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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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マナリムは牙を剥かん⑨

******


「ふん。そんなもん知るかよ……うぐぉ」


 ガルムが軽々しく吐き捨てたから、私はその爪先を白いヒールでぐりぐりと踏み付けた。


 毎度のことではあるけれど、ハイアルム様に対して頭が高すぎるのよ。


 書いていてわかったわ。思い出しても腹立たしくなるのね!


 脳みそまで筋肉なのよ、この男は。


 ――まあいいわ、いまは必要な報告を綴りましょう。


「おいローティ。お前、【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】をもう少し敬わねぇと――ぐふぉ」


 分厚い筋肉にだって、隙間がある。


 私は二本の指先で、そう吐き出した彼の鳩尾を突いてやった。


「――くそっ、ごふっ、加減しろ、ごほっ!」


「ハイアルム様に失礼よ。ちゃんと返答すべきね」


「……んだよ……お前、そんなんだと本当に貰い手なくなるぞ。……まぁなんだ、ハイアルム。俺には宝箱が餌だとかそんなんは関係ねぇぞ。宝箱があってもなくても変わらねぇ。人は冒険するもんだ!」


 ガルムは鼻息荒くそう言い切って、胸を反らせるとふふんと笑みを浮かべる。


 ……言っておくけれど、別に貰い手なんて必要ないんだからね。


 はあ。ホントに馬鹿らしくなるわ。


 世界マナリムがどうあっても、この人は変わらない。


 それが……たぶん、ガルムのいいところなんだろうけど。


世界マナリムが動けば、マナレイドが起きて魔物が『リスポーン』するんだろ? レイドボスもな。なら、俺はあふれた魔物を殲滅してやる。そうすれば一時的に還るマナが増えて世界マナリムも一呼吸置くってことだろ? 核のことは俺の仕事じゃねぇが、使用量の規制でもすりゃあいいんだ」


「本当にお主は楽観的だの――即答されたのは妾の長い生のなかでも初めてだぞ」


 ハイアルム様は可愛らしい笑顔をちらりとも崩さず、優雅な仕草で髪を梳きながらそう言ってくださった。


 そして静かに、続きを口にする。


「あと数年――もしかしたら、数十年先かもしれぬ。ただ、人の成長は著しい。いつなんどき、ことが動いてもおかしくはなかろうの」


「……数年あれば、まだできることもありますよね」


 ……私はハイアルム様に応えたけれど、少し不安にも思った。


 世界マナリムはマナを循環させることで己を保っている。


 このまま生物が減らなければ、マナの消費は増える一方――だとしても、とてもマナの使用量を規制できるとは思えない。


 つまり魔物は、世界マナリムを守るために生物を喰らう存在だと――そうではないの? 


 だからといって生物が減りすぎればマナが消費されず、今度は世界マナリムはマナを抑えてしまうことが目に見えている。


 結果としてマナは循環しなくなり、こちらも世界マナリムは崩壊を迎えてしまうと予想できた。


 なんて不安定な世界――。


 私たちが生きていることが、とてつもない奇跡なんだわ。


 それを――なんとかしないとならない――私になにができるのかしら。


 そのとき、ゴツゴツした大きな手が私の肩をぎゅっと掴んだ。


「そんな顔すんな。世界マナリムはそんなやわじゃねぇさ! なにか手はある。なぁ、ハイアルム?」


******


 ぱたんと閉じた黒い本。


  ――なんだ。父さんも俺と変わらないじゃんか!


 思わず笑みをこぼしたクロートを、レリルは静かに見詰めていた。


 ――親子って、本当に似るんだなぁ。


 口調は違えど、考えることは一緒である。


 ガルムもクロートも宝箱が餌だとは考えず、そこに冒険があるから人は迷宮に挑むのだと言う。


 クロートより先にガルムの物語を読んでいた彼女も、思わず笑ってしまったくらいだ。


「……俺たちで魔物を倒せば、とりあえず時間は稼げるんだな」


「うん、ガルムさんはそう言ってるように見えたね」


 クロートの言葉にレリルが同意すると、彼は本棚に本を戻しながら「うーん」と唸った。


「それなら、やるしかないよな……」


「強くなれって、ハイアルム様も言ってたからね」


 さらに応えるレリルに、クロートはちらと視線を向ける。


 彼の翠色の瞳は暖かい光を帯びていた。


「――俺、父さんの息子でよかった。へへ」


 レリルはその言葉ににこりと笑みを浮かべ、頷く。


 彼女にとってそれは羨ましくもあったが、それ以上に、クロートがとてもきらきらしていて胸がいっぱいになったのだ。


 ――クロートもレザも、眩しいな。大変な状況なのに、そんなのものともしない――そう振る舞ってるんだもん。


 そう思いながら、レリルは素直に口にした。


「……そういうの本当に素敵だと思うよ。ガルムさんとクロート、格好いい親子だよね」


 クロートは驚いたように目を丸くしたが、満更でもなかったのでそのまま笑顔を見せる。


 レリルはそんなクロートと一緒に笑ってから、ふと、唇を結んだ。


 ……彼女には、ひとつ気になることがあったのだ。


 ガルムの話を綴っている者は『ローティ』というらしい。


 しかし、レリルの育ったこの十六年と半分ほどのあいだに、その名前を聞いたことは一度もなかったのである。


 明るく快活で流れるような文章は、レリルにとって、とても好ましいものだった。


 要所要所で詩のように紡がれる描写は美しく彩られ、飽きることなく読み進められる物語。


 ――どんな人がこれを綴ったんだろう。


「よし、モウリスの本も読んでおこう」


 そこでクロートに言われて、レリルは考えるのをやめ、頷く。


 なにがあったかを知ることが、レリルには少し恐い気がした。



そろそろ冒険に出ます!

よろしくお願いします!

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