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迷宮宝箱設置人 ~マナを循環させし者~  作者:


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25/203

無法者はさもありなん⑤

******


 クロートとレリルはクランベルに連れられて個室に通された。


 個室といっても個人の部屋――つまりクランベルの私室であり、当のクランベルはベッドに並べられていた服をばさりと抱えて衣装棚に突っ込むと、そこに座るように言う。


「……あ、そうだレリル。ごめんね、お茶お願いできる?」


「はーい!」


 思い出したようにクランベルがレリルに告げると、レリルはすぐに部屋から出ていった。


「……」


 人の部屋に上がり込んだことはほとんど――というか、数えるほどしかないクロートは、なんだか心許なくて身動ぐ。


 白と薄いピンク色のものが多い可愛らしい装飾。


 なんだかわからない小さな箱や、無駄に飾られた鏡。


 よく使い込まれた椅子とテーブルだけは黒塗りで、部屋の雰囲気をぴりっと引き締めている。


 クロートは落ち着かずにきょろきょろしていたが、クランベルがそれを見て盛大に笑った。


「やっだ、あははっ! クロート、女の子の部屋はそんなジロジロ見るものじゃないわよ?」


「えっ、あ、ご、ごめ……ん?」


 ――いや待てよ。女の子? クランベルさんって何歳だよ。


 一瞬過ぎったクロートの思いを正しく理解したクランベルが、すーっと感情を消した笑顔になる。


 紅い唇は笑みの形だが、目が笑っていない。


 クロートは慌てて姿勢を正し、首を振った。


「いや、すみませんでした……」


「わかればよろしい! ……それでクロート。レリルがいないからいましかないわ。『なにを見た』のか聞かせて」


「!」


 どきりと。


 クロートの心臓が跳ねた。


 使い古された黒塗りの椅子に座ったピンク髪のエルフを、クロートはひゅ、と短く息を吸ってまじまじと見つめる。


 彼女はそれをクロートに聞くために、レリルにお茶を頼んだのだ。


「――あ、えと」


「あなたさっき、酷い顔したわよ。……言いたくないなら聞かないけど、ひとつ覚えておいて。あなたたちが【シュテルンホルン迷宮】に行くのなら、気を付けなさい。対人戦の可能性もあるわ。――あなたが見たものが私の想像通りなら、体がすくむこともある」


「……対人戦」


 目の前のエルフは、右手を顎に添え左手で右肘を支えながら、紅い眼でじっとクロートを覗き込んでいる。


 クロートは目を逸らすことができずに、クランベルの視線を真っ正面から受け止めたまま、固まった。


 ――血を見たことがないわけじゃない。


 現にガルムは彼の目の前で重傷を負ったし、亡骸だって――骨やミイラばかりだが――迷宮内で目撃したことは何度かある。


「誰もが通る――とは言い切れない。でも、それで冒険を辞めた人も多いわ。あなたがぶつかる最初の壁が私の想像通りであってほしくはないんだけど」


 内容からするに、クランベルの想像はクロートの見たものとそうかけ離れてはいないようだ。


 クロートはごくりと喉を鳴らし、手に滲んだ嫌な汗を腰のあたりで拭う。


「いい? 自分では平気だと思っていても長く傷になることがある。そのときはひとりで抱えないこと。あなたには【監視人】……レリルがいるわ」


 彼女は――だてに長くは生きていないということか――経験豊富な【監視人】なのだと、クロートは改めて思った。


 どうやらすっかり見透かされてもいるようだ。


 クロートは深呼吸をして、クランベルに自分が見たものと自分の感じている疑問を告げる決意をした。


 ――大丈夫。吐き気みたいな気持ち悪さは、いまは感じない。


「『イミティオ』に人が喰われたんだ、目の前で。レリルには見せないで済んだんだけど――部屋は真っ赤で。……クランベルさん、黒い鎧の男に心当たりはないのか? そこに居合わせた奴なんだ。赤茶の髪に灰色の眼の男だった。もしかして、『イミティオ』はあの黒い鎧の男が――」


「……クロート、憶測は真実を曇らせるわ」


 クランベルはクロートを遮り、彼がぐっと口を噤んだのを確認すると、なにか考えるように俯いて目を閉じる。


 クロートはクランベルの視線から解放されたが、嫌な沈黙に唇を噛んだ。


 一瞬の静寂。


 彼女は顔を上げ、声を落として言った。


「私はその答えをあなたに教えることはできない。『イミティオ』には関わらないほうがいいわ。まだあなたたちには無理よ。可能なら、今回はガルムに任せなさい」


「そんなこと――」


「そんなことできません、クランベルさん」


 そのとき。


 はっとするほど通る声できっぱりと言い切ったのはクロートではない。


 ……レリルだった。


 彼女は部屋に入り黒塗りのテーブルにお茶の載ったお盆を静かに置くと、その双眸――新芽のような柔らかな色にもかかわらず、決意を秘めている――を、クランベルへと向ける。


「私たちはハイアルム様から直々に仕事をもらいました。……たぶん、なにか意味があるんです。それにね、クランベルさん。ガルムさんはクロートのお父さんなんです。仕事がなくたって追いかけるのに理由はいりません――そうですよね?」


 クランベルがレリルの言葉にはっとしたように見えた。



徐々に点数が増えてうれしいです。


引き続きよろしくお願いします!

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