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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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暗き地よりいたれりは④

******


 迷宮内部は埃っぽく、カビ臭さに満ちていた。


 扉を閉ざす前にレザがルクスに光を灯し、広間を照らし出す。


 十人くらい入っても余裕がある広さがあり、正面に扉――すでに壊れている――が確認できる。


 足下に散らばる石の下、かつて絨毯だったボロボロのなにかには埃が溜まって黒ずんでいた。


 壁には獣の爪痕のようなものが平行に三本走っており、気付いたレリルが「うっ」と声を詰まらせる。


 とはいえ、その傷もかなり古いものだ。


 クロートの手のひらくらいの幅で、腕くらいの長さに渡って壁が抉れている。


 世界マナリムがいまのようになってから付いたものではなさそうなので、レイドボスではないだろう。


「大きいな……魔物か?」


 クロートが呟きながら扉を閉めると雨の音が遠ざかり、それでもバラバラと雫が当たる音が館内に木霊した。


「獣型の魔物が生息してるって情報はなかったよね」


 レリルがそろそろとあたりを窺うと、レザが伸びをしながら応えた。


「んー……ホブゴブリンがいるって話だから、そいつらの鉤爪かもねー」


「ああ……人型の魔物だよな?」


 クロートが言うと、レザはうんうんと頷いた。


「そ。多少知恵も回る奴だから、罠とかも張るねー。落とし穴とか、踏んだり引っかかったりすると矢が飛んでくるとか、そういう原始的なやつ」


「罠か……」


 人工迷宮は自然迷宮と違って罠の類が多い。


 今回は魔物が張るらしいが、やはり建物の内部となると扉や曲がり角、階段など、罠を張りやすい場所が多いとレザが教えてくれる。


 ただ、クロートの心配事はそれだけじゃない。


 人型となるとレリルが躊躇する可能性もあり、彼はちらと己の【監視人】を窺った。


 彼女はいまも不安そうな顔だ。


「地図だと建物は三階建てでしょー。ここを出たら左右に向かって廊下が伸びてて、この入口を中心に部屋が対称に並んでる形。大きさの違う部屋があったりもするけど、まあ、迷子にはならないだろうねー」


 そんな彼女を安心させるかのように、レザがすらすらと建物の形を口にする。


 ……今回、彼らは得られる情報をすべて仕入れてきた。


 そのなかで、地図に関しても魔物に関してもさすがというべきか、レザの暗記力は素晴らしい。


 レリルもクロートも舌を巻き、彼が嬉々として笑うのを見た。


「大丈夫。女の子は俺が守ってあげるからね!」


「お前に守られなくたって、ちゃんと大丈夫だよ。な、レリル?」


「えぇ……それ、私に振るの?」


 レリルの返答にレザはへらっと笑うと、双剣を抜き放ちシャンシャンと打ち鳴らした。


「よし、さっさと調べようか! 警戒は任せてー。あんたは先導役、女の子はその後ろね!」


「勝手に決めるなよ……まあ、それでいいけど」


 クロートはレザにため息を付いてみせ、剣をすらりと抜き放つ。


 蒼白く光る刀身が濁った空気を振り払い、美しく凛とした空気へと浄化するようだった。


「――収束」


 それを見てレリルも剣と盾を描き出す。


 クロートはふーっと息を吐き出すと、しっかりと前を見据えた。


「行こう」


******


【メルゴモル迷宮 一階】


 ……広間を出て、廊下を左に進む。


 人がふたり並んでも余裕がある広さの長い廊下……その突き当たりは右に向かって折れていた。


 天上はクロートの長剣を振るっても問題ない程度には高く、やはり領主の館とだけあって空間を贅沢に使っていたようだ。


 扉は左右にふたつずつあり、クロートは順番に確認することに決める。


 ――いざってとき逃げ込めるかもしれないし……宝箱を置く場所にも当たりを付けておかないとな……。


 まずは左手にあるひとつめの扉。レザは様子を窺うと、頷いた。


「大丈夫、なにもいないと思う」


「……わかった」


 慎重に扉を開くと、部屋の中は崩れ落ちた家具とガラスの破片だらけだった。


 窓は外から確認したとおり開けられる状態ではなく、隙間から薄暗い外の明かりが見えるだけ。


 ルクスの光のほうが眩しいくらいだ。


 クロートは確認を終えると、レザに頷いてみせる。


 次の扉は、ひとつめの部屋から廊下を挟んだ向かい側。


「……」


 扉を開くか開かないか……なにかを感じ取ったのかレザが瞬時にルクスの光を消し、唇に右手の人さし指を当て、音を立てずに扉を開け放つ。


 クロートがそっと覗き込んだふたつめの部屋も先ほどの部屋と同じような状態だったが、ひとつ違ったのは窓から外――地図で見たかぎりは中庭だと思われる場所だ――が見えていることだった。


「…………ッ!」


 瞬間、クロートは『窓の向こうの状況』に気付き、体勢を低くする。


 びくりと肩を跳ねさせたレリルもすぐに彼に倣った。


 部屋の窓……ひび割れたガラスは汚れて曇っていたが、向こう側が見えないわけではない。


 クロートとレザが慎重に足を運んで窓際に身を隠し、息を呑んだレリルに手招きをする。


 ――あれがホブゴブリンか。


 クロートはレリルがそろそろと近付いてくるのを確認し、窓際に隠れながら中庭を窺った。


 数は五体。土砂降りの雨の中、頭を突き合わせてなにか話しているらしい。


 距離が離れているので、どうやら気付かれてはいないようだ。


 背はクロートやレザより小さく、レリルと同じかさらに低く見える。


 枯草のような肌の色で、頭から背中にかけてたてがみのような黄ばんだ毛が生えていた。


 纏っているのはボロボロの布切れのような服だが、それぞれが手になんらかの武器を持っているのがわかる。


(なに話してるんだろー?)


 レザがこそこそと囁くと同時に、クロートのすぐ隣までやってきたレリルが小さく安堵のため息を――息を詰めていたらしい――こぼした。


(とりあえず、様子を見よう)


 クロートはレザにそう応えて、会話を聞き取ろうと試みた。



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