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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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狩人たちはかくありき⑦

******


 クロートとレザは数本、ガルムと模擬戦をした。


 数を増すごとに鮮やかな連携はぐんぐん上達し、ふたりは旧知の仲のごとく、背中を預け合うような戦いっぷりをみせる。


 レリルは交ざることすら躊躇ったままぼんやりとそれを眺めており、その新芽のような黄みがかった緑色の瞳には輝くような力強い光はなかった。


 ……レザは狩りを生業とする組織『アルテミ』の人間だ。


 普段から魔物を相手とし――ときには人さえもその獲物として――己の力や技を磨いている。


 狩人たちが強いことはレリルもちゃんと知っている。


 けれど、それに追随するクロートの剣捌きも、流れるような足捌きも、レリルにはまったく真似できない。


 クロートが強いことはなんとなくわかっていたが……正直なところ、ここまでとは思っていなかったのだ。


 ――私はクロートの【監視人】のはずなのに……。


 小さい頃――物心ついたときには『ノーティティア』にいたレリルはハイアルムを母のように慕い、同じような境遇の【監視人】たちと過ごしてきた。


 勿論、戦闘の訓練や座学もあって、迷宮に挑むための最低限を叩き込まれてはいるのだが――。


「あーっ、くっそ、また負けた!」


「ちぇー、勝てる気がしてたのに! おっさん、なんなのさ?」


 そこで、物思いに耽っていたレリルは目の前の光景に意識を引き戻された。


 クロートとレザが仰向けにひっくり返り、そよぐ草花のなかで息を切らせている。


 ガルムは唇の端を吊り上げながら左頬の傷を擦って言った。


「はっ、お前らみてぇなガキに負けてたまるか!」


 それはなんだか眩しい光景で、レリルは唇を噛む。


 ――羨ましい。


 肩を並べて戦うことができるふたりが。


 ――悔しい。


 そこに自分がいると、足手まといなのだと感じて。


 ……レリルは、気付いていなかった。


 家族のいない自分が、誰かに必要とされることを望んでいる……その事実に。


 だから、彼女はなんだかよくわからない不安な気持ちが込み上げてきて対応できず、吐きそうだった。


 連携の練習がしたい。そう言い出したのは自分なのに――どうしてなにもできずにいるのか。


 彼女は頭を振って逃げるようにその場から離れる。


 ここにいれば、もっと不安になる気がしたのかもしれない。


 ガルムは彼女を目で追ったが、なにも言わず気付かないふりをした。


 一級にもなれば、何人もの【監視人】と迷宮攻略をしたことがある。


 当然、ガルムは彼らの心の動きを感じたこともあったし、実際に胸のうちを吐露する者もいた。


 だからガルムは、レリルの気持ちを想像できる。


 あくまで想像であり、ガルム自身は気にしたことのないものであっても、的外れではないと確信があった。


 ある意味それは、レリルにとっての挫折である。


 ガルムからすれば、彼らは皆『自分の居場所』を探しているだけ――ただ見えていないだけで、すぐそこにあるのに――だ。


 自分の心の持ちようでいつでも見つけることができるのに、多くの【監視人】たちは気が付いていない。


 だからこそ、彼女の挫折には意味がある。


 そして、それがまだ五級に満たない『いま』だったことは、この先の彼女の在り方を大きく助けることになるはずだ。


 レリルはいま蛹から蝶へと羽化しようとする……その瞬間にいる。


「……ここが踏ん張りどころだぞ」


 小さく呟いたガルムの声は、風に溶けて誰にも届くことはなかった。


******


 いつまのまにか『ノーティティア』からは少し離れていた。


 レリルは王都の路地をふらふらと歩いている。


 数階建ての四角い建物が身を寄せ合うこの区画は、小さな組織や宿がひしめきあった雑多な雰囲気だ。


 すでに日が暮れ始めているため、路地には夕飯の香りがただよい、混ざり、複雑な匂いになっている。


 レリルにとっては幼い頃から慣れ親しんだ場所のはずだが、いまは『祈祷祭』のために集まってきた多くの人でごった返し、まるで知らない町のようだった。


 遠い異国の冒険者たちは装いもさまざまで、髪の色、眼の色、種族もばらばら。


 それなのに誰もが誰かと一緒に笑い合っていて、レリルは急に心細さを感じた。


 戻ろうと思ったけれど、逃げるように離れたあの場所に戻ってクロートやガルムになんと言おうか……と考えるとつらくなる。


 ――私は【監視人】だから、クロートと行動をともにしないとならないのに。

 

 レリルはどうすることもできずに立ち止まり、近くの建物の壁に寄りかかった。


 レリルの前を通り過ぎる人々は、誰ひとりとして彼女を見ない。


 まるで、誰もいないかのように。


 けれど。


「女の子、どうかしたー?」


 レリルは驚いてびくりと肩を跳ねさせた。


 すぐ右側に、いつの間にかレザが立っていたのだ。


 金色のふわふわした髪に、クロートと似た翠色の眼。背は、レリルより頭ひとつほど大きいだろうか。


 まるで猫のようにぱっちりした大きな目は、レリルを見つけて嬉しかったのか細められていた。 


「レザ……なんで」


 一瞬、捜しにきてくれたのかと思ってしまったが、レザは不思議そうな顔をして小首を傾げた。


「んー? ここ、『アルテミ』の宿舎だからねー。誰かに用事じゃないの? 俺呼んできてあげようかー?」


「えっ……あ、ううん、あの、大丈夫」


 ――この建物、『アルテミ』の宿舎だったんだ……!


 レリルはそう思い、慌ててレザに応える。


 すると、レザはどう思ったのかレリルの手を取った。

 

「じゃあおいでよ、中、見せてあげる! 俺も『ノーティティア』に入っちゃったしー」


 そこでレリルは、レザがここにいるということは模擬戦が終わったのだと思い当たる。


 ――クロートはいなくなった私のこと、どう思ったかな。


 すぐに戻るには、まだ気持ちが追い付かない。


 レリルはレザに引っ張られるがままに『アルテミ』の扉をくぐり……そのまま広間に連れて行かれた。


 はたして、そこでは――。


「――おいレザ。部外者を軽々しく連れてくるな。誘拐まがいのことはやめろ」


 額のバンダナに右手を当て、アルが深く深くため息をつきながら、お鍋を左手にせっせと夕飯の支度をしていた。

 

 

11日分です!

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