〈王都動乱篇〉第5話 擬似戦闘訓練
国境警備団第一分隊の隊舎ビルは、東地区の北側にある5階建の魔法金属造だ。
この建物の1階会議講堂では、今日志願兵の審査に合格した者が一同に集まり、入隊式と任命式が行われる事になっている。
余り目立たないように入隊式が始まる30分前に会場入りしたのだが、既に100人近い新人傭兵が集まっていた。
(人多いなぁ(´⊙ω⊙`)…こんなに傭兵になりたい人が居るんだなぁ。)
ウロウロしていると目立ちそうなので、壁際に移動して傭兵を観察する事にした。
強化装甲を装着している厳ついおっちゃんやら筋肉質のお姉さんが多い中、やはり目立つのは、機械化人や半機械化人とアンドロイドだった。
皆、異様な姿形をしている。
よく見ると昨晩、店で酔い潰れていた顔見知りもチラホラ見かける。
(あれだけ呑んで酔い潰れていたのに…間に合った連中も居るんだなぁ。)
会場を見回していると、中央付近に学ランの様な制服を着て日本刀を携えている人物を見つけた。
全くこの場に似つかわしく無い感じで、異様な風態は一際目立っている。
(何だ、アイツ…全く場に馴染んで無いな…って?!)
振り返った男は…現実世界では、生徒会役員の瀧川 総司だった。
「お、お前、総司…だよな?∑(゜Д゜)」
「…お前、御上か?」
お互い指を差し合いながら二人して驚く、
「こんなとこで何やって…って、そうか!
そういや、リーナが、お前は諜報部の方に…」
いつ抜いたのか、日本刀が俺の首に突き付けられる。
「それ以上、喋るな…喋れば問答無用で斬り捨てる!」
刃から殺気が迸っている。
「あ、いや、悪りぃ…もう喋らないよ、総司。」
「この世界でその名は呼ぶな!此方での名は、セイリューだ。」
殺気を抑え、日本刀を鞘に納める。
(…そういえば、莉奈もアバター名だったなぁ。)
「セイリューね…それにしてもお前、こんな所で何やってんだ?」
「ここの傭兵に合格したんでな…」
「奇遇だねぇ、実は俺も傭兵に合格したんだぜ。」
俺は親指を立てて、ウィンクしてみせる。
「貴様…こんな所で一体何をやっているんだ?
リーナが王都で会ったと言っていたが、何でノースに居る?」
訝しむセイリューへ、
「そりゃあ…話せば長くなるから簡潔に説明するとだな。王都の【暁の墓標】ってギルドに入ったら国王から依頼が来てさぁ、この都市の動向と消息不明のお前等を探せって任務で此処に来てんだよ。」
「な、何?!…【暁の墓標】?だと…王都でも極秘扱いの特殊部隊だぞ?何故貴様が…然も国王自ら依頼に来たって言うのか…」
「そんでさぁ、急いで昨日来たんだけど、調べてたらクーデターを起こそうとしている大体の事情は分かったんで、後は此処に潜り込んで帝国関連の諜報活動をする予定なんだよ。」
「まさか、あり得ん…俺達王国近衛隊〈蒼〉の精鋭が、何日も掛け…命を落として迄探り当てた動向を…たった1日で、探り当てたと言うのか?」
(実際は、セシルさんが一人で仕入れてくれた情報だけどねぇ。)
「それにしても、何でお前だけ無事なんだ?
