〉は異世界で死んでも、元の世界に戻るだけだって聞いてたけど…これじゃあ…)


『魂が無くなれば…元の世界に戻るどころか、生まれ変わる事も出来ぬじゃろう。』


俺は、激しい憤りを感じていた。

それと、一抹の不安が拭えなかった。


彼の技や戦い方は、俺の親友に…真也の戦い方に余りにも似ていたからだ。

必ず何かの繋がりがある筈だったのだが、

しかし、手掛かりは既に無くなってしまっていた。


色々考えていると、


『どうやら、向こうも終わった様じゃな…

エリスの一人勝ちじゃ…』


(?)


『それにしても、【竜王】が不甲斐ないのう。

女神に頭が上がらぬとは、世も末じゃて…』


先生には、向こうの様子が手に取るように分かっている様だ、俺には不安しかない。


(…向こうに戻ります!)


俺は、翼を広げ、急いで飛び立つ。




エルス達の処へ戻り、顛末を確認した。

帝国軍は撤退した後だったが、輸送車があった事から密輸していた事は推測出来た。

副団長と司祭は事情を知っていたのだろう。


黒き竜王(リュードブルム)】は、【果ての山脈】へ向かうべく飛び立って行った。

エリスには、魔物の族長達へ

俺が、勝手に仲間を増やした事への謝罪と今後は、定期的に戻る約束を伝えて貰う。


エリスは、竜王の背に乗り恭しく一礼し去って行った。


その後、エリスが〈転移〉してくれた傭兵達の所へ戻ると皆目を覚ましていた。


驚いた事に、俺は【漆黒の勇者】と讃えられた。


巨大な黒い竜が、彼方に飛び去って行く姿を目撃した後、俺が普通に戻って来た事で、皆勘違いした様だった…

幾ら否定しても彼等は聞いてくれず、容認するしかなく…


今後、伝説の【魔竜】を追い払った稀代の【勇者】として傭兵達の間で名を馳せる事になる。



後で分かった事だが、捕虜にしていた〈神の使徒〉3人のうち2人は姿を消し…

司祭は残ったが、絶命していたらしい。




結局、謎は深まるばかりだった…







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