表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/203

狩人たちはかくありき⑥

 予想外だったが、クロートが詳しく聞くとレザは本当に『祈祷祭』に一緒に行きたいがために、レリル――なぜかクロートもだ――を誘いに来たという。


 一年のちょうど真ん中にあたるセブルス――七の月に世界マナリムとマナに感謝するために行われる『祈祷祭』は、王都の催し物でもとりわけ大きなものだ。


 この『祈祷祭』の期間だけは町のいたるところにずらりと露店が並び、掘り出しものが数多く出品され、迷宮の宝箱から手に入れた魔装具も混ざっていたりする。


 当然どこの迷宮から持ち帰った宝なのかの説明もあり、クロートは【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】七級で解禁される情報――ほかの【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】が置いた宝箱とその中身だ――を駆使することで、魔装具を誰が生み出したのかわかるはずだ。


 ――【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】がどんなものを生み出せるのかには興味があるし、あわよくば魔装具を生み出すコツなんかも聞けるかもしれないな。


 そう考えつつも、いまの自分にはまだ魔装具は生み出せない――その確信がクロートにはあった。


 勿論それだけではなくクロートは『祈祷祭』を楽しみたいとも考えていたので『祈祷祭』が始まる六日後が待ち遠しかったのだが……レザがいるとなると話は変わってくる。


「なんで『アルテミ』の奴らと回らないんだ……?」


「んー? 別に、いつも一緒なのにお祭り回るときまで一緒にいたいとは思わないけど。あんたは違うの?」


 聞いてみたクロートだったが、レザは不思議そうに言うだけ。


 そりゃそうかとクロートは首をすくめた。


「おい、チビ助。とりあえず……ちょっと場所変えるぞ。お前は『ノーティティア』じゃねぇからな……」


 そこで呆れたように話を聞いていたガルムが、ため息混じりに言った。


 休憩所は『ノーティティア』に所属する者だけが使えるはずだが、レザは受付でガルムに用があると言って無理矢理案内させていたようだ。


 一緒に来た受付嬢が部屋のそばで泣きそうな顔をして立っていた。


 レザが『アルテミ』だということはわかっていたはず……いや、むしろ『アルテミ』だからこそ通したのだろう。


「まったく……急に連れてくるってぇのは間違いだろ。恐くても拒否しねぇと大問題だぞ?」


 ガルムは受付嬢に向かって盛大に吐き出し、真っ二つになった木刀の上半分を拾い上げた。


「……申し訳ありません……あの、あとはお任せしたいです……」


 項垂れる受付嬢――彼女も【迷宮宝箱ダンジョントレジャー設置人クリエイター】か【監視人】のはずだ――は、ぺこりと頭を下げて、驚いたことにガルムに丸投げする。


 ここでそう切り出すとは……ある意味なかなか肝が据わっているといえよう。


「俺たちにほかの選択肢なんてねぇだろうが……。行け」


 ガルムはますます渋い顔をしたが、諦めて指先を振り受付嬢を帰してやった。


「……ねぇおっさん! 俺も交ぜてよ!」


 そこでレザがまるで遊びたいとでもいうようにガルムの周りをぴょんぴょんと飛び跳ね出す。


 ――なんだこいつ。


 クロートは毎回レザに思う感想を、今日も抱いた。


「馬鹿言うな。木刀真っ二つにしやがって……あとでアルって奴に弁償させるからな?」


「げーっ、アルには言わないでよ! 俺、怒られちゃうじゃん!」


 ぴしゃりと言い切ったガルムに、レザが慌てふためいて両手を振る。


「怒られるようなことをしたって、ちゃんとわかってるんだね……」


 レリルが苦笑して呟いたところで、ガルムはふと折れた木刀を眺めた。


「――いや、そうだな。おいチビ助。これは『遊び』だから、これを双剣の代わりにしろ。人を傷付けるような真似するなよ、模擬戦くらいできるだろ?」


 カランッ、と乾いた音を立てて投げられた木刀――真っ二つになっているので、確かに双剣のようだ――を、レザは大きく頷きながら拾い上げる。


「任せてよ! で、誰が遊んでくれるんだ? あんたか?」


 にこにことクロートを振り返るレザに向けて思い切り顔をしかめたクロートだったが……ガルムは首を振った。


「いや。俺がまとめて相手してやる。ちょっと待ってろ」


******


 クロートはガルムがなにを考えているかわからなかったが、おとなしく待つことにした。


 移動しなくて大丈夫なのか? と思わなくもないが……レザが戦うのは少し見てみたい気もする。