この都市に入った密偵は、真っ先に治安警察に捕まる様になってるだろ?」
疑問を口にしてみた。
俺がこの都市に入った時でも、あれだけの監視の目があったのに…どうやって切り抜けたのか知りたくなった。
「其れは、俺にも分からんがな…余り目立たぬ様にこの格好で行動しているからかも知れん。」
「はぁΣ('◉⌓◉’)?」
(う、嘘だろ?誰がどう見ても、この世界に学ランで日本刀持ってたら浮きまくって目立ちまくりだろ?って言うか、現実世界でも不審者ですから…って言うか、目立ち過ぎてスルーだったんじゃ…)
本人は気付いていない様なので此処は敢えて語らないでおくことにする…
「でも、セイリューは何で傭兵に志願したんだよ?」
「…帝国からの密輸を傭兵部隊がやっていると言う情報があったから真相を探る為に潜入する事にしたんだがな。」
「それなら、目的は同じじゃん!だったら俺と一緒にやろうぜ、セイリュー。
俺の持ってる情報は全部共有するし、同じ目的で動くなら一人より二人の方が何かと役に立つしな。」
その時、でっかい声で俺を呼ぶ奴がやって来た。
「おぉ〜いぃ、ゼロぉ〜!!」
ジャイアントアームのゴルドスが、まだ酒が抜けてない真っ赤な顔で手を振りながらやって来た。
(全く、目立ちたく無いのに、空気読めない奴だな…)
「いやぁ〜、昨日は飲み過ぎちまって悪かったなぁ。」
豪快に笑うゴルドスに、他人のフリをする俺は、小声で…
「いや、気にしなくて良い…特に問題はない。」
「冷たい事言うなょ…?何だこの変な格好した兄ちゃんわ?堅っ苦しそうな服来て、息できてるか?」
セイリューを弄り始めたが、相手が悪い…
「何だこの無礼なデカッパゲは?
このハイセンスな服が判らぬとは…この馬鹿は斬ってもいいのか?」
(え?ハイセンス?Σ(゜д゜lll))
「取り敢えず斬っちゃダメ…」
「あぁん?兄ちゃん、俺を斬るだとぉ!
面白ぇじゃねぇか、斬れるもんなら斬って見やがれ!」
熱り立つゴルドスに小声で、
「その兄ちゃん、めちゃくちゃ強いよ?たぶん俺より…」
「えっ?!まじっすか…」
ゴルドスの赤い顔が一瞬で青くなる。
「よ〜し、そこ迄だ。
活気があるのは良い事だが、隊の中での私闘は厳禁だからな、よく覚えておけよ。」
そう言って青褪めているゴルドスの肩に手を置いたのは、
フェルナンデス・フェロルド国境警備団第一分隊長だった。
「は、はいっ!」
ゴルドスが、背筋を伸ばしキリッと敬礼する。
セイリューも抜き掛けていた刀を鞘に戻す。
「ゼロ殿、式典の後少し時間はあるかね?」
フェルナンデスさんが、声を掛けて来た。
「ありますけど?」
不意を突かれて即答してしまった…
「では、私の執務室に来てくれないか。少し話したいことがあってな…」
「…分かりました、お伺いします。」
「無理言ってすまんな、式典の後執務室で待っている。」
そう言って、フェルナンデス分隊長が立ち去って行った。
場内には200人位の新人傭兵が集まっていた。
そして定刻になり、数十人の警備団員が段下に整列する。ゆっくりとした足取りで、壇上に隻眼の男が歩いて来る。
「静粛に!」
壇上左側に立つフェルナンデス・フェロルド第一分隊長が喝をいれる。
場内は静まり、壇上に視線が集中する。
隻眼の男が口を開く、
「私は、北部方面国境警備団団長モーリスだ。
此処に集まっておる諸君は、我が隊の審査を潜り抜けて来た、猛者揃いだと聞いている。
傭兵として、その力を充分に発揮してくれ。
諸君等の働きいかんで、報酬は思いの儘に与える!」
「うおぉぉっ!!」
会場内で大きな歓声が沸き起こる。
此処に集まっている者達は、報酬目当てで来ている。
其れが傭兵の傭兵たる所以なのだが…
「諸君に与えられる今回の任務は、霊峰へ遠征し、そこに巣食う〈悪竜〉を討伐する事だ!」
会場中にどよめきが広がる。
「太古の昔から生きている古代種である【魔竜】を討伐する事は、不可能に近い…
…数年前帝国が、魔竜討伐に失敗し、【魔竜】の逆鱗に触れた帝国は、領土の半分を【魔竜】により、一夜で焦土と化してしまった事は、皆の記憶にも新しいと思う…まさに、天災レベルの存在である。
だが、今回は違う!【魔竜】に対抗する為、
最新の技術を駆使した新たなる力を手に入れた!」
講堂の奥に掛かっていた垂れ幕が落ちると、
中から現れたのは…
全長6m程ある騎士の鎧を纏ったような人型の機械人だった。王都でガルバ技師長と開発している〈鋼導魔霊機士〉に似ている機体だった。
大きな違いは、騎士の姿は上半身だけで、下半身は蜘蛛の脚のような形状をしている処だろう。
会場内では、再びどよめきが沸き起こる。
「この【魔導機兵】を5体配備した。
対空対地戦闘において、後方からの火力支援をすると共に【魔竜】に対し、圧倒的火力で攻撃を仕掛ける。
怯んだ敵にとどめを刺すのは、諸君等の働きに掛かっている。
成果を出した者には、一生遊んで暮らせるだけの褒賞が与えられる!
