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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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獣は獣道を行かん②

******


 アルカはすでに仕事を請けていたらしく、『ノーティティア』の受付で必要な情報をもらうとレリルを急かしてすぐに出発した。


 行き先を聞いていなかったが目的地はどこなのだろうとレリルが考えていると、彼は馬車を拾い、王都の南門へと向かわせる。


 ――せめてクロートたちに一声かけておきたかったな。


 飛ぶように過ぎていく王都の街並みを眺めながら、レリルは小さなため息をこぼした。


 レリルがアルカと一緒に出発したことは『ノーティティア』の受付でわかるはずなので、そこは心配ない。


 ただ……アルカの勢いもあったとはいえ、黙ってきてしまったことに彼女は罪悪感でいっぱいだった。


「どうした?」


 そこで隣に座っていたアルカが声をかけてくる。


 レリルははっとしてアルカのほうに向き直ると、苦笑してみせた。


「……ごめんなさい。私が行動をともにしていた【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】になにも言わずに出てきちゃったので……少し気になって」


「あー。それは悪かったな。でも、レリルの相棒は――言いたくないけど、もう一緒には行けないと考えてる……そう思うぜ。理由がなんであれ……な」


「……!」


 アルカはずばりそう言って、レリルが目を見開くのを真っ正面から見返した。


 彼の蒼の瞳はレリルを呑み込んでしまいそうなほどに深く澄み渡っている。


 レリルは……自分の情けない顔を見られるのが嫌で俯く。


 ――私は、もう一度認めてもらいたい……。


 だからマナ治療薬の素となる核を持っているのに理由をつけてアルカに渡さなかった……レリルは自分の狡さに気付いて重い気持ちになる。


 胸元で揺れる白薔薇の核――これはクロートからもらった特別な御守りだ。


 けれど、彼は人を助けるために使うことに反対しない――絶対に。


 彼女の浅ましさに、アルカは気付いてるのだろうか。


「――大丈夫さ。レリルにはできることがある。俺と一緒に来たのもなにかの縁だ。そうだろ? ま、敬語はなしで頼むよ。仲よくいこうぜ? な!」


 笑みを浮かべる彼の口元に犬歯が覗く。


 レリルは彼の優しさがいたたまれなくなり、口を開いた。


「アルカさん、あの、私……マナ治療薬の素となる核を持っています! どこに向かうのかわからないけど、時間がかかるなら戻ってこれを」


 アルカはその言葉に大袈裟に肩をすくめると、レリルの顔の前に右の人さし指を立てて左右に何度か振った。


「なあ、『さん』と敬語はなしだってば! ……気持ちは嬉しいけど小さな核じゃだめなんだ。仕事もあるからそっちも手伝ってほしいし?」


「……駄目、なんですか?」


「駄目だね。だから気にすんなよ! そもそも、その大きさで足りるならそのへんのマナ治療薬を買ったほうが早い。どこに行くのかはまだ秘密だけど、到着したらレリルが知りたがってる情報を話す。だから、くよくよすんな」


 ――そっか……この核じゃ駄目なんだ……。


 もともとレリルは困っている人を助けたくなる性分――裏を返せば必要とされたいのだ――である。


 笑うアルカに瞬きを返してから、レリルは今度こそしっかりと頷いてみせた。


「……わかった、アルカ。……これでいいのかな」


「上出来だ!」


 そうして……南門に到着したのは夜の帳が下りた頃。


 星が瞬き始めていたが、空には薄く雲がかかっている。


 それでもアルカは早く核を取りに行きたいのだと言って、今度は馬を借りた。


 馬屋が引いてきた一頭の立派な栗毛の馬は一瞬だけアルカに怯えたように見えたが、彼が鼻面をぽんぽんと叩くと観念したように頭を垂れる。


 ――まあ、狼だもんね……。


 レリルはどうでもいいことを考え、自分はどの馬になるのだろうと見回した。


 それを見たアルカがにやりと笑ってみせる。


「悪いけど予算の関係で一頭だから、レリルは前な! ほら」


「え……うわひゃあっ⁉」


 細い体のどこにそんな力があるのか、アルカは変な声を発するレリルを抱え上げて馬に乗せると自分もひらりと跨がる。


 馬屋が馬の胸元にルクスの明かりを灯し、これで夜道も大丈夫だと言ってくれた。


 けれどレリルは後ろからすっぽりと抱えられたことに困惑し、身を硬くするしかない。


「ようし! 行くぞ、はっ!」


 栗毛の馬は、アルカの声に軽快な一歩を踏み出した。


******


「まだ戻ってこない……なにしてんだろレリルの奴……」


「ケーキの前に夕飯になりそうだねー」


 クロートとレザは部屋でレリルを待っていた。


 テーブルには三種類のケーキを並べ、最初にレリルに選ばせようとふたりで決めてある。


 レリルの作った花冠はなかんむりはテーブルに文字通り花を添え、主をいまかいまかと待っているようであった。


 ……しかし、当のレリルが戻ってこない。


 彼らは窓へと視線を向けて、夜闇のせいでガラスに映る自分たちの姿をぼんやりと眺める。


 そこにばたばたと足音が迫ってくるのが聞こえ、ふたりはようやく戻ったかと、いそいそと扉を開け放った。


「遅いぞ! どこ行って……」

「おっかえりー! 女の……子?」


 けれど。


 そこにいたのは血相を変えたピンク髪のエルフ。


 彼女はクロートとレザを交互に確認したあとで、ぎゅっと目を閉じる。


「――あぁ、嘘でしょ!」


 そのピンク髪のエルフ――クランベルは一言そう叫ぶと、そのままクロートとレザを無理矢理部屋に押し込み、後ろ手で乱暴に扉を閉めた。


「クランベル……? どうしたんだよ――」

「クロートッ……レリルはどこ!」


 質問を無視して彼女はクロートの胸倉に掴みかかる。


 クロートは上半身を仰け反らせ、そんなクランベルに顔を顰めた。


「どこって……俺たちも待ってたとこだけど」


「全然戻ってこないんだよねー。なにか知ってるのー?」


 レザが訝しげに聞くと、クランベルはますます表情を歪め、クロートから震える手を離す。


「――私の責任だわ」


「はぁ? だから、どうしたんだよクランベル……」


 クロートは質問を重ねると、見たこともないほど動揺しているクランベルを覗き込んだ。


 彼女は両手で顔を覆うと俯いて首を振る。


 そして、クロートの予期せぬことを口にした。


「レリルが――出ていったかもしれない」


『!』


 顔を見合わせたクロートとレザは、へなへなと座り込むエルフを慌てて問いただす。


「説明してくれクランベル。なにがあったんだ?」


「女の子が出ていったって……いつ、どこに、誰と、なんで?」


 クランベルはゆっくりと顔を上げると、大きな紅い目に悲痛な色を宿しながら「ごめんなさい」と呟いた。



本日分です!

暑いので皆さまお気を付けください!

いつもありがとうございます。

よろしくお願いします。

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