 レリルはといえば、当のレザが矢継ぎ早に話しかけてくるので、その相手をするのに苦心しているようだ。


「待たせたな、やるぞ」


 そこに、ガルムが模擬戦用の大剣――刃はなく、少し丸みを帯びた不格好な一枚板とでもいおうか――を持って戻ってきた。


「わあ、そんなのあるんですね」


 レザに向けて困った顔をしていたレリルは、話題を変えようとしたのか驚いたように声を上げる。


 ガルムはにやりと笑うと、その大剣をぱしりと叩いた。


「もう随分前に特注で作ったやつでな。三人相手に長剣ってぇのはさすがに厳しい」


 クロートは自分とレリルだけなら長剣で十分だと思われていたのかよと不満に思ったが、黙っていた。


「よーし、行くぞー!」


 レザはカンカンッと双剣を打ち鳴らすと、楽しそうに声を上げる。


 屋上の部屋からは好奇の目がいくつもいくつも向けられているが、クロートはいつの間にか慣れていた。


「おう、来い」


 ガルムは大剣を体の前に持ってくると、切っ先を下げ、こちらに刃ではなく腹を向けて腰を落とす。


 クロートはレリルに頷くと、それぞれ剣を構えた。


「やーっ、はァーッ!」


 レザが軽い足取りで踏み出すのを、クロートも追いかける。


 素速く繰り出されたレザの右の剣と、それを追随する左の剣。


 ガルムはそれを大剣の腹で弾き返し、続けざまに振りかぶるクロートの剣へと刃を走らせる。


 大剣と長剣がぶつかり合う瞬間、体勢を低く保っていたレザが伸び上がるように双剣を閃かせ、ガルムはクロートの剣の腹に大剣を滑らせるようにして移動して躱す。


 その勢いにクロートが身を引いたところで、ガルムの後ろ側で双剣を振り切ったレザが瞬時に身を捻り、再度仕掛けてくる。


 ガルムはこれを予期していたのか、クロートを弾いた大剣を軸にしてその裏へと回り込み、レザの攻撃はまたもや大剣の腹にいなされた。


「っは! おっさん強いな!」


「無駄口たたく暇はねぇはずだろう?」


「っ、わっ!」


 気を緩めたレザの横っ腹目掛け、ガルムの大剣が唸る。   

 

「……ふっ!」


 そこにクロートが迫ったが、唸る大剣は飛び離れたレザに構わず、ガルムの体を軸にぐるりと弧を描いてクロートへと向かってくる。


 最初からクロートへの一撃だったのだ!


「……レザ!」


 しかし、クロートだって負けていない。


 ガルムの一撃を長剣で受け止めようと重心を落とし、踏ん張る。


「いいねー、乗った!」


 レザが応え、ぎゅっと地面を踏み締める。


 クロートとガルムが刃を交えるその瞬間が、勝負だ。


 ガルムは正直、舌を巻いた。


 初めてにしては上出来だ。これだけ息の合った攻撃ならば、相手をするには気を抜けない。


 ――だが、それは俺相手じゃ通用しねぇ。


 大剣と長剣がぶつかり合うその瞬間、ガルムは側面から迫るレザににやりと笑ってみせた。


「まだまだあぁッ!」


「――え、うっおわあぁ!?」


「げっ! ちゃんと踏ん張れよなー!?」


 クロートが長剣ごと押し切られ、レザを巻き込んだ。


 縺れるようにしてひっくり返るふたりに、ガルムが剣を突き付けながらフフンッと鼻を鳴らす。


「惜しかったな?」


「くっそ、いまのはおとなげないだろ!」


「あー、なんか悔しいー! でも面白かったぁ!」


 上半身を起こし、模擬戦用の武器を傍らに置いて、茂る草花の上に胡坐をかくクロートとレザ。


 そこでガルムは首を捻った。


「ん、おい。そういやレリルはどうした?」


「……女の子なら、最初から動いてないよー」


 レザがガルムの向こう側に手をひらひらしてみせる。


 クロートも初めて気が付いたらしく、眉をひそめた。


「どうした、レリル?」


 ガルムが体ごとレリルに向き直ると、彼女は頭の後ろ、高い位置で結った蜂蜜色の髪を揺らし、えへへと困ったように笑う。


「クロートもレザも速いから……私がいるとかえって邪魔かなぁ、なんて」


「えーっ、全然そんなことないよー。俺、女の子とならもっとうまく合わせられるなー」


「はぁ? 俺が下手くそみたいに言うなよ!」


 頭の後ろで手を組んでにこにこするレザに、クロートが口を尖らせて噛み付く。


 レリルはこっそりため息をつくと、まだ胸の高さに掲げていた盾を下ろした。


 ――どうやってもあんな連携は、私にはできない――。


 急に自分の足元がおぼつかなくなったような不安を感じて、レリルは唇をぎゅっと噛み締めた。


 ――私は、なんの役に立てるんだろう。



今日は長めです。

二話分くらいあるかもです。


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