諸君の健闘を祈る!!」
会場中から大歓声が沸き起こる。
壇上から立ち去って行くモーリス団長が、一瞬傭兵達に冷たい視線を送るのを、俺は見逃さなかった。
(…何だ…言葉とは裏腹な感じだけど?)
フェルナンデス分隊長が後を引き継ぎ、話を進める。
「お前達傭兵部隊は、我が第一分隊の旗下に入って貰う事になるが、諸君等の能力に併せて隊形や命令系統を確立させる為、これから1週間の訓練の後、霊峰へ遠征する。」
国境警備団員が並ぶ中、一歩前に出る数名の上官達。
「名を呼ばれた者は、各班長の前に整列するように。」
こうして、傭兵部隊は5班に編成された。
各班30〜50名で編成されている。
何故か、俺の班は10名しかいなかったが、ゴルドスとセイリューも同じ班に編成されていた。
「これから貴様等の指揮官となる遊撃班班長ムルガン・ジェゾーネだ、宜しく頼む!
この班は、特殊部隊として動く事になるのだが…他班とは違い各々で戦況を見極め行動して貰いたい。」
「遊撃班?ですか…各班の支援がメインになるって事ですよね?」
俺の質問で文句を言い出す。
「なんだそりゃあ?俺等の活躍の場がないって事じゃねぇか!そんなんやってられるか?俺は他の班へ行かして貰うぜ!!」
ゴルドスが、早くも脱班宣言をしている。
其れを静かに横目で見ていたセイリューがボソッと、
「…各自自己判断で動けるなら、最後にとどめを刺しに抜け駆けすれば良い事…」
「!」
ゴルドスの顔が、明らかに面白くなった。
「そう言う事だ、全ての行動は自己判断に任せる。
好きに動き回ってくれて構わない。
但し、俺からの命令には従って貰う!
従わぬ者には、報酬は支払わないのでそのつもりでな。」
「了解した。」
「勿論、従うぜ!」
他のメンバーも理解した様だった。
「其れでは明日より戦闘訓練を行うので、今日はこれで解散とするが、
明日は、各人の能力を把握するために、擬似戦闘訓練を受けて貰う。しっかり装備を整えて来る様に!」
そう告げると、ムルガン班長は踵を返し、国境警備団の隊列に戻った。
他の班もミーティングが終わった様だった。
「【魔竜】討伐は生半可な決意では到底なし得ない。
全員、明日からの訓練に励む様に!
其れでは、解散とする!」
フェルナンデス分隊長が、閉会を宣言した。
第1分隊執務室は5階にあり、フェルナンデス分隊長に呼ばれていたので上がって来たが、まだフェルナンデスは来ていなかったので、中で待つ様に指示された。
机の上に乱雑に置かれた資料の山が、分隊長の仕事の苛烈さを物語っている。
壁面にも、多数のメモ書きや資料が貼られている。
執務室の扉が開き、
「待たせたな、ゼロ殿。少し野暮用があってな。」
フェルナンデス分隊長が入って来た。
話しながら自分のデスクに腰を掛ける。
「俺もさっき来たところです…」
フェルナンデスが、煙草に火を付け煙を燻らせる。
「態々来てもらったのは…貴殿に少し聞きたい事があってな…」
言い澱んでいる、フェルナンデス分隊長に俺から話し掛ける。
「なんか…聞きたい事ねぇ…それって俺の素性と目的でしょ?其れに大体の事は知ってるっぽいし…」
「ほう、何故そう思うのかね?」
「その机に乱雑に置かれている資料の中に、王都の技術開発研究所でしか見られない資料が混じっている…ってのが1番の根拠かな…それも、最新技術の超極秘資料ですよね?それを作れる人物は一人しかいないからね…
それに、ずっと監視付けてたでしょ?
