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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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62/203

それは絶対の覇者たるか⑧

******


「はぁッ!」


 気合いを吐き出すとともに、クロートの刃が光の帯を引きながら魔物を両断する。


「やっぱ魔装具は違うんだなー」


 レザが笑うので、クロートはその後ろ頭を容赦なく叩いてやった。


「いてっ」


「魔装具じゃなくて俺が強いかもしれないだろ」


「ぶはっ、かもしれないって、あんた自信ないんだろー?」


「うっ……うるさいな! ――たぁっ!」


 すぐに次の魔物がつらら石の間から舞い下りてきて、クロートは再び剣を振るう。


 レザは近くの石筍――地面から突き立つように生えた岩だ――を蹴って跳び上がり、魔物の上部へと身を躍らせた。


「やーッ、はァーッ!」


 閃く双剣が黒い皮膜を斬り裂いて、魔物――巨大なコウモリ型であるプテロプースが、そのままぐるぐると回転しながら落下していく。


「いくよ、レザ!」


 落下点に飛び込んだレリルが盾で弾くと、着地と同時にその先に回り込んだレザが身を捻り、勢いを載せた刃で真っ二つにした。


 核がカツンと音を立てて地面に転がり、レザが剣を握ったまま親指を立てる。


「女の子! いまのよかったー!」


 その言葉にレリルが苦笑した。

 

「レザ……集中しないと危ないよ?」


「本当だよな――っとぉわ!」


 クロートがその横で、急降下してきたプテロプースに反射的に剣を突き込む。


 一体がクロートの頭くらいのプテロプースは、決して大きくはない魔物である。


 厄介なのは、群れていて数が多いことなのだ。


 纏まって飛び掛かってくることもあり、その鋭い牙が肉に食い込むと引き剥がすのは難しい。


 この魔物は傷口からあふれ出る血を啜るので一度噛まれたのなら無理に引き剥がさず、その状態でナイフなどを突き刺し、核に変えることが対処法となる。


 とはいえ、それは噛まれたのなら――という話だ。


 噛まれる前に屠ることができるなら、それに越したことはない。


「危なかった……」


 魔物が核となって、ふーっと息を吐き出すクロートに、レリルは笑った。


「クロートも集中しないとね? ――きゃあ!」


 そこにもう一体のプテロプースが突っ込んできて、今度は警戒していたクロートがレリルの真横で一気に薙ぎ払い、ふふんと鼻を鳴らす。


「――レリルも警戒が足りないんじゃないか?」


「う、うぅ……」


 ……『アルテミ』たちは、そんなクロートとレリルを密かに気に掛けていた。


 彼らのうちのふたりは腕に装着する形の弓を構え、いざとなれば対処できるようにしていたし、さらに別のふたりがクロートたちの邪魔にならない間合いを保ち、いつでも援護に回れる位置を取っていた。


 レザはともかく、クロートとレリルは『ノーティティア』からの預かりものであり、傷を付けるわけにはいかないのだ。


 まあそれは建前で、レザのためにも彼らを守らねばならないと感じていたからなのだが。


 だからアルはときどき『アルテミ』の面々と視線を合わせ、自分たちの位置取りを確認していた。


 しかしアルの目から見ても、クロートとレリル、レザの動きは統率が取れている。


 短い時間とはいえガルムに鍛えられたことは確かに彼らの力になっているのだろう。


「これで最後ー!」


 レザがプテロプースの最後の一体を屠ると、洞窟はすぐに静けさを取り戻す。


 アルは敵がいなくなったのを確認し、剣を収めると束ねた長い赤髪を揺らして言った。


「少し早いがこの先で昼飯だ。そろそろ『イミティオ』が目撃された場所に近いからな。警戒は怠るな」


******


「アルさん、お茶です」


 昼食の最中、レリルは皆から少し離れた位置で見張りに立つアルのもとへとやって来た。


 洞窟内には水場があり、しっかりと水を補給できているため、こうしてお茶を淹れることもできる。


 それは非常にありがたい状況だ。


 ルクスがなければ真っ暗で恐ろしい空間だったろうが、彼女のまわりにはクロートだけでなく『アルテミ』もいてくれる。


 ひやりと冷たい空気も、張り詰めたような静けさも、皆でいればなにも恐くない。


「――ああ、もらおう」


 アルはレリルからお茶を受け取ると、空いている左手で額のバンダナを擦った。


「そのバンダナ、髪にも編み込んでいますけど、いつも自分でやってるんですか?」


 レリルはアルの隣に留まり、一緒に見張りをするつもりだった。


 話しかけられたアルは苦笑すると頷いてみせる。


「そうだ」


「すごいです! 私にも教えてくれませんか? こうやってひとつに結ぶだけしかできないんですよね、私……」


 柔らかな新芽のような、黄みがかった翠色の眼をきらきらさせ、レリルが笑う。


 彼女が右手で摘まんでみせた蜂蜜色の髪はルクスの明かりに照らされ、太陽のようだ。


「……ああ。帰ったら教えてやる」


「ふふ、楽しみです!」


「……」


 アルは眩しそうにそれを眺め、一度だけゆっくりと瞬きをした。



21日分です!


ここから一気に話が動きます。

よろしくお願いします。

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