組織にとってはこともなし④
「……」
「……」
応えもせず呆然としているクロートとレリルのところに駆け寄ると、そいつはレリルの周りをぐるりと一周した。
「へへー、すぐわかったよ! 今日は話を聞きにきたんだ、よろしく、女の子!」
――名前はレザ、だったよな。
ふわふわした金髪に、クロートやガルムと似た翠色をした、ぱっちりと大きな猫眼。
服装は【シュテルンホルン迷宮】で会ったときと同じ、黒いピッタリしたシャツの上に暗い赤の上着だ。
彼は狩りを生業とする――ときには魔物だけでなく無法者をその獲物とする――組織『アルテミ』の一員。
クロートたちよりあとに【シュテルンホルン迷宮】を出たはずだが、もう王都に戻っているということはそれほど時間差がなかったのか、はたまた馬にでも乗っていたのかもしれない。
そして彼がいるということは、当然……。
「レザ。ちょろちょろするな。……さて、話を聞きに来たはいいが、案内を頼めるか少年?」
受付の人混みから抜け出し、話しかけてきたのは赤い長髪を後ろで束ねた細身の男。
黒いバンダナで額をぐるりと覆い、その余った部分は束ねた髪と一緒に編み込んである。
服装はレザと同じような色をしており、腰には剣をぶら下げていた。
彼の後ろには似たような格好で妙に目をギラつかせた男たちがついてきており、周りに威圧感を振りまいている。
受付が騒がしかったのは、どうやら『アルテミ』の到来が原因のようだ。
【シュテルンホルン迷宮】でもそうだったが、赤い長髪を束ねた男の口調から、彼はこの『アルテミ』の部隊を率いている身分なのだろうと推測できる。
しかし、クロートは思わず眉をひそめた。
「案内って……」
どこに、と言いかけたクロートの右肩に、ぽんとデカい手が載ったのはそのときだ。
びくりとして見上げると、いつの間にやって来たのかガルムが難しい顔をして男を見据えていた。
「よぉ、やけに早いじゃねぇか」
「まぁな。情報を聞くためには早いほうがいい」
「まあそうなるか。……とはいえな……話をするのは構わねぇんだが、まだ上に報告できてねぇ。悪いが、すぐは無理だぞ」
冷めた表情をしている男に、ガルムが肩をすくめてみせる。
その返答が気に入らなかったのか、ほかの『アルテミ』たちは顔をしかめたが、レザだけはレリルの傍らでにこにこしていた。
しかし、次の瞬間。
ざわりと一際大きな喧騒があたりを包むと同時に、クロートたちの後ろから声がした。
「案ずるな、ガルム。妾が同席すればよかろう?」
ころころと鈴が鳴るような声は、幼い少女のようで。
クロートは、体中をひんやりとした手が撫でていくような感覚に襲われた。
それは声の主が纏う、『畏れ』を感じさせる空気のせいかもしれない。
しゅるり、と衣擦れの音が聞こえたのは、受付が一気に静まり返ったからだ。
白いローブと白い肌、冴えた月の色をした絹のような長い髪。
幼い少女の容姿からは想像がつかないほど長くを生きているのであろう――『ノーティティア』を統べる者。
「ハイアルム――」
ガルムがこぼすのと同時に、レザがものすごい速さで彼女から距離を取る。
赤い長髪を束ねた男が、それを見て初めて眉を寄せた。
「レザ」
「アル! なに、こいつ! なんか変だ!」
全身で警戒感を表すレザは、腰に装着した双剣の柄を握り締め、腰を落として牙――と言っていいのかはわからないが――を剥く。
何人かの【監視人】と【迷宮宝箱設置人】らしき人たちが、その様子に身構えた。
しかしハイアルムはなおも前進しクロートたちの横に並ぶと、顎を上げ、白い指先を血色のいい下唇に当てる。
「……妾が怖いか? 幼き者よ。よい判断だ。取って喰おうなどとは思うておらぬから、そう警戒するでない。……『アルテミ』よ、我が『ノーティティア』に来たのだからそれなりの情報を約束しよう。……多少、高値にはなるがの?」
その金の双眸が細められ、小振りの唇には笑みが浮かぶ。
――ハイアルムの体調は回復したみたいだな。
クロートはそう判断した。
レザは牙を剥いたまま威嚇音が聞こえそうなほど身を堅くしていたが、赤い長髪を束ねた男――アルと呼ばれたのは彼だろう――がその肩をギュッと握ると、ゆっくりと構えを解いた。
「妾も忙しいが――客人が来たとあっては、持てなさぬわけにもいかぬよの。……レリル、一番よい部屋へ彼らを案内せよ。妾はガルムと数分話してから向かう。――それから『アルテミ』、少し人数を減らしてはくれまいかの? 一般客が不安がっておろう」
「…………」
アルと呼ばれた男が無言で顎をしゃくると、後ろに控えていた『アルテミ』たちが渋々といった様子で踵を返す。
レザだけは傍らに残ったが、ハイアルムは問題ないと認識しているようだ。
「では頼むぞ」
そう言って、ガルムと一緒に下がっていく。
――俺、呼ばれてないよな……でも外されるのも癪なんだけど……。
残されたクロートは自分がどうすべきかに迷った。
そこで、黙っていたレリルがすっと前に踏み出して、ぺこりと頭を下げた。
「――では『アルテミ』のおふたりは私と彼でご案内します。こちらへどうぞ」
「……ん?」
レリルはちらとクロートを見ると、しっかりと頷く。一緒に来いと言っているのだ。
「恩に着る。行くぞ、レザ」
「……うん」
レザはまだ真剣な表情を崩さなかったが、肩の力は少し抜けたようだ。
アルへと頷くと、踵を返すレリルに言う。
「女の子、レリルっていうんだよね? 俺はレザで、こっちはアル! よろしくねー」
――なんだこいつ。
クロートは数日前にも思ったことを、三度思ってしまった。
一日空いてしまいましたが、本日夜が怪しいので先に投稿します!
よろしくお願いします!