あれ多分ムルガン班長ですよね?まるでおんなじ気配だったし…」
「そこまで、気付いて居たのか…成る程、噂通りの様だ。
君の見立通り…ガルバ技師長は俺の旧友でな、アイツから貴殿の話は色々聞いていたんでな。君だと分かるまで多少の時間は掛かったがな。」
「…そうなると、余り隠す必要は無いのかな…
フェルナンデスさんは、此方側の人って事だよね?」
俺は、敢えて聞いてみた。
現段階では敵味方の区別はつけ難く、相手の反応が見てみたかったのである。
「そうだな…俺は…いや、俺達は、評議会側では無いな。所謂、反評議会勢力と言ったところかな。
それで、君が傭兵部隊に潜り込んだのには何の目的があったのだね?」
フェルナンデスは、机に両肘を当て、手を顎の下で組みながら話す。
話して良いか一瞬迷ったが、俺は話す事にした。
「俺の目的は2つ、
一つは、クーデターを企てている評議会は、裏で帝国と繋がっているのか。
もう一つは、【魔竜】討伐に隠されている真の目的を探るってのが理由ですね。」
フェルナンデスは、少しの間沈黙していたが、
「それならば、俺の持つ情報を話しておこう。
評議会が、クーデターを起こそうとしているのは事実だ。それに俺の調べでは帝国とでは無く、帝国の武器商人と取引している様だがな…」
「…って事は、評議会の単独犯が有力だなぁ。
それじゃあ、傭兵部隊はその武器商人との取引の隠れ蓑って事になるのかな?」
俺は推測ではなく、臆測を口にした。
「それは、分からんな我等も遠征などするのは初任務だからな…其れに、気の知れぬ傭兵がこれ程居る中で秘密裏に闇取引など出来るとは思えんがな。」
フェルナンデスの答えの方が的を得ている。
「じゃあ、何故クーデターを控えているこの時期に、都市の戦力を態々削ってまで【魔竜】討伐をやる必要が有るんです?実害が出てるわけでも無いし…
それに、こっちの戦力は減るし、疲弊するだろうし…」
フェルナンデスが、真剣な表情になる。
「それについては…おおよその検討はついている。
その話をする為に、ゼロ殿には来て貰ったのだよ。」
「こっからが本題ですか…」
「此れは、推測なのだが…傭兵の半分以上が、評議会に与している者達だろう…
我等国境警備団も第1分隊以外…いや、分隊の中にさえ評議会の手の者がいるはずだ。」
「…じゃあ、この遠征は…まさか…」
俺はある結論に達した。
「…そう、俺達、反評議会の粛正が目的だろうな。」
「それが分かっていて何で討伐に向かうんですか?
