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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者: 奏


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マナリムは牙を剥かん⑥

「では、本題に移るとするかの」


 レリルが立ち直ったのを確認し、ハイアルムは話を戻す。


 レリルはクロートの手をつんと指先で突くと、前を向いたまま「ありがとう」と小さな声で告げる。


 クロートは口元が緩みかけたが必死でなんでもないふうを装い、同じように前を向いたまま「よかったな」と返した。


 ――これからなにを聞いたって、きっと大丈夫だ。俺たちは強くなって父さんのところへ行って……それから……。


 クロートはあれこれ考えながら、心の準備を整える。


「妾は、迷宮に宝箱を設置するための祝福を授けることができる」


 ……しかし、ハイアルムの話は予想の斜め上を突っ走っていた。


「一定の等級に達すると、【迷宮宝箱《ダンジョントレジャー》設置人《クリエイター》】たちは、次代の者を探すことも仕事の一部となるのだ。候補者については妾に報告に来る決まりであり、そのときに妾から『祝福』を預かり、候補者にそれを授ける役目を負う」


「……は、はぁ?」


 クロートは思わず聞き返す。


「祝福って……そんなことできるのか?」


「できるから、お主は【迷宮宝箱《ダンジョントレジャー》設置人《クリエイター》】なのであろうに」


 呆れたような声音でハイアルムの言葉が返ってくるが、クロートはいやいやと首を振る。


「だってさ、マナリムからの祝福を受けた奴がマナ術を使えるんだろ? どんな内容でもそれを授けられるって――ハイアルム、あんたいったい……」


「ふ、妾は『ノーティティア』を統べる者――【迷宮宝箱《ダンジョントレジャー》設置人《クリエイター》】を導く者である」


「……」


 ――全然答えになってないんだけど。


 クロートは顰めっ面を返したが、これ以上聞いても無駄だろう。


 ハイアルムはいつものように血色のいい桃色をした唇をにやりと歪ませただけだ。


「……そして、【迷宮宝箱《ダンジョントレジャー》設置人《クリエイター》】は、『マナを循環』させるために、宝箱を設置する。しかし……マナは乱れ、世界《マナリム》は動いた」


 クロートはその言葉を耳にした瞬間、レリルに素速く目配せをする。


 レリルもすぐに頷いてみせた。


 マナを循環させる……それは、モウリス――アーケインが話していたことだ。


 マナを狩り、マナを消費し、人は生活を営む。しかし人は己の欲に従い、溺れ、マナを乱した。


 その言葉を、クロートもレリルもはっきりと覚えている。


「――この混乱は、マナが乱れたから起こったということですか?」


 レリルが一言一言を確かめるように、ハイアルムに聞き返す。


「……そうじゃ。世界《マナリム》のマナは循環せねばならぬ。消費され、還り、また放出されるのが本来の流れよの。しかし、消費の量が増えすぎてしまった――世界《マナリム》はマナの枯渇を感じ取り、蓄えていたマナを一気に放出する――。つまりな、迷宮はマナが放たれる場所……間欠泉のようなものなのだ」


 迷宮は大抵、ほかの場所――平原や町――よりもマナが濃い。


 それは迷宮自体がマナの噴き出す場所だから……と考えれば、なるほど。クロートには間違ってはいないように思えた。


 しかし彼は首を捻ってこぼす。


「それなら枯渇する前に少しずつ出せばいいのに……なんで一気に放出されるんだよ」


 その言葉を聞いて、ハイアルムはとんでもないというようにぶんぶんと首を振った。


「馬鹿を言うでない。世界《マナリム》をなんだと思っておる……お主たち人が、生活で必要不可欠になっているもの――燃料として使っているものはなんだか、知っているであろう?」


 クロートはハイアルムの返しに、今度は眉をひそめる。


 ――生活に必要不可欠で、燃料にもなっている――そんなの……。


 考えて、クロートは固まった。


「え……どういうことだよ……世界《マナリム》は核だーとでもいうのか……?」


「そう。世界《マナリム》は大きな核――マナを蓄え、マナを生み出す存在なのだ」


「……⁉」


 クロートは驚愕に目を見開き、息を呑む。


 レリルも言葉を失い、瞬きすら忘れて眉を寄せた。


「驚くことではあるまい。世界《マナリム》にはすべての源たるマナが満ち、魔物や人も最終的にはマナへと……つまり、世界《マナリム》へと還る。――本来、マナは循環する。それだけだからの」


「でも、消費してマナに還るなら、枯渇なんてしないんじゃないのか……?」


「それは消費と返還が同じ速さで起こる場合よの。しかし、非マナ生命体は――いや、お主らの定義であれば生物は、複雑に構成された物質でできておる。彼らはマナへと還るのに、一部例外を除き相当の時間がかかるのだ」


 クロートに答えながら、ハイアルムはどこか遠くを見るように目を細めた。


「核によってもたらされる恩恵により、いまや生物は繁栄し、その多くは長く生きる――。その結果、消費量は膨大なれど還るマナが減っておるのだ。世界《マナリム》は枯渇するマナをなんとかするために、己の出力を上げた」


「そんな……それじゃあ、このままだと世界《マナリム》は魔物の核みたいに溶けてしまうんですか?」


 レリルが首を振りながら、問い掛ける。


 ハイアルムは彼女へと左の手のひらを向けて、宥めるように二度、小さく前後に動かした。


「まあ、聞くとよい。いましがた、生物がマナに還るのは一部例外を除き時間がかかると話したが、生物を短時間でマナに還す方法がある。……それが、大きくお主らに関わってくる」


 ハイアルムはそう言うと、小さく息を吸い、唇を湿らせた。



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皆さまのおかげです。

いろいろ付け加えたりしているので、よろしければどうぞ書籍もお願いします!

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