【魔竜】ではなく、貴方達が討伐されるんじゃ…」
「分かっている…だが、我等は外敵から街や国を守る国境警備団だ、その誇りを捨てる事は出来んのだ。
命令を受ければ、行かざるを得ない…例え死地に向かうと知っていてもな。」
(…断れば、それを理由に…か。)
「それで…俺に何をやらせたいんすか?」
単刀直入に聞いてみた。
「【魔竜】の討伐は、多分不可能だろう…あれは、人が手を出せる存在では無い…
恐らく、評議会は霊峰にある竜の洞に辿り着く前に事を起こして来るだろう。
此方は君がいる班と私の隊だけ…圧倒的な戦力差がある。俺も負ける気は無いが…
君には、もしもの時…同胞を救って貰いたい。」
フェルナンデスの眼は、堅い決意に溢れていた。
(…この人は、己の事より仲間を思い遣るのか…確かに、ガルバのおっちゃんの友人な訳だ。)
「フェルナンデスさんの気持ちはよく分かるけど、俺を買い被り過ぎだよ。全てを救える力なんて無い…」
「ダメか?引き受けてはくれぬか…」
「…ふぅ、仕方ないですね。ガルバ技師長の友人だし、頼まれれば断る訳にはいかないからね…出来る限り、同胞さん達は救ってみせますよ。
まぁ、全員救えるかは約束出来ないけどね。」
「そうか、有難とう…ゼロ殿にそう言って貰えれば、心置き無く出陣出来る…まぁ、
俺としてもそう簡単にやられる気は無いがな。」
フェルナンデスさんは立ち上がり、俺達は固く握手を交わした。
翌日は、空に暗く雲が立ち込め、今にも雨が降りだしそうな天気だった。
まだ、起き上がるのがやっとのセシルさんをホテルのメイドさんに預け、国境警備団の分隊演習場へ向かった。
俺が一番遅かったようで、既に皆んな揃って整列していた。
俺はその横に並び、位置に着くと、ムルガン・ジェゾーネ班長が、
「本日より、訓練を開始するが、先ずは諸君等の力を見せて貰う。其々の能力を知る事で、班の連携を強化して行けば、自ずと戦力は増すからな。」
(…なるほどね、個人ゞの力を検証して相性の良い組み合わせなんかを見るわけかぁ。
…数多くの修羅場を潜り抜けた班長さんみたいだ。)
ムルガン班長が腕を挙げると演習場の地面から魔法金属の塀がせり上がって俺達の周囲を囲む。
高さ10mの正方形で一辺が100m位あるようだ。
「自己紹介がてら、擬似戦闘を行って貰うが、禁止事項もいくつかある。
勝敗は、相手が降参するか戦闘不能になるまでおこなう。命を奪う行為は禁止する。
能力を隠す事も禁止だ、此れは皆の能力を見聞する場だからな。」
「んじゃあ、俺からやらしてくれや!」
ゴルドスが名乗りを上げ、前に出て行く。
「威勢が良いな、実に結構。
では、対戦相手は…クレハ、君にしよう。」
クレハと呼ばれた人物が前に出る。
銀色の長い髪に真紅の強化装甲を纏った女性だった。
かなり目立つ巨大なトリガーブレードを背負っている。
「はい。」
「おっ、俺の相手は女かよ?まぁ、ちと物足りないが、全力で行くゼェ!」
「私も手加減する気は無い。」
クレハは、背の大剣をアッサリ抜き構える。
「準備は良いかな?
それでは、ゴルドスvsクレハ戦開始!」
「いっくぜぇ!」
走り出すゴルドスは、自慢のジャイアントアームを構え、内蔵されているタービンが回り始める。
迎え討つべく、トリガーブレードを構えるクレハ。
鍔元のトリガーが高速回転を始める。
「おりゃあ!!」
ジャイアントアームが、轟音をあげながらクレハを襲う。
振り下ろされる巨大な拳を地面のひと蹴りで後方に交わし、着地と同時にもうひと蹴り入れる。
振り被ったトリガーブレードの刀身が灼熱に染まる。
振り抜こうとしたが、交わしたジャイアントアームが、地面に激突し、地面を陥没させる。
粉塵が舞い上がりクレハは視界を塞がれた。
「…なんて、馬鹿力なのかしら?」
「?!」
次の瞬間土煙の中から機械の剛拳が飛んで来た。
クレハが、間一髪トリガーブレードの刃で受け止めた。
「へっ、早く降参しな、出なけりゃ…」
「煩いわね、これからが楽しみなのよ!」
クレハが、トリガーを引くと刀身が灼熱に弾け、ゴルドスのジャイアントアームが、弾け飛ぶ。
「うおっ?!な…何だこりゃあ?何ちゅう衝撃だよ!」
吹き飛ばされながらも喋っている。
「どっちもかなりの威力だな。
ジャイアントアームは、内部タービンを2機搭載しているようだが、さっきの一撃は1機分であの破壊力…2機使用した最大出力だと…流石に凄まじいかもしれんな。」
ムルガン班長が、解説している。
「それに対してクレハの持つトリガーブレードは、一昔前に流行ったが、扱える者が殆ど無く廃れたと思っていたが、あれ程使いこなすとは…あの強化装甲は、手入れはされているがノーマル仕様の様だし、本人の技量が優れているのだろうな。」
かなりの解析力を発揮している。
ムルガン班長も只者では無いと物語っている。
吹き飛ばされたゴルドスは、倒れず踏みとどまっていた。
「スッゲェ衝撃だぜ…クレハ嬢ちゃんのは、灼熱振動タイプだよなぁ…6連リボルバー式って事は、連続して出せるんだろ?」
「あぁ、勿論だ。それよりも…あの衝撃を受けてまだ減らず口が叩けるとはな、貴様のタフネスの方が驚きだ…」
「へん、あの程度の衝撃なんて、俺には効かねぇーぜ!」
と、ゴルドスは強がっているが、口から血が出ている。
「両者それまで!
それ以上は、双方に大きなダメージを与える結果になるからな、ご苦労だった。
下がって次の試合を観戦しておくと良い。」
クレハは、大剣を背に戻し下がって行く。
ゴルドスも何かしらブツクサ言いながら戻って来た。
「では、次の対戦は…
セイリューvsメリーナ、前に!」
セイリューは、いつもの学ランに日本刀を腰に下げ前に出る。
対してメリーナと呼ばれた傭兵は、両手と両足に強化装甲?を装着している。
(…セイリューは、いつも通りのイタイ格好で登場だけど、メリーナって人はよく分からないな…両手両足を強化してるのは、分かるけど…)
俺の疑問をセイリューが解消してくれた。
「貴公…その出で立ちは、〈精霊召喚〉だな?
傭兵にそんな高等魔術を使える者がいるとはな。」
「あら、良く知ってるわね?
此れは、私が召喚した精霊を自分の身体に憑装した物よ。この子達は〈光の精霊〉、私に力を貸してくれているわ。」
金色のガントレットとブーツは、精霊が変化した物の様だ…セイリューの気配が張り詰めている事から只ならぬ人物なのが分かる。
「マジかよ…あの姐さん〈光迅の拳闘士〉じゃねぇか!」
ゴルドスが驚いて呟く、
「ゴルドス、あのお姉さん知ってんの?」
俺は、コソッと聞いてみた。
ゴルドスが目を丸くして、俺を見返す。
「ゼロの旦那、知らないんすか?あの〈光迅〉ですぜ?
先の帝国軍との戦いの時、二人の精霊召喚士だけで、侵攻して来た奴らを壊滅させた…その一人ですよ!」
「それは凄いな…軍隊を壊滅させる程の力…」
「旦那の知り合いのあの剣士も運が悪いっすね。
なんせ【召喚者】にも匹敵する程、強いらしいですからね、まず勝ち目は無いでしょうなぁ。」
可哀想にと言うゼスチャーをしながら、顔は意地悪く笑っている。
(…【召喚者】ね、セイリューもなんだけど、本人は隠してるみたいだから言わない方が良いかな。)
セイリューは、腰の刀を抜き正眼に構え、メリーナは、左拳を目の高さに構え右拳は腰に、低く腰を落としている。
二人の間に流れている〈気〉は常人には見えないだろうが、凄まじい気の応酬だった。
「…二人共、纏っている気配が凄まじいな、此れは楽しみな一戦だ、君達の実力を遺憾無く発揮してくれ!
それでは…始め!」
どうやらムルガン班長は見えていない様だが気配は感じているらしい…
開始の合図と同時にメリーナの姿が忽然と消え…
次の瞬間セイリューは右上段に受けの姿勢を取る。
激しい金属音が鳴り響くが、セイリューは止まらず次々に受けの姿勢を変えて行く。
連続して鳴り響く金属同士がぶつかり合う音。
メリーナの動きどころか姿さえ見えない…まさに神速、その攻撃を全て受け続けるセイリューも又、達人の域を超えている。
「な、何なんだよあれ…全く姿が見えないなんて事があんのかよ?あんな攻撃をどうやって受けてんだ?!」
ゴルドスが、額から汗を滲ませながら驚愕の声を出す。
「人の目に映らないスピードであんなに動けるものなの?!有り得ない…常人の域を超え過ぎてるわ。」
クレハも驚愕している。
「うむ、全く見えんな…」
ムルガン班長も必死に目で追っている様だが、視界に捉える事はできない様だった。
金属音が止まり、メリーナが元の位置に再び姿を現わす。
「凄いわね、私の動きに付いて来るなんて…【剣聖】以来初めてじゃ無いかしら?これ程の腕を持つのは…
貴方…もしかして…」
「少し黙っていろ、俺も本気を出させて貰う。
その軽そうな口は噤んでおけ、さもなくば舌を噛むぞ。」
セイリューがメリーナの話を遮り、八双に構える。
「あら、本気じゃなかったのかしら?…私に付いて来るのがやっとで、受けに徹していたのかと思ってたわ。」
セイリューの持つ日本刀の刀身からから溢れ出す〈鬼気〉が、訓練所を満たして行く。
セイリューの額から角が生えて来る、筋肉が隆起し、体躯も1.5倍位になった。
「?!」
放たれるその凄惨な〈鬼気〉は、人外の存在を思わせる程であった。
先程まで気配すら感知出来なかった者も、セイリューから迸る鬼気を、肌で感じていた。
(お、少し本気でやるみたいだな…
そう言えば、俺と闘った時も本気は出してなかったな?)
訓練所内の誰も声が出ない…いや出せない、それ程の圧力を伴っていた。
「その姿って…大気を震わせる程の放気…まるで、人外の存在と対峙している感覚だわ…その纏っている気はまさに〈鬼気〉ね…
それでも、私を捉える事は不可能よ。」
メリーナも再度構えを取る、やや前傾している様だ。
此方も先程より巨大な闘気を纏っている。
「お喋りは要らないと言ったが?
心して掛かって来るが良い…この状態になったら、手加減は余り出来ないからな。」
セイリューが八双の構えから腰を落とし、力を溜める。日本刀から放たれる気が重くなった様に感じられた。
「じゃあ、行くわよ!」
言うなり姿が消えるメリーナ。
セイリューは、何の変哲も無い動きで刀を振り下ろした…
振り切った直後、轟音をあげながら地面が裂けていく。
「?!」
さらに続けて刀を何度も振り回す。
振り切ると同時に大気が裂ける…高音が鳴り響いた。
眼に見えぬ刃が、辺り構わず切り裂いて行く。
一瞬溜めを作り、水平に構えた刀に〈鬼気〉を流し込む。
(…そいつはまずいんじゃ無い?)
左前方に現れたメリーナの全身に刀傷が出来ていた。
ガントレットやブーツも傷だらけ、肩で息を吐きながら片膝を地に着ける。
「ハッ…ハァ、ハァ…嘘でしょ、私の動きを上回るなんて…有り得ないわ…」
満身創痍のメリーナへ留めの一撃が放たれる。
凄惨な鬼気を放ち、水平に突き出された刀から、大気を巻きながら真空の刃が襲い掛かる。
「そ、そこまでだ剣を引け!」
ムルガン班長の制止は遅過ぎた…既に必殺の一撃は放たれている。
メリーナには、回避する余力は残されていない…誰もがその後の展開を想像していた…
メリーナが、襲い来る真空の刃の直撃を受けたと思った瞬間…姿が搔き消える。
「なっ?!」
その場の全員が…セイリューも、メリーナを見失っていた。
「危ないなぁ、もう少しで大怪我させるトコだぞ?」
セイリューの背後で声が聞こえた…全員が声のする方を振り向く。
其処には、お姫様抱っこをされているメリーナが居た。
メリーナは、キョトンとしていて自分に起こっている事が理解出来ていない様だった。
「全く…セイリュー、お前何やってんだよ?
女の子には優しくするのが男だぜ!
それを傷付けるなんて…然も留めまで入れる必要無いだろ?高々一撃貰ったくらいでムキになんなよなぁ。」
「…ふん。かなり手加減したつもりだったのだがな…
少し大人気なかったかもしれんな、謝罪しよう。」
セイリューは、刀を鞘に戻し元の姿に戻りながら頭を下げていた。
俺は、メリーナに気を流し傷を回復してから床に降ろした。
「傷口は、直しておいたからもう大丈夫だよ!それに
まったく痕も残らないから安心して良いよ。」
俺はメリーナにニッコリ微笑んで見せる。
「あ、あ…有り難う…」
メリーナもその場に居た者達も何が起きているのか全く理解出来なかった。
「…ゼロ、何がどう言う事なのか…説明してくれないかな?」
ムルガン班長が説明を求めて来た。
「ん?良いけど、多分皆んなが見てたままですよ?
メリーナさんの攻撃を受けきれなくて、光速の蹴りがセイリューの脇腹にヒットしたでしょ?
だから、アイツ少し本気になって〈力〉を使っただけど、制御が甘いから手加減に失敗してメリーナさんを危険に晒したって事でしょ?」
「…いつ脇腹に?ゼロの旦那には…あの動きが見えてたってのか?」
ゴルドスが呟く…
「其処までは、俺にも何とか見えていたから分かったのだが…問題はその後の君の行動だよ?」
ムルガン班長の質問は、皆んなの疑問をまとめていた。
「そう、…どうやってあの窮地から私を救い出したの?
それに…傷が完全に治癒してる…どうやったの?
…あなた、一体…」
メリーナも質問して来た。
(…あれ?なんかまたやらかしたんじゃないかなぁ…)
「あれは〈瞬間移動〉で当たる瞬間セイリューの後方へ跳んだだけで…」
「し、瞬間移動?!そんな事が出来るって…あなた、まさか【召喚者】?」
「良く言われるけど…【召喚者】じゃ無いんだよなぁ。」
俺は否定した、嘘はついて居ない…
「それどころか、治癒の力まで有している何て…あなたみたいな人の噂すら聞いた事がないわ…何者なの?」
メリーナは何故か少し紅い顔をしていた。
「えっと…やっぱり、答えないとダメかな?」
「傭兵なのだから語る必要は無い、語りたければ語る其れが傭兵だからな。」
ムルガン班長が助け船を出してくれた。
「…そうよね、素性を聞くのは恩人さんには失礼ね。
助けてくれた事には、礼を言うわね…
貴方にも礼を言うわ、セイリュー…私もまだまだって教えてくれてありがとう。」
「…自分で気付けたなら、お前はまだ強くなるだろう。」
素っ気ない言葉を口にするセイリューだったが、
メリーナは、口元に微笑みを浮かべていた。
「二人共凄まじい動きと力だった…
メリーナ君の光精霊の力による光速戦闘、物理的なスピードの限界の先を見る事が出来たましたし、
相対したセイリュー君は…人の域を超える力を有している様ですね…かの〈エルフの剣聖〉を思わせる程の剣技と鬼気…然もまだ余力を残している…これ程の闘いは中々見られるものじゃない…
それでは、この試合はこれまでとする。」
セイリュー達は舞台下に降りて行った。
練武台には、俺が一人残っている…
「ん?どうした、ゼロ?」
「ムルガン班長、お願いがあるんすけど…この後の擬似戦闘訓練は、俺対残り5人でやらせてくれないっすか?」
無茶な話だとは分かっている…
残りの5人もかなりの強者なのは、気配で分かっているが、どうしても拳を交えて確かめたい事があった。
「5対1は、いくらゼロの旦那でも流石にキツイですぜ?」
ゴルドスが口を挟む。
「かもなぁ…でも負けてやる気はないんで、気合い入れて掛かって来ないと全員ブチのめすから、そのつもりで。」
俺は、分かりやすく挑発してみた。
「…余程自信がある様だな、ゼロ。
其処まで言うなら…良いだろう、1対5の闘いを許可しよう。その代わり、危険だと判断すれば直ぐに止めさせるからな。」
ムルガン班長が許可してくれた…
(…流石に5人は、風呂敷広げすぎたかなぁ。)
「残りの者は、用意する様に!」
5人の傭兵が、練武台に上がって来た。
皆んなかなり御立腹の様で、怒りの気配が漂っていた